映画業界からWeb動画の世界へ!新しい表現を追求し、映像に「愛」を込める制作の現場 ―― オープンエイト 山本文子氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.19
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
Web広告や企業PRなど、Webの映像制作のニーズは高まり続けている。そんな中、スマホでの視聴を狙い、Webメディアの分野にも動画を利用したコンテンツが増えてきた。株式会社オープンエイトが運営する「おでかけ動画マガジン ルトロン」もそのひとつだ。
「ルトロン」は女性ターゲットに絞り、飲食店などへの取材を元に月200本近くの動画記事を制作。将来的には月1000本まで拡大するという。少人数のチームで大量の動画を制作しつつ、クオリティーを保つ工夫とは?また、映像ディレクターに必要な資質とは?「ルトロン」で映像編集を手がける山本文子氏にお話をうかがった。
女性をターゲットに、ユーザの心を動かす体験を創るオープンエイトの事業内容とは
── 株式会社オープンエイトの事業内容について教えて下さい。
山本氏:「ライフスタイルに革新を起こし、世界を豊かにする。」というビジョンのもと、マーケティング事業とメディア事業を軸に展開しています。マーケティング事業では、日本最大規模の女性系動画マーケティングプラットフォーム「OPEN8 AD Platform」を、メディア事業では日本最大規模のおでかけ動画メディア「ルトロン」を主に提供しています。どちらも女性をターゲットにしているのが特徴です。
── オフィスにも女性の姿が多いですね。
山本氏:社員全体の6割ほどが女性メンバーですね。2015年4月に設立したベンチャーですが、スタートアップらしい雰囲気も持ちつつも、人事制度をしっかり作って社員をきちんと評価しようという風土も育っていると感じます。働きやすさという面では、15時に退社できる「ルトロンデー」を第2金曜日に設けています。女性メンバーの仲が本当に良くて、ルトロンデーにはルトロンで取材したお店へみんなで食事に行くこともあるんです。
── 山本さんはルトロンに携わられているとお聞きしました。
山本氏:はい、そうです。ルトロンの製作は3つのチーム、「コンテンツ企画」「映像編集」「ソーシャル」に分かれています。私は映像編集のチームに所属していて、メンバー6名でルトロンに掲載する動画の製作を行っています。
クオリティーの高い動画を量産する映像編集チームならではの仕組み
── ルトロンの動画は、30秒前後で飲食店などをおしゃれに紹介しているのが印象的ですね。
山本氏:ありがとうございます。Webメディアはコンテンツの量産に重きを置きがちなのですが、ルトロンはクオリティーを担保したまま本数も増やす、という点を強化しています。現在は一人あたり月100〜150本を担当しており、8月を目処に全体で月1000本制作を目標にしています。
── 業務はどのように進められているのでしょうか?
山本氏:動画の撮影は様々な撮影機材を使っています。はじめは自分たちで撮影・編集を行いますが、本数増に伴って外部のパートナーに撮影・編集を依頼することもあります。撮影前日に調理工程や商品など、お店の売りとなるもの・推したいものを決め、取材者と共有しています。取材には同行することもありますし、信頼がおけるパートナーであれば全てお任せすることもありますね。編集については、自分たちですることもあれば、外部のパートナーがそのまま行うこともあります。最終的なクオリティーのチェックは自分たちで行います。
── 台本やコンテも作られるのでしょうか?
山本氏:映像のフォーマットをいくつか決めています。例えば、一つの商品を推しているお店ならその商品にフィーチャーしたり、お店の内観が素敵なお店なら内観を重視した構成にしたりと、フォーマットが分かれています。撮影前にどのフォーマットで構成するかを提案するのも私の役目です。
フォーマットは「クオリティーを下げずに美しい動画を量産する仕組み」と捉え、2016年5月のルトロン立ち上げ時から映像編集チームで力を入れて作成しています。現在も、実際のユーザーの反応を元にPDCAを回しながら、フォーマット自体を更新しています。
── 女性ターゲットの映像を制作する上で、特に意識されていることはありますか?
山本氏:ルトロンのユーザーは8〜9割が女性です。ルトロン制作チームもほぼ女性なので、取材先については「本当に自分たちがそこに行きたいと思えるかどうか」という感覚を大事にしています。テレビで取り上げられているお店でも、自分たちが「あれ?」と思うようでは、ユーザにも響かないのではと。やはり、自分たちが素敵だと思って撮影したお店はユーザからの反応も多いですね。
── 特に印象に残っている取材はありますか?
山本氏:年末に関東近郊のイルミネーションスポットを10数カ所回ったことがあります。イルミネーションはそのまま撮影するとどうしても似た映像になるので、スポットごとの特色やこだわりを表現できるよう苦労しました。遊園地のイルミネーションでは、俯瞰で撮影できる場所がどうしても見つからず、最終的にジェットコースターに乗りながら撮影したんです。ガムテープを手にぐるぐる巻いてカメラを固定して……。多少怖い思いもしましたが、撮影した映像は今まで見たこともないアングルで、とても思い出に残った取材でした。
映像の仕事に集中したい。映画業界からWeb動画の運営サービスへ
── 山本さんの経歴についてお聞かせください。
山本氏:学生時代は映画系の専門学校に通い、映像表現を学んでしました。卒業後はフリーランスとして映画業界で活動し、最初は「助監督見習い」からはじめました。現場では助監督も少し担当したのですが、とにかくハードでしたね。睡眠時間も2時間寝ればいいという感じで……。この生活を続けるのは厳しいなと思う一方、映画には携わっていたかったので、自分で脚本を書きはじめたんです。時間がかかったのですが、2014年に書いた脚本を撮影できることになって、今年4月に1館だけですが劇場公開もされました。
── 映画業界を離れようと思ったきっかけはなんだったんでしょうか。
山本氏:脚本を書いた映画が劇場公開されたことで、自分の中でひとつ区切りがついたんです。映画の仕事自体も大変でしたし、脚本に携わっているあいだ、映画以外にもWebCMや企業PRビデオの仕事も続けていました。また、事務作業も全てこなす必要があるフリーランスより、企業に入ったほうが映像の仕事に集中できるのではという想いもありました。
転職先を探すなかで、Web動画のサービスを運営している企業はたくさんあったのですが、映像のクオリティーを重視する企業はほとんど無かったんです。ルトロンがクリエイティブにこだわった映像を作られているということで、オープンエイトに興味をもちました。入社したのは2016年10月のことです。
── 映画の映像表現と、Webの映像表現に違いを感じる部分はありますか?
山本氏:Webはトレンドの移り変わりが早いので、日々他のメディアをチェックしています。最近ではレシピ動画などで「早回しで見せる」手法も増えてきましたよね。ルトロンでも早回しやスローモーションなど、Web動画ならではの表現を取り入れるようにしています。
また、構成の面で言えば、Web動画の場合は最初に山場を持ってくることが多いですね。テレビなどは最後まで見てもらうために後半まで売りとなる部分を引っ張ることが多いですが、Webの場合は画面をスクロールする手を止めてもらうために頭で引き付けないといけないんです。こうした違いも制作の刺激になります。
アンテナの感度を高め、新しい表現を追求
── 山本さんが映像制作をするうえで、心がけていることを教えて下さい。
山本氏:何か新しい表現を入れたい、とは常に考えています。フォーマットを決めて制作をしていますが、毎回同じような作りではなく、どこかに新しい要素を盛り込めたらと、試行錯誤を繰り返しているところです。
── 新しい表現のインスプレーションを得るため、参考にしているものはありますか?
山本氏:先程Webとテレビの映像の違いをお話しましたが、やはりテレビの情報番組の見せ方には学ぶところは多いですね。一つの商品を紹介するために、生産者のインタビューや工場のレポート、商品を扱う商店の取材まで行うなど、取材の量と切り口の多さはすごいなと思います。物撮りも「この湯気はどうやって出しているんだろう」と、作り手だから気になる部分もありますし、ノウハウをうまくルトロンでも吸収できたらと思いながら見ています。
── アンテナの感度をあげる、というのは、映像ディレクターの仕事をする上で大切のように思います。
山本氏:アンテナでキャッチしたものを上手に見せる「演出」も、映像ディレクターに必要な資質ですよね。例えば、撮影現場で完成版の構成をイメージして、必要なものを的確に撮影したりとか。演出はある程度撮影と編集の知識が必要な仕事だと思いますし、演出ができる人材はとても貴重だと思います。ルトロンでも演出ができる人を強く求めています!
── 店舗の取材は1次取材ですから、見せ方も工夫しがいがありますね。
山本氏:そうですね。「1次取材」というのもルトロンの売りのひとつです。Webメディアのなかには2次情報を扱うものも多いですが、やはり1次取材のほうが楽しいと感じます。お店の方と話して、どこにどんなこだわりがあるかを聞くのも面白いですし、どう映像に表現するか考えるのも楽しいです。工夫しがいがあるぶん、やりがいも感じますね。
映像業界は過酷な環境ばかりではない。オープンエイトで感じた映像業界の可能性
── これからの目標を聞かせてください。
山本氏:現在は飲食店の動画をメインで制作していますが、ハウツー系の動画やヨガなどのエクササイズ系なども網羅していけたらと思っています。ファッションや身だしなみ、マナーなど、おでかけに関わるものも手がけたいですね。Web動画の表現にはまだまだ可能性を感じるので、幅広くチャレンジしていきたいです。
── 最後に転職者へのメッセージをお願いします。
山本氏:映像業界はまだまだ男性がとても多いですし、体力的にハードな現場もたくさんあります。私がオープンエイトに入社して驚いたのは、そんな過酷さを感じさせずに社員が活き活きと働いていたことなんです。
もちろん忙しい時期もありますが、ルトロンデーなど働きやすさを重視した取り組みも行われています。いま、映像業界で過酷な環境で働いている方に伝えたいのは、「いい環境でいいものを作ることもできる」ということ。心身が整えば、取材先への興味や愛情も高まります。そうした感情は制作した映像にも現れますし、ユーザも感じ取れるものですから。
インタビューを終えて
取材は原宿にある株式会社オープンエイトで行われた。開放感があり、細部まで内装にこだわったオフィス。女性の姿が多く、活気あふれる職場。改めて山本氏の「いい環境でいいものを作ることもできる」という言葉を思い出す。映像業界で転職を検討している人材には福音となる言葉だろう。
Webの映像制作はトレンドの移り変わりも早く、インプットとアウトプットの蓄積がキャリアを拓く鍵となる。量産とクオリティーを両立する「ルトロン」のあり方は、映像制作における一つの解となるだろう。さらなるコンテンツの拡充を目指す「ルトロン」と、同社の動向に注目していこう。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。