最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する ―― スクウェア・エニックス 斎藤高徳氏インタビュー

『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』という2大IP(※1)、そして数々のミリオンセラータイトルを擁し、インタラクティブ・エンタテインメント業界をリードする株式会社スクウェア・エニックス。デジタルエンタテインメント事業、アミューズメント事業、出版事業、ライツ・プロパティ等事業(※2)という4つの事業を柱に、日本はもちろん、世界中に上質のコンテンツを提供し続けている。

ゲーム業界は今、世界的な変革の時代。スマートフォンの台頭、新たな収益モデルの登場、グローバル化といった環境の変化に、スクウェア・エニックスも大きな影響を受けている。スクウェア・エニックスの現状、そしてこれからの展望について、人事部マネージャーの斎藤高徳氏にお話をうかがった。

スクウェア・エニックスの成り立ちと企業理念

── ゲーム業界の2大巨頭の合併によって誕生したスクウェア・エニックスですが、現在に至るまでの経緯についてご説明いただけますか?

斎藤氏:『ドラゴンクエスト』シリーズに代表されるエニックスと、『ファイナルファンタジー』シリーズなどのヒット作を持つスクウェアが合併したのが2003年です。 2008年に旧スクウェア・エニックスは持株会社体制へ移行し、ゲーム事業・コンテンツ事業・出版事業などを、新しいスクウェア・エニックスが承継して現在に至っています。2012年には本社を現在地(東京都新宿区新宿)に移転し、国内拠点・海外拠点との綿密な連携体制が整いました。

── 海外市場に向けた、グローバル企業へと変貌してきたわけですね。

斎藤氏:基本的には国内市場を中心にしつつも、2009年にはアイドス(※3)をグループに迎えるなど、着実に海外にも拠点を増やしています。そういう意味では、確かに組織的にはグローバル化してきていますが、私たちとしては「国内だから」「海外だから」といった区別はしていません。

── コンテンツに対する嗜好やニーズは、国によって大きく異なると思いますが、どのように対応していますか?

斎藤氏:国や地域によって、文化や価値観は当然異なります。ですから、日本でヒットしたタイトルでも、その他の国で受け入れられるとは限りません。

例えば、アメリカやヨーロッパの市場では、『ファイナルファンタジー』といった写実的で精緻な、つまりリアリティの高い作品が受け入れられます。逆に『ドラゴンクエスト』のような、現実にはあり得ない幻想的なビジュアルをコアとする世界観は欧米よりもアジア市場を中心に好評を博しています。これが文化の違いということなのでしょう。

そのため、私たちは「日本国内向けに作ったものをそのまま全世界に発信していく」というわけではなく、「その地域に根差し、求められているコンテンツを提供していく」という考え方を持っています。

── 「自分たちが作りたいものを発信していく」というわけではないのですね。

斎藤氏:当社の企業理念は、「最高の物語を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する」というものです。ゲームをはじめとするエンタテインメントは、人々の心にいつまでも残り続ける思い出となることで幸福に貢献します。そういう意味では、当社が提供しているコンテンツは、すべてが「物語」だということができると思います。

ゲーム、映像、漫画など、どんな形態であれ最高の物語を提供し、世界に貢献する。これが私たちの方向性ですから、自分たちが作りたいものが、世界中の人々に喜ばれるものかどうかを常に考えています。 そして、私たちはこの考え方を社員一人ひとりが意識しながら、作品づくりに取り組んでいます。

そういう意味では非常にわかりやすく、実践的な企業理念ではないでしょうか。それが軸となり、社員の誰かが何かに行き詰まったときは、みんなで企業理念に立ち返る。それが当社の重要な礎です。

スクウェア・エニックスの魅力とは?

── 企業理念自体がスクウェア・エニックスの強みであり、競合他社との大きな違いであるということがよくわかりました。では、スクウェア・エニックスが、競合他社と比較して差別化できる魅力とは何でしょうか?

斎藤氏:まずは、『ドラゴンクエスト』『ファイナルファンタジー』という2大IPを持っていることが挙げられます。

『ドラゴンクエスト』のシリーズの開始は1986年ですので、今まさに30周年で様々な取り組みをしています。また、2016年11月29日に『ファイナルファンタジーXV』をリリースしたばかりですが、『ファイナルファンタジー』シリーズの開始は1987年で、今年30周年を迎えます。

このように、長い歴史を持つコンテンツを今も提供し続けているということは、他社との大きな差別化になっていると思います。それを、これからもユーザーの期待を裏切らずに提供し続けていくことが、私たちの大きな使命だと考えています。

── 御社の2大IPは、コンテンツというよりもすでに世界的な文化だといえると思います。確かに、他社にはない大きな魅力ですね。

斎藤氏:2大IPのほかにも『キングダムハーツ』、『サガ』や『スターオーシャン』などのビッグタイトルがたくさんあり、国内だけでなく海外にも多くのIPが受け入れられています。

当社はスマートデバイス向けゲームといった成長性の高い市場にも作品を投入していますし、いわゆるコンシューマーゲームやMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)、そしてグループの一員であるタイトーの強みを活かしたアーケードゲームなど、多彩なラインナップを有しています。例えば、コンシューマーからスマートフォンへの移植など、ひとつのゲームをほかのプラットフォームへと広げていくことで、新たな世界観が生まれたり、今までになかったおもしろさを発見できたりすることがあります。

また、網羅性という意味では、当社には出版事業やライツ・プロパティ等事業といった領域があり、漫画、映像、ゲーム、フィギュアなどを、一社だけで展開できるという点も魅力ではないでしょうか。

例えば『鋼の錬金術師』という作品は、「月刊少年ガンガン」という雑誌で漫画としてスタートしたあと、アニメ・ゲーム・ノベライズ・実写映画(2017年12月公開予定)と展開していき、クロスメディアによるシナジー効果で総合的なヒット作となりました。また、『ファイナルファンタジーXV』のゲームのプロモーションを兼ねて3DCG映画『キングスグレイブ ファイナルファンタジーXV』を公開するなど、さまざまなコンテンツやメディアを掛け合わせて作品を育てていくことができます。

企業風土や職場の雰囲気は?

── 全社的に共通する気風や人間関係、コミュニケーションの特徴について教えてください。

斎藤氏:当社はエニックスとスクウェアという、企業文化が大きく異なる2つの会社の伝統を受け継いでいます。

また、当社は現在「ビジネス・ディビジョン」という部門制度をとっていますが、これは組織を縦割りにするということではありません。ゲームのあり方が従来とは大きく変化し、エンタテインメントやメディアの垣根がなくなってきているので、それぞれのディビジョンがそれぞれの強みを活かし、連携を取りながらさまざまなことをやっています。とはいえ、ディビジョンやプロジェクトごとに職場のカラーが違うため、雰囲気や働き方が大きく異なっているのも事実です。

当社の特色としましては、2,000人以上の社員(スクウェア・エニックス単体)のうち、約8割が中途入社である点が挙げられるでしょう。違いを乗り越えてひとつになった会社ですから、さまざまな多様性も受け入れられていますし、多様であることを武器にすることができるのかもしれません。

スクウェア・エニックスが求める人物像とは?

── 御社が今求めている人物像は、どのような人でしょうか?

斎藤氏:必要な人材はディビジョンや職種によって異なるので一概には言えませんから「スクウェア・エニックスが求める人物像」ということでお話しいたしますと、やはり、先ほどお話しした企業理念と、次に申し上げる経営指針に合致する人です。

当社は経営指針を、「企業理念を実行する上での経営の価値観」と「グループ・メンバーの価値基準」とに位置付けているのですが、そこには「プロフェッショナリズム」「創造性、革新性」「調和」という3項目があります。

それぞれに説明があり、くわしくは当社サイトの「企業理念」のページをご覧いただきたいのですが、プロフェッショナリズムというのは、当然のことながら自身の担当領域に関する専門性を、しっかりアウトプットできるということです。

また、創造性、革新性というのは、私たちの業界は非常に変化が激しいので、「今日の成功が明日の成功ではない」という危機感を持って、常にゼロベースで仕事を考え直していく視点を持ってほしいということです。

3つ目の調和というのは、コンテンツは一人では作れません。それぞれの分野で専門性を持つスタッフがお互いの専門性を尊重し、お互いに補完し合いながら、それでもやはり最終的にひとつのコンテンツを作り上げていくという意識を大切にしてほしいということです。

── 御社のようにグローバルに展開している企業が調和を保つためには、何かコミュニケーションの秘訣があるのでしょうか?

斎藤氏:特別なことは何もしていません。ディビジョンやプロジェクトごとに、しっかり企業理念と経営指針を浸透させ、実践するという企業風土が定着しているため、自然に連携が取れているのだと思います。

── とはいえ、語学力は必須でしょうね。

斎藤氏:実は、それが当社の最近の課題のひとつです。職種やポジションによって語学力の必要性には差があります。語学力が必須である部署も少なくありません。そうでなくても、最低限のコミュニケーションが成り立つ程度の語学力はほしいところです。

現在、国内の技術者が不足しており、他社との優秀な人材の奪い合いになっています。特にコンシューマーゲームを作れる技術者の数は、国内では限られています。当然、海外の人材もさらに活発に採用していくことになるでしょうし、海外に業務委託するケースも増えていくと思います。 そういう状況が進む中、流暢ではなくても構わないので、英語で必要最低限の意思疎通くらいはできてほしいというのが正直なところです。

そしてもうひとつ重要なのは、純粋な語学力というよりも、メンタル面でのバイタリティです。「英語が流暢に話せないから話しかけられない」ではなく、どんなに片言でもコミュニケーションしようとし、なんとか相手を理解しようとする姿勢を私たちは重視します。 語学力は、トレーニングすれば誰でもある程度は上達します。しかし、「なんとか相手と意思疎通がしたい」というマインドや姿勢は、そう簡単に身に付くものではないのです。

「多少英会話を学んだことがあります」という人よりも、「英語はまったくしゃべれないんですが、知っている限りの英単語を並べて外国人と仲良くなりました!」というエピソードを持つ人のほうが、当社の社風に合うかもしれません。

スクウェア・エニックスが見つめる未来と事業展開テーマ

── ゲーム業界、そしてゲーム市場はここ数年で大きく変わってきました。スクウェア・エニックスは未来をどう読み、どんな戦略を展開していくのでしょうか?

斎藤氏:非常に難しい質問です。しかし「世界中のお客様への最高のコンテンツ体験の提供」を実現していくことがスクウェア・エニックスの使命であり企業価値であるという基本姿勢に変わりはありません。 とはいえ、常に変化する事業環境の中では、その実現に向けて柔軟な事業戦略の推進が重要です。 そこで、現在当社グループは当面の事業展開テーマとして、「スマートデバイス向けプレミアムゲーム提供の強化」「VR・ARの有効活用」「新規市場開拓」という、3つの取組みを進めています。

── スマートデバイス向けプレミアムゲーム提供の強化とは?

斎藤氏:現在のスマートデバイス向けゲーム市場は「F2P」(※4)と呼ばれるビジネスモデルを中心に大きな成長を遂げました。スクウェア・エニックスも、IPを活用したタイトルから新規タイトルまで、多様なゲームをスマートデバイス向けに提供しています。

F2Pゲーム市場は、基本プレイが無料であることから爆発的なダウンロード数を獲得し、厚いアクティブユーザー層に支えられて成長してきました。しかしその一方で、多くの企業が市場に参入したために競争が激化しているという問題があります。

そこで私たちは今、スマートデバイス向けの有料の買い切り型ゲーム(プレミアムゲーム)に注目しています。 現在のスマートデバイスは以前に比べてスペックも操作性も格段に向上し、スマホネイティブの世代では「オールインワンのゲーム機」としても市民権を獲得しています。 スマートデバイスを「高スペックな汎用型ゲームデバイス」ととらえ、長期間にわたってずっと遊び続けられるプレミアムゲームを提供することで、幅広いお客様のニーズにお応えできると考えています。

携帯型ゲーム専用機向けとスマートデバイス向け、双方にゲームを提供することによってプレミアムゲーム市場を開拓し、F2Pゲームに並ぶもう1つのビジネスモデルの柱に育てることが私たちの目標です。

── VRとARの有効活用というのは?

斎藤氏:2016年はVR元年と呼ばれ、VR機・その他関連機器・VRコンテンツが本格的に動き始めた年となりました。私たちもVR・ARの有効活用に注目し、すでにいくつかのVRコンテンツ開発を進めています。

私たちは家庭用ゲーム機・スマートデバイス向けのゲームにとどまらず、アミューズメントや漫画、フィギュア等の有体物など、多岐にわたるコンテンツを提供しています。そこにVR・ARという新しい技術を加えることで、クリエイターの創造力を刺激して、新しい化学反応が起きることを期待しています。 また、HDゲームをVRコンテンツ化することにより、より没入感のあるゲーム体験を提供できるなど、当社の強みを一層生かしたコンテンツ展開を目指していきます。

── 新規市場の開拓についても教えてください。

斎藤氏:着実に成長する新興市場に対する取組みは、私たちの成長戦略における重要なテーマの1つです。

オンライン・モバイル向けゲームの先進国であり、日本・欧米と並ぶ主要マーケットである中国では、現地企業とのパートナーシップを通じた展開を推進しています。 また、ゲームの消費市場として急成長している中東と南米(特にメキシコ・ブラジル)への展開も強化しています。

従来から行っている、いわゆるEFIGS(英語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語)を中心とした現地語対応から、より人口の多い言語である中国語(簡体字)、アラビア語、ポルトガル語などへも幅を広げ、ゲームタイトルの現地での存在感を向上させて、新興市場展開を推進していきます。

インタビューを終えて

立派な企業理念を掲げている企業は世の中にたくさんあるが、スクウェア・エニックスのように企業理念が企業文化・企業風土として徹底的に定着・実践されている会社は少ないだろうという印象を受けた。

その背景には、2つの大きく異なる文化を持った会社同士の合併と、約8割の社員が中途採用という「多民族国家」的な成り立ちが大きく関係しているのかもしれない。

さまざまなバックグラウンドを持つメンバーを束ねていくためには、強力でわかりやすいメッセージが必要不可欠だ。 そういう意味でも、「おもしろいゲームを全世界に届けることで人々を幸福にしたい」という普遍的でわかりやすい企業理念は、まさしくスクウェア・エニックスにふさわしい。 そして、その理念が全社員に定着していること。スクウェア・エニックスの最大の強みと魅力は、ここにあるのではないだろうか。

※1 IP(Intellectual Property)=知的財産(権)。エンタテインメント業界では、有力なゲームタイトルやシリーズ、そこから派生した映画・テレビ・漫画コンテンツやキャラクターなど、独自の知的財産を持つコンテンツの総称として用いる用語。
※2 キャラクターをモチーフとしたフィギュアやグッズ、映像作品、サウンドトラックなどの二次的著作物の企画、制作、販売、及びライセンスの管理をおもな領域とする事業。
※3 Eidos Ltd.=イギリスのゲームソフト制作会社。2009年11月にスクウェア・エニックス欧州法人と統合し、SQUARE ENIX LTD.となった。
※4 F2P=Free to Play。基本プレイは無料で、アイテムに対して課金していくビジネスモデル。

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