こだわりではなく自分の作品に対する思い入れの強さを。ポートフォリオはクリエイター自身を映す鏡 ―― 浅野南氏インタビュー

Webデザインを手がけるクリエイターなら誰もが憧れるファッションやビューティーの有名ブランドの広告など、20代の若さで多彩な広告デザインを手がけ、今注目を浴びているのがWebデザイナー浅野南氏である。業界では知る人ぞ知るWebデザイン会社SIMONEから独立し、4年前からフリーランスとして活動。デザインだけでなく、コンテンツの企画から撮影、制作、SNSを用いた展開まで、幅広く任せることのできる「考えるWebデザイナー」として多くのクライアントから高い評価を得て活躍中である。彼女がクリエイターとして注目される理由は、洗練されたデザインの中にある主題を的確に捉えた独創性にある。デザイナーが自身を表現する方法としてポートフォリオをどう仕事に活かしていくべきか。誰でも簡単にポートフォリオが作成できるサービス『MATCHBOX(マッチボックス)』の提供も行う我々が聞く、彼女自身の成功体験と乗り越えた挫折から学びたい。

▷ 本インタビューは、浅野氏が講師も務める「デジタルハリウッドSTUDIO新宿」にて実施した。

プロフィール紹介

浅野 南氏
Webデザイナー

デジタルハリウッド大学を卒業後、Webデザイン会社に就職し、2014年にフリーランスに転身。ファッション系有名ブランドからマンガ・アニメーションのIPまで幅広いWebデザインを手がける。デジタルハリウッドSTUDIOの講師も務める。

就活には失敗のイメージしかない。自分を後押ししてくれるものは、実績以外になにもなかった

―― この度は、インタビューに応じていただき、ありがとうございます。現在Webデザイナーとして活躍される浅野さんですが、今のポジションでお仕事をされるようになった経緯を教えてください。

浅野氏:私は生徒が個性を活かせる単位制のちょっと変わった高校に通っていて、周りには美術を得意とする子やスポーツで将来活躍したいと考えている子など、自分の進みたい方向に早くから目を向けている子の多い環境で学んでいました。私自身、将来英語を使って仕事をしたいと考えていて、それだけでは強みとして足りないと思い、Web制作ができればと思って自分で調べて作り始めたのがきっかけです。いわゆる普通の大学に進学するのも自分には合わないなと思って、在学中に留学が可能で、しかもWeb、動画、グラフィックと、クリエイティブについて幅広く学べるデジタルハリウッド大学に進学したんです。

―― 大学時代のどんな勉強が今の浅野さんにつながっているのでしょうか。

浅野氏:私の大学ではクリエイティブをやりたい学生が実際にプロの現場をアルバイトで体験するというのが盛んに行われていて、私がはじめに面白そうだと思ったのは動画制作だったんです。廃校した小学校に泊まり込んで何日も撮影なんてことをしていました。ただ、そもそもアクティブな方ではない私には体力的にきつくて。そこで大学にアルバイトの募集が潤沢に来ていたWeb制作の仕事をするようになっていったのです。

―― どんなアルバイトだったのですか?

浅野氏:大手通販会社のECページが多かったですね。商材もファッションが中心でした。思えば今の仕事につながる部分もあったかも知れませんね。いくつか短期のアルバイトを経験していく中で、ここは自分のやりたい仕事があるなという会社に出会ったんです。そこは有名な流通チェーンのWebと紙の広告制作を行っている会社でした。

―― 他のアルバイトとは違うと感じたのはどんなところだったのですか?

浅野氏:デザイナーの仕事との関わり方が違うと感じました。その会社では、ディスカウントショップのチェーンのWeb制作とチラシ制作の両方を請け負っていたのですが、撮影された画像をクライアントからもらってデザインするというのではなく、企画やモデル撮影からデザイナーが参加して制作を行っていました。私も実際にWebとチラシの両方の制作に参加して、デザイナーとして仕事をするならこんな形が良いと思ったんです。会社の雰囲気にも馴染んでいたので、大学を卒業したらそのままその会社に就職するつもりでいました。

―― その会社への就職は叶わなかったのですか?

浅野氏:はい。私の大学卒業目前にその会社が倒産してしまったんです。その会社に入る気満々だった私は途方に暮れました。就活シーズンもほぼ終わっていて、それこそ大学に泣きつく形で就職先を探してやっと採用してもらえたのがSIMONEだったんです。SIMONEには当時2人しかデザイナーがいなくて、本当に人手が欲しい状況だったので採用してもらえたようです。在学中のアルバイトの経験で、紙とWebの両方ができることもポイントになりました。仕事として見てもらえる作品があったことが大きかったと思います。

世に言うリクルートスーツを着てエントリーシートを描いて面接をいくつも受けていくといった就職活動はすべて失敗したといわざるを得ません。それでもなんとかその先の道を開いてくれたのは、クリエイターとしての自分を表現できるポートフォリオがあったからでした。

フリーランスとして動きはじめた理由。プロと学生のポートフォリオの違い

―― SIMONEで活躍され、フリーランスへ。何か働き方を変えたいと思った理由があったのですか?

浅野氏:まだSIMONEにいた5年前に、あるファッションブランドがライフスタイル系の路面店を出す企画があって、その企画書の作成や全体の進行管理をしながらのデザインを任せてもらえることになったんです。デザイナーと言うより、デザインをやるディレクターの感じですね。もちろん1人でやるわけではなく、社内のメンバーにそれぞれ得意な分野を担当してもらいながら、分担して作業を進めていきました。この時、優れた才能を持った他のクリエイターと一緒に制作をすることの難しさとともに可能性を感じたんです。今思うとそれが自分の仕事のスタイルを変えたきっかけになったのではと。

―― 仕事のスタイルを変えたことが独立を決心した理由ですか?

浅野氏:もっと沢山の人と出会って仕事がしたい。その思いはSIMONEの中でだけではなく、もっと自由なポジションを求めるきっかけになりました。入社して4年が経っていて、新しい形の自分の仕事を見つけたいという気持ちもありましたね。実は特にフリーにこだわったわけではなく、視点を変えるという意味で転職も考えていました。でも会社を辞めると同時に仕事が入ってきて、自分の望む仕事をする上で今のところフリーランスの形が一番上手くいっているというのが今の私の正直なところです。

―― フリーランスとなると、はじめは仕事を得ることが大変だと思いますが、何か工夫をされたことはありますか?

浅野氏:まだ会社にいる間に、自分が気になっていたクリエイターや会社の方々と出会う機会をたくさん作りました。すると退職後、気に掛けてくださっていた人々から仕事が舞い込むようになったんです。「こんな企画があるから参加してみない?」「クライアントがこんなデザイナーを探していて、あなたを紹介しようと思うんだけど」など、ありがたい声を掛けてもらいました。そんな時に私が用意したり、求められて出したりしたのがフリーになってからのポートフォリオなんです。

―― 浅野さんはポートフォリオ作りのどんなところを大切にしていらっしゃいますか?

浅野氏:私がこれまでWebデザイナーとしてクライアントや間に入っていただくエージェントに提出したポートフォリオはその度ごとに違います。私のこれまでのキャリアのすべてを知ってもらえるような大規模なものではなく、ごくシンプルに、私が候補にあがっている案件において必要なスキルを見せられるコンテンツを選んでポートフォリオにしています。Webデザインの仕事が多いので掲載中のものは今もWebで見てもらえますので、ポートフォリオにするものは紙にしても見てもらいやすいようにフォーマットを決めて作っています。相手のニーズを満たしながら自分の個性もアピールできること。そのバランスがポートフォリオの重要なところだと思います。結局私たちクリエイターが自身のスキルセットだけでなく人となりまでを表せる方法はポートフォリオだけなのだと思います。

学生時代にも就活に向けてポートフォリオを作りました。その時は学生時代に作った作品や身に付けたスキルを表せるよう、冊子になるような大規模なものを作りました。とても工数のかかる大作でしたが、自分の作品群を一つにできることが楽しく、いくらでも手を掛けることができました。今の私が仕事で自分を表現するために人に見せるポートフォリオは、先に言ったとおり目的に沿ったシンプルなものです。現在の自分のキャリアを網羅するようなポートフォリオを作ることは、その工数を考えるととてもすぐにはできませんが、できればいつか自分の納得いく形で作り上げて、それを更新していきたいと考えています。なかなか実現は難しそうですが(笑)。

自分の作品に思い入れがあること。クリエイターの人となりは、ポートフォリオに現れると思っています

―― 現在は出身のデジタルハリウッドで講師も務められ、これから活躍するデザイナーにアドバイスすることも多いと思いますが、クリエイターにとってチャンスを掴むのに必要なことはどんなことだと思いますか。

浅野氏:自分がポートフォリオを提出する時にも、他のクリエイターのポートフォリオを見せてもらって一緒に仕事をする時にも、大切にしているのは、クリエイターが持っている自分のクリエイティブへの思い入れです。ポートフォリオに解説としてつけられていてもいいですし、手に持って自分で話してもいいのですが、そのクリエイティブがどんな思いで、どんなニーズを前に、どんなものを参考にして作られたのかが語られるべきだと思っています。ものづくりには「こだわり」という言葉もありますが、クライアントワークを基本とする私たちの場合、クライアントのニーズをいかに上手くコンテンツに昇華させることができるか。そしてそこにどれだけ自分の工夫やアイディアを重ねられるか。そのひとさじの創造力がクリエイターにとって一番大切だと私は思います。チャンスを掴むのに必要なこととして、本人のキャラクターやコミュニケーション力が挙げられることも少なくないですが、やはりまずは自分の作ったクリエイティブの意図や思いを相手に伝えきることがクリエイターとして一番大切ではないでしょうか。

―― 最後に『MATCHBOX』を使ってポートフォリオを作るクリエイターの皆さんにメッセージをお願いします。

浅野氏:私自身、学生時代には楽しかったポートフォリオ作りが経験を重ねるごとに大変になってきてしまっています。『MATCHBOX』でのポートフォリオ作りは、余計なことを考えることなく、自分のクリエイティブに向き合える良い機会になるはずです。ぜひ、作ったクリエイティブからその時の思いや考えを振り返るのを楽しみながらポートフォリオ作りに臨んでみてください。

インタビューを終えて

有名ブランドのスタイリッシュなデザインで知られる浅野氏だが、その意欲はファッション系に留まらず、マンガやアニメーションのIPに関するデザインや、個性派俳優を起用したコミカルな演出までを手がける、まさに気鋭のWebデザイナーだ。その仕事のスタイルは、物事を何かにカテゴライズするよりも本質を理解してその良さを引き出すことに着目しているように思える。彼女が語ったとおり、フリーランスとして活動する彼女の作るポートフォリオは案件によって表情を変える。しかしそこに込められたクリエイターとしての思いは、決して揺らぐことのない強さを持っている。必要最小限のコンテンツにとどめたシンプルなポートフォリオの中に、いかにしてクリエイターが「自分らしさ」を表現するのか。その方法論を、今Webデザイナーとして大いに注目を集める彼女のインタビューから感じ取って欲しい。

ポートフォリオサービス 『MATCHBOX』のご紹介

クリエイター集団「PARTY」と共同開発したポートフォリオサービス『MATCHBOX(マッチボックス)』。

採用担当者の知りたい情報を押さえたポートフォリオがWebと紙でつくれます。「オファー機能」を使えば、企業から面接のオファーを受け取ることも可能です。

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