ゲームを終えてユーザーに残るもの。シナリオから生まれるアトラスが届けたいメッセージ ―― アトラス 木戸梓氏インタビュー

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Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.34

第一線で活躍しているクリエイターのリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、是非あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。

コンシューマーゲームの開発には莫大な予算ならびに期間が必要である。ゲーム機の進化、世代交代によりそれらは今なお増加し続け、企業としての成功を得るためにはワールドワイドでのヒットが余儀なくされる。

日々更新される開発技術を踏まえ、2〜3年先の市場にも受け入れられるコンテンツを莫大な投資に見合う回収が得られるよう、爆発を念じつつ投下しなくてはならない。しかも全世界で。そんなビジネスモデルのリスクの高まりからコンシューマーゲーム開発を撤退した例は、企業規模の大小を問わず数多い。

アトラス ロゴ

株式会社アトラスは、現在でも最新ゲーム機のプラットフォームでゲームのタイトルを作り続けるパブリッシャーの1つである。人気タイトルを擁する同社とはいえ、この開発費高騰という荒波の中をやすやすと乗り越えてきたわけではない。

挑戦し続けなければ留まることすらできないコンシューマーゲーム開発の中で、アトラスがどんなゲーム作りを行ってきたのか。シナリオというゲームの基盤を担当する木戸氏の目線から、これまでのアトラスを振り返りながら、今後アトラスで求められるシナリオプランナーについて伺った。

ゲーム作りをするなら一番好きなゲーム会社へ。体験を創造する仕事にやりがい

―― アトラスに入社したきっかけを教えてください。

木戸氏:大学の卒業を前に就職先を決める段階になって、最初は華やかそうなマスコミ業界に憧れを抱いていたのですが、志望動機を書けば書くほど、違和感を覚えるようになりました。改めて自身のやりたいことを考えた時に、ゼロから何かを作り上げるような仕事に就きたいと思いました。そして浮かんだのが、アトラスだったんです。アトラスのゲームには哲学のような独自の視点があって、「少し変わっていて、すごく面白い」。そんなものを自分も作りたいと思ったんです。運よくプランナーとして採用され、今もアトラスでゲーム作りに携わっています。

―― 最初はシナリオ担当ではなかったのですか?

木戸氏:現在アトラスでは、応募の時点でシステムプランナーとシナリオプランナーに分かれていますが、私が入った頃は「プランナー」としての採用しかありませんでした。仕事をしていく中でそれぞれが得意な分野に進んでいくのですが、完全にどちらかだけしかしない、という人はほとんどいませんでしたね。システムプランナーが担当部分のテキストを書いた方が勝手が分かって効率がいいですし、シナリオとシステムが噛み合っていないと1つの作品としての質は低い、という考えもあり、仕様もテキストも書くのが普通でした。

私も『ペルソナ3』までは主にシステムを担当し、仕様やテーブルをガリガリ書いていました。今はシナリオの仕事が多くなりましたが、どんなテキストもゲームに乗せるものですから、システムの経験が活きていると思っています。

―― シナリオプランナーをはじめられた当初、その仕事はどんなふうに感じられましたか?

木戸氏:考えるべきことはあまり変わらないな、と思いましたね。ユーザーに届けるのは、シナリオもシステムも一体となった「体験」なので、その1つのゴールに向かって組み上げていくパーツのどの部分を担当するか、というだけですから。もちろん仕事の内容は大きく異なりますし、それぞれに難しさはあり、今でも毎回悪戦苦闘しています。

ゲームのシナリオと小説は違う。周囲の意見を具現化してゲーム作りをゴールへ導く

―― アトラスでのシナリオプランナーの仕事の仕方に特徴はありますか?

木戸氏:シナリオに限らず、すべての仕事が短いスパンで周囲の意見を取り入れられるようにしているところですね。シナリオも1人で長く作り込むのではなく、できあがったところからどんどん他のメンバーに見せていって意見をもらうんです。ライティングの技術云々より、周囲から得られる意見をどんなふうに咀嚼し、また新たな形にしていけるかがアトラスのシナリオプランナーに必要とされる技術だと思います。ゲームのコンセプトはディレクターやシステムプランナーと一緒に考えるわけですが、そこで見つけたゴールに、シナリオではどうやって近づけていくかを考え、一つひとつ落とし込んでいくことが私たちの仕事です。

―― シナリオが中心となってゲーム作りが進んでいくと思えばいいのでしょうか?

木戸氏:シナリオが先行しなければ決まってこないシステムがある、という意味では、確かにシナリオは軸かもしれません。ただシナリオはあくまでゲームという体験のパーツの1つであり、すべての仕事の重なりからゲームはできあがっているんだと私は思います。シナリオはユーザーに届けたいメッセージに深く関わってはいるけれども、それそのものではない。ゲームという体験を通すことで初めてユーザーにメッセージが届くのだと感じています。

―― アトラスのシナリオプランナーとして必要な素養は?

木戸氏:小説を書いているのではなく、ゲームを作っているという意識をしっかり持つことが必要です。シナリオプランナーだからといってシナリオを書いておしまいではなく、シナリオがゲームにどのように使われ、どんな表現でユーザーに伝えるのか、結果としてユーザーはどんな体験をし、どんなメッセージを受け取るのか。そこがゴールです。となると、システムも含めたゲームのあらゆるパーツに対し、開発者の誰もが当事者なんです。その当事者意識が無いと、仕事の範囲が狭くてやりがいを感じられず、おそらく本人も辛いのではないでしょうか。

アトラスにしか作れないものを。暗中模索の状況で掴んだ存在意義

―― 木戸さんご自身がこれまでに仕事で苦労したこと、やりがいを感じたことは?

木戸氏:一番苦労したのはダントツで『ペルソナ3』ですが、他でも毎回色々と悩んであがいてますね。もっと上手く書ければなんてそれこそ毎日考えてます。意見を言い合う文化のおかげでダメ出しも多いので凹むこともよくあります。でもそんなものは、ユーザーの「面白かったよ」の感想1つで吹っ飛んでしまいます。まれにいただく熱い感想のお手紙は、大切に取っておいてます。ユーザーの声が何より励みになりますね。

―― 『ペルソナ3』はなぜ苦労したのですか?

木戸氏:「コミュ」という目玉の新仕様を担当したのですが、開発を取り巻く状況的に絶対に失敗できないタイトルだったので、プレッシャーと難しさは相当でした。このコミュは、当初はかなりシステム的な要素でシナリオはあまり必要ないと考えてたんです。それが開発が進むにつれ、テキストを相当書かないと成立しないことが分かってきて。新しい要素だけに、ゴールの形が見えずに作っては壊し作っては壊しを繰り返すしかなく、不安ばかりでした。

ですがこの開発で、「この作品にしか為しえないことは何か?」を常に考えるクセがつきました。また結果として、それまでのシリーズと大きく変化した新たな形を提案でき、多くの方に受け入れていただけたので、苦労の甲斐があったなと思っています。

―― 「この作品にしか為しえない」とは、どんなことですか?

木戸氏:ゲームというのは体験装置です。誰かの人生に寄り添い、感情移入することは映画や小説でもできるけれども、違う人生そのものを体験できるのはゲームならではだと思っています。そして、海外含め多くのゲーム会社から大作ゲームがいくつも発売されています。そんな中で私たちが生き残るには、「アトラスにしか作れないゲーム」を目指さなくてはいけません。また、今はスマホで手軽にゲームが楽しめる時代です。その中で、コンシューマーゲームに7000〜8000円という大金を払ってくださるユーザーに、私たちは「それでしか味わえない体験」を提供しなければなりません。

作業中はよく、この「ゲームならでは」「アトラスならでは」「この作品ならでは」に近づいているか?と自問自答をしています。この「ならでは」を大切にしていることが、私自身、アトラスが好きでここで働き続けたいと思う一番の理由です。

これまで木戸氏が関わったタイトル

これまで木戸氏が関わった主なタイトルと、現在「スタジオ・ゼロ」が開発を進めている「PROJECT Re FANTASY(プロジェクト リファンタジー)」

―― 最後にアトラスでシナリオを書きたいと考える転職志望者にメッセージをお願いします。

木戸氏:たくさんの人の意見を取り入れていくアトラスのゲーム作りは、個人でものづくりをしてきた人には最初はとっつきにくいかもしれません。時間がかかるなどマイナス面もありますし、意見を全て取り入れるとただ凡庸になってしまうという危険もあります。ですがそれ以上に、1人ではたどり着けない高いゴールに手をかけられるという大きなメリットがあります。

ユーザーに「楽しい」体験を届け、プレイが終わった後にもメッセージが心に残っている…そんな作品を届けたいという思いだけで、私たちは愚直に作り続けてきました。賛同いただけるかたと一緒に、新たな作品に挑んでいきたいです。ぜひご応募ください!

インタビューを終えて

木戸氏をはじめ多くのアトラス社員にインタビューをして感じたのは、コンシューマーゲーム作りを行うための高い意識である。長い開発期間とそれにかかる大きなコストを背負いながら、アトラスならではのタイトルを必ず作り上げるという意気込みが全社員から伝わってくるのである。

木戸氏は「シナリオはあくまでゲームという体験の1つのパーツ」と位置づけていたが、アトラスのゲーム作りにおいてシナリオプランナーの役割がゴールへの重要な羅針盤であることはすぐに理解できた。ユーザーにまったく新しい体験を提供するアトラスの独創性あふれる数々のゲームタイトルは、このシナリオプランナーたちの手によって方向付けられているのである。

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