どんなデザインも最終的には「人」と向き合う ―― 川崎沙織氏「Web業界進化論#05」開催直前インタビュー

来たる4/22(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#05「デザイナーとしての成長を加速する『デザイン』との向き合い方」を開催する。

「Web業界進化論 実践講座」の第5弾は、キャリアの広げ方を知りたいWebデザイナーに向けたもの。企業でマネージャーとして活躍するかたわら、コミュニティ「サービスデザインクエスト」の代表を務める川崎沙織氏をゲストに迎え、キャリアの選択肢や具体的な情報収集などについて語られる予定だ。

今回はイベント直前インタビューとして、川崎氏にこれまで歩んだキャリアや、主催するコミュニティの運営、今後のキャリアについて伺った。

プロフィール紹介

川崎 沙織氏
サービスデザインクエスト 代表 / 一般社団法人 日本ディレクション協会 所属

ベンチャー企業でバナー職人をすることから始まり、UIデザイナー、サービスデザイナーと徐々に上流工程のデザインへとシフト。クライアントワークでサービスデザインからUIデザインまでを担当し、多くのプロジェクトにディレクター兼デザイナーとしてジョイン。現在は主に新規プロダクトの開発プロジェクトにおいて、システム開発部門のマネージャー、UX/UI、情報設計を担当する。個人でデザイナーのキャリア相談や企業のデザイナー育成について支援するほか、サービスデザインをRPGになぞらえてトレーニングするコミュニティ、サービスデザインクエストの代表を務める。

根底にある「気持ちよくビジネスをするためには?」という思いがモチベーション

―― まずはこれまでのキャリアについてお聞かせください。最初にデザイナーを志したのはいつ頃なのでしょうか?

川崎氏:実は営業からキャリアをスタートさせているんです。学生時代の仲間がWebサイトのオリジナルCMSを作って学生起業をしていたのですが、私はそのサービスを売る営業として携わっていました。とはいえ、当時はWebのことがよくわかっていなかったので、仕組みをよく理解しないまま案件を取ってきては「それはできないよ」と言われたりしていたんですね。

それで、作り手のことを知らずにモノを売るのは難しい、もっと納得してからモノを売りたい、と思うようになりました。でも、今からエンジニアを目指すほどのスキルはないし、それなら昔から絵を描くのは好きだから、デザインから始めよう!……というのが、デザイナーを志したきっかけです。

―― そこから、大学卒業後もデザイナーとして仕事をされたわけですね。

川崎氏:そうですね。新卒でベンチャー企業にグラフィックデザイナーとして採用されてから、現在の会社が5社目です。ただ、それぞれの会社でやってきたことは全然違うんですよ。自分の中ではつながっているんですが。

―― 詳しく聞かせていただけますか?

川崎氏:まず1社目では、アイコンや販促物をひたすら作っていました。いわゆる「バナー職人」でしたね。しばらくしてそれらの制作を担当して思ったのは、「バナーやアイコンのデザインを頑張っても、サービス全体の流れがよくなるわけではないな」ということ。より広い目線でビジネスを考えたくて、UI/UXに興味を持つようになりました。

2社目でも、当初はグラフィックデザイナーとして引き続き頑張っていました。しかし、自分のアウトプットに納得ができなかったり、周りのデザイナーが作るグラフィックのクオリティの高さに圧倒されたりで、自信が持てず、なかなか苦しい時期が続いたんです。そんな中、転機になったのが当時、担当していたゲームの一部機能のUI改修に携わったこと。手探りながら行ったUI改修でしたが、売上を伸ばすことができました。結果につながったことが大きな自信になり、この経験はグラフィックデザイナーからUIデザイナーにキャリアの舵を切るきっかけになりました。

―― 3社目でも引き続きUI/UXデザインを?

川崎氏:そうですね。もっと幅広く沢山のタイプの案件を経験したくて、3社目は受託の開発会社へ転職しました。UIデザインからもう一歩踏み込んだ、サービスデザインも徐々に経験することになります。企画やアイデアの創出など、サービスの根幹にあたる部分まで担当しました。

一方で、その頃受けていたサービスデザインやUXデザインの依頼は「機械学習、IOTを活用したサービス」「DX」など、抽象度の高いものが多く、現実に落とすために「技術への理解度を高める必要性がある」と強く感じるようになりました。また、「クライアントワークで事業モデルの構築とUXの関連に理解・コミットすることが難しい」とも。

そこで今度は、そういった課題を解決できる環境はないかと思っていたとき、ちょうどエッジコンピューティングや機械学習を強みにしている、かつ新規事業を立ち上げようとしている会社からお誘いを受け、タイミングがいいと思い転職しました。

4社目では新規事業開発チームにジョインし、自社事業を考えるにあたってサービス構造やシステム構成がいかにUX/UIに影響するかを学べ、視界がまたひとつ開けたのが印象的でした。加えてこのとき強く思ったのは、事業を開発するうえでいかにチームが大事であるかということ。いくら優れたアイデアとお金があっても、チームがよくないとうまくいかない……もっと言うと、ビジネスサイドと開発サイドが垣根なく議論を交わし互いに歩み寄ることが必要だと感じました。

そうして今度はビジネスサイドの期待と開発サイドが実現できることの調和を図りながら、チームで開発を進められるようになりたい気持ちが強くなり、スクラムマスターの認定を取得することを一歩目として、エンジニアとの関わりにも力を入れることになります。

―― バナー職人からずいぶん遠くまで来たように感じますが、そこまでキャリアを深掘りするモチベーションはどこにあるのでしょうか?

川崎氏:新卒の頃から「気持ちよくビジネスをするにはどうしたらいいか?」という思いが、ずっと根底にありました。また、優秀な人は沢山いるのに、海外みたいに新規事業でITサービスを成功させるのは、なんでこんなに難しいんだろう?と思っていました。

日本はもともと、UI/UXが得意な国です。たとえば、日本庭園は季節の移ろいや来園者の目線を計算して、導線や配置がデザインされていますよね。そんな土壌があるというのに、いざ新しいサービスを作ろうとするとうまくいかない。何が制約になっているのだろう……と疑問を深掘りしていくと、興味の対象がどんどん増えていきました。

チーム作りにまで至る「デザイン」の奥深さ

―― 興味の対象を深掘りしていった結果、現在5社目にお勤めとのことですが、4社目からは、どのような思いから転職されたのでしょうか。

川崎氏:企業分野やチーム作りを追求したくなったんです。価値あるサービスをスピーディに提供するには、チーム体制が重要になるだろうと。現在はシステム開発部門のマネージャーとして、エンジニアとデザイナーのマネジメントをしています。

―― 現在の会社では、どんな場面でこれまでのキャリアが活きていると感じますか?

川崎氏:開発チーム指揮を担当する立場として、ビジネスサイドとの期待値のすり合わせをするにあたり、要望を切り分けて開発を小さくしていくことがあります。その際、サービスデザインで培ってきた「サービスの辻褄」を意識して対応できたとき、経験してきたことが活かされているなと感じます。

また、エンジニアのマネジメントはまだまだ手探りで、周りの力を借りながらですが、スクラムマスターの講座で学んだ「自立性に任せる」「外圧を排除する」ことが役立っています。人事評価や組織開発にもこの考え方を活かせないかと模索しているところです。

―― お話を聞いていると、「デザイン」という言葉の懐の広さを感じます。

川崎氏:奥深いですよね。でもデザインを突き詰めると、最終的に向き合うのは「人」なのだな、と感じます。バナーも、UIも、組織開発も、すべて人に対して働きかけるものですから。

―― 人との関わりと言えば、社外のコミュニティでも代表を務めてらっしゃいます。

川崎氏:「サービスデザインクエスト」といって、サービスデザインの考え方やナレッジを共有できるコミュニティ(場作り)を主宰しています。コロナ禍以前は、サービスデザインをRPGゲームの感覚で楽しみながら体験できるワークショップも提供していました。たとえば、自分を勇者に、解決すべき課題をラスボスやモンスターといった表現に置き換えて取り組むんです。

もともとは、デザイン思考やUXデザインを広めようと活動している人たち同士で始めたものでした。「デザイン思考やUXデザインの取り組みを、プロジェクトに活用したいけれど、導入するために周囲から理解を得るのはなかなか大変」といった悩みに共感を覚えた人たちが集まっています。

デザイン思考やUXデザインは全体を巻き込まないと難しいところがありますが、初めてやるのにそれはハードルが高いという悩みもありました。

なので活動の方向性として、「自分の学びをトライアンドエラーできる場にしよう!」と自然と話がまとまりました。たとえば、思いついたアプローチをコミュニティ内でテストして、イベントで反響を見て、自分たちの会社へ持ち帰る、といった流れです。

―― 効果はいかがでしたか?

川崎氏:コミュニティにはさまざまな会社、職種の人がいるのですが、何かしら刺激やヒント・気づきを多くもらえています。それぞれの中で理解が深掘りされ、実務の中でまた新たな探究が生まれて……といった営みに何かしら変化や刺激を感じてくれているメンバーもいるようです。

最近は、デザイン思考から徐々にフォーカスが組織開発になっている人も多く、自分自身としては、仲間の存在を実感できることがとても大きいです。自社内では共有しにくい悩みも、このコミュニティ内では話しやすく、社外にこのようなコミュニティがあるのは、心の支えになるなとしみじみ思います。

どうすればユーザーの生活がよりよくなるか、追求するのがデザイナーの仕事

―― 興味を掘り下げながら歩んできたキャリアですが、今後についてはどのように考えていますか?

川崎氏:土壌作りが終わり、ここからビジネスとしての成果を出すフェーズに入ると思っています。まずは現在携わっているプロジェクトでしっかり成果を挙げ、会社に貢献することが最優先です。新規事業でも結果を残し、将来的には自分でもサービスを立ち上げてみたいなと考えています。

また、デザイナーの育成についてはだいぶ知見がたまってきたので、ナレッジやノウハウをまとめて、若いデザイナーやデザイナー志望者に還元できたらと思います。

―― 現在はデザイナーのマネジメントもされているとのことでしたが、デザイナーからキャリアについてどんな相談を受けることが多いですか?

川崎氏:「UXデザイナーを名乗っていいかわからない」「UXの経験がないから求人に応募していいかわからない」という悩みを聞くことが多いです。○○デザイン、みたいなワードがトレンドになると不安になったり、敷居を高く感じたりすることが多いのかなと思うのですが、私はそこまで心配することはないと思うんです。

結局のところ、○○デザインと呼ばれるどんなデザインも、最終的に向き合うのは「人」であって、「人にとって使いやすいもの、効率がいいものを追求する」ということには変わりありません。あとは、作って、試して、直してをどれだけ繰り返せるかだと思います。体系的にデザインを学んだこともない私でもできたんですから、「大丈夫だよ」と伝えたいです。

―― ありがとうございます。最後に、セミナー当日にお話しいただける内容についてお聞かせください。

川崎氏:クライアントワークであろうと、自社事業であろうと、目の前の仕事がいかにユーザーに恩恵をもたらすか、そしてユーザーの生活がよりよくなるかを追求することが、デザイナーの仕事だと考えています。それはバナー職人でも、UIデザイナーでも、サービスデザインでも変わりません。

その軸を持ったうえで、さらに成長しようと考えたとき、具体的にどう考えて、どう実行したらいいのかをお話しできればと思います。

インタビューを終えて

グラフィックデザインを入口に、UI/UX、サービス、組織形成に至るまで、広義の「デザイン」を深掘りしていった川崎氏。芯となる「ビジネスを気持ちよく進めるには」という思いと、それを実現させるための行動力には驚かされた。

4/22(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#05「デザイナーとしての成長を加速する『デザイン』との向き合い方」では、そんな類を見ないキャリアを歩んだ川崎氏の知見を聞くことができるだろう。興味のある方は、ぜひこの講座に参加してみてほしい。

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