東京を離れ、札幌の街でゲームの面白さとクオリティを探究する―― セガ札幌スタジオ 曾氏・谷本氏インタビュー

Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.47
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
コンシューマーゲームやソーシャルゲームを手がけるセガが、国内2番目の開発拠点として設立した株式会社セガ札幌スタジオ。2021年12月に設立以来、約200名のスタッフがセガのタイトル開発などに従事している。
セガ札幌スタジオでゲーム開発に携わる魅力はどこにあるのか。転職を機に東京から札幌に移住した研究開発部 プログラムセクションの曾征氏、研究開発部 デザインセクションの谷本翔平氏に、それぞれの業務内容や入社の経緯、そして仕事のやりがいについて伺った。
プロフィール紹介
研究開発部 プログラムセクション/エンジニア
曾 征氏(写真右)
オンラインRPG『ファンタシースターオンライン2 ニュージェネシス』エンジニアチームリーダー。2024年5月にセガ札幌スタジオ入社。主に『ファンタシースターオンライン2 ニュージェネシス』内のワールド部分の探索や遊び、インタラクションのあるオブジェクトの作成を担当。最近アップデートされた「EXスタイル」といったプレイヤーが操作するアクション部分にも携わっている。
研究開発部 デザインセクション/キャラクターデザイナー
谷本 翔平氏(写真左)
2023年10月にセガ札幌スタジオ入社。キャラクターデザイナーとして、主にキャラクターの3Dモデリング制作に従事。現在は『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の衣装モデル制作と監修業務を担当。
北海道への移住は自分にとってチャレンジの1つ
―― これまでのご経歴と現在の仕事内容を教えてください。
曾氏:セガ札幌スタジオには2024年5月に入社し、北海道に移住して2年目を迎えました。現在はオンラインRPG『ファンタシースターオンライン2 ニュージェネシス』に関する開発に携わっており、エンジニアチームのリーダーを務めています。
ゲーム業界には大学を卒業した2019年から携わり、1社目はコンシューマー向けのゲーム会社で4年ほど開発に従事し、2社目は小規模なゲーム会社でインディーゲームの開発・販売に携わっていました。セガ札幌スタジオは3社目となります。
現在はチームの進捗管理やタスク調整を行い、パートリーダーとして各セクションと連携しながら、円滑に開発を進めることに力を入れています。また新機能の提案や仕様改善、発生した問題への対応については、「担当パートの相談窓口」として相談を受け、課題解決に努めています。
もちろん、プログラマーとしては安定性と完成度を高めることを意識しつつ、最終的にはチームでよりよいコンテンツを作っていくことを目標にしています。
―― セガ札幌スタジオに転職された背景について教えてください。
曾氏:1社目ではIP関連のプロジェクトで開発に携わっていましたが、制約がかなり多く......。たとえば、IP関連だと、元となるストーリー、遊びなどがあるため、制作途中で「こうした方がもっと面白くなる」と思っても変更するのは難しい場合があるんですね。なので「もう少し自由に開発がしたい」「思いついたアイデアや面白い遊びを早い段階で共有し、チーム全体で方向性を合わせながら制作したい」という思いから、転職しました。
2社目では、比較的小規模なゲーム会社でインディーゲームの開発に携わりました。希望通り自由にものづくりができたのですが、開発から販売までひと通り経験すると今度は「もう少し大規模なプロジェクトに携わりたい」と思うようになったのです。そこで、マイナビクリエイターに登録し、転職活動を始め、3社目となるセガ札幌スタジオにご縁があり入社しました。
―― もっと自由に開発したい、もっと大規模な開発がしたい、といった前向きな想いが転職への原動力だったんですね。マイナビクリエイターでは、どのように転職活動を進められましたか?
曾氏:最初の面談でキャリアアドバイザー(CA)の方に①ゲーム開発ができる②中規模の開発ができる③勤務先は主要都市付近(通勤が便利)、という希望を伝え、合致する求人を紹介していただきました。最終的に20社から30社ほどエントリーしたと思います。CAの方には、スケジュール調整や面接対策のほか、面接後に毎回フィードバックをいただき大変助かりました。セガ札幌スタジオの選考はすべてオンラインでしたね。
―― 北海道への引越しという環境的に大きな変化を伴う転職ですが、最終的にセガ札幌スタジオに入社を決意した決め手を教えてください。
曾氏:2つあります。1つは、セガ札幌スタジオでオリジナルタイトルの開発を予定していると聞き、大規模なプロジェクトに関われそうだと思ったから。これは自分にとって、もっとも合致した条件でした。もう1つは、暑いところより、涼しいところが好きだったからです(笑)。他社からも内定をもらっていたのですが、寒い土地のほうが好きなので北海道を選びました。当時は東京に住んでいたので、札幌に移り住むことは自分にとって1つのチャレンジでしたね。北海道で雪に包まれた暮らしを体験してみたいという憧れや、新しい生活へ期待する気持ちもありました。ちなみに、札幌は便利で買い物は困らないです。
コンセプトの違い。「自分たちが作りたいもの」から「ユーザーが求めるもの」へ
―― セガ札幌スタジオに入社してから、前職の仕事との違いを感じる場面はありますか。
曾氏:残業時間はかなり減り、勤務時間がきちんとコントロールされていることを感じました。これまでの会社では、「働きたいだけ働く」という感じでしたので。
また、前職のインディーゲーム開発では、「自分たちが作りたいもの」を中心に据えている感覚がありましたが、セガ札幌スタジオに入社してからは、「ユーザーが求めるもの」が中心にあると感じます。以前からプレイしているユーザーからのフィードバックを受け、期待に応えること、ユーザーに愛されるものを開発することが、今の仕事のやりがいに繋がっています。
また、自由すぎる環境では、相手の本当に欲しいものが見えなくなることがあると思います。ユーザーのニーズに応えるという経験の中で、相手の意図を汲み取る力や提案力を鍛えることができ、今ではその経験が自分の制作スタイルをより強くしていると感じます。
―― これまでのキャリアで培った「作りたいものを作りたい」「面白いものを作りたい」といったマインドは、現在の仕事のどこに活きているでしょうか。
曾氏:企画側から提示された仕様書を見たとき、「どうしてこう作るのか」と疑問を抱いたときは、企画側と話しをするようにしています。「こうしたほうが面白いのでは」と提案することもありますね。提案が認められることもあれば、その提案が進行中のプロジェクトにはそぐわないことも当然あります。きちんと話し合い、お互いが納得した状態で開発に進むことを意識しています。
―― 現在はエンジニアチームのリーダーとして、マネジメントにも従事されています。開発とマネジメントの比率はどれくらいなのでしょうか?
曾氏:開発3、マネジメント7の比率です。前職で初めてマネジメントに携わったのですが、そのときはメンバーの管理が思うようにいかず、タスクの進捗に不備や対応漏れがあるなど、苦い思い出が残ったままでした。そこでリベンジの意味もこめて、セガ札幌スタジオでもマネジメントに向き合いたいと希望を伝えました。
今は、それぞれのスタッフが抱える課題や、苦手そうな部分が見えた時点で、その人の得意・不得意を把握し、タスクや進め方を調整しています。連絡が苦手な人には情報を整理してから渡し、報告が不得意な人には小まめに確認するなど、弱みを補い強みを最大限活かす管理を心がけています。
入社から1年半ほど経ちますが、やはりマネジメントは簡単ではありませんね。幸い、社内には仕事の悩みを同僚たちとフランクに話せる場があるので、よく相談をしています。皆さんとても優しくて、「次はこうしてみたら?」とアドバイスをしてくれます。
―― 最後に、転職を考えている方にメッセージをお願いします。
曾氏:今のゲーム業界において、転職は珍しくないものと思っています。「このプロジェクトに関わりたい」「あの会社でゲーム開発がしたい」という思いがあるなら、移住という選択肢も視野に入れて、迷わずチャレンジしてみてはいかがでしょうか。セガ札幌スタジオは今後オリジナルタイトルの開発も予定していますので、ぜひ北海道で一緒に開発ができたら嬉しいです。
東京を離れてでも自分がやりたいことをやろう
―― ご経歴とお仕事の内容を教えてください。
谷本氏:キャラクターデザイナーとして、主にキャラクターの3Dモデリング制作に携わっています。現在は『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』の衣装モデル制作と監修業務を担当しています。また、最近ではチーム全体のマネジメントにも少しずつ関わる機会が増えてきました。
経歴としては、アニメ業界で8年ほど働いたのち、ゲーム会社に転職。そのゲーム会社を辞め、フリーランスとして活動しているとき、先輩から「一緒にどう?」と声をかけていただいたのがきっかけでセガ札幌スタジオに転職しました。東京から札幌に移り住んで、今年で3年目、ゲーム業界歴は今年で5年目になります。
―― 北海道への移住は大きな決断だったと思いますが、その決断を後押ししたものはなんだったのでしょうか。
谷本氏:フリーランス時代もゲーム業界の仕事を続けていたのですが、同時に「もう一度ゲーム会社でチャレンジをしたい」という目標も抱いていました。フリーランスとゲーム会社の一番大きな違いは、やはりゲーム制作の中核部分、つまり意思決定の場に関われるかどうかだと思います。フリーランスでも多くのアセット制作に携わることはできますが、どうしても「与えられた範囲の仕事」に留まりがちです。
一方でゲーム会社では、隣のメンバーと肩を並べ、相談しながらプロジェクトを進めることができます。そうした環境に身を置いて挑戦したいという思いが、会社で働く大きな動機になりました。
複数の会社にアプローチしてきたなかで、最終的に内定をいただけたのがセガ札幌スタジオだったこともあり、「東京を離れてでも自分がやりたいことをやろう」と覚悟を決めました。
―― 「東京を離れてでも自分がやりたいこと」について、もう少し詳しく伺えますか。
谷本氏:セガ札幌スタジオなら、キャラモデリング分野で第一人者になるという目標を実現できると感じました。大型タイトルのキャラクター制作に深く関わりたいという自身の思いと、セガが札幌スタジオを立ち上げるタイミングが重なったことも大きな理由です。少数精鋭で裁量が大きく、キャラクターモデラ―として制作の工程に一貫して関われる環境は魅力的でした。さらに、新しい拠点だからこそ、チーム文化を自分たちの手で築ける柔軟さがあります。これは、単にゲームを作るだけでなく、未来のチームのあり方を形作るという、私にとって非常に魅力的な挑戦だと感じました。
また、北海道の落ち着いた環境で集中して制作ができ、スノーボードなど自然を楽しむ趣味も充実できるため、ここでなら仕事とプライベートの両面で長期的に高いパフォーマンスを維持できると考えています。
―― 3Dモデリング制作において、セガ札幌スタジオで大切にしていることを教えてください。
谷本氏:現在はセルルック(セルアニメのようなアニメーション表現)の作品を制作しているので、セルルックの世界観に溶け込みつつも、説得力のある造形と質感を常に追求することを意識しています。
たとえば、ベルトや小物アクセサリーといった現実にも存在するものは、きちんと資料を参照してモデリングを行わないと、プレイヤーに違和感が生まれてしまいます。また、2Dのデザインを3Dに起こす際に、見る方向によってスカートの形状などに矛盾が生じる場合は、デザイナー側へ形状を確認することも少なくありません。
セガ札幌スタジオでは、こうした確認やフィードバックを各工程で行い、クオリティを担保しています。近年は海外作品のクオリティが向上していることもあり、細部まで作り込まれているか、シナリオに沿った表現になっているかなども重視して、他社に見劣りしないものを提供できるよう心がけています。
私はクオリティに関して指摘する立場なので、相手の努力に修正を求めるのは心苦しいですが、指摘するときは必ずよい点もセットで伝えるようにしています。また、どうしても必要な指摘は責任を持って伝え、即否定せず意図や背景を聞くことを心がけています。こうしたやりとりを積み重ねることで、現在のチームは意見交換が活発に行えるようになりました。
ユーザーの反応をダイレクトに感じられる
―― 研修や勉強会など、セガ札幌スタジオで社員の成長をうながす取り組みがあれば教えてください。
谷本氏:私が所属するデザインセクションでは、各プロジェクト持ち回りで、現在取り組んでいる業務や新たな知識を共有する場を隔週で設けています。最近ではAIの成長も目覚ましいので、うまく現場で活用して効率化できないかと考えているところです。
また、社内でのコミュニケーションが取りやすいことも、セガ札幌スタジオの魅力だと感じます。さまざまな立場の方々とフラットに話ができますし、新人教育の悩みなども気軽に相談できていますね。セガグループ全体としても、技術共有やコミュニケーションに注力しているのを感じられるので、こうした取り組みが社員の成長をうながしているように思います。
―― 入社から3年が経過したいま、セガ札幌スタジオで働くやりがいについて教えてください。
谷本氏:入社当時は、制作に携わってもまだ公開できないものが多かったのですが、リリースを経て、ユーザーの反応をダイレクトに感じられるようになりました。ソーシャルゲーム開発ということもあり、自分が作ったデータが2~3ヵ月後にはもう実装されるような状況です。担当したキャラクターが、SNSなどに画像や動画で流れてくるのを見るとやはり嬉しいですし、この仕事にやりがいを感じますね。
今後は技術をさらに磨き、監修のトップとしてユーザーの皆様に喜んでいただけるデザインを、自分の手でクオリティコントロールしながら提供できるようになりたいと考えています。
また、チーム全員が同じ方向を向き、一丸となって挑戦できる環境を整えることにも強い興味があります。制作面だけでなく、チーム作りの面でも成果を出せるようになりたいですね。
―― 最後に、転職を考えている方にメッセージをお願いします。
谷本氏:転職は、新たな可能性への挑戦であると同時に、大きな不安を抱えるものだと思います。それでも、勇気を出して踏み出した一歩は、自分の人生を大きく変えるきっかけになるはずです。成功も失敗も含めて、自分らしい道を歩んでもらえたらと思います。
セガ札幌スタジオには、挑戦しながら成長できる環境がありますので、ものづくりに強い興味関心がある方は、ぜひ北海道で一緒にゲームを作りましょう。
インタビューを終えて
セガ札幌スタジオはクリエイティブな環境と働きやすさを兼ね備えた、魅力的なゲーム開発の拠点であるという印象を受けた。また、札幌という地域の特性を活かし、自然環境やライフスタイルを楽しむことができる点も、セガ札幌スタジオの魅力の1つと言えるだろう。
今後、オリジナルタイトルの開発も控えているとのことで、ますます期待が高まる。次世代のゲーム制作に携わりたい、ゲーム業界で活躍したいという思いがあるのなら、北海道の魅力とともに、ここでのものづくりを通じて新たな可能性を見出してほしい。
この記事を書いた人
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