Web業界進化論 実践講座#02 〜Webディレクターが押さえておきたい、クライアントワークにおけるビジネス視点とは?〜 セミナーレポート
去る1月26日、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#02 Webディレクターが押さえておきたい、クライアントワークにおけるビジネス視点とは?」が開催された。
Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第2弾となる今回は中井美緒氏をゲストに招き、Webディレクターが持つべきビジネス視点について語られた。
講師プロフィール
中井 美緒氏
チームSPEC. / 日本ディレクション協会 所属
DTPデザイナーとして紙媒体のデザイン経験を積んだのち、Webデザイナーに転身。現在は、Webディレクション業務に従事。ペルソナ・カスタマージャーニーの設計やアクセス解析を元にしたマーケティング目線でのWebサイトの設計、改修などを得意としている。
2019年6月〜フリーランスとなり、常駐をメインに個人でも新サービス構築のディレクションや、Web制作部の立ち上げ協力などを請け負う。また、プライベートの活動として、2018年より一般社団法人日本ディレクション協会に所属。講師、ミートアップの企画推進、セミナーのスタッフ等を行う。
キャリアの整理は「将来なりたい自分」をはっきりさせてから
前半では中井氏が自身のキャリアを振り返り、Webディレクターを目指すことに至った流れが語られた(詳細はWebディレクターに必要なビジネス視点とは ―― 中井美緒氏『Web業界進化論#02』開催直前インタビューをご覧ください)。
Webディレクターになると決める前、中井氏は2つの方法でキャリアを整理したという。1つは「100の欲望シート」。自分がやりたいことを、どんなに小さなことでも100個書き出すというもの。100個そろえることは容易ではなく、項目を絞り出す過程で「自分のやりたいことの傾向や優先順位」が見えてくるという。
もう1つは「青写真を描く」こと。5年後10年後に自分はどうなっていたいのか、仕事内容や年収を具体的に書くことで、やりたいことを可視化する。
中井氏:今の自分をベースに「どこへ向かうか」を考えると、行く先を見失ってしまいがちです。まず「将来なりたい自分」をはっきりさせてから、そこに向かうにはどうすればいいかを逆算することで、キャリアが整理できるのではと思います。
ビジネススキルとしてのディレクションに欠かせない「合意形成」
後半は「Webディレクターもビジネスを考えよう!」というテーマでスタートした。
中井氏は「一般的なビジネスの流れと、Webディレクションの流れは同じ」と説明する。ビジネスでは、達成すべき目標を企画に落とし込み、ターゲットや手法を設計してプロダクトを開発し、運用を通じて収益化する。こうした企画・設計・開発・運用の流れは、Webサイト制作でもよく見られるものだ。
中井氏:そもそも「ディレクション」とは、Web制作の枠に収まるものではなく、ビジネススキルとして広く求められるもの。アイデアを形にし、ビジネスを成長推進させるための創意工夫こそ「ディレクション」の核であると言えるでしょう。Webディレクターとして、ビジネススキルとしてのディレクションを意識してもらえたらと思います。
では、そのビジネススキルとしてのディレクションを実現するにあたり、Webディレクターに求められる役割は何か。中井氏は「ゴールを見失わずにみんなを導くこと」だという。
中井氏:ゴールを見失わないためには、デザイナーやエンジニア、そしてクライアントが「何のために今これを作っているのか」という認識を明確に持たねばなりません。そのために欠かせないのが「合意形成」です。
合意形成とは、プロジェクト全体のゴール、さらにフェーズごとのゴールを設定し、チームやクライアントがお互いの認識を合わせること。このとき、ゴール設定は主観を排除し、数字やロジックを持って設定するのが望ましい。合意形成でお互いの認識を合わせることができれば、手戻りを防ぐとともに、「言った言わない」といったトラブルも回避できると中井氏は言う。
また、合意形成が必要なのはプロジェクトの渦中だけではない。受注以前の段階である見積りの提示も、言わばクライアントとの「合意形成」だ。中井氏は「見積書は“契約書”である」とその大切さを説き、事前に前提条件と根拠を決めることを求めた。
中井氏:見積書に記載されたすべての項目には根拠があり、説明できるべきだと思っています。たとえば、前提条件として「制作ページ数は○ページと想定します」と定めることで、はじめて「コーディングに必要な工数は○人日」という見積りができるのです。
※中井氏が作成した実際の見積書
では、その根拠となる数字はどのようにして求めるのか。精度の高い見積りを算出するには、5つのステップがあるという。
契約内容を決める
準委任契約か請負契約か
開発方針を決める
ウォーターフォールかアジャイルか
WBSを洗い出す
プロジェクトのタスクを分解する
マスタースケジュールを引く
WBSを大まかなスケジュールに落とし込む
ガントチャートを引く
さらに細かいスケジュールを決める
タスクが細分化され、最終的に「この作業はいつ誰が何をする」が決まる。担当者の単価と作業日数がわかれば人日が計算でき、精度の高い見積りが実現できるのだ。
中井氏:見積書は、一人歩きする可能性が高い書類です。クライアントに渡せば、担当者やその上司、決裁権をもつ人物まで見ることになります。読むだけで理解できるように、前提条件や根拠など、細部まで気を配って記載する必要があると思っています。
クライアントへの見積もり、提案、値引き……どんなふうに説明できる?
セミナーの最後は質疑応答の時間が設けられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
見積りをしようにも、コンペなどは最初から詳細が決まっていないこともあります。
その場合はどうやって見積ればよいでしょうか?
前提条件が生きてくる。
コンペで提示されるRFP(提案依頼書)を元に、前提条件をこちらで決めましょう。「私たちはRFPをこう解釈しました。こういう工程で作ります。なので、この金額になります」と主張するわけです。案件受注後に前提条件が変わるようであれば再見積をさせてほしい、と断りも入れておきます。
コンペや入札案件の中には、あらかじめ予算が決まっているものもあるでしょう。そのうえで曖昧なRFPが出てくるようであれば、前提条件を決めても再見積となるか、受注後にトラブルになる可能性も否定できません。無理に見積もろうとせず、「不確定要素が多いので今回は降ります」という選択肢もあるかと思います。
クライアントへの提案が苦手です。
中井さんはどうやって提案内容の引き出しを増やしていきましたか?
クライアントが求めるものをひたすら考える。
Webサイト制作に限れば、「何を作るか」という提案は、ある程度過去の使い回しも効きます。こういうCMSを採用します、こういうコーディング基準でやります、という種類のものですね。
ただ、質問された方は、上記プラスアルファの部分を求めていると思うのです。それはもう、クライアントが何を求めていて、どういう言葉を待っているのかを、ひたすら考えることに尽きると思います。何が課題となり、どう解決したいのか。そのために私たちがどんなアプローチをできるのか。ロジカルに考え抜くことで、提案力が鍛えられるのではないでしょうか。
案件の予算感次第では、持参した見積りが「高い」となることも多いと思います。
減額した見積りを出すことはありますか?減額される場合は、どのように説明されますか?
出精値引きをすることも。ただし根拠を持って。
減額をする場合は、利益が出る範囲で「出精値引き」とすることもあります。根拠が必要なのは、出精値引きも同じ。何も言わずにただ減額するのではなく、「なぜこれを値引いたのか」を見積書に記載することが必要です。
たとえば、「構築後の運用を1年間発注していただける前提でこれだけ値引きします」と提示してもいいですし、「ページデザインは1ページのみ。他のページはワイヤーフレームベースでコーディングする」という条件も値引きの根拠となるでしょう。見積書を出す時点で「予算オーバーかも……?」と感じたら、あらかじめ値引きができる余地を作っておき、追って値引きに応じる、という戦略もありますね。
セミナーを終えて
キャリアの整理の仕方や、合意形成の大切さなど、中井氏が話す内容は具体的かつ実践的で、明日からすぐに役立つ内容だと感じた。特に見積書に関わるアドバイスは、悩めるWebディレクターも多いようで、質疑応答も活発に行われていた。
こうしたアドバイスに説得力があるのも、中井氏が現場で多くの経験を積んできたからだろう。失敗をそのままにせず、次にどう活かすのか考えるのも、「ビジネススキル」に欠かせない要素であると感じた。
「Web業界進化論 実践講座」はこれからもさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。