未完成の企業にこそある可能性に心が躍る。渾身のポートフォリオでデザイナーとしての道を切り拓こう ―― ディライトワークス株式会社インタビュー
2014年設立と、誕生からわずか5年の企業ながら、会社が開発・運営に携わるスマートフォン向けRPG「Fate/Grand Order」(以下、FGO)で2018年上半期モバイルゲーム売上1位(Mobile Index調べ)を記録。また同タイトルは北米、中国、台湾、香港、韓国、シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、オーストラリアにも配信を拡大。圧倒的な人気によって日本以外の地域でも英語版、簡体字版、繁体字版、韓国版合わせてすでに3900万ダウンロードを突破している。
そして「FGO」の人気も相まって、自身の働くステージとしてディライトワークスに注目するゲームデザイナーは多い。今回の『MATCHBOX REVIEW』では、そんな同社でアート部門、グラフィック部門の副ジェネラルマネージャーを務め、デザイナー採用にも携わっている今井氏、田口氏に登場していただいた。「すべてはポートフォリオから」と共通する考えを持つ両氏から、同社で働く魅力と採用の実際について聞いた。
プロフィール紹介
今井 仁氏(写真左)
アート部 ディライト アートワークス
副ジェネラルマネージャー
田口 博之氏(写真右)
グラフィック部 ディライト グラフィックワークス
副ジェネラルマネージャー
アート部門、グラフィック部門に分かれて互いを高め合うディライトワークスのデザイナーの働き方
―― 今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。お2人のディライトワークスへの入社の経緯と、今のポジション、お仕事の内容について教えてください。
今井氏:私はディライトワークスに入る前に、大手ゲーム会社で、パッケージゲームの開発や、オンラインゲームの開発と運営をやっていました。スキルはアートのテクニカル寄りで、ハードがどう構成されていてグラフィックをどう見せるかや、ゲームの技術を使ったTVのUIなどの制作に取り組むなど、ネットワーク系のゲーム会社でアート部門のシニアマネージャー、ゲーム開発スタジオの部長をしてきました。ディライトワークスには大手ゲーム会社時代のかつての上司で、ディライトワークスのアート部門、グラフィック部門の統括クリエイティブオフィサーである直良有祐の「アート部門をしっかり組織化させたい」という要望があり、参加しました。
田口氏:私は1992年に新卒で、今井とはまた別の大手ゲーム会社のアーケード部門に就職しました。イラストレーションで入社したのですが、ゲーム自体が2Dから3Dに切り替わる時期で、いろいろ学ぶことが多かったです。そこでスキルを身に付けて、ある程度の蓄積もできたところで、学校でゲームグラフィックの先生もやっていました。その後さらに、新しい組織作りともう一度ゲーム作りをやってみたいと思ったときに出会ったのがディライトワークスでした。
この会社に注目したのはまだ新しいということ。完成していない組織に魅力を感じました。「Fate/Grand Order」を見れば、しっかりとしたゲーム作りができる体力を持った会社であることはわかりました。それならば「FGO」の次には何ができるのか。これからの取り組みの中に絶対面白い仕事があるはずだと思ったのです。
―― ゲームのデザインを行ううえで、アート部門とグラフィック部門が組織としてはっきりと分かれていることはディライトワークスの特徴だと思います。それぞれの部門の仕事にはどんな違いがあるのでしょうか?
今井氏:アート部門の仕事はゲームのデザインにおけるコンセプションです。プランナーから初期のコンセプションが出てくることもありますが、アート部門のアーティストが、世界観、キャラクター、表現のコンセプションを深く考えていきます。できあがったコンセプションを展開して、グラフィック部門のVFXやアニメーションなど、さまざまなスキルを持ったデザイナーに描いてもらいます。コンセプションというと、絵が描けなくてはいけないと思われがちですが、コンセプションを作り上げて、それを周囲に伝えることができれば絵が描けることは必須ではありません。
田口氏:グラフィックの立場から言うと、アート部門には「ゲームとしてできるかどうか」といった、あまり現実的なことを考えないでほしいと思っています。そうでないと作るものの上限突破ができないからです。もちろん、そのように作られたアート部門のコンセプションを実現していくことは困難ですが、実際のプロジェクトでは対立するのではなく、お互い高め合う感じで仕事が進みます。アート部門とグラフィック部門は、組織は別で仕事の内容も違いますが、向かう方向は一緒で、互いになくてはならない存在です。
「ただ純粋に、面白いゲームを創ろう。」デザイナー自身が仕事にワクワクできるマインドとコンセプションを行う方法論
―― さらなる拡大を目指すディライトワークスにあって、アート部門、グラフィック部門で求められている人物像やスキルはありますか。
田口氏:私たちの仕事は、ユーザーに「楽しい」という思いを体験として残すことが重要です。だからこそ、ユーザーの楽しんでいる姿をイメージしてワクワクしながら仕事ができる人と一緒に仕事がしたいですね。ご存知のとおり、ゲーム作りには超えなければならない壁がいくつもありますし、スケジュールも厳しい。その中でワクワクしながら仕事を続けるということは、決して簡単なことではないです。さまざまな専門職が存在するグラフィック部門はスキルも重要ですが、それよりも大事なのがこのワクワクできるマインドを持っているかどうかということ。これさえあれば現状は未完成でも腕はいくらでも上がっていくものなのです。
特に中途採用の人はこのマインドがあるかないかに注目しています。ゲームクリエイターなら仕事上で多かれ少なかれ苦労を経験しているはずですが、その苦労を乗り越えたうえで、明るく振り返ることができる人には共感しますし、魅力を感じます。
今井氏:アート部門では、アーティスト、アートディレクターという職種があるのですが、私が今注目しているのは、UIデザイナー出身でコンセプションをやってみたいという人です。UIデザイナーという職種は、全部の画面遷移や機能がわかっていなければならず、そこはディレクター、アートディレクターと変わりません。お客様にどういうものを提供できるか、仕上がったゲームの手触りまで考えてコンセプションしていく必要があります。
―― アート部門でコンセプションを行うというと、まずはコンセプトアートを描いて世界観を作るというイメージだったのですが、もっと深いゲームの機能や動きの部分まで考えていくのですね。
今井氏:プランナーと話してコンセプションを作る。それをエンジニアに伝えて実装する。どちらもUIデザイナーが自然と身に付けているスキルです。ディレクター、アートディレクターの仕事はその延長線上にあって、UIデザイナーの経験がある人にはぜひ挑戦してみてほしい職種です。ただ、UIデザイナーからディレクター、アートディレクターになる人はまだわずかで、なかなかいないのが現状です。今後もっと増やしたいと考えています。
―― ディライトワークスでのデザイナーのキャリアアップは、マネージャーとスペシャリストへの両方が可能だと聞きましたが。
田口氏:各職種のスペシャリストが上位者としてマネージャーになるのは理想的かもしれません。しかし、デザイナーがマネージャーになるのはジョブチェンジなのではないでしょうか。もちろんマネージャーになることを望んでいる人がなるのならよいです。しかし、マネジメントではなく、自分の専門スキルをもっと極めていきたいと思っている人が、マネージャーにならないと評価されないというのは違和感があります。
私もこれまでのゲーム業界での経験の中で、本来スペシャリストとして活躍すべき人が実績や年齢からマネジメントを任されてしまうという事例を多く見てきました。だからこそ、クリエイターにはマネージャーになることと、スペシャリストを極めることの2つのキャリアアップの道を目指せることが必要だと思ったのです。まだ新しいディライトワークスには「クリエイターはこうあるべき」というようなルールはありません。ですから、その人にあったキャリアアップが実現できる環境になっているのです。
書類の中で最初に見るのはポートフォリオ。作品が語る、デザイナーのすべて
―― クリエイターを採用していくうえで、お2人はポートフォリオについてどんな評価や判断を行っていますか?
今井氏:私は前職、前前職も含め、22年間デザイナーの採用に関わってきているのですが、ポートフォリオに関する考え方や判断の仕方は変わっていません。ポートフォリオにはデザイナーのすべての人格がつまっている。ひとたび企業にポートフォリオを提出したら、そのポートフォリオが候補者の方そのものです。だからこそ、表紙や最初に目に飛び込んでくるビジュアルは重要。そしてひとつひとつのコンテンツを見ていき、「次を見たい」と思わせることが求められます。見せる相手がいることを意識すれば、表紙やトップビジュアルに手を抜けないと考えるのがデザイナーのはずです。厳しい言い方かもしれませんが、そこを大事にできない人のポートフォリオは読み進んでも結局よい発見はできないことが多いです。
田口氏:デザイナーの応募書類には履歴書、職務経歴書、そしてポートフォリオの3つがあって、私たちが真っ先に見るのはやはりポートフォリオです。私自身新卒でゲーム会社を受けたときには、B0のパネル10枚とそのほかに見てもらえるもの100点あまりを用意して面接に臨みました。そのときは半分出したところで「そこまでで結構です」と言われてしまいましたが(笑)、結局採用になったことを考えても、見せたいものと熱意があるクリエイターは評価されるのだと思います。今はデジタル化が進んで、ポートフォリオもURLやPDFで見ることが多くなり、現物を持ち込んで物量で圧倒する昔のような見せ方はなくなってきています。だからこそ、ポートフォリオを見せるうえでその人が「どんなことを狙っているか」が選考する側にしっかり伝わることが大切なのです。
―― 『MATCHBOX』を触った印象はいかがですか?採用で実際に『MATCHBOX』で作られたポートフォリオがあった場合どういう印象を持たれますか?
田口氏:そのデザイナーが自分のスキルを表現しやすいフォーマットだと考えたなら、ネガティブなところは何もありません。選考する側としては、ほかの応募者との比較がしやすいというメリットがあります。
今井氏:まずどんな作品を手がけてきたか、ムービーでもビジュアルでも、作品そのものを見たいと思っています。応募書類全体でもそうですが、まず私たちはその人が仕上げた作品の完成度を見ています。これまでの採用でいろんなクリエイターの作品を見てきているので、作品を見ればその人のスキルがどれくらいで、どのくらい時間をかけたかまで、およその判断ができます。付帯情報は後から確認のために見ますが、会ってみたい、話してみたいと思うのは、ポートフォリオに載っている作品が起点になります。特に中途の経験者には現時点でのアッパーのスキルを作品で見せてほしいと考えています。
田口氏:ディライトワークスは「FGO」のイメージが強いので、習作として「FGO」をイメージしたキャラクターを描いてくる人もいます。しかし、衣装は同じでも顔はその人のキャラクターということが多くて、逆にオリジナルとの差異を感じてしまうこともあります。また、プロとして作った完成品を見たいというのは今井と同じで、自分のスキルがちゃんと表れている作品を載せてもらっていれば、デッサンなどは必要ありません。デザイナーは完成品を作れてこそ価値があるもの。デッサンはアスリートで言うところの筋トレで、デザイナーとしてのパフォーマンスを発揮することはデッサンが描けることとは違います。完成した作品を見ればその人にデッサン力があるかどうかなど判断できます。
今井氏:『MATCHBOX』のような形でコンテンツを配していくなら、まず自分の得意分野が何であるかを最初に表題的に知らせてもらえると助かります。作品のメリハリを考えて配置することは大切ですが、本当に自信のある作品をスクロールのずっと下に配置するのはよい手とは言えません。同系統の作品がずっと並ぶのも見る側にとっては次を期待できません。まず見る人の心を掴んでその世界に引き込んでいくことはゲーム作りと同じなのではないでしょうか。単に作品を並べるだけではやはりポートフォリオとしての評価は得にくいと思います。
―― 最後に今転職を考えているゲームクリエイターにメッセージをお願いします。
田口氏:「FGO」に携わることを目標に当社の門を叩くデザイナーは多いです。しかしディライトワークスは新しい会社で、まだまだほかにも大きな可能性を秘めています。新タイトルも続々誕生し、これから入社する人には「FGO」のように自分の代表作と呼べる仕事に出会えるチャンスがあるのです。私たちが新しい仲間を選考する最初の基準はポートフォリオです。どんな方法であっても構いません。もし当社で働くことに興味があったなら、ぜひあなたの渾身のポートフォリオを見せてください。
今井氏:組織としてまだ若いからこそ、いろんな人の意見を取り入れて自由な試みができることが、今のディライトワークスの魅力です。それは既存の社員だけではなく、これから入ってくる新しい仲間にとっても同じこと。田口も言ったとおり、誰もが代表作を持てる「1人1IP」というのが私たちの方針です。あなたがこれまで培ってきたゲームクリエイターとしてのスキルとマインドをポートフォリオでしっかり見せてください。積極的なご応募をお待ちしています。
インタビューを終えて
同じゲーム開発を行う企業であっても、ポートフォリオの見方がまったく違うということを今回のディライトワークスでのインタビューで再確認することができた。たとえばあるゲーム会社では、ポートフォリオに自主制作作品の掲載を奨励している一方で、また違うゲーム会社はあくまでプロとしての仕事のスキルを見たいので自主制作作品には重きを置かないという。ディライトワークスの今井氏、田口氏の意見を聞くと、解説文よりもとにかく作品重視。その人の作った作品こそが何よりもその人のスキルや能力、人間性までも雄弁に語ってくれるとの考えだった。
そして両氏がインタビューにさらにプラスしていたのが、応募者自身のその企業への思い入れの深さについて。ポートフォリオ作りも面接も長い職業人生から見れば一瞬。だからこそ応募する企業をよく研究してベストなポートフォリオを作り上げてほしいとのことだった。見る人がどんなものを求めているかを徹底的に考えて作品を作り上げること。そこにクリエイターとしてプライドをかけて臨む姿勢は、仕事でもポートフォリオ作りでも同様に必要なのだ。