Web業界進化論 実践講座#01 〜クライアントワーク、事業会社で求められるWebディレクターの役割〜 セミナーレポート
去る12月3日、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#01 クライアントワーク、事業会社で求められるWebディレクターの役割」が開催された。
Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第1弾となる今回のゲストは、ナイル株式会社の高松建太郎氏だ。支援側、事業側、双方の立場を経験した高松氏による、Webディレクターのキャリアについての講義が行われた。
講師プロフィール
高松 建太郎氏
ナイル株式会社
デジタルマーケティング事業部 事業COO
チームSPEC. 顧問
2000年大手Web構築ベンダーに入社。5年間で数多くのWebサイトコンサルティング・構築をWebディレクター、プロデューサーとして手が掛ける。2006年国内最大手賃貸不動産メディアに入社。グループの物件検索サイト全面リニューアルをプロデュース。その後、Webシステム統合プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務める。2008年株式会社クリエイティブホープ入社。発注企業側と受託側双方の豊富な経験を生かし、多数の企業のWebサイトコンサルティングおよびその構築で活躍。EPARK本部、ペットライフでのサービス統括を経て、現在はナイル株式会社の事業COOとして、デジタルマーケティング事業をマネジメントする。
支援側で働くことと、事業側で働くことの違いとは?
「Web業界進化論 実践講座#01」は、高松氏が自身のキャリアを振り返るところからスタートした(詳細は、開催直前インタビュー - 支援側と事業側、両者の経験から語るWebディレクターの可能性をご覧ください)。
支援側からキャリアをスタートさせたのち、事業側に転職した高松氏。その後、Webコンサルティングファームなどを経て、現在はナイル株式会社でCOOを務めている。
支援側と事業側、双方の経験を踏まえ、高松氏はWeb業界に関わる職種を「スペシャリストorジェネラリスト」「事業側or支援側」という2つの軸で分け、それぞれの環境の違いや特徴について整理した。
スペシャリスト側には、プログラマーやデザイナー、サーバーエンジニアなどが含まれる。これに対し、ジェネラリスト側に位置するのがWebディレクターである。
働き方の特徴としては、支援側の人材は多種多様な案件に携わり、スキルの向上が見込まれるが、多忙なのが正直なところ。一方、事業側は限られたテーマに携わるため、比較的時間に余裕が生まれるが、スキルの伸びはそこまで期待できない、と高松氏は言う。
高松氏:支援側でさまざまな案件を経験しスキルを伸ばしてきた人が、そのスキルを事業側で試してみたくなる、という流れはすごく多いと思います。実際に私もそうしたキャリアを歩んできました。支援側から事業側へ転職する、つまり両方の立場を経験し、双方の気持ちがわかる人材になれば市場価値も上がります。もし、今、支援側で経験を積んできた人が事業側への転職を考えているなら、「それは間違いなく行ったほうがいい」と思うんですね。
では、支援側で働くことと、事業側で働くことでは、具体的にどんな違いがあり、そしてその違いからどんなことが経験できるのだろうか。高松氏は「Web業界動向のキャッチアップ」「社内環境」「仕事の根本スタイル」「クライアントとベンダーの関係」という4つの違いについて説明した。
支援側にはWebの人材がそろっているため、仲間意識が強く、業界動向も自然とキャッチアップできるもの。対して事業側はWeb人材以外にも多種多様な人材が集まっており、刺激を受ける一方でWeb業界の最新情報は入りづらい。これが「Web業界動向のキャッチアップ」と「社内環境」における違いだ。
残る「仕事の根本スタイル」と「クライアントとベンダーの関係」は、受発注の立場の違いで起こるもの。コンペで勝ち取った案件に最高のパフォーマンスを発揮するのが支援側の仕事なら、支援側への投資を元手により多くの利益を生み出すのが事業側の仕事。利益のためには仕様変更や方針変更もやむを得ないが、受注側からすれば振り回される印象が残る。
支援側 | 事業側 | |
---|---|---|
Web業界動向のキャッチアップ | Web業界動向のキャッチアップがしやすい | Web業界の最新情報は入りづらい |
社内環境 | Web人材がそろっており仲間意識が強い | Web以外にも多種多様な人材がいて刺激的 |
仕事の根本スタイル | 勝ち取った案件で最高のパフォーマンスを発揮する | より多くの利益を生み出す |
クライアントとベンダーの関係 | 仕様変更や方針変更に対応しなければならない | 利益のためには仕様変更や方針変更が発生する |
高松氏:決められた予算内で納期を守ること(支援側)も、経営層や関連部署と調整しながら事業を完遂させること(事業側)も、どちらも胃が痛い仕事です。双方を経験することは簡単ではありませんが、お互いの気持ちがわかることで見えるものもあります。相手が何に悩んでいるのか、どんな目的があってそうしたいのか。想像し相手の立場を理解することができれば、解決すべきことの本質が見えてきます。そもそも私は、そういったことを日頃から考えているWebディレクターは、これからますます企業から求められる存在になると思うんです。それこそ事業を興すことに向いているんじゃないかと。
「Webディレクターが事業を興すことに向いている」とは?高松氏がそう思う根拠は、後半の講義で語られた。
フレームワークで考えることはWebディレクターの強力な「武器」
講義の後半では、企業で必要とされている人材について語られた。時代の流れが反映されやすいWeb業界において、同じサービスが5年続くなんてことはほとんどない。そうなると、企業は、未来の主力事業を育成するために、自ら事業を作り出せる人材を求める。それが社内で起業する人材「イントラプレナー(社内起業家)」だ。独立して起業する「アントレプレナー」に対して、社内で起業する「イントレプレナー」。Webディレクターには、このイントラプレナーの素養がある、と高松氏は言う。
高松氏:大なり小なり、Webプロダクトを作っていくのは「小さな事業」なんですね。お客様とコミュニケーションを図る、ターゲットを考える、最適な形で構築する……ということをWebディレクターは日常的にやってきました。成果の分析もするし、恒久的な運用の計画も立てる。正面からWebディレクターに取り組み、これだけの経験を積んだ人材なら、事業にも力を発揮できるはずです。
そのように語る高松氏からWebディレクターとしてやっていくうえで、「考え方としてすごく役に立った」、「Webディレクターっぽい」という3つのフレームワークや考え方が紹介された。
リーンダイアグラム
新規事業を立ち上げるときに、成功理由や確度を説明するために用いるフレームワーク。
プロダクトオーナーという概念
企画部門や開発部門、テクニカル部門の関係を可視化することによって、プロダクトを実現させるまでの道筋を理解できる。
キャンバス
ビジネスモデルを俯瞰して議論するのに役立つフレームワーク。
リーンダイアグラム
リーンダイアグラム(上図)は、左側にターゲットユーザ戦略を立て、右側にサービス設計やプロダクト価値を定義する。真ん中の部分は効果の測定だ。ユーザーに何が響くのか、それに対しどんなサービスを作るのかを考え、リリース後に効果測定を行う……まさにこれは「Webディレクターの仕事っぽいですよね」と高松氏は指摘する。
キャンバス
高松氏:たとえば長年事業責任者を務められている方はビジネス感覚が優れているので、話の話題がいろんな方向に向かうこともあります。ただそういった方々は複雑な組織活動の全体像を思い浮かべることができているんですよね。そこで企業のビジネスモデルをキャンバスで整理すると、ここの話をしていたのか、とわかる。Webディレクターとして事業側の偉い人とコミュケーションを取るうえでも、とても役立つフレームワークです。ビジネス感覚についていくため、僕たちはフレームワークで戦う、という形ですね。紹介したこれらのフレームワークや考え方は実践で使えるので、ぜひ取り入れてみてはいかがでしょうか。
変化を楽しめる人が、いつの時代も生き残っていく
講義の最後を締めくくるスライドには「『強い者』ではなく『変化できる者』が勝つ」という言葉が映し出された。
高松氏:自分のキャリアを振り返ると、デバイスがどんどん変わっていったんですね。PC上で見るWeb制作から、ガラケーやスマホ、マルチデバイスへと対応していった。ゼロベースから勉強し直したことも何回もありました。変化の時代にあって、強いものだけが生き残れるわけではない。変化を怖がりつつも楽しんでやれる人が、いつの時代も生き残っていくのだろうと思います。支援側や事業側へ移るのも、変化を必要としますから。
また最近ではフリーランスへ転向する流れも生まれているが、高松氏自身は「企業内でできることがもっとある」と語る。
高松氏:フリーランスになるという選択肢ももちろんあると思います。ですが、フリーランスの場合、現実問題として収入のために仕事内容に目をつぶることもあるだろうし、案件規模がスケールしないといったこともあるかもしれません。そう思うと時間の使い方として、もしまだまだスキルを伸ばしたいという気持ちがあるのであれば、支援側で満足いくまで突き詰めてもいいのではないでしょうか。繰り返しになりますが事業側を1回経験するのもよいですね。キャリアはこの先も続いていきますし、フリーランスにはなろうと思えばいつでもなれます。自分の市場価値を見定めつつ、事業にトライする価値はあると思いますよ。いずれにせよ、Webディレクターのキャリアパスはさまざまなんです。
セミナーを終えて
「スペシャリストかジェネラリストか」「支援側か事業側か」……。高松氏の講義は、キャリアに悩めるWebディレクターの立ち位置をはっきりさせ、その先を明るく照らす内容だった。支援側と事業側の違いを具体的に説明し、実務で役立つフレームワークを紹介されたのも、ご自身が双方のキャリアを経験したからこそであろう。
Webディレクターという役割に真摯に向き合う人は、事業を立ち上げる力が身についている、という高松氏の分析は、キャリアの選択肢を大きく広げるものになると感じた。自分の市場価値を改めて見直すきっかけにもなるのではないだろうか。
「Web業界進化論 実践講座」はこれからもさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。