挑戦しているのはモンストを進化させつつも、モンストを超えるものを作ること ―― 株式会社ミクシィ XFLAGスタジオ XFLAGARTS 加藤氏・只隈氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.14
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
コミュニケーションを軸にした新しい価値を提供する企業「株式会社ミクシィ」。SNS『mixi』で、新しいコミュニケーションの場を提供してきた同社が、人と人とのコミュニケーションを楽しむスマホアプリとして2013年リリースしたひっぱりハンティングRPG『モンスターストライク』(以下『モンスト』)は、世界累計利用者数4,000万人を超える人気タイトルに成長を遂げた。
“アートの価値を最大化する”。リリース当初、少人数体制で運営していた『モンスト』に只隈氏を加え組織体制強化へ
加藤氏:XFLAG スタジオの中で、アートワークやデザインなどクリエイティブ分野を担うのが、XFLAG ARTSです。『モンスト』の開発(ゲームの世界観構築、UI/UX、演出、アニメーションと、キャラクターデザインやイラストなどの制作業務)を担当するグループ。新規タイトル関連の開発に携わるグループ。他に、ゲームのプロモーションに関わる広告やWebサイト、プロモーション映像制作などを手掛けるグループもあり、総勢100名ほどのスタッフが活動しています。
只隈氏:私がマネージャーを務めるアートグループは、『モンスト』のイラストをメインに担当しています。その他にも『モンスト』のグッズ制作におけるイラスト業務、イベントで使用するポスターなどのキャラクター監修、同じくイベントなどで使用されるキャラクターをイメージした演者の衣装の監修など、『モンスト』のアプリ外の業務にも幅広く関っています。また兼務している別のアートグループでは、新規プロダクトの開発を行っています。
── おふたりがミクシィに転職された経緯を教えてください。
加藤氏:私は、XFLAG スタジオが設立される以前、『モンスト』がリリースされた3、4カ月後にミクシィに入社しました。当時は『モンスト』の運営スタッフは、数十名程。社内でデザイン業務を担当するメンバーは2名しかおらず、UIやイラスト、演出もすべてその2名が担当していました。そこで、まずは各デザイナーを職能別の担当に分け、適切な開発体制を整えるところから始めました。また、『モンスト』を進化させていくため、イラスト制作に携わる組織体制の強化が重要だと考えました。そこで、前職の会社でイラストレーションマネージャーをしていた只隈に相談したわけです。
只隈氏:そうですね。今でもよく覚えているのですが、食事をしながら「これらのアートワークを見てどう思うか?」と加藤に聞かれ・・確か『マーリン』をはじめとするキャラクター達でした。もちろん『モンスト』は知っていましたし、私なりに意見交換しているうちに「一緒に働かないか」と誘われました。
当時はイラストレーションマネージャーをしていたものの「一般的な型にはめようとする」考え方をしがちでした。しかしミクシィは既存の枠組みなどを取っ払った考え方や自分で思ったことを提案できる環境があり、実際に表現していける場所だと感じ、興味を持ちました。それから1カ月後、“アートの価値を最大化する”という目標を掲げ、ミクシィに転職しました。
固定観念にとらわれず、ユーザーにまだ見ぬ驚きを届けるためのクリエイティブを
只隈氏:アートワークの観点で振り返ると『モンスト』のイラストで思い切ったチャレンジをしたのは『クシナダ』というキャラクターだったと私は思います。一般的にかわいいテイストで描かれることが多い奇稲田姫というモチーフを“心象風景を描く”という発想、つまりかわいさではなく生贄にされる『クシナダ』の恐怖心・絶望感を表現することにチャレンジしました。社内で疑問の声もあがりましたが、「これが『モンスト』の『クシナダ』だ」といえるイラストになったと自負していました。結果的にユーザーさんに受け入れてもらえるキャラクターになったと思います。この経験は、現在XFLAG ARTSが掲げている『世の中にないものしか、描かない』という考え方に拘った結果でもあると思います。
加藤氏:スタジオで大切にしている考え方として“ユーザーサプライズファースト”を掲げていますが、恐らくそれが叶ったかなと思えるのが、この『クシナダ』ですね。“ユーザーサプライズファースト”とは、常に“まだ見ぬ驚きを届ける”ことを意味していて、イラストで言えば、「普通だったら、かっこいいキャラクターにするよね」「パブリックイメージはこうだよね」── こんなユーザーさんの予想を裏切るようなイラストを生み出していくことであり、イラストだけでなく、UIやVFXなどの分野でも大切にしているマインドです。「これって、果たして驚きがあるのだろうか」ということを常に意識しながら、モノづくりをしています。
とはいえ、単純に奇をてらうのではなく、「こう来たか」と驚きを感じてもらいつつ、ユーザーさんが惹かれるクリエイティブでなければいけないと考えています。これには決まったパターンがあるわけではなく、日々模索しながら制作に取り組んでいます。
『モンスト』を超えるプロダクトを!ユーザーが驚くものを創造することに拘る人へ
加藤氏:私の場合、最初はテレビ局の子会社でエンタメ系のWebコンテンツ制作に携わり、その後、フリーランスや制作会社を経て、前職ではスマホゲームのデザインに関わっていました。そこから、ミクシィに転職した理由は、“コミュニケーションを軸にした新しい文化を創る”── このポリシーに共感したことが大きいです。『モンスト』やSNS『mixi』に限らず、ミクシィでは「コミュニケーションの活性化」という使命や、「世の中に新しい価値を提供する」という想いがあると感じます。
対面でのマルチプレイを重視している『モンスト』は友達や家族をつなぐコミュニケーションツールとして存在させ続けたいと考えていますし、今後XFLAG スタジオからリリースされる新しいプロダクトも、その根幹にあるものは変わらないものがリリースされるはずです。
只隈氏:私も加藤と思っていることは一緒で、“新しい価値を提供していく”というミクシィの考えに惹かれています。前職でもスマホゲームのイラストを手がけていましたが、コミュニケーションを活性化させる手段の一つとしてゲームが存在する、というミクシィの考えに共感しています。ゲーム制作だけにどっぷりつかるというのではなく、新しい技術が生まれたら、「この技術をXFLAG スタジオ流のコンテンツとして提供することが出来たら、世の中をどのように変えていけるだろう?」と、ワクワクしながら考えている自分がいます。このような自由な発想が必要とされる会社であることが魅力ですね。
── では、どんなデザイナーと一緒に働きたいと考えていますか?人材像を教えてください。
加藤氏:ミクシィやXFLAG スタジオが大切にしている考え方に共感してもらえて、一緒に夢を描ける人と働きたいですね。XFLAG スタジオは単なるゲーム制作スタジオではありません。それを象徴するキーワードとして、「B.B.Q.」という戦略コンセプトを掲げています。これは、私たちが提供できる価値というのは、コミュニケーションを軸に、バーベキューのように”みんなが一緒に熱く盛り上がれる場所”を創って届けることを表現しています。今はゲームアプリが目立っていますが、今後はゲームの枠にとらわれない様々なサービスを展開していきたいと考えています。この考え方自体に共感してくれている人であれば、新しいチャレンジにも前向きに向き合えると思います。
また、他でやっていないような新しいことを成功させた人とも一緒に働きたいです。多くの方が新しいことをやりたいと言いますが、実際にやれる人はそう多くはないと思います。そこに勇気をもって挑戦した人がいいですね。細かい話をすれば、言われたことだけを淡々とこなすだけでなく、上司が言っていることでも自分の思考に置き換えてみることが大事。そこに自分の視点が加わることで、より良くなる可能性がありますから。
只隈氏:意志がある人と働きたいですね。XFLAG ARTSにはいい意味でこだわりが強いデザイナーが多いです。「言われたからやりました」ではなく、「自分なりにしっかりと考え、こうすればもっと良くなるのでは」と周囲と議論しながらよいものを作り上げていく。イラストでもUIでも、少しでも良くなると思えば、妥協しないですね。その先に”ユーザーサプライズファースト”を体現したアートがあると信じています。
加藤氏:組織としては、新しいプロダクトを立ち上げる際に活躍する経験豊富なデザイナーをもっと増やしたいと考えています。企画が立ち上がり、その要件から企画の趣旨を理解し、そのサービスのバリューを最大化するには何が必要かを導き出し、デザインできる人材。また、そこに必要なアートワークを創り出せる人材。私自身、アートディレクターの一人として、新規プロダクトのアートワークにも携わっているので、同様の仕事ができる人、もしくはその素養のある人に、ぜひ仲間に加わってほしいです。新規のプロダクト開発に関わった経験があれば理想ですが、デザインやアートワークの技術だけでなく、課題や問題を適切に捉え、その課題を解決する能力が長けている人と一緒に働きたいですね。
「『モンスト』に携わりたい」と弊社を志望していただけるデザイナーは少なくないですが、私たちが挑戦しているのは『モンスト』をさらに成長させることであり、『モンスト』を超えるヒットタイトルを生み出すことです。『モンスト』を超えるプロダクトを生み出すことにプレッシャーを感じるのではなく、やりがいと感じる人でないと弊社での活躍は難しいかもしれません。
色々お伝えしましたが、ユーザーが驚いている顔を想像してワクワクする、もっと驚かせたいといった貪欲さをお持ちの人方にお会いしたいですね。
インタビューを終えて
日本におけるSNSの先駆けとしてのミクシィが提供する『mixi』と、そのミクシィの中で『モンスト』という人気スマホアプリを提供するXFLAG スタジオーー世代によっては株式会社ミクシィのイメージは異なる。しかし、同社の根底にあるのは、人と人とのコミュニケーションを創ることであり、この2つのサービスは、技術やデバイスの進歩によりアプローチが変わったに過ぎない。そして、このXFLAG スタジオが担うのは、同社の想いを乗せた新しいエンターテインメントの創出であり、それは加藤氏が語るように、もしかするとゲーム以外のコンテンツになるのかもしれない。
デザイナーとして、人気タイトルに携わりたいという希望はあるだろうが、同社が求めているのは、そんな人気タイトルをゼロから生み出せる人材。600名を超えるスタジオで、全員に新しいプロダクトを生み出すチャンスがある。同社は、デザイナーにとって刺激的なモノづくりができる最高のフィールドではないだろうか。