自分たちがWeb業界を切り拓いていくマインドを持つ ―― 山本真也氏「Web業界進化論#08」開催直前インタビュー

来たる7/29(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#08「変化に強いエンジニアになる!アジャイル的キャリアアップ」を開催する。

「Web業界進化論 実践講座」の第8弾は、今後のキャリアの方向性に悩むWeb業界のフロントエンドエンジニアに向けたもの。出版社のWebディレクターからキャリアをスタートし、起業後もプレイングマネージャーとしてフロントエンドに関わる山本真也氏をゲストに迎え、キャリアの変遷や現在の働き方などについて語られる予定だ。

今回はイベント直前インタビューとして、山本氏にこれまで歩んだキャリアや、Web業界でエンジニアに求められるものについて伺った。

プロフィール紹介

山本 真也氏
株式会社ShareDan 代表取締役

千葉県山武市出身の1984年5月生まれ。明治大学文学部を卒業後、株式会社法研でWebディレクターとして勤務。100以上のサイト運営を担当しつつWebサイト構築や業務改善に取り組み、2015年にフリーランスとして独立。その後、独学でフロントエンド、バックエンドの技術を習得し、2017年8月に株式会社ShareDanの代表取締役社長に就任する。自社サービス運営の傍ら、企画、構築、運営のすべてに携わってきた経験を活かし、Webディレクター兼フロントエンドエンジニアとして、大手自動車メーカーのWebアプリケーション構築や、大手携帯キャリアのサイト解析など幅広く活動。2020年には「Webクリエイターズギルド」を立ち上げ、クリエイターの育成に携わりながら大手ベンチャーのSaaS製品開発責任者として活躍している。

30歳で会社を飛び出し、独学で半年間の“修行”に

―― まずは山本さんのこれまでの経歴について聞かせてください。

山本氏:新卒で入社した出版社で、Webディレクター職に配属されたのがキャリアのスタートでした。その会社は社会保障分野を扱う専門出版社で、出版だけでなく、健康保険組合がホームページに掲載するコンテンツの提供や、法律の監修なども行っていたんです。

もともと編集者志望で入社したものの、学生時代にWebサイト運営の経験があったので、Webディレクター職にも特に抵抗はありませんでした。お客様との折衝や、エンジニアやデザイナーへの発注、進捗管理や予算管理など、サイト構築の流れをひと通り経験させてもらいました。

そのまま6年半勤め、30歳になった年に「自分でサービスを作りたい」と会社を辞め、独立しました。

―― どんなサービスを作ろうとしたのでしょうか?

山本氏:それが……特に決めていませんでした(笑)。

それまで、ディレクターとしてエンジニアやデザイナーに仕事をお願いする立場だったので、サービス開発について把握できてないことも多くありました。なので、「とにかく全部自分で作ってみよう」と思ったんです。退職後の失業手当が出る半年間を使い、ある種の“修行”として、エンジニアの勉強をしながらゼロからサイト構築をやってみようと。

ディレクターからエンジニアへとシフトしたのは、この先のキャリアを「職種」と「業界」の2軸で考えたからでした。これまで培ってきたどちらかの強みを保ったまま次に進まないと、過去の経験が活かせない。ならば、Webというこれまで自分が身を置いていた「業界」での経験を強みとして残し、「職種」を変え、できることを増やしたい、と考えました。

30歳独身というタイミングだったので、リスクを取ってチャレンジするなら今だろう、という思いもありましたね。

―― 半年間の“修行”のあとは、どういうキャリアを歩まれたのでしょうか?

山本氏:そのままフリーランスで活動することはあまり考えていなくて、どこか企業に入れたらと思っていたんです。ところが退職から半年ほどが経ったある日、当時住んでいたシェアハウスで、友人から「うちの会社を手伝ってくれないか?」と頼まれまして。

AngularJSというJavaScriptのフレームワークでサービスを作っていたのですが、そのスキルを見込まれた形でした。このときの仕事をきっかけに、フリーランスのフロントエンドエンジニアとして活動するようになったんです。友人に道を示してもらったな、と思います。

それから2年近くフリーランスで活動したあと、2017年8月に株式会社ShareDan(シェアダン)を起業しました。

―― なぜフリーランスから会社設立の道を選ばれたのでしょうか。

山本氏:自分が作ったサービスについて、「個人名義だと信用がつかないので採用されにくい」という話があったんです。広く使ってほしいサービスだったので、それならと法人化しました。事業を拡大したいからとか、従業員を増やしたいからという理由で起業したわけではなく、対外的な信用を得るために法人の形が必要だったんです。

今も、会社を拡大しようとはあまり考えていないですね。新しい案件を請けたり、技術をキャッチアップしたりなど、成長は常に意識しているのですが、人をたくさん雇って売上をあげよう……みたいな気持ちはそこまで強くありません。どちらかというと、関わっている人を成長させたり、プロジェクトをうまく回したりすることに、仕事の醍醐味を感じています。

大手企業のプロジェクトでスムーズに仕事を進める「コツ」とは

―― では、現在の仕事内容について聞かせてください。

山本氏:代表取締役として経営に関わりながら、Webディレクター兼フロントエンドエンジニアとして活動しています。起業後2年間は、大手携帯キャリアでマーケティングデータの取得を目的にしたサイト解析に携わり、その後、大手自動車メーカーでWebアプリケーションの構築も担当しました。

あとは、会社とは別に「WEBクリエイターズギルド」というWeb制作・開発に特化した職業集団の運営をし、クリエイター育成に取り組んでいます。駆け出しのエンジニアが得意分野ごとにチームを結成し、経験豊富なリーダーがメンバーをサポートしながら、案件に対応する“職業集団ギルド”です。エンジニアになりたいが実績がない、という方のために、ギルドで経験を積みながら実績を作り、次のステップに進んでもらえたらという思いで活動しています。

―― 山本さんは、大手企業でもベンチャー企業でも開発に携われた経験があると伺いました。双方の働き方の違いや、文化の違いは、どのような部分に表れていると感じますか?

山本氏:私が経験した範囲での話になりますが……。大手企業の大きなプロジェクトの場合、決めねばならないことが多々あるので、要件定義にとても時間がかかるケースが多いように感じます。私が経験した中では、プロジェクトが始まるまで年単位の時間を要したものもありました。またプロジェクトが大きくなると、自分と直接関わらない人がドキュメントや設計を見ることになるので、勘違いがないように気を配らねばなりません。コミュニケーションや仕事の進め方など、システム以外の部分を考慮する必要があるのも、大手企業のプロジェクトの特徴ではないでしょうか。

一方、ベンチャー企業の場合は、決裁者がすぐそばにいたりするので、その人のGoが取れればスピーディに物事が進むことが多いです。ただ、1人に割り当てられる範囲が広く、属人的な部分も多くなります。関わる人が多い大手企業だと、そうしたリスクは少ないかもしれませんね。

―― 山本さんご自身は、大手企業のプロジェクトに参画する際、どのようなことに気をつけていますか?

山本氏:大手企業といっても、会社が変われば文化も変わります。なので、まずはその会社の文化を知るところから始めますね。最初に席に着いたら周りをよく見て、人の流れや仕事の進め方、承認のフローなどを観察します。決裁権を持つ人を抑えておくのも大事。エンジニアリングと同時にカルチャーも大切にするのが、大手企業の仕事をスムーズに進めるコツかもしれません。

時を経て実感する「若い頃の苦労は買ってでもしろ」という言葉

―― Web業界において、エンジニアに求められるものは今後どのように変化していくと考えていますか?

山本氏:業界全体を、自分たちで切り拓いていくマインドが大切になると思います。Web業界自体まだ歴史が浅く、先人の数も多くありません。「先が見えない新しい業界」であり、だからこそ自分たちで業界を変えていける余地が十分にあると思っています。

たとえば、かつて「35歳エンジニア定年説」というものがありました。でも今、35歳でエンジニアであることは特に珍しくありません。エンジニア人口が増えたこともありますが、徹夜など肉体的に消耗する働き方がなくなってきたのも大きいでしょう。働き方を変えることで、業界も変わってきているんです。

もちろん、エンジニアとして成長を目指すことは大前提です。そのうえで、業界の前例に縛られず、自ら行動することも大切なのではと思います。

―― では「フロントエンドエンジニアに今後求められるもの」となるといかがでしょうか?

山本氏:新しい技術のキャッチアップが、いっそう大事になると思います。特にフロントエンドの領域は流れが速く、去年使えていたはずの技術が今年使えないこともザラです。オープンソースをメンテナンスする人が減り、バージョンアップが止まってしまうこともあるくらいですから。

そんな状況の中でも、エンジニアは「この技術が今一番使える」と判断して盛り込むわけです。となれば、情報収集はやはり欠かせません。フロントエンドエンジニアにとって、キャッチアップは死活問題だと言っていいでしょう。

―― 山本さん自身は、これからどんなキャリアを目指そうと思われていますか?

山本氏:「WEBクリエイターズギルド」などを通して、「できることが多い人」を増やしていけたらと考えています。私自身も、コーチングの資格を取りたいと思っていますし、インフラをはじめ、試してみたい技術がたくさんあります。エンジニアが多様な経験やスキルを身に付けられる環境になれば、炎上プロジェクトも減り、業界としてもプラスに働くのではないでしょうか。

特に若い方にお伝えしたいのは、「自分はフロントエンドエンジニアだからインフラはやりません」といったように、自分ができることを決めつけないでほしいということ。なんでも興味を持って手を出せば、必ずあとで活かせる時がくる。「若い頃の苦労は買ってでもしろ」という言葉がありますが、これは今も変わらないと感じますね。

―― ありがとうございます。最後に、セミナー当日はどのようなことをお話いただけるのでしょうか。

山本氏:実際の開発現場ではどのような技術を用いて、どのような開発が行われているのか、具体的な事例を交えながら、エンジニアの「今」をお伝えできればと思います。

今回のセミナーは、フロントエンドエンジニアの方が参加対象だとは思いますが、「フロントエンドエンジニア」という言葉自体が生まれて間もなく、定義もはっきりしていません。私の紆余曲折あるキャリアから「こんな人もいるんだ」と知ってもらえたら。そして、フロントエンドエンジニアにこだわりすぎず、自分はどういうキャリアを積んでいくのか考える機会になれたらと思います。

インタビューを終えて

山本氏は30歳で会社を辞め、ディレクターからエンジニアへとキャリアの舵を切った。「できることを増やす」という考えだからこそ、さまざまな分野を柔軟に吸収でき、フロントエンドエンジニアという今があるのだろう。

7/29(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#08「変化に強いエンジニアになる!アジャイル的キャリアアップ」では、山本氏のキャリアを振り返ることで、フロントエンドエンジニアのリアルに触れることができるはずだ。大手企業での開発に興味があるエンジニア、キャリアを考えるヒントがほしいエンジニアは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。

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