ディレクションの「核」を知れば、変化を恐れることはない ―― 中井美緒氏 高澤暢氏「Web業界進化論#16」開催直前インタビュー

来たる4/26(火)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#16「令和をどう生き抜く?最前線のWebディレクターが語る『Webディレクションの再定義』」を開催する。

「Web業界進化論 実践講座」の第16弾は、業界歴3年前後のWebディレクターに向けたもの。一般社団法人日本ディレクション協会の中井美緒氏と高澤暢氏をゲストに迎え、最新のWebディレクション事情や、時代を問わず大切にしたい考え方について語られる予定だ。

今回はイベント直前インタビューとして、両氏が日本ディレクション協会に携わることになったきっかけや、コロナ禍で感じる変化などについて話を伺った。

プロフィール紹介

中井 美緒氏
日本ディレクション協会 会長

1984年生まれ。DTPデザイナーとして紙媒体のデザインを経て、Webに転身。Webデザイナーを経験した後、現在ディレクション業務に従事(7年目)。ペルソナ・カスタマージャーニーの設計や、アクセス解析を元にしたマーケティング目線でのWebサイトの設計、改修などを得意としている。
2019年6月〜フリーランスとなり、常駐をメインに個人でも新サービスの構築のディレクションや、Web制作部の立ち上げ協力などを請け負う。また、プライベートの活動として、2018年より一般社団法人日本ディレクション協会に所属。講師、ミートアップの企画推進、セミナーのスタッフ等を行う。

高澤 暢氏
日本ディレクション協会 事務局長

エクサート株式会社エグゼクティブディレクタ。1972年デビューの信州産、松本深志高校を卒業後に上京。法政大学文学部日本文学科をギリギリ卒業後にアドビシステムズ株式会社に入社し、Adobe Photoshop日本語版の中の人を担当。
2008年に個人事業主として独立。2009年より法政大学大学院に入学し二足のわらじを履き始める。2010年より新宿ゴールデン街にてショットバーを経営開始(三足目)。同年より特定非営利活動法人ストリートデザイン研究機構の理事に就任(四足目)。2011年より東大発アントレプレナーシップ論講座のメンター担当。2015年に修士号取得(政策学)。2019年よりエクサート株式会社に合流し現在に至る。
大手ニュースポータルサイトやメガバンク、大手旅行代理店のWebサイトやモバイルアプリケーションの企画・運用やディレクションを経て、現在は海外企業の日本進出支援やローカライズ、中小企業のDX支援やマーケティング事業を行う。その他ボランティアで学生向けの講演や共著なども手がける。

ディレクター以外の職種も参加できる「日本ディレクション協会」とは

―― お2人が所属する「日本ディレクション協会(以下ディレ協)」とは、どのような組織なのでしょうか。

中井氏:「他社のディレクターがどういう仕事をしているのかわからない」「ディレクターって孤独だよね」という悩みを持つ人たちが集まり、業界全体のディレクションスキルの向上を掲げて生まれた組織です。2014年に一般社団法人化し、講座やミートアップの運営などに取り組んできました。

残念ながらコロナ禍で一時中断していますが、以前は「ゼロからプロになるためのディレクション講座」など、セミナーやワークショップを積極的に開催していました。過去にはソフトウェア関係者が集中的に開発作業を行うイベント「ハッカソン」をもじり、そのディレクション版として「ディレクソン」を開催するなど、企業とのコラボレーションも行っています。

高澤氏:「日本ディレクション協会」という堅い名前ですが、自由参加のコミュニティに近いでしょうか。所属する手続きは特になく、飲み会に参加したら「じゃぁあなたもディレ協です」といった感じです(笑)。ディレクションについて語る場ですので、Webディレクターに限らず、営業やPMなど、なんらかの形でディレクションに関わる方々も参加しています。

―― お2人はどのような経歴からディレクターになり、ディレ協に所属するに至ったのでしょうか。

中井氏:最初はデザイナーとして、Webデザインに携わっていました。と言っても、体系的にデザインを学んだわけではなく、すべて独学だったんです。経験豊富なデザイナーやエンジニアの方々と関わるにつれ、「自分がデザインをするよりも、すごいデザイナーとすごいエンジニアを集めたほうが、すごいものが作れるのでは?」と気づきまして。

そして、人と人を繋げる仕事はなんだろうと考えたときに、浮かんだのが「ディレクター」という役割でした。ただ、ディレクションについては素人で、同業他社の知り合いもいません。そこで、いろいろ調べた結果「ディレ協」にたどり着き、セミナーに参加したのが最初の出会いですね。先輩ディレクターの方々のお話はとても勉強になって、私もディレ協に関わりたい!と、飲み会のアレンジから始めた形です。

高澤氏:私は新卒で外資系ソフトウェア会社に入社し、エンジニアとして働いていました。その会社ではディレクションの経験はほとんどなかったんですが、2008年に独立後、個人事業主としてマネジメントやディレクションの案件を請けるようになりました。

ディレクター未経験とはいえ、クライアントと開発の橋渡しや、チームビルディングなど、プロジェクトを回すという広義の“ディレクション“には携わっていた経験が活きたのかもしれません。経験を生かしながら、独学でディレクションスキルを身につけていったんです。

ディレ協には友人に誘われて参加しました。「面白い人たちがいるから来てみたら」と。そこから何度か参加するようになって、飲み会でいろいろ発言していたらあれもこれもとやることになり、気がついたら事務局長になっていましたね。

中井氏:私も宴会部長から「会長兼宴会部長」になりましたから(笑)。

高澤氏:こうして巻き込まれていくのも、キャリアアップという意味ではすごく大事なことだと思うんです。言われたことだけをこなしても、成長はありません。自分のスキルの幅を広げるには、未経験でも面白そうだったら引き受けるとか、誰もやらないなら手を挙げるとか、積極的に前に出ることが大切なのだと感じています。

決してマイナスではなかった“行き当たりばったりな”キャリア

―― お2人の経歴には「最初からディレクターではなかった」という共通点があります。これまでのキャリアについて、ご自身はどう捉えてらっしゃいますか?

中井氏:私は正直「行き当たりばったり」ですね。ディレ協に関わりだした2018年頃は「絶対に会社員でいたい」と思っていましたが、2019年からフリーランスになっていますし。一応、5年先10年先のことは常に考えるようにしているんですが……。数年後にはまた会社員になっているかもしれないし、別の仕事をしているかもしれませんね。

高澤氏:この業界はサイクルも早いですし、あまり長期的な計画を立ててもうまくいかないと思うんです。20年30年先を見据えた人生設計なんてほぼ不可能ですし、来年どうなるかもわからない。それよりも、何が起きても対応できるような、対応力や柔軟性を身につけたほうがいいですよね。

もちろん「行き当たりばったり」といっても、その場では複数の選択肢から道を選んでいるわけです。状況を判断しながら、最善の方法を選んでいったからこそ今がある。そういう意味で「行き当たりばったり」は、変化が多様な時代のサバイバルスキルなのかもしれません。

―― 現在ディレ協で会長と事務局長をされているのも、そうした前向きな「行き当たりばったり」のひとつなのかと思います。ディレ協に参加してよかったことを、改めて教えていただけますか。

中井氏:やはり業界内で友達ができたことは大きいですね。ディレ協の参加者同士で、仕事に繋がることもよくあります。皆さん、自分にはない発想や世界を持っている方ばかりで、たくさん刺激を受けています。

高澤氏:会社は「会社が選択した人材」が集まるので、自分と似た属性の人が集まりがちです。そうではないのがコミュニティのいいところで、ディレ協にはさまざまなスキルや考え方、行動力を持った方々がおり、尊敬できる人も多いと感じます。そういう意味では、ディレ協と出会えてラッキーだったと感じますね。

これはマーク・ザッカーバーグも言っていましたが、コミュニティは「友達の友達」という弱い繋がりが大事です。「この人とは合わないな」と思えば自分から離れられるし、面白そうな人なら近づくこともできる距離感。類は友を呼ぶではないですが、そうしたゆるい関係性のほうが、面白い人たちが集まってくるのではないでしょうか。

ディレクションは「時代を超えたサバイバルスキル」

―― コロナ禍になり、リモートワークなどWebを取り巻く環境にも変化があったのではと思います。Webディレクション業務を行ううえで、変化を感じる部分について教えてください。

高澤氏:もともとリモートワークが進んでいた業界だったこともあり、働き方にはそこまで変化は感じていません。クライアント側もリモートワークが進んだので、むしろやりやすくなったくらいです。

ただ、それでも以前は「大事な話だからいったん集まろう」と直接顔を合わせる機会もありました。それができなくなり、細かいニュアンスを汲み取ることが難しくなった。チャットやメールならなおさらです。大事なことはせめて電話で話すなど、コミュニケーションの基本を再認識させられたなと思います。

中井氏:コロナ禍以降、お客様のITリテラシーがさらに向上したと感じます。以前から感じるところではあったのですが、リモートワークでZoomを使わざるを得なくなったなど、コロナ禍がリテラシー向上を加速した面もあるのではないでしょうか。地方の小売業が新たにECサイトを立ち上げるなど、案件の数も増えていますね。

―― このたび開催されるセミナーのテーマは、「令和をどう生き抜く?最前線のWebディレクターが語る『Webディレクションの再定義』」です。お2人が考える「令和のディレクション」とは、どういったものでしょうか。

高澤氏:ポイントは3つあると考えています。1つめはリモートワーク等、コロナ禍によって急速に広まった新しいスタイルにいかに対応するか。2つめは、時代の目まぐるしい変化にどう対応するか。たとえばテクノロジーが発展するスピードが速く、先行きが見えない時代に、どう振る舞ったらいいのか。また、AIやローコードが浸透する中で自分が提供できる価値はなにか。そして3つめは、令和の時代でも変わらないディレクションの本質的なポイントはなにか。

セミナーではこの3つについてアドバイスを……というより、私たち自身も話しながら「こういうことかもしれない」と気づけるような時間にしたいですね。

中井氏:未来に向けて、いろいろと不安なことはありますが、ディレクションの核となる部分をしっかり持っていれば、どんな新しい技術が出ようとも、やることは変わらないと思うんです。最新情報にアンテナを張りつつも、まずは自分の“ディレクション像”を持ってほしい。

高澤氏:そうですね。そもそもディレクションは「時代を超えるもの」だと思っています。料理の献立を考えるのも、飲み会をセッティングするのも、ある意味ディレクションなんです。人が生きるうえで、ディレクションは切っても切り離せないもの。それは平成でも令和でも変わりません。

最先端を生き抜くために、本質的に重要なものはなにか。時代を超えたベーシックなサバイバルスキルとして、ディレクションを考える機会にしてもらえたらと思っています。

インタビューを終えて

中井氏は何事にもディレクションというものは存在し、「人の営みとしてのディレクション」があると話す。それはキャリアの選択においても同じはずだ。取り得る最善の選択肢を選び、条件を考慮しながら、最大の成果を得る。そうしたディレクションの「核」を忘れないからこそ、“行き当たりばったり”なキャリアで業界をサバイブしてきたのだろうと感じた。

4/26(火)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#16「令和をどう生き抜く?最前線のWebディレクターが語る『Webディレクションの再定義』」では、時代に流されないディレクションの本質が聞けるはず。ある程度経験を積み、自身のキャリアについて改めて考えたいWebディレクターこそ、ぜひこの講座に参加してみてほしい。

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