Webディレクターの仕事は、全てコミュニケーションから始まる ―― インフォバーン 立野公彦氏インタビュー

日本のデジタルエージェンシーの草分け的存在であるインフォバーン。その一角に、独自のデジタルマーケティングの知見を活かし、クライアント企業のビジネス上の問題を解決するソリューション部門がある。

最前線で活躍するWebディレクターの働き方は、これからWebディレクターを目指す方にも、そして現職のWebディレクターの方にも大いに参考になるはずだ。そこで、インフォバーンソリューション部門で活躍されている立野氏の働き方や仕事の流儀、哲学などについて、幅広くお話を伺った。

インフォバーンにおけるWebディレクターの役割

── 立野さんのお仕事の概要をお聞かせください。

立野氏:僕が所属しているのは、ソリューション部門にあるディレクションユニットです。ソリューション部門の中には、デザインやサイト構築などを専門とするユニットや、コンテンツプランニングを専門とするユニットなどがありますが、そうしたユニットの中で、webディレクションを担当するのがディレクションユニットです。この部署は、ソリューション部門全体の案件に対してサイトのシステムやデザイン、コンテンツといったものをすべて統括しています。また、進行やコスト、納期などの管理もしています。

ディレクションユニットは現在約50名、7チーム編成で、僕は1つのチームのリーダーというポジションです。肩書はディレクターで、一般的な名称でいえばWebディレクターに相当すると思います。しかし、当社の場合はあまり肩書にはこだわらず、プロジェクトごとにさまざまなポジションを兼任するといった仕事の進め方をしています。

僕の場合、個々のプロジェクトに参加する際は、コンテンツ制作やプロジェクト全体の統括責任者であるPM(プロジェクトマネージャー)として参加することが多いですね。

── 最近では、どのような案件を担当されていますか?

立野氏:具体的なクライアント名は出せませんが、世界的なコンピューター関連サービスメーカーのひとつであり、近年はソリューション・コンサルティング事業でも大手として知られている企業の案件を担当しています。このクライアント様からは、大小さまざまなプロジェクトでご相談いただいています。

時代はコンテンツマーケティングからコーポレートコミュニケーションへ

── 御社は「デジタル時代のコミュニケーションパートナー」という言葉を標語にされていますね。

立野氏:はい。企業のデジタルマーケティングや、コーポレートコミュニケーション全般のお手伝いを行っています。当社はデジタルエージェンシーと名乗っていますが、最近はコミュニケーションパートナーという表現のほうがしっくりくるお仕事が中心になってきたと思います。また、デジタルだけでなく、元々当社が出版社であったことのノウハウを活かして紙媒体でのコミュニケーションやリアルイベントなども総合的にお手伝いできるという強みがあります。

僕自身も以前は書籍や雑誌など、紙媒体を手掛けていました。ライフスタイル誌やバイク雑誌のほか、ファッションや金融、児童書、実用書など、幅広い分野を経験してきました。そうした経験のなかでも、雑誌では「読者とのコミュニケーションの中から次の編集方針、企画を模索していく」という過程、書籍では「系統的で密度の濃いコンテンツを作り上げていく」という過程が、今の仕事にも活かせていると思います。

── 紙媒体とWebサイトにおける、コンテンツの違いはどこにあると思いますか?

立野氏:僕が最近強く感じるのは、「ストック型コンテンツ」と「フロー型コンテンツ」の扱いについてです。 書籍は、まとまったコンテンツを積み重ねてライブラリ化していくことで網羅的な強みを発揮していく、ストック型コンテンツです。一方、雑誌は「今読者に求められていくもの」を流動的に発信していきます。これがフロー型コンテンツとなります。

しかし、Webサイトにはストック型とフロー型のコンテンツが、両方必要です。例えばニュースサイトなどがフロー型コンテンツの典型的なものになります。他にも「バズる」という言葉がありますが、一過性で大きな話題となるコンテンツはフロー型であることが多いですね。こういったコンテンツはSNSなどで一気に拡散する力があります。ところが、検索エンジンで評価されやすいのは、長期にわたってユーザーのアクセスを集めるストック型のコンテンツという見方もあります。

Webサイトを運営していく上では、ストック型とフロー型のどちらも大切で、Webサイトの性格や扱う情報の内容などによってバランス良く積み重ねていく必要があります。また、ストック型コンテンツも古いまま放置しておくのではなく、一定期間ごとに情報を再編集するといったアップデートが必要です。そうした方向性を、サイト設計の段階からいかに計画的に盛り込んでおくかが非常に重要だと思います。

── 御社は「コンテンツマーケティング」という概念について、どうお考えですか?

立野氏:当社は「コンテンツマーケティング」という言葉をかなり初期から使っています。ところが、時代を経るごとに「コンテンツをマーケティングに活用しよう」とか「オウンドメディアをやりましょう」など、コンテンツマーケティングという概念が矮小化されて普及してしまいました。これは「コンテンツ」という言葉をどうとらえるかという話になるのですが、僕自身の考えでは、企業の商品やサービス自体も含まれますし、企業の社員自身もコンテンツだと思います。

一方、マーケティングというのは単に売上を伸ばす、知名度を高めるというだけではなく、その会社や製品、サービスをどうブランディングしていきたいのか、どういう人にファンになってほしいのかというところまでを含めた幅広い概念です。つまり、本来の意味でのコンテンツマーケティングとは、さまざまなコンテンツを広く、深く届けるコーポレートコミュニケーションであると思います。

ソリューション事業のWebディレクターに必要な資質とスキル

── 御社のWebディレクターをするにあたって、必要となる資質は何でしょうか?

立野氏:まだまだ僕自身も経験を積んでいる最中なので、偉そうなことは言えませんが、僕が所属しているソリューション部門でいえば、ひたすらコミュニケーション力に尽きると思います。クライアントの抱えている問題を解決するには、どこに問題の本質があるのか、その問題をどうすれば解決できるのかをクライアントといっしょに考えていかなくてはなりません。そこをどれだけ掘り下げられるかは、コミュニケーションによって決まると思います。

次に重要な資質は世の中に対して常にアンテナを張っていることだと思います。つまり、情報収集できる人です。最近は採用面接に立ち会うことも多いのですが、例えば求職者に「好きなものは何か」と質問します。答えは何でもいいのですが、その答えに対して「では、それに関する情報はどうやって収集していますか?」と質問します。どんなところから情報を集めてくるのか、集めた情報をどう取捨選択しているのか、自分のなかに蓄積している情報と新たな情報をどうつなげているか。そういうセンスを見れば、仕事上でもうまく情報収集できる人かどうかがわかるような気がします。

当社のディレクターにはこの2点が欠かせないと考えていて、それ以外のスキルは、採用後でも十分補えると考えています。

例えば、最新のWebテクノロジーなどに詳しいに越したことはありません。Webデザイナーやエンジニアに的確な指示を出すためには、自分で作業、実装できなくてもその技術がどういうものかを知っているに越したことはないです。しかし、そういった情報は、第一線にいれば自然に身に付きますし、トレンドは常に変化していきますから、働き始めてからキャッチアップしていっても十分だと思います。

── 同僚や部下として「いっしょに働きたい」と思う人は?

立野氏:僕が一緒に働きたいのはチームプレイができる人です。これもコミュニケーションの一環ではあると思いますが、クライアントだけでなく、同じプロジェクトで働いているメンバーが今何をしているか、必要な情報はちゃんと伝わっているか、何につまずいているのかを、常に意識しているような人といっしょに働きたいですね。

もっといえば、共有すべき情報を「伝えたかどうか」ではなく、「正しく伝わっているかどうか」を大切にすることが重要だと最近は強く思います。「ちゃんと伝えました(でも相手は理解していなかった)」ではダメで、相手に正確に伝えることができてこそ、ビジネスコミュニケーションになると思います。トラブルが発生するときは、自分が言葉足らずだったか、相手が誤解しているかのどちらかが多く、正しく伝わっていないからこそ生まれるような気がします。自分が100%伝えたと思っていても、相手が勘違いすることもあります。「仕事ができる人」はきちんと意図が伝わっているか、しっかり確認する努力をしている方だと思います。

── 御社のWebディレクターとして、他に持っていたほうがいいスキルはありますか?

立野氏:やはり企画力だと思います。ほかの人が思いつかないようなことを思いつく。あるいは、まだ誰も見つけていないような切り口を見つけられる。さらに、それをカタチになるところまで落としこめる人だったら、言うことはないですね。

それから、もちろん編集力も必須です。メディアプランニングもコンテンツのプランニングも、1つの切り口に沿って情報を集め、取捨選択し、まとめる。そういう意味で、編集力が高い人は万能だと思いますね。

Webディレクターの働き方

── 実際、立野さんの1日はどのように動いているのでしょうか?

立野氏:まず朝は10時に出社し、メールのチェックや1日の自分がやるべきタスクを整理することからスタートします。

立野氏のある1日のスケジュール

10:00 業務開始、メールチェック、タスク確認
10:30 提案資料作成
12:00 クライアント訪問
13:00 外で昼食
14:30 社内で打ち合わせ
15:30 クライアント訪問
17:00 デスクワーク
18:30 取材
20:00 上司、チームメンバーへの取材先情報の共有・報告
21:00 明日のタスク確認をして退社

── この日は、ほぼ1日中コミュニケーションに費やしていますね。

立野氏:仕事の大部分はコミュニケーションですね。15時ぐらいに「今日は急ぎの用事がないので帰ります」というときもありますが、だいたいこれが標準的な1日のスケジュールとなります。

ただ本当はもっと、コミュニケーションだけでなく、ひとりで考える時間を意識的に作るなどして、余裕をもって働きたいと思っているんです。ただ席に座って、チームメンバーが気軽に声をかけやすい時間なども作ったり。そうしないと、社内から生きた情報が集まってきません。それが今後の課題だと考えています。

インタビューを終えて

一流企業をクライアントに、デジタルマーケティングの第一線でWebディレクター/PMとしてご活躍中の立野氏にお話を伺った。今回のお話は、次のような図式にまとめられると思う。

最終的な編集力を発揮するためにも、それに先立つ企画力が大切で、すべての根本にはコミュニケーションと情報収集が必要不可欠であるという話が印象的だった。逆に、「トレンドは常に変化しているため、最新のWebテクノロジーなどの知識はあるに越したことはないが、必須ではない」という話は意外だった。また、こうした能力を維持するためには、「時間に余裕をもって働くこと」という言葉には考えさせられた人も多いのではないだろうか。

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