お互いの主張を組み合わせ、より良いものを作るには ―― スクウェア・エニックス ゲームクリエイター座談会
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.03
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
スクウェア・エニックスは、歴史・規模・実力ともに、日本のゲーム業界を代表する世界的大企業だ。腕に覚えのあるゲームクリエイターなら、「一度はスクウェア・エニックスで勝負してみたい」と考える人も多いのではないだろうか。
しかし、スクウェア・エニックスを「職場」としてとらえた場合、ゲームクリエイターにとっての魅力や働きやすさ、人材を育てる環境はどのようなものなのだろうか。 今回はその雰囲気をお伝えするため、現役ゲームクリエイター3人の「生の声」をお届けする。 職場としてのスクウェア・エニックスの雰囲気や空気を、ダイレクトに感じ取ってほしい。
プロフィール紹介
シナリオ・カットシーン ポジション
- 家庭用ゲーム機初期のころからゲーム制作会社に在籍し、ファミコンやゲームボーイ、PCエンジンなどのタイトルを開発。
- 1994年、株式会社スクウェア入社。大阪事業所で「ルドラの秘宝」を開発後、東京本社へ異動。
- 「ファイナルファンタジーVII」、同「VIII」「X」「XIII」「クライシス コア ファイナルファンタジーVII」に携わり「キングダム ハーツ」は1作目からカットシーン担当として開発に参加。以来、「キングダム ハーツ」の全タイトルに携わり、「バース バイ スリープ」以降はシナリオライターを兼任。
モーションカット ポジション
- 学生のときにディズニーアニメーションに魅了されCGアニメーターを志す。
- 大学卒業後にデジタルハリウッドUSA校で本格的にCGを学び、帰国後はゲーム会社に就職。
- 2004年、株式会社スクウェア・エニックスにモーションデザイナーとして入社し「キングダム ハーツII」の開発に参加。以降のシリーズタイトルすべてに関わり、「358/2Days」からはリードデザイナー、「3D」からはカットシーンモーションディレクターとして開発に取り組む。
BG ポジション
- 大学卒業後、研修生として株式会社スクウェア・エニックスに入社。
- 以後、「ファイナルファンタジーXIII」シリーズや「ザ・サード バースデイ」「ファイナルファンタジーXV」の開発に携わる。
- 大阪事業所異動後は「キングダム ハーツ HD2.8」「キングダム ハーツIII」の背景ディレクターを担当。
新しい考え方、新しい技術に対する向上心を求める
岡氏:まずシナリオライターですが、ゲームのシナリオは特殊でレベルデザインに沿ってストーリーを構成したりセリフを考えたりするのがシナリオライターの仕事です。 また、カットシーン(※)もディレクターの仕事ですが、カットシーンには「ストーリーを映像で語る」という重大な使命があります。リーダーである私は演出の方向性を指示したり、全体的なディレクションをしたりという仕事をしています。
※ゲーム業界でいうカットシーンとは、プレイ中に挿入されるムービーシーンのこと。
品川氏:「モーション」というのは、物体やキャラクターの動き(アニメーション)をつけることです。キャラクターの個性や特徴をモーションでどう表現するか、言い換えれば「動きで命を与える」というアニメーションの一番デリケートな部分も担当するのがモーションデザイナーです。 モーションリーダーとしての仕事は、モーションデザイナーの上げてきたモーションをチェックして修正指示を出したり、モーション全体のディレクションやスタッフ管理をしたりといった内容です。
齋藤氏:BG(バックグラウンド)は、3DCGを使って背景やゲーム周りの環境を構築する仕事です。私は実際に作業も担当しますが、BGリーダーという立場なので、大勢のスタッフの管理や、ビジュアル・構成に関するディレクションなどをおもに行っています。
── 1日の仕事の流れについて教えてください。
岡氏:あまり決まった流れはないのですが、午前中は概ねメールチェックなどで終わり、午後から作業やチェックなどを行っていますね。
齋藤氏:私もほぼ同じです。
1日の流れ
- リーダーは原則として裁量労働制。人によって出社時間、退社時間は異なる。
- 出社後はメールチェック、業務連絡、部下への指示など、コミュニケーション業務を済ませて自分の作業に入ることが多い。
- 仕事の合間にスタッフや外注から上がってくる作品をチェック、修正指示など。
- 全体的なディレクション、スタッフ管理も重要な仕事。
── ご自身から見て、スクウェア・エニックスはどんな会社だと思いますか?
岡氏:「職人が多い」という印象が強いですね。
品川氏:同感です。「こだわりを持って仕事に取り組んでいる人が多いな」というのが印象です。当然クリエイター同士、衝突も生まれますが、衝突するということは「いいものを作ろう」という共通点があるということです。お互いを否定し合うのではなく、お互いの主張を組み合わせて、より良いものを作ろうという方向に向かっていると思います。
異業種からの転職も大歓迎!
品川氏:向上心を持っている人は大歓迎です。ゲーム業界もどんどん時代が変わっていますから、新しい考え方、新しい技術に対する向上心。そういうものを持っている人が、これから伸びていくでしょう。
私の分野でいうと、さまざまなミドルウェアのツールが登場していますので、そういう知識が豊富な人だとありがたいですね。
齋藤氏:BGでも技術に強い人を求めています。例えば、プログラム的な知識の豊富な人ですね。 あとは、CG業界はもちろん、映像業界や写真業界など、異業種からの転職組も大歓迎です。まったく畑違いの人の知見が、とても役立つ場合があるんですよ。
岡氏:カットシーンでもやはり、映像・写真畑の人には期待したいです。ゲームCGも表現力が上がってきていますから、そういった経験や知識があると、活躍していただけるんじゃないかと思います。
── それぞれの分野で活躍するために、特に重視する資質やスキルのようなものはありますか?また、そのような資質やスキルを磨くにはどうすればいいのでしょうか?
いろいろな物語に触れる中で、自分が感じたことを咀嚼してアウトプットしていく。それを繰り返していくうちに、その人なりのオリジナルを生み出していけるのではないでしょうか。
品川氏:モーションでは、キャラクターに動きをつけていくときの想像力が大切です。これがうまくいかないと、キャラクターの個性や特徴などの持ち味をすべて殺してしまうことすらあるからです。 それから、ちゃんと基礎ができている人は違いますね。ちゃんと重心を描けているか、人間の自然な動きを出せているかなどは一目瞭然です。いくら想像力が良くても、基礎がないとしっかりしたアニメーションは表現できません。
基礎は反復練習によって身に付けられますが、私はいろいろなアニメーション映画を参考にもしています。特にディズニーなど、海外作品の「手付けのアニメーション」(キャラクターの細かい仕草や動きのタイミングを、手作業で調整していく)は非常に勉強になると思います。細かい演技の仕草だとか、表情ひとつ取ってみても、全部アニメーターがこだわりを持って作っていることが非常によくわかるんです。 もちろん日本のアニメもとても勉強になり、特にアクションシーンなどの動きや間のとり方などは非常に学ぶことが多いですね。
齋藤氏:BGでは、作品の出来はもちろんですが、それに加えて「どんなツールをどれくらい使えているか」ということを重視します。「Maya」などの基本ソフトはもちろん、最近では「Substance Designer」や「Substance Painter」などもどんどんゲーム業界で使われてきていますから、こうしたツールへの対応力も必要ですね。 最新のツールを使えるから偉いというわけではないのですが、即戦力としても魅力的ですし、それだけ勉強意欲、学習意欲があるということは将来も有望でしょう。
作品についていえば、BGはプレイヤーの移動やバトルなど、さまざまなことに絡みますので、いかに「わかりやすく、ユーザーに届きやすい絵」であるかが重要だと思います。 スクウェア・エニックスの伝統としては、「普通のユーザーが行かないようなマップの隅まで細かく作り込む」という価値観があるのですが、私はそれを大切にしながら「よりユーザーを楽しませることを意識して絵づくりをしていく」というディレクションをしています。スキルを磨きたい人は、こうしたことを意識して、勉強しながら作品づくりを繰り返してみてはいかがでしょうか。
「キラリと光る何か」を信じて、思い切って飛び込むこと
齋藤氏:私の入社の経緯は、「自主制作作品をスクウェア・エニックスに送ったら研修生として採用になった」というものです。人物の上半身のレンダリング画像や背景、和風の家などを、5枚プリントアウトして、封筒に入れて郵送したんです。今思うと、よく採ってくれましたね(笑)。
スクウェア・エニックスはそういう会社ですから、自分の力が俯瞰できなくて迷っている人は、思い切って「えいっ!!」とぶつけていただければと思います。
品川氏:応募するにあたって、自分の中の武器やアピールポイントを特化しておいてくれれば、そこはしっかり評価したいと思っています。 モーションは作るものがいっぱいあるんですよ。例えばゲーム中のプレイヤーやモンスターのアニメーション。カットシーンでは手付の他にモーションキャプチャーという技術を使ったアニメーションなど。その中で、「フェイシャルアニメーションに特化しています」という人や「物理シミュレーションの設定なら得意です」という人など、何か光るものをひとつ持っていればチャンスは開けると思いますし、そういうところに私たちも期待しています。
岡氏:シナリオライターとかカットシーンディレクターって、やってみないとわからないところがすごく大きいと思うんです。 これまでのキャリアやスキルも大事ですが、そういうものが一切なくても、可能性を見させてください。例えば短編のシナリオとかどんな形でも結構ですから、何らかの作品で皆さんの熱意をアピールしていただければと思います。
スクウェア・エニックス エントリーのポイント
- 即戦力は経験重視。ただし、「将来性を買ってじっくり育てる」育成枠的求人もあり。
- 経験不足を恐れるな。「キラリと光る何か」を作品でアピール。
- 異業種からの転職歓迎。「スクウェア・エニックスにはない、なんらかの形でゲームに活かせるスキル」を持つ人は、ゲーム業界の経験の有無にかかわらずエントリーする値打ちあり。
インタビューを終えて
今回は座談会形式ということで、リーダー3人のゲームにかける情熱や意気込みを、リアルに感じていただけたのではないだろうか。
また、スクウェア・エニックスの現場で求められるクリエイター像のアウトラインもつかんでいただければ幸いだ。ゲーム業界の経験が浅い人や未経験の人にも、今後の勉強の方法や方向性について具体的アドバイスをいただいたので、ぜひ今後に役立てていただければと思う。
自分に「キラリと光る何か」があるという自信をお持ちの方は、年齢・経験の多少にかかわらず、ぜひ大胆にエントリーしていただきたい。スクウェア・エニックスには、そうした多様性を受け入れて評価するだけの懐の深さがある。