Web業界進化論 実践講座#12 〜事業会社/制作会社/広告代理店を経験してきたWebディレクターが伝えるWeb業界の歩き方〜 セミナーレポート

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去る2021年11月30日(火)、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#12 事業会社/制作会社/広告代理店を経験してきたWebディレクターが伝えるWeb業界の歩き方」が開催された。

Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第12弾となる今回は渡辺徹氏をゲストに招き、広告業界とWeb制作業界の違いや、経験の掛け合わせによるキャリア形成について語られた。

講師プロフィール

渡辺 徹氏

渡辺 徹氏
個人事業主 SPINE
Webディレクター

1983年生まれ、神奈川県出身のWebディレクター。大学卒業後、広告代理店、バー店員、Web制作会社などを経て、2015年より個人事業主。制作業界と広告業界双方の経験を生かし、クライアントのデジタル領域の事業課題に対して横断的アプローチで解決を図る。Webディレクターとしては“SPINE”、ラジオなどのコンテンツ企画制作は“サンデー企画”として活動中。

渡辺氏のTwitterアカウントはこちら

経験やスキルを棚卸しし、掛け合わせることで活路が開ける

渡辺氏は広告代理店の営業からキャリアをスタートさせ、事業会社や制作会社などを経て、現在は個人事業主として独立している。セミナーの前半は渡辺氏のキャリアを振り返りながら、「自身の経歴と今に活かせていること」について語られた。

渡辺氏が新卒で就職した広告代理店は、マスメディアや屋外広告など多様な媒体を取り扱っていた。渡辺氏は「社会人1年目の経験が今でも基盤となっている」とし、中でも「仕切り」と「握り」の大切さを学んだという。

渡辺氏:「仕切り」は制作進行、「握り」は合意形成のことです。どういう目的で、どれくらいの金額で、どういうスケジュールで進めるのか、しっかりお客さんと合意形成をすることがやはり大切です。現場を駆け回りながら制作進行をした経験は、Webディレクターとなった今でも大きな糧になっていますね。

広告代理店で3年間経験を積んだ後、渡辺氏は友人のバー経営を手伝うことになる。前職の経験を活かしてネット集客にチャレンジもしたが、中小企業経営のリアルにも直面した。さらに1年後、Webメディアの事業会社にアルバイトという形で転職する。

渡辺氏:未経験ながらWebディレクターとして1年半ほど働いたのですが、不況の煽りを受けて会社自体がなくなってしまうんです。20代は3社連続で挫折が続いた形で、転職しようにもキャリアがバラバラ。どの求人に応募したらいいかもわからない状態でした。

ここで渡辺氏に「第1の転機」が訪れる。初めて転職エージェントに相談し、キャリアの棚卸しを提案されたのだ。

転機1 転職エージェントでの「キャリアの棚卸し」

渡辺氏:それまでの3社から「広告営業の経験」「中小企業の経営」「Webディレクター」と経験を抽象化して、スキルを整理してもらいました。これを掛け合わせることで活路が開けると、コンサルタントに励ましてもらって。そして実際に、大手のネット広告代理店に転職が決まりました。

ネット広告代理店ではデジタルマーケティングを最前線で学び、アクセス解析や広告運用の数字がいかに大切かを叩き込まれたという。その後、知人の紹介でデザイン会社に転職し、再びWebディレクターとして制作進行に携わった。

こうした経験を踏まえ、渡辺氏は2015年に個人事業主として独立する。これが「第2の転機」だった。

転機2 そして個人事業主へ

渡辺氏:Web制作業界での広告や集客にまつわる業務で、個人的にお声がけいただくことが増えたんです。あのときキャリアの棚卸しをしてもらったからこそ、バラバラな経験が役に立つフィールドが見つかったのだと思います。

広告業界とWeb制作業界の間に流れる「広く大きな川」とは?

個人事業主となった渡辺氏は、広告業界とWeb制作業界のあいだの「橋わたし」をする立場にいる。そのきっかけは、同じWeb領域にあっても、2つの業界には大きな違いがあると気がついたことだった。

広告業界はWebサイトに人を呼ぶことは得意だが、そのあとの商品購入までコントロールすることは難しい。一方、Web制作業界はサイト構成やSEOを駆使し、商品購入までの導線を作ることはできるが、Webサイトだけでは集客に限界がある。

ほかにも、ビジネスモデルや大事にしていることなど、2つの業界には違いがある。担当する領域が異なるがゆえ、そこには深い断絶(広く大きな川)があると渡辺氏は説明する。

広告業界と制作業界の間に流れる「広く大きな川」

渡辺氏:ビジネスを成功させたい事業会社にとって、この「川」を横断するのは困難です。Web専業ではない企業ならなおさらでしょう。幸いにも、自分は「川」の両岸を経験しています。広告と制作の橋わたしをする立場になれば、自分の価値が発揮できると気づき、現在のメインの仕事としています。

複数の経験を掛け合わせた結果、渡辺氏には「Webディレクターでありながら広告や集客も熟知している」という強みが生まれた。Webディレクターも集客の視点を持つことで、「案件に長く関われる」「領域が広がる」といったメリットが生まれるという。

渡辺氏:集客の知識があれば、アクセス解析などの数字から、自身が携わったWebサイトの成果を把握できます。それだけではなく、さらに一段上の「ビジネスへの集客」という視点に立てば、サポートによってサービスの継続性を高めることや、Webサイト以外の選択肢を模索することもできるでしょう。

Webディレクターに必要な「集客」視点

セミナーの終盤、渡辺氏は改めてスキルの掛け合わせについて触れ、「今までの経験が無駄ではなかったと思えるようになった」と話す。広告営業とバー経営の経験があるから、飲食店のWeb活用を手伝えるようになり、ネット広告代理店とメディア事業のWebディレクターの経験があるから、Webベンチャーの集客支援も可能になった。

渡辺氏:私の例ではないのですが、元バンドマンから未経験でWebディレクターになられた方の話も印象深かったですね。その方はバンド活動中にグッズ制作をされていたんです。業者から見積りを取り、どれくらい作って、どれくらいで売りさばけるか、数字の感覚を持っていた。その経験を生かして、今はエンタメ系企業のプランナーとして活躍しています。

スキルの掛け合わせで価値となるキャリア形成ができるかも

渡辺氏:冒頭に「仕切り」と「握り」の話をしましたが、どんな仕事にも仕切り(ディレクション)は存在します。特に複数の関係者が絡む場面では、仕切りの善し悪しが生産性に直結するでしょう。ですので、今Webディレクターをされている方は、どんどん前のめりで仕切ってみてください。いずれ、ご自身のキャリアや経歴と掛け合わせた、価値のある仕事が生まれてくるはずです。

販売員の経験が、ECサイト運用に役立つ理由とは?

セミナーの最後、渡辺氏は「一番伝えたいメッセージ」として、ある楽曲の歌詞から「川をわたれ!You Can Do It!!」というフレーズを掲げた。

渡辺氏:私は広告業界と制作業界の間の「川」をわたることで、仕事に繋がりました。この「川」は、さまざまな経験を積んだからこそ気づけたものです。皆さんが今なさっている仕事は、必ずなんらかの領域で活かせますので、いつか「川」に気がついたときは恐れずにわたってもらえたらと思います。

セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。

事業会社、制作会社、広告代理店との仕事をする中で、Webディレクターとしての立ち回りの違いや、感じられる醍醐味を教えてください。

個人事業主でありながら、ビジネスのダイナミズムを感じられるところです。

広告代理店では制作視点を持っていること、制作会社では集客視点を持っていることに価値を感じていただけているように、私のWebディレクターとしての立ち回りはそれぞれで違っています。とはいえ、外部パートナーとして受託で制作を担ったり、集客を請け負って広告に携わったりするわけですから、どちらも一歩踏み込んだコミュニケーションが必要なのは変わらないですね。私がクライアントに合わせて、この「一歩踏み込んだコミュニケーション」ができるのは、これまでさまざまな業界で得たスキルの掛け合わせがあったからです。

個人事業主でありながら、一歩踏み込んで、エンドクライアントのビジネスに近い立場で仕事ができていること、何らかの施策を行えば、ダイナミックに数字の変化を実感できることは、今の仕事のやりがいであり、醍醐味だと思っています。

「広告業界と制作業界の橋わたし」となると、さまざまな業務内容が想定されると思います。どんな料金形態を設定しているのか、差し支えない範囲で教えてください。

基本的に人月換算で見積もっています。

クライアントによっていろいろなケースがありますが、基本的に人月換算、いわゆる工数見合いで設定しています。たとえば事前に「月に30時間の稼働を目安に動きます」といった契約をして、30時間ならこういうことができますよと提案したり、超えた分は契約を見直しましょうと交渉したり、といった形ですね。

もちろん、顧問契約のように固定費で契約するやり方もあります。ただ、どれだけ頑張ってもパフォーマンスを出せないときもあるので、固定費でもらうのは申し訳ないなと思ってしまうんです。パフォーマンスに対して気持ちよくお金を払ってもらえるように、こうした契約形態にしています。

販売員の経験があるのですが、ECサイトの仕事に興味があります。ECサイト運用・制作のポジションでアパレルメーカーの面接を受ける場合、どうやって自分をアピールすればよいでしょうか。

接客の視点がECサイト運用に活かせることをアピールしましょう。

もし自分だったら、自己アピールより先に、その会社の事前調査に時間を割きたいですね。ECサイトを持っているブランドでも、実店舗、またはECモールでの売上のほうが断然多いブランドが大半だと思います。企業によってECサイトに対する重要度も変わってきます。事前の調査から「こういう課題を持っていそうだ」と仮説を立て、販売員の経験をアピールするか、Webサイト制作の経験をアピールするか、出すカードの内容を判断することになると思います。

あと、販売員の経験はECサイトでものすごく役立ちますよ!実店舗はものすごく内装に凝っていたりするのに、ECサイトの作りが甘かったり、SNSの投稿に気を使っていなかったりする会社も少なくないんです。店舗と同じ「入口」なわけですから、Webでもよい印象を持ってもらうことが大切。販売の仕事をされていたのなら、接客の視点でECサイトを見ることができるのが大きな強みになると思います。

セミナーを終えて

渡辺氏は「第1の転機」が訪れるまで、「キャリアを棚卸しするという発想自体がなかった」と言う。“掛け合わせ”という発想を得て、バラバラだったキャリアに像を結び、独立という道も開けた。多くの経験を積んできたからこそ、掛け合わせの可能性も広がったのだろう。

業務範囲が広いWebディレクターは、それだけ多様な経験を積んでいる。となればWebディレクターは、多くの可能性を秘めた職業と言えるのかもしれない。

これからも「Web業界進化論 実践講座」はさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

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