Webディレクターとは何のために存在するのか?キャリアアップの極意を聞く ―― 日本ディレクション協会会長 中村健太氏インタビュー

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中村健太 Webディレクター Webビジネスに関わる職種で、最も職域があいまいな「Webディレクター」。手を動かしてWebサイトを制作するわけでもなければ、営業としてマネタイズに直接関わるわけでもない。そのため、「伝書鳩」「御用聞き」といった言葉で批判されるケースもしばしば。

一体、Webディレクターは何のために存在し、どのようにキャリアを積んでいけばいいのだろうか。日本ディレクション協会会長の中村健太氏にじっくりと話を伺った。

ビジネスとして存続可能な仕組みを構築する、これがWebディレクターの役割

中村健太 インタビュー風景 ── 今回は、「Webディレクターとしてキャリアアップをするにはどうすればいいのか」というテーマでお話を伺っていきたいのですが、前提としてまずは、「Webディレクターが果たすべき役割」についてお話しいただけますか。

中村氏:いくつかの観点があると思いますが、第一に理解しておいてほしいのが、Webディレクターが作っているWebサイトは、あくまでビジネス上のツールだということです。Webサイトは、文字、動画、音楽などのコンテンツを通してユーザーに情報を提供し、その情報によってユーザーに何らかのアクションをしてもらうのが目的です。そして、そのアクションによって、Webサイトの制作・運用コスト以上の利益を発生させることで、ビジネスが成立しているわけです。

もうひとつが、当たり前のことですがWebサイトは「成長する」「書き換え可能」という点が評価され、利用されているツールだということ。情報提供によってユーザーにアクションを促すツールには、雑誌や新聞、テレビといったメディアも存在します。しかし、完成してしまうと修正ができません。一方、Webサイトは、リリース後に成果を検証し、改善することができる。むしろ、改善を継続することで、ビジネス上の価値を増大し続けることを前提として存在するのがWebサイトなんですよ。

でも、Webサイトを改善し続けるにはお金が必要になります。制作・運用コスト以上の利益を、ユーザーのアクションによって、マーケットから回収し続けなければ、ビジネスとして存続できないんです。

なので、そこでWebディレクターという存在が必要になるんです。

優れたコンテンツをマーケットに提供し続けられる体制や仕組みを考え、実現していくのがWebディレクターの役割。「素敵なWebサイトを作ったからお金をください」ではないんです。

Webサイトの制作自体はスタートにすぎません。誤解を恐れず言い切ってしまえば、「ビジネスとして存続可能な仕組みを構築する」のが、Webディレクターに期待される本来の価値だったりするんです。

── クライアントの要望を聞き、スケジュールどおりにWebサイトを制作するだけがWebディレクターの仕事ではないということですね。それでは、具体的に「ビジネスとして存続可能な仕組みを構築する」には、どのようなスキルが必要になるのでしょうか?

中村氏:数え上げればきりがないのですが、まずは「何を売るのか」「どうやってお金を儲けるのか」という、Webサイトを使ったビジネス自体を企画できる必要があります。

さらに、Webサイトの情報設計、ターゲットの選定、ターゲットとなるコミュニティの醸成といったスキルも欠かせません。SEO、SEMといったWebマーケティング戦略を立案できる能力も求められるでしょうね。結局誰かがやらなきゃいけない事ですし。

で、先程申し上げたように、Webサイトは改善できることに価値があるメディアなんですよ。すると、運用上のマネタイズ戦略、グロース戦略も立てられる必要がある。人員確保やマネジメント、クライアントを含めたチームビルディングも不可欠になってきます。

これらすべてをプロジェクトとして統合し、主体的にハンドリングできるようになるのが、Webディレクターとしての理想のキャリアなんじゃないかな?と僕は思っています。

Webディレクターに必要なスキルを身に付けるには「マイルストーン型」の思考が必要

Webディレクター キャリア ── Webディレクターとしてキャリアアップをするには、非常に多岐にわたるスキルを身に付けなければならないことがわかりました。しかし、それらをすべて習得することは可能なのでしょうか?

中村氏:ひとつずつ順番に必要なスキルを身に付けて、ステップアップしていこうと考えるから不可能に思えるんです。キャリアアップやスキルアップを、「階段型思考」ではなく、「マイルストーン型思考」でとらえ直せば、実はそこまで難しいことではありません。

階段型思考というのは、「これができるようになったら、次のステップに進もう」という考え方です。ステップアップの手順としては、スムーズ且つ当たり前のように思えるかもしれません。しかし、足りないスキルをすべて順序良く身に付けていこうとすると、いつまで経っても『○○ができるようになったら■■をやろう』と、先に進めなくなってしまいやすいんです。

これだと、プロジェクトを主体的に動かしていくようなWebディレクターにはなれないですし、おそらくやっていてしんどくなっていってしまうはずです。

「これができるようになったら次のステップに進もう」という考え方は、「これができないから次のステップに進めない」「やったことがないからできない」という、ネガティブな思考につながりやすいんですよ。経験したことしかしなければ、当然、スキルアップもキャリアアップも望めませんよね。

そこで必要になるのが、マイルストーン型思考です。例えば「2年後にはこうなっていたい」という理想像を決め、そこから逆算して1年後、1ヵ月後にあるべき自分の姿を考えて行動していきます。この思考方法を突き詰めていけば、今日こなさなければならないタスク、明日までに身に付けておかなければならないスキルが自然に決まっていきます。そこには、「そのスキルがないから」「やったことがないから」という、ネガティブな判断軸は存在しません。ちょっと強引ですが、半強制的にスキルアップが図られていくようなイメージですね。

マイルストーン型思考は、Webサイトの制作や運用をする際に、Webディレクターが実践している思考方法とまったく同じものです。サービスのリリース日、Webサイトの公開日、売上予算といった目標が事前に決まっていて、そこから逆算して、「いつまでに要件定義をして」「いつまでに機能を実装して」と考えて、毎日行動しているはずなんですよ。既に。多くのディレクターさんが。

ならば、人生もキャリアもプロジェクトのひとつとして捉えてしまえば良いんです。Webディレクターとしてプロジェクトマネジメントができるのであれば、その考え方を自分のキャリアに適用してあげればいいだけです。

── Webディレクターとしてのキャリアアップという観点で考えると、どのような目標を設定するのがいいのでしょうか。

中村氏:「Webサイトを使ったビジネスを設計して、立ち上げて、成長させる」という目標がわかりやすいのではないでしょうか。ビジネスを立ち上げようとすると、予算・人員計画、マーケティング戦略、マーチャンダイジングなど、経験したことのないタスクが大量に押し寄せてきます。それでもやるしかないという状況に身を置いて、困難を乗り越えていくことで、Webディレクターに必要な多彩なスキルが身に付いていくのだと思います。きれいなワイヤーフレームを作れたり、ガントチャートを使って上手にスケジュール管理ができたりするようになったとしても、「Webサイトがビジネスとして存続可能な仕組みを構築する」という、Webディレクターに期待される本質的な価値には決して届きません。

── 「いきなりビジネスを設計して立ち上げろと言われても…」という声が聞こえてきそうですが。

Webディレクター 施策 中村氏:そんなに難しいことではないはずです。クライアントからの依頼を受ける中で、「この施策はうまくいかないでしょ」「この戦略は的外れなんじゃない?」と、愚痴をこぼしたことがあるって人は多いはずです。というか、無い人なんていないでしょう。

疑問や批判を持った裏側には、「こうしたらもっと良くなる」というアイディアがあるはずなんです。そのアイディアに、マネタイズやマーケティングといった裏付けを付加していけばいいんです。いきなり提案書を作ってクライアントに持ち込むのはハードルが高いというのなら、ミーティングの際に口頭で伝えてもいいでしょう。的外れでもいいから、外部に向かって表現することが大切。これがビジネスを設計できるようになる第一歩です。

僕自身、Webディレクターとしての経験は6年くらいしかありません。しかも最初の2年間くらいは、メルマガの原稿書きっていう、いわゆる下積みの仕事でした。現在、携わっている仕事はすべて経験したことのないものなんです。それでも、大きな企業と組んでプロジェクトを運営したりできている。

必要なスキルをすべて身に付けて、それが自然に評価されて、このような環境にたどり着けたわけではありません。「こうしたらもっと良くなる」と思ったことを企画にして提案し、結果が出るまでやり続けた。成功するまで失敗を繰り返した。それが、現在の状況を作り上げたんじゃないかな?と思ってますよ。

自分のキャリアには、自分で責任を持つしかない。成功するまで失敗をし続ければいい

Webディレクター マイルストーン ── お話を伺っていると、中村さんは自分の中のアイディアを発信することに非常に積極的な印象を受けます。

中村氏:僕も日本の学校教育で育ってきましたし、元々は階段型思考の人間ですよ。でも、どこかで強制的にスイッチを入れたんだと思います。別に特別なきっかけなんか無いんですが、ある日「自分のキャリアには、自分で責任を持つしかない」と気付いただけです。

これまた当たり前の話なんですが、自分のがんばりをいつか誰かが勝手に見つけて評価してくれるはず…なんて、そんな都合のいい話はこの世に存在しないんですよね。

僕がWebディレクターとしてのキャリアをスタートさせた当初、ある中小企業の経営者と二人で、ゼロからWebビジネスを構築するプロジェクトを担当しました。先方は年配の方なのでWebに関する知識は一切なく、僕はほとんど家にも帰れませんでした。自分で言うのもなんですが、すごいがんばったんですよ。

結局、そのプロジェクトは年商数億円の事業にまで成長し、成功していきました。でも、僕の給料は1円も変わらなかったんです。そこまでやっても年収は300万円台レベルのまま(苦笑)

そのとき、目の前のことをがんばるだけでは誰も評価をしてくれないということに気付いたんですよね。自分が努力した分の評価を得るためには、自分自身で発信しなければならないというか。

── 自分から発信して行動するという裏側には、必ず失敗への恐怖が付きまといます。その恐怖とはどのように付き合っていけばいいのでしょうか。

中村氏:たとえ失敗したとしても、目標に向かっているのであれば無駄なんかじゃない。と、自分を信じるしかない。ですかね。

「失敗しないように」という発想をやめて、「目標を達成するためには、今日、何をすればいいのか」ということだけを考える。

僕自身もたくさんの失敗を重ねてきています。しかし、成功するまで失敗を繰り返すという思考の人間にとって、失敗はただの検証結果に過ぎません。Webサイトが閉鎖しても、関わった人間がバラバラになっても、損害賠償の請求を受けても、僕の心が折れなければ、それは成功に至る道のりなんです。

失敗を恐れて、できることだけを繰り返していくのは時間の無駄です。キャリアアップという観点で見るとマイナスにしかなりませんから。

ちょっとだけでも構わないので、理想像に向かって背伸びをして仕事をしてください。それが、Webディレクターとしてのキャリアアップに…というか、自分の人生と向き合う機会になっていくはずですから。

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