Web業界進化論 実践講座#07 〜DMM.comの中の人が思う、事業側で活躍するWebディレクターの心構え3箇条〜 セミナーレポート
Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第7弾となる今回は山本純一氏をゲストに招き、事業会社のディレクションで求められることや、活躍できる人材像について語られた。
講師プロフィール
山本 純一氏
合同会社DMM.com
EC&デジタルコンテンツ事業部 ビジネス推進部 ディレクター
1976年10月生まれ。石川県金沢市在住。
外食産業SV、医療機器営業を経て2010年よりDMM.com。Webディレクター職として、スマホアプリ開発/サイト開発・制作ディレクションを中心に、デジタルコンテンツEC構築全般を幅広く担当。DMM英会話、女性向けECサイトの立ち上げなどのPM/ディレクター、その他開発ディレクション/PMなど歴任。合わせてディレクターチームのマネジメント業務を行いつつ、事業間エンゲージメントにも従事。
現在は新規事業の創出や事業課題の解決をメインとする部門に所属し、サイト運用面のBPMプロジェクトを立ち上げ、業務RPA化などビジネススピード高速化を中心に取り組んでいる。Scrum Inc.認定スクラムマスター保有。
事業会社のディレクターに求められる「ビジネスロジックの理解」とは
山本氏は30代でIT未経験の状態から、2010年よりDMM.comでWebディレクターのキャリアをスタートさせ、現在は新規事業の創出や事業課題の解決に携わっている(キャリアの紹介は事前インタビュー「変化の激しい時代に、事業会社で求められる人材とは」を参照してください)。
セミナーは「事業者が考えていること」というスライドから始まった。そして山本氏は「売上獲得」「利益向上」「リスクヘッジ」の3つを挙げ、「この3つの基本を理解していないと、事業会社で活躍するのは難しい」と説いた。
山本氏:3つの要素それぞれを達成する過程において、事業会社では「事実に基づいて、理屈の通った根拠を元に行動できる」人材が求められるといえます。「ビジネスロジックを正しく理解している人」と言い換えてもいいでしょう。
では「ビジネスロジック」とは何か、山本氏は説明する。
たとえば、「売上は信用によってもたらされる」、つまり信用できない会社から物が買われることはない。そのため、事業の信用度をアップさせるためにも、事業の市場価値を向上させることが求められる。また、利益を生むために必要なコストカットについても、闇雲な削減ではなく、合理的な運用コストの適正化が必要だ。さらに、リスクヘッジとして事業領域を増やすために、さまざまな分野へのチャレンジも欠かせない。
これらのビジネスロジックを理解したうえで、実績を積み重ねられる人材が事業会社では求められる。決して簡単なことではないが今まで「Webディレクターとして経験を積んできた者なら、事業会社でも十分実践できるのではないか」と山本氏は話す。
山本氏:Webディレクターなら、現場のディレクションのみならず、売上などの数字も常に意識しているはずです。理屈を考え、数値を組立て、結果をコミットするのがWebディレクターの仕事ならば、事業会社でビジネスサイドへの意識を向けてディレクションしていくことも難しくないのではないでしょうか。
さらに山本氏は、「事業会社では、より広いスコープでのディレクションが求められる」と説明する。一般的なディレクターのスコープが「要件定義〜効果測定」ならば、事業会社ではさらに上流か、もしくは下流にスコープを拡げたディレクターが活躍しているという。
山本氏:企画/計画といった最上流から携わるか、最終的なグロースまで携わるか。いずれにせよ、幅広いスコープで仕事をこなすには、経営指標を読み解かなければなりません。もちろん、従来のスコープで仕事ができていれば、一般的なWebディレクターとして活躍できると思います。ただ、事業会社のWebディレクターとして活躍したいなら、それだけでは少し物足りません。現に、DMM.comで働くWebディレクターには、「そのスコープの仕事はできて当たり前」という意識で、「さらに広範囲の仕事を目指す」人が多いように感じます。
本質的な要求にたどりつくために、徹底的に分析を
では、実際に事業会社ではどのようなディレクションが行われているのだろうか。山本氏はDMM.comの経験を元に説明した。
DMM.comには60を超える事業があり、「複数のベンチャー企業が同じ屋号を名乗っている感じ」と山本氏は言う。また、スピードと変化が常に求められる環境ではあるが、専門部署が多いため、調整コストが膨らんでしまうことも。ディレクターは限られた時間の中で、要件を整理していかねばならない。
山本氏:Web系の大手事業会社でも、似たようなことが起きているのではないでしょうか。
この状況でディレクターが1人ですべてに対応すると、タスクや情報が集中してしまい、ボトルネックになってしまいます。ある程度の規模を超えたプロジェクトでは、「ディレクションはディレクターがやるもの」ではなく、「チームでディレクションに臨む」というマインドが必要です。
そのうえで、山本氏は「事業側で活躍するディレクターの心構え3箇条」について説明した。
まず「1.ビジネスロジックを正しく理解しよう」は、すでに前半で説明した通り。「2.本質的な要求にたどり着こう」については、要求を徹底的に分析することの大切さについて語られた。
山本氏:何度も要件が変わったり、要求通り制作しても目的を達成できなかったりしたときは、そもそも本質的な要求にたどり着いていない可能性があります。定性的な要求(感情面や背景)と、定量的な要求(具体的な数字)を分けて洗い出し、あとから確認できるようにすべてのログを保存しておきましょう。
ただ、それでも要件や要求の変化を止めることはできない。ならば、あらかじめ変化は「あるもの」とし、受け入れる心構えをしたほうがいい。それが「3.あらゆる変化を楽しもう!」だ。
山本氏:特にディレクターというポジションは、変化の影響を直接受けたり、周りから感情をぶつけられたりしやすい立場だと思います。変化に対し、まずは我が事として考えること。そして先々の予測をすること。行動の際は、感情と事実を分けて考えることが大切です。
山本氏は、過去に経験した「大きな変化が起きた案件」として、「リリース前に閉鎖日が決まったプロジェクト」を例に挙げ、その発端から、閉鎖に至る経緯、リリースから閉鎖までの流れを説明しながら、「変化を受け入れたポイント」を解説した。
山本氏:事業撤退や縮小は珍しいことではありません。皆さんも同じような「変化」に直面することもあると思います。大切なのは、感情に負けないこと。負の感情があることは認めつつ、冷静に一つひとつ事実を整理していくことが必要です。
あらゆる変化を受け入れれば、自分自身も変化していく
スライドの最後は、山本氏自身の「変化を楽しみに変えるマインドセット」で締めくくられた。「負の感情を認める」「学びのチャンスと捉える」「変化を面白がる」など、変化をプラスに考えるヒントが並ぶ。
山本氏:変化の波が次々と訪れるいま、そのたびに気分が落ち込んでいたら人生損だと思うんです。ただでさえディレクターはストレスフルなポジションですから、自分なりに変化をプラスに変える考え方を持つことをおすすめします。
山本氏:あらゆる変化を前向きに捉え、環境の変化を楽しめれば、自分もどんどん変化していって、最終的に生き残ることができるでしょう。そういう人には、きっとよい仕事が回ってくると思います。お互い、あらゆる変化を楽しんでいきましょう。
セミナーの最後には、質疑応答の時間が設けられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
メンバーもリソースも少ない、スタートアップの事業会社におけるクリエイティブチームは、どういう組織体制であるべきだと思いますか。
基本的には「ワンチーム」で。
スタートアップの場合は、職域を意識させないチームビルドが必要なのではと思います。DMM.comも、各事業はスタートアップのような組織なのですが、デザイナーがスクリプトを書いたり、ディレクターがユーザーサポートをしたりと、職域の壁を取り払ったチームのほうがうまくいく印象がありますね。必要ことは何かを洗い出し、誰もがフレキシブルに取り組む。それを楽しめるようなチームビルドが、スタートアップに合っていると思います。
事業会社のWebディレクターです。日々のリリースや更新に追われると、ビジネスの上流のことや、売上のことを考えるのを忘れてしまいます。その辺りまで考えられる人になるには、どうしたらいいのでしょうか。
作業の「目的」を考えてみる。
相当お忙しい毎日を過ごされているのだと思います。そこで、自分の中に問いかけてほしいのが「今の作業はなんのためにやっているのか」ということ。目の前の作業の「本当の目的」をしっかり考えれば、上流の売上やビジネスロジックにも繋がっていくはずです。
自分も、以前はそうやって目的を考えていましたね。「これは何のためにやっているのだろう?」「何で儲けているのだろう?」と、ワイヤーフレームを引いたりしながらずっと考えていました。上流の人に聞きに行ったり、事業計画書を見せてもらったり。「目的」を考えることで興味が広がれば、考えることが身に付くのではないでしょうか。
Webディレクターになるにあたり、Webデザイナーやプログラマー、UI/UXデザインの経験は必要でしょうか?
あったほうが有利かもしれませんが、必須ではありません。
「ディレクター」というものは役割として定義されていますが、「ディレクション」というスキルはどんな肩書きの人がやってもいいはずです。「○○ができるからディレクターができる」というより、「ディレクターとは、ディレクションというスキルを使いこなせる人」と受け止めてもらえたら。
ちなみに、そもそも私自身もIT未経験からWebディレクターになりました(笑)。何らかのスキルがあるほうが有利だと思いますが、必須なわけではないと思います。
セミナーを終えて
事業会社で求められるディレクションについて語られた今回の「Web業界進化論」。ビジネスロジックへの理解や、徹底的なチーム理解などは、事業会社で10年以上のキャリアを持つ山本氏だからこそ聞けた話だろう。
山本氏は「あらゆる変化を楽しもう」と語った。環境の変化を受け入れることは、自分自身が変化することにも繋がる。ディレクターだけでなく、ストレスフルな立場に置かれたすべての人に有用なアドバイスだろう。
「Web業界進化論 実践講座」はこれからもさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。