会社は素材が集まる鍋。ハーモニーを完成させるにはその人がわかるポートフォリオが必要 ―― 株式会社ライデン インタビュー

最高のユーザーエクスペリエンスの創造を目指して、ストーリー、アートワーク、Webテクノロジーの3つの柱で類のないクリエイティブを展開する株式会社ライデン。少数精鋭の陣容ながら業界で注目を浴びるプロダクションの1つである。同社ホームページをたずねれば、トップページには「portfolio」として同社のこれまでのクリエイティブを見ることができる。Webに留まらないその斬新なクリエイティブが、どのように生み出されているのか。同社が今求めるクリエイターをテーマに、代表の井上氏からライデンの成り立ちと現状、社員の働き方、さらにクリエイターが採用で見せるべきポートフォリオについて聞いてみた。

プロフィール紹介

井上 雄一朗氏
株式会社ライデン 代表取締役社長 クリエイティブ・プロデューサー

同じ目線で仕事ができる仲間を集めたい。そんな思いを結実させた会社ライデン

―― 今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。井上さんが株式会社ライデンを立ち上げた経緯について教えてください。

井上氏:僕がこの業界で仕事をはじめたのは福岡でした。いろいろな業種の仕事をしているうちに、仕事の流れで気がつくと東京で規模の大きな制作会社で働くようになっていました。大手広告代理店と直接取引していたので、能力を伸ばすチャンスは潤沢にあったと思います。でも、そこで働くということに僕はとても疲弊してしまいました。

―― ハードワークだったということでしょうか?それとも仕事のやり方に何か問題が?

井上氏:大手広告代理店との取引では言われたことだけをやっていたら確実にクラッシュします。10を求められたら20を返すスタンスで、そうなると付いてこられない人も出てきます。僕自身一緒に働いていてミスマッチだなと感じることもあったし、当たり前ですけど仕事にそこまで時間を投入したくないという人もいました。例えるなら健康のためにジョギングをしたい人とオリンピックに出たいと思っている人が一緒に仕事をしている職場のような感じです。僕から見ると無理のある「変な組織」です。そして当時、同業の他の会社を見ても、どこもそんなには変わらない。だったら、自分と目線のあったメンバーを集めて会社を作ろう。そう考えたのがライデン設立のきっかけだったんです。

競合ひしめくクリエイティブ業界でライデンが生き残る道筋は

―― 設立当初はどんなメンバーでスタートしたのでしょうか。ライデンをどんな会社にしたいと思われましたか。

井上氏:はじめは、 アートディレクター、テクニカルディレクター、フロントエンドエンジニアとプロデューサーである僕の4人。ものづくりができるミニマムの陣容でしたね。ライデンを立ち上げた頃には周りにクリエイティブにおいてすごい会社がいくらでもあって、アウトプットだけで一番になるのは僕らが人生を投げ打って仕事をしても無理だと感じていました。だから僕たちはアウトプットのよさだけではなく「一緒に仕事をしてよかった」と言ってもらえることを目指したんです。

実力がすごいと言われる会社の評判を聞いてみると、クリエイティブにこだわる余り、「クライアントの言うことを全然聞いてくれない」という声も耳に入りました。僕はプロデューサーとして、まず窓口になっていただく担当者に頼りにされること、一緒に仕事をして気持ちよいと思ってもらえること、そして感謝されることをとことん目指しました。相手のリテラシーや社内でのポジションも考えて、その人がライデンで用意した資料をどのように使うか、どんなふうに社内の方々に見せるかを考えてプレゼン資料作りを行なっています。担当者との直接のコミュニケーションはもちろん、メールを送信するタイミングまで相手のことを考えています。アウトプットのクオリティだけでなく、クリエイティブのパートナーとしてライデンを選ぶ気持ちよさをクライアントに感じてほしかったのです。

―― 斬新なクリエイティブで高く評価されているライデンがアウトプット以外の部分に注力して道を切り開いてきたというのはちょっと意外ですね。

井上氏:ライデンではストーリーとアートワークとWebテクノロジーの3つがうまくクリエイティブとして接着することに注力しています。しかしそれはクライアントからの信頼なくいきなり任せてもらえるものではありません。「ライデンと仕事をすると気持ちいい」というアウトプット以外の部分で、徐々に築いてきたクライアントとの信頼関係が僕たちのビジネスチャンスを広げていると思います。

個人が会社に合わせるよりも会社が個人に合わせる方が働きやすい環境を作れる

―― ライデンでは現在どんなメンバーで仕事をされていますか?今後求めるクリエイターについても教えてください。

井上氏:現在ライデンには、プロデューサー、アートディレクター、テクニカルディレクター、デザイナー、フロントエンドエンジニアなどの職種のメンバーがいて、社員は全部で8人います。手がけるプロジェクトによって他社やフリーランスのクリエイターと協働しています。経営的な立場で言うと継続的に頼りにできる正社員の存在はありがたいです。でも、これからは会社と正社員という雇用関係をよりどころに互いに無理をするというのは徐々になくなっていくと考えています。これまでは会社がルールを決めて社員が働き方を合わせるのが普通でしたが、これからは個人が働き方を決めてそれに会社がシステムを合わせていく方が上手くいくと思います。そこには正社員でなくてもアルバイトや業務委託というスタイルでの仕事も可能性が広がっていくのではと僕は考えています。

―― 高いクリエイティブのクオリティを保ちながら、ライデンは働き方の自由度が高い。業界ではそんな声も聞くのですが、実際にメンバーはどんな働き方をされているのですか。

井上氏:クリエイターがひたすらアウトプットを続けていると疲弊してしまう。これは僕自身がライデンを作る前から強く感じていたことです。だからこそ、フレックスタイム制や裁量労働制をとって仕事の時間の使い方はできるだけ個人に任せられるようにしています。またフロントエンドエンジニアは在宅勤務可能であったり、定休日とは別に誰でもインプットのための休暇を年に1回1週間取ることができるようにしています。また以前はママさんデザイナーに時短で業務委託というスタイルで働いてもらったりしていました。会社はメンバーの力を集約できればいいので、個人の働くスタイルに会社が合わせていけばいい。ライデンではそう考えているのです。

―― インプットのための休暇とは?少数精鋭のライデンでは難しい取り組みではないですか?

井上氏:通常の休日とは違うので、どんなインプットをしたのか報告をしければなりませんが、休みのテーマはほぼ自由です。「ロシアに行きます」と言ってこの制度を使って1週間の旅行に出かけたメンバーもいます。確かに8人しかいないウチの会社では、1人でもメンバーが休むと大変です。でもそれぞれがクリエイターとしてクオリティの高いアウトプットを行うためにインプットがいかに大切かがわかっているんです。だからこそインプットのための休日を取るメンバーが出るときには、「よし自分がなんとかしてあげよう」というメンバーが名乗りを上げて、その間のサポートにあたる。そしてそのメンバーが休むときにはまた別のメンバーがといった具合で、クリエイター同士、大人の信頼関係があってこそ成り立っている制度なのです。

スキルよりも会社に馴染む素養と目線が大切。ライデンで求めるポートフォリオとは

―― 今現在ライデンで求めているのはどんな人材ですか?

井上氏:欲しい職種としては、フロントエンドエンジニア、デザイナー、プロジェクトマネージャーなどです。必要なスキルを身に付けているかどうかはもちろん重要ですが、僕が注目しているのはライデンという組織との相性がどうかです。会社って鍋のようなもので、社員の持ち味が合わさってできるものです。抜群にスキルが高かったとしても、ウチのハーモニーが崩れるとしたら採用できません。それにライデンの立ち上げのときに考えたように、僕たちと同じ目線で仕事ができることが大切です。そのために僕たちの目線がどの辺りにあるのかは、先に「portfolio」などを見て感じておいてほしいと思います。

―― ライデンで採用するならこんなポートフォリオだというポイントがありましたら教えてください。『MATCHBOX』のポートフォリオ見本にはどんな印象を持たれますか?

井上氏:『MATCHBOX』で作るポートフォリオは単に作品を掲載するのではなく、その作品ができあがるまでの過程やそのクリエイターの仕事への関わり方を表せるようになっていますね。僕も作品そのものよりも、その人が「何が好きで、何が苦手か」「これまで何をやってきて、これから何をやりたいか」がわかるポートフォリオを見たいと思っています。それがわからないことにはクリエイターとして「ライデンに合うか」を判断することができないからです。クリエイターに求めるものとしてはクリエイティブに向かうための引き出しをどれだけ持っているか。いろいろな課題に対処できる引き出しを持っていればスキルが発展途上でもポテンシャルに期待することができますからね。どの会社もそうだと思いますがクリエイターとしてのスキルやランクの高さだけで採否が決まるわけではありません。人との出会いと同様に、人と会社も出会ってみなければわからないというのが採用における僕の本音です。

だからこそポートフォリオは飾るのではなく、自分の本音をぶつけて仕上げてほしい。たとえばポートフォリオに載せる代表作の中にも、自分の納得のいかなかった部分や上手くできなかったところもあるはず。自分の思ったとおりにできたのか、いやいや作ったのか、言われたとおりにやったのか。「もっとこうしたかった」というその人の本心が語られているとその人の目指すものや、やりたいことが作品を超えてもっと見えてくると思うのです。

―― 最後に転職を考えるクリエイターへのメッセージをお願いします。

井上氏:僕自身体育学部の出身でこの業界にスッと入れたわけではありません。大学卒業後もコンビニでアルバイトをしたり、デパートで衣料品の販売を行ったりして、「いつかグラフィックデザイナーになるんだ」という思いだけで、寝ないで夜中にポートフォリオを作っていました。今思うと当時は本当にデザイナーになれるのかとても不安でしたね。しかし、そんな思いでポートフォリオを作ったおかげで、いろんな出会いがあり、いろんな人に助けられて今の僕があります。クリエイターが自分の思いを一番伝えられるツールはやはりポートフォリオです。転職では"作品推し"ではなく"自分推し"で。あなた自身が一番納得できるポートフォリオをあなたが望む会社にぶつけてみてください。

インタビューを終えて

ライデンの代表である井上氏からは経営者としての視点とプロデューサーとして歩んできたこれまでの道のり、これからのクリエイターの働き方へのビジョンまで幅広く聞くことができた。働き手としての人と会社の関わり方はこれからも少しずつ変わっていくはずである。個人の働き方に合わせた企業の在り方も今後はもっと広がっていくことだろう。正規雇用だけが正解ではないクリエイターの働き方はすでに各社ではじまっている。働く環境が変わっていく中、クリエイターが自分に一番合った企業に転職できるかは、かけ値なしの本当の自分をアピールできるかどうかにかかっている。転職活動においてポートフォリオを軸に本当の自分を表現する方法を十分模索してほしい。

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