出会いを広げるセルフプロモーション。MATCHBOXはクリエイターの背中を押してくれる必須アイテム ―― 谷小夏氏インタビュー
2016年からの2年間の活動を振り返ると、個展やSNSでの作品の掲載が新たな出会いを創出してくれていたとのこと。今回は『MATCHBOX』の活用でクリエイターとしてのセルフプロモーションの一歩を踏み出す。
プロフィール紹介
イラストレーター
1993年大阪生まれ。
京都精華大学デザイン学科イラストコース卒業。2016年よりフリーランスで活躍中。印象的な人物画をメインに、色鉛筆、透明水彩など様々な画材を駆使して繊細で豊かなタッチを表現するイラストレーター。
絵を描くことが好きすぎてイラストレーターに。導いてくれた人々に感謝しかありません
谷氏:私は京都精華大学でイラストを学び、卒業と同時にフリーランスで仕事をはじめました。イラストレーターになるきっかけは、高校時代にあったと思います。はじめは普通の大学に進学しようと思っていた私でしたが、絵を描くことが好きすぎる自分に気がついて、美大への進学を決めました。そこには高校でお世話になった美術の先生の影響がとても大きかったと感じています。
── どんな先生だったのですか?
谷氏:いま絵の仕事をして改めて気づくようになったのですが、その先生の凄さは教える生徒が描きたい絵を最大限良くするという教え方をするところなんです。風景画の上手い先生の生徒は風景画、人物画なら人物画。普通、美術の先生が教えられるのは自分の得意な絵だと思うんです。それがその先生はその生徒が持っている絵の可能性を一番伸ばす方法を知っている。先生がいなかったら、決して今の自分はなかったと感じています。
── 美大にいってイラストレーターになろう。高校時代にそう決意されたわけですね。
谷氏:正直にいうと「絵が描きたい」という気持ちが一番強いんです。いまイラストレーターという仕事をしているのはその結果であって、「イラストレーターになりたい」と強く思っていたわけではありません。大学に進学して、たくさんの作品をつくるようになってもその気持ちは変わりませんでした。
── 京都精華大学を選ばれたのはどんな理由でしたか?
谷氏:大学を選ぶ時、参考にしたのは大学案内や大学のWebサイトに載っている在学生や卒業生の作品でしたね。やっぱりカッコイイ絵を描く先輩がいる大学にいきたい。素直にそう思いました。イラストを専門に学ぼうとすると、関西の他の美大では、マンガタッチなものが主流に感じました。自分がやりたいと思っているイラストに近かったのが京都精華大学デザイン科のイラストコースだったのです。
── 京都での美大生としての生活はいかがでしたか?
谷氏:ひたすら作品づくりに没頭していましたね。それまで私は半年ぐらいかけて一つの作品をつくるような創作活動をしていたのですが、大学の同級生で本当に早く作品を描き上げる子がいたんです。ヘタウマなタッチでこれが良くて。私は悔しくて、自分もできるだけ早く作品を仕上げるということを目標において作品づくりを行いました。そこで私が手にしたのが色鉛筆だったんです。
── 現在の作品にも多く使われている色鉛筆ですが、そんなきっかけがあったんですね。
谷氏:はい。それまでは油絵や水彩で絵を描くことが多かったんですが、色鉛筆を使って早く自分の絵を描くことができないかと考えてやってみたんです。たくさんの色鉛筆を試してみて、自分の好みに合った色鉛筆を見つけて作品づくりを行えるようになりました。私は芯の柔らかい色鉛筆が好きなんです。紙もツルツルかザラザラかで随分違います。そんな工夫もあって私は早く作品を仕上げるということができるようになりました。それでさらに絵を描くことに夢中になって、大学4年間で600作品余りをつくりました。
── 作品づくりのモチベーションはどんなところから生まれてくるのですか?
谷氏:私の「絵を描きたい」という気持ちはほとんど尽きることがないので、モチベーションが落ちることはありません。でも大学在学中は、同級生からも刺激を受けて、「絵では負けない」という気持ちで頑張りましたね。大学にロックミュージシャンのようなファッションのカッコイイ先生がいて、その先生がいいと言うもの、教えてくれるものすべてがカッコよくて。そんな先生のセンスに認められたいという思いがありました。
それで作品ができる度に先生に見せに行ったんですけども、なかなかちゃんと見てくれなくて。その先生は「作品がつくれるのはわかってるから、もっと遊べ」っていうんですね。私もアドバイスが欲しいとか褒めて欲しいとかではなくて、私の作品で先生をぎゃふんと言わせたい。そんな気持ちが強かったように思います。講義にしっかり出るまじめな学生ではありませんでしたが、大学で先輩や同級生、先生方から受けた刺激も自分の中で絵を描くことに色んな形でつながっていると思います。
自身の創作活動とクライアントワーク。プロとして自分の目指すチャレンジの方向は
谷氏:在学中に開いた個展でフロッツカーネルの綿村さん(FROTSQUARNEL CO.LTD.)という方に出会ったんです。その方は京都の街にある『Işıl ışıl(ルシュルシュル)』というレストランのWebサイトをつくっていて、そのサイトのための作品を依頼されたのが私の絵の仕事のスタートです。高校での美術の先生との出会い、大学の人々との出会いと合わせて、この方との出会いも私がいまのような形で仕事をするために、なくてはならないものだったと思います。この方発信の口コミで色んなところから仕事が舞い込むようになりました。いまでもこの『Işıl ışıl』の絵は、自分の自由な創作活動ではなく、はじめてのクライアントワークとして自分にとって大切な基盤となっている仕事です。
── 谷さんにとって自身の創作活動とクライアントワークにはどんな違いがあるのですか?
谷氏:自身の創作なら何度も失敗して新しい事にチャレンジすることができる。でも依頼されてつくる作品には納期があって、自分の持っている引き出しの中からつくる事が多い。でもそこには自分の経験値を使う上で"最高のものをつくる"という違うチャレンジがあって、どちらも私の「絵を描きたい」という気持ちに充実を与えてくれます。
── これまでのクライアントワークの中で印象に残っているものはありますか?
谷氏:仕事の場合は、これまでの私の作品の中から「こんな感じで」と依頼されることが多いです。そんな中で綿村さんが私に勧めてくれた仕事で、図鑑のように多数の食品の静物を描く仕事があったんです。私はそれまで人物画を得意としていたので、食品?静物?と悩むところもありました。ただ綿村さんの「いままであなたが描いたことのない絵を描いて欲しい」という要望に、やりたいという気持ちがフツフツと湧いて来たんです。描いたのはイチジクだとか、鮎だとか、正倉院の宝物だとかです。
私は単にイラストレーターとして絵を完成させるだけでなく、静物でありながらこれまで人物画に取り組んで来た「私らしい絵」を描くことに挑みました。そこで思いついたのが静物に人物のイメージを重ねて描くということでした。私はイチジクの絵を描く際に、いただいた資料画像とエレガントな女性の写真を一緒に見ながら絵を描いてみました。そのイチジクの絵に、その写真の女性のような雰囲気を漂わせたいと考えたのです。その試みは大成功となりました。私はこれまであまり馴染んでいなかった静物というジャンルに、自分のタッチを持ち込むことができたんです。イラストレーターとして幅を拡げられた瞬間だったと思います。
プロとして必要なセルフプロモーションという課題。MATCHBOXとの出会いで取り組む勇気が湧いてきました
谷氏:私は、私が絵を描くことを応援してくれる人に出会うことができてこれまで本当に順調に進んでこられたと思います。卒業後も高校の美術の先生に新しい作品を見てもらうことで、卒業校のイメージイラストの仕事もいただきました。また綿村さんからは仕事につながる様々な方を紹介していただき、私の成長のために一歩も二歩も先を考えた仕事をいただいたりしています。私もプロとして活動して2年が過ぎ、人の力やただ偶然の出会いに任せるだけでなく、もっとポジティブに出会いをつくり出すためのセルフプロモーションに取り組まなくちゃ、と思うようになったんです。
── それで『MATCHBOX』を使ってみようと思われたわけですね。
谷氏:これまで、私はSNSで作品を掲載したり個展を開くことで、できるだけ多くの人に作品を見てもらう機会をつくろうとしていました。運良く仕事に恵まれてきましたが、自分の目的である「絵を描くこと」を実現していくためにはプロとしてもっと広い認知を獲得することが必要だと思うんです。そのためにはポートフォリオをつくるということが、効果的だと思ったのです。
ただ課題もありました。まず私パソコンが苦手なんです。(笑) 私が大学で勉強したイラストコースは手描き推しで、私以外にもパソコンの操作が苦手という人がたくさんいましたし、いまもとても得意とは言えません。これまでも『Instagram』や『Tumblr』などのSNSを利用してきましたが、某SNSでは操作がわからず、長い間自分の名前表記であるKonatsuがKonatauになっていたほどなんです。それに私はデザインが苦手で、自分のイラストに自分で文字を載せるとどうもしっくりこなくて、思うような仕上がりにならないのが悩みでした。『MATCHBOX』の制作をされているPARTYさんとお仕事で関わるようになり、とてもカンタンだと薦めていただいて、『MATCHBOX』でポートフォリオをつくってみることにしたんです。
── 『MATCHBOX』を使ってみていかがでしたか?
谷氏:パソコン音痴の私でも操作は本当にカンタンでした。ポートフォリオの作成で時間がかかったのは私の場合作品の選択で、作品が決まるとポン、ポン、ポンとものの数分でポートフォリオのイメージができてしまいます。この仕上がりがかわいくて、色んなバリエーションの作品がとてもスタイリッシュにまとまってくれます。あとは、作品のデータや解説を入れるだけ。しかし私にとってこれがもう一つの超えねばならない壁でした。
── 作品に対する質問項目が難しかったですか?
谷氏:そんなことはありません。作品のタイトルとデータ、解説というシンプルな構成で完成しますので、『MATCHBOX』を使おうとするクリエイターで悩む人は少ないと思います。でも私は絵を描くことに集中していて、それに付随する言葉を考えるということがこれまで無かったんです。『MATCHBOX』に掲載しているポートフォリオを見ていただいてもわかるとおり私がこれまで描いてきた作品のタイトルはすべて「無題」で、タイトルがありません。絵ですべてを表現したいと考えているので、特に言葉が拙い私は、自分の作品に注釈をつけたり、タイトルをつけるということもできないし、したくないと考えていました。
── 様々な目的でクリエイティブを行う職種の方々が『MATCHBOX』を使われると思います。最後に谷さんからアドバイスやメッセージをお願いします。
谷氏:ものづくりを仕事とする方にとって、自分に何ができるか、自分にどんな引き出しがあるのかを他の人に知ってもらうこと、そして自分自身で確認していくことはとても重要な事だと思います。それは転職を目的とする場合も、私のようにフリーランスで作品を見てもらう場合も同じではないでしょうか。そこにあるのはクリエイターとしていかに自分をプロモーションできるかという課題です。
私はこれまで自分のことについて話すセルフプロモーションが苦手で、どちらかというとそんな機会から逃げ回っていたように思います。しかしプロモーションの上手い同世代のイラストレーターを見て「自分も一歩踏み出さなくては」と思っていました。イラストレーターとしての自分の「いま」がどんな形で存在するのか。ポートフォリオを人に見せるという行為の中で自分自身が再発見する部分もたくさんあります。ものづくりを行う人なら転職のいかんに関わらず、いつでも最新のポートフォリオを持っているというのはクリエイターにとっての良い習慣と言えるのではないでしょうか。私にもできるカンタン操作で、自分の作品にもう一度向き合う機会をくれた『MATCHBOX』をぜひあなたも試してみてください。
インタビューを終えて
作品では独特なタッチからクールな印象を受ける谷氏。「しゃべるの下手やし、大丈夫ですか?」と時おり飛び出す関西弁に和みながら、インタビューは進んだ。「京都を拠点に仕事をされるのはやはり環境からインスパイヤされるものが?」という質問に、「描くのはどこでも大丈夫です。電車の中でも描きます」と答えた谷氏。創作活動は基本夜で、手元さえ明るければ場所はどこでもいいと語る谷氏にとって、大切なのは純粋に「絵を描くこと」のみだという。
そんな余分を排した谷氏の創作活動の中にあっても『MATCHBOX』は有効なアイテムとなった。既に各方面から引っ張りだこの新進イラストレーターという立場にありながら、セルフプロモーションではライバルに悔しい思いをさせられた経験もあるとのこと。彼女の今後の活躍とポートフォリオの進化に大いに注目したい。