ゲーム作りの意欲・技術があれば前職は関係ナシ!アトラスのプログラマーが大切にする流儀とは ―― アトラス 肥後聖亨氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.36
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
ゲーム作りにおけるプログラマーの役割は、プレイする人の手へ渡せる形にゲームをフィックスすることにある。大手ゲームメーカーがしのぎを削り、コストもスパンも規模の大きいコンシューマーゲームの開発にあっては、その責任の重さも推して知るべしである。
数々の独創的なゲームタイトルを世に送り出し、根強いファンを獲得するアトラスでのプログラマーはどんな仕事、そして作品への向き合い方をしているのだろうか。アトラスで自身もゲームプログラムを行い、プログラムセクションマネージャーとして後進の指導やプログラマーの働く環境作りも行う肥後聖亨(ヒゴ マサユキ)氏に伺った。
「好き」を活かしてゲームプログラマーへ。スキルを磨いてアトラスへ念願の転職

―― ゲームプログラマーを志したのはどのような理由でしょうか?
肥後氏:子どもの頃からゲームが好きで、それが今もずっと続いているんです(笑)。小学校の高学年になったとき両親がパソコンを買ってくれて、これがゲームを楽しむだけでなく作ることのきっかけになりました。そのパソコンでプログラムを覚えて、自分でゲームを作って投稿したりしていたんです。仕事としてゲーム作りを本気で考え始めたのは高校生の頃です。就職では念願叶ってゲームプログラマーになることができました。
―― アトラスとの出会いはどこでしたか?
肥後氏:就職したのは違うゲーム会社だったのですが、中学、高校と夢中で「真・女神転生」シリーズをプレイしていました。当時を振り返ってもアトラスはもちろん私の一番好きなゲームメーカーです。幸いなことに前職はアトラスのパートナー企業で、アトラスのゲーム作りに参加する機会がありました。それが思っていたとおり面白くて。これはアトラスに入るしかないと思って、スキルを磨いてチャンスを待って転職しました。
―― アトラスの魅力とは何でしょうか?
肥後氏:純粋にプレイを楽しんでいた頃から、アトラスのゲームの面白さの考え方は、ほかとは違うと感じていました。人気のあるタイトルのシリーズだと、ユーザーから「次はこうなってほしい」という期待が出てくると思うんです。普通なら次回作でこの期待にどう応えるか、どう気持ちよく味わってもらうかを考えますよね。アトラスではこのユーザーの期待をいい意味で裏切っていく。必ず新たなタイトルには「アトラスはこうですよ」という主張が入っていて、「なるほど、そうきたか!」とユーザーに言ってもらえるようにする。難しい挑戦にいつも取り組んでいるのがアトラスで、それがこれまでアトラスが送り出したゲームタイトルのすべてに生きているんです。
職種を越えたコミュニケーションができるアトラス。プログラマーのアイデアもゲームに採用!

―― 他社での経験を踏まえて、アトラスとの働き方の違いは何ですか?
肥後氏:ゲーム開発に関わるメンバーの一体感ですね。プログラマーは技術職だけに、デザイナーやプランナーなどのクリエイター職種と仕事の範囲がちょっと違うのが一般的ですよね。ここからがクリエイティブの領分、ここからがプログラムの領分みたいな。壁とは言わないまでも敷居があるのが普通じゃないでしょうか。でもアトラスにはそういった敷居を感じません。もちろんそれぞれの専門的なスキルが必要な仕事もありますが、ゲームがよりよくなるためにはそれを超えてどんな職種のメンバーでも自由に意見が言える。お互いフォローし合える体制がゲーム作りに好影響を与えていると思います。
たとえば、プログラマーの立場からゲームがもっと面白くなる設定を提案することもあります。私は『世界樹の迷宮3』に取り組んでいるとき、「ショーグン」という職業に「介錯(かいしゃく)」というスキルをつける指示を受けました。それは、HPが10以下になったキャラクターを問答無用でゼロにしてしまうというスキルです。仕様書ではこのスキルは当然敵方のキャラクターにのみ有効なスキルだったのですが、私は味方にも効いてしまうスキルとして実装で提案しました。これがゲームをやった感触として好評価で、そのまま採用されることとなりました。ゲーム作りの中でプログラマーの発想やアイデアもアトラスなら活かしていけるのです。
―― これまでの仕事では、どんなところで一体感がありました?
肥後氏:デザイナー、プランナー、ディレクターと、とにかくよく他職種のメンバーと話しますね。プログラマーって自分のやることだけやって終わりというスタイルの仕事をしがちですが、アトラスではすべて巻き込んで、そして巻き込まれて仕事をしていく感じです。たとえば、『世界樹の迷宮』の開発で通信戦闘プログラムを導入した際に想定外の通信エラーが出たんです。もちろんデバッガー班もいるのですが、想定外だったこともあり、集中デバッグが必要になりました。そんなとき、社内のデザイナー、プランナー、ディレクターが自分の業務の後にこのゲームをプレイしてみて集中デバッグに協力してくれたんです。私たちプログラマーも、他職種のメンバーが仕事をしやすいように、要望に応じた開発ツールの制作などで協力しています。「自分の仕事をする」というより、「より面白いゲームを作る」ということが社員の共通の命題になっていて、それが一体感に繋がっているのだと思います。
ゲームをフィックスするプログラムに挑む難しさ。それを支えるのは、働きやすい職場環境を保つアトラスならではの体制

―― プログラマーの役割の中で難しさを感じるのは何でしたか?
肥後氏:私たちは仕様書に沿ってプログラミングを行っていくわけですが、仕様書ですべてが決まっているわけではありません。仕様書を正確に実装していくためには、ゲームの内容の把握、遊びのキモを理解できていなくてはならないのです。ディレクター、プランナーとゲームの方向性をしっかり共有して、極力トライ&エラーを減らすこと。ゲーム開発は手間と時間をかければクオリティは上がっていきますが、それだけクリエイターは疲弊します。
ゲーム開発の行程で最終的なフィックスをするのはプログラマーの役目。ゲームの感触を確かめるためにプログラマーは早い段階での実装が求められます。早さとコミュニケーションによる内容の理解。その2つがアトラスのプログラマーに求められる課題であり難しいところでもあります。
―― プログラマーが働く環境・成長の場としてアトラスはどうですか?
肥後氏:長年ゲーム作りに取り組んできた会社だけに、クリエイターにとって働きやすい環境作りが行われています。開発メンバーは自分の働く時間帯を決められる裁量労働制がとられていて、通勤でもラッシュ時を避けられたり、自分の集中できる時間に仕事ができたり自由度が高くて私自身満足しています。
新たに迎えるプログラマーにはキャリアに応じて先輩プログラマー数人でサポートする体制で、困ったり、迷ったりすることもありません。私もセクションマネージャーとして週1で定例会を開いて、各プログラマーの状況把握に努めています。「CEDEC」など、プログラミングやゲーム関連のイベントにも新人や中堅の人を中心に参加してもらっていて、新しい技術への意識やモチベーションを持ってもらえるようにしています。
―― アトラスでプログラマーとして働く条件は何ですか?
肥後氏:コンシューマーゲーム、特にRPGを手がけた経験は大きいです。でもこれまでの採用実績を見ると、建築設計や大手電機メーカーでハード設計をやっていたと言うプログラマーもいますね。面接に自作のゲームを持ってきて、しかもクオリティが高い。そんな人は前職関係なくアトラスの新たなプログラマーとして歓迎されています。ゲームを作りたいという意欲に技術が伴っていれば前職は関係ありません。そしてもちろんアトラスのゲームが好きということも大切ですよ(笑)。
―― 最後に転職を考えるクリエイターにメッセージをお願いします。
肥後氏:私たちの作っているゲームは遊びのキモ、楽しませ方が他とは違うと思っています。新たにプログラマーとして活躍してもらう人には、タイトル1本目でアトラスに慣れてもらい、2本目で自分の持ち味を発揮して、3本目でアトラスに染まったゲーム作りに取り組んでもらえればと思っています。私自身、入社してから3本目を経験したところでこの魅力のつまった「アトラスらしさ」を理解できたと感じています。この間約10年。ここでしか味わえない面白いゲーム作りに是非、腰を据えて取り組んでみてください。
インタビューを終えて
プログラマーは技術職であり、ゲームメーカーにおけるディレクター、デザイナー、プランナーなどのクリエイティブ職と一線を画した働き方をする場合が多い。またそれが働きやすいと考えるプログラマーも少なくないだろう。プロとして自分の仕事を全うするということが目的ならそれは1つの正しいスタイルである。しかしアトラスではそれとは少し違う発想で仕事が行われ、高い成果を挙げている。
徹底した相互理解と協力があるからこそ、それぞれの専門技能が生きてくるという考え方、働き方である。個人の仕事に対するプロフェッショナルとしての意識は重要である。しかしそれ以上に大切なのは「面白いゲームを作る」という最終的な到達点にたどり着くための開発メンバー全員が持つ「強いこだわり」なのだ。そこには従来のプロフェッショナルの定義を超えた働き方がアトラスにある。仕事に対する今以上の充実感を求めるプログラマーには是非注目してほしい働き方である。
合わせて読みたい「アトラス インタビュー」の記事
シナリオプランナー 木戸梓氏インタビュー
デザイナー 前田直哉氏インタビュー
システム系プランナー 伊東大輝氏インタビュー
リファンタジーチームインタビュー
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。