デジタルハリウッド共同企画「より効果的なデザインに繋げるためのユーザー中心設計の考え方」セミナーレポート
当日は2部構成で行われ、第1部は「伴走するデザイン」をコンセプトに高いクオリティのアウトプットで業界の注目を浴びる株式会社コンセントのプロジェクトマネージャー笹原舞氏による『より効果的なデザインに繋げるためのユーザー中心設計の考え方』セミナー、第2部はマイナビクリエイターによるポートフォリオの作り方に関する個別指導と就職・転職相談会が行われました。
プロフィール紹介
笹原 舞氏
株式会社コンセント
プロジェクトマネージャー
2006年に入社以降、コーポレートサイトや複数のブランドサイトの構築〜運用に加え、社内の管理ツールなどの構築〜運用まで幅広い開発業務に携わり、Web活用におけるアドバイザーも務める。また、Webサイト構築のみではなくEIA(Enterprise Information Architecture)観点でのWeb戦略立案なども行い、過去にはWebガバナンス戦略の立案や、中長期Web戦略立案からそれを実行するための企業内組織の立ち上げにおけるアドバイザーなどの実績がある。
近年は新規プロダクト立ち上げ時のブランディングプロジェクトでプロジェクトマネージャーも務め、アウトプットに関わらずさまざまなプロジェクトマネジメントを行っている。ユーザーを中心に問題解決を行う、特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)認定 人間中心設計専門家。
ビジネスで行うデザインの機能の1つは、問題の解決
会場には「Webデザイナー専攻 超実践型就職・転職プラン」の受講生のほか、Webデザイナー志望者や現職のWebデザイナーが多数集まりました。第1部のセミナーはWebデザイナーが仕事に向かううえでどんな意識基盤を持っているべきかを株式会社コンセントでプロジェクトマネージャーを務める笹原氏がロジックを持って解説。これから実務を経験していくであろうWebデザイナー志望者を対象としながら、経験者もデザインコンセプト作りのフローを再確認できる内容となりました。
まず、笹原氏がセミナー参加者に投げかけたのは「デザインとは?」というWebデザイナーにとっての根源的な質問でした。デザインという言葉を聞くと多くの人は、絵を描くことや、表面的な美しさや見た目のことをイメージするかもしれません。しかしデザインという言葉には、そういったビジュアル作りだけでなく「問題を解決するための設計」という意味が込められている、ということを笹原氏は示しました。
現に、笹原氏が所属する株式会社コンセントでは、さまざまなWebサイトやパンフレットなどの制作、新規事業開発や組織デザインの支援に取り組んでいるわけですが、「どんな方法でどんな対象に取り組むことが有効なのか」、さらに上流の「目的を達成するためにはどんな課題があるのか」を考え、クライアントの課題解決や価値創造、ビジョン設計のために同社のコンセプトである「伴走するデザイン」を実践しています。
この「伴走する」に連なる「デザイン」は言うまでもなく「問題を解決するための設計」が含まれたもの。ビジネスとしてのデザインにはこれが不可欠なのだということを笹原氏は参加者に訴えました。また、プロとして仕事をするうえでもう1つ欠かせない要素として、クライアントとの「合意形成」にも触れました。
笹原氏:クライアントとの合意形成はとても重要です。これが不十分なままプロジェクトが進むと、時間も費用も発生した後で「こういう話でしたっけ?」ということになってしまいかねません。合意形成があってこそ、同じ目線で話を継続できるのです。
この合意形成を実現する手順としてWebデザイナーがすべきこととは、クライアントの目的を明確にし、問題解決に繋げるためのロジックを言語化することです。課題の背景にあるものは何なのか。調査、分析、または自ら立てた仮説をクライアントやプロジェクトメンバーに共有しながら解決策の設計を行う。そして表現に落とし込んでいくこと。それがビジネスとしてデザインを行うWebデザイナーに求められることなのです。
新たな視点を加えるWebデザインに必要なHCD(人間中心設計)の考え方
続いて、笹原氏からはものづくりにおいて必要なHCD(Human Centered Design)=人間中心設計の考え方について紹介されました。
笹原氏:HCDとは「使う人の観点でものを作るための仕組み」です。たとえば、蓋を開けやすくするためのペットボトルのキャップのギザギザや、仕事中にジュースを飲んでいることを悟られたくない人のための透明なコーラなど、これらはすべて、使う人の観点で設計された商品と言えるでしょう。私たちがものを作るうえでは、こういったHCDの考えに基づいた発想が大切なのです。
プロジェクトを進めていくには、ユーザーを中心とした設計をする、つまりHCDの「H」にあたるユーザー定義の重要性を語る笹原氏。より具体的にイメージができるよう、たとえば「500ml入りでも1本1000円のお茶をプロモーションするためのWebサイトを制作する」という架空の課題を提示し、考えを深めていきました。
笹原氏:1本1000円のお茶を買ってくれるターゲットとはどんなユーザー層でしょうか。もしかしたら、中には売り場ですぐに商品を購入する人もいるでしょう。その人の場合はWebサイトを見てから購入を決めるという行動をとらないので、Webによるプロモーションでは効果を発揮しません。Webサイトでプロモーションするべきなのは、「1000円のお茶に関心を持ちつつも、値段に躊躇し、その場ですぐ買うことはしなかった人」や「購入の決め手となる、もうひと押しがほしい人」などが考えられます。自分の持つ価値観に合致していれば購入意欲を持って検討するグループ、と分類できます。商品に関心を持ちながらもその場は一旦素通りし、気になって思わずWebで検索してしまう。そして購入する。そんなストーリーをこのペルソナで想定することができるのです。
笹原氏が参加者にイメージしてほしかったのは、クライアントの依頼から始まるプロモーションにおける一連のクリエイターの考え方と動きです。特に重要なのは効果を最大限に見込めるターゲットを見つけ出し、それに対する集中的なプロモーションを行っていくということ。プロモーションが「誰」に対して「どんな効果」を発揮するのか。メインターゲットを設定することでユーザーの行動が読み解きやすくなり、具体的なサイト方針が決まっていくのです。
製品自体の開発やWebデザインにおける考え方として紹介されたHCDですが、PDCAサイクルのようにHCDサイクルを回すことによって課題解決の方法を強化していくことができます。HCDサイクルとは「観察」「理解」「設計」「評価」という過程を指し、検証の中から新たな課題を抽出して次のサイクルを繰り返しながら、ユーザーのニーズを満たしていくことを目的としています。
デザインの中で検討をしていくUXもこのHCDの考え方がベースになります。HCDの考え方を理解し、身に付けておくことが、Webデザイナーにとって制作のロジックとその言語化に大いに貢献し、そしてなによりユーザー体験の向上や問題解決につながります。株式会社コンセントで実践されているクリエイティブでもこのHCDの考え方が基本になっていることが紹介されました。
引き出しを増やし、感性を育てる
Webデザイナーがビジネスとして行うデザインの機能の1つは、問題解決です。「なぜそうなったのか、どうしてそうしたのか」という分析や目的確認、解決策の設計を行い、そしてそれを表現に落とし込んで伝えていかなければなりません。クライアントからのさまざまな要望にも応えていかなければならないでしょう。
そのときに重要になってくるのがいかに多様な「引き出し」を持っているかということです。自分の好きなデザインを知ることはもちろん、それ以外の表現にも目を向けること、デザインに対して複数の視点で見つめていくことの重要性が株式会社コンセントでWebデザイナーとして活躍している先輩たちからの声として紹介されました。
笹原氏:今日ご紹介したように、観察や調査を行いユーザーを把握し仮説を立てて設計していくというようにロジカルに考えていくことは大切ですが、同時に、Webデザイナーにとっては感性も絶対大事だと思っています。日頃から身の回りにあるたくさんのものに目を向けて観察・分析し、自身の感性を育てていくことも忘れないでください。
こうして第1部の「より効果的なデザインに繋げるためのユーザー中心設計の考え方」セミナーは盛況のうちに幕を閉じ、第2部のポートフォリオ個人相談会へと続きました。受講生からはポートフォリオに関する具体的な相談も多数あり、Webデザイナーとしての就職・転職に強い意欲をもった参加者によって大いに盛り上がりました。
取材を終えて
クリエイティブの世界で活躍するために、どうしても身に付けておきたいいくつかのロジック。今回セミナーで主題となった「Webデザイナーも持つべきHCDの考え方」などもその1つと言えるでしょう。しかし、これらの手法を具体的な事例を交えて体験的に学べる機会はなかなかありません。第一線で活躍するプロジェクトマネージャーの言葉は、これからWebデザイナーとして活躍を目指す人にはかけがえのない大きなヒントとなったことでしょう。
Webや制作に関する知識やスキルよりも、ときに重要となるクリエイティブの考え方や組み立て方について、クリエイターが知っておくべきノウハウはまだまだあります。マイナビクリエイターとデジタルハリウッドでは今回お世話になった株式会社コンセントやその他の業界の企業とも協力して今後も魅力的なセミナーを開催していきます。是非今後も期待してください。