デザイン畑でありながらも、独学でプログラミングを習得!すべては思い通りのデザインを実現させるため ―― ヒトクセ 大木菜摘氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.06
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
Webデザイン、プログラミング、企画立案など、WebデザイナーやWebディレクターは複数の業務を兼任することがある。他の職種に比べて業務範囲が不明確なため、特にこれからWeb業界に転職を考えている方々には仕事のイメージをしづらいところが難点だ。
実際の現場では、どんな業務を行い、どんなスキルやマインドが必要なのか。応募先企業をリアルに知るため、実際に制作を担当しているポジションの方にインタビューを行うこととなり、今回は株式会社ヒトクセのデザイナー・大木菜摘氏にお話をうかがった。
おもな経歴
2002年 高校生 |
個人でWebサイトを開設し、HTML / CSS等を身につける。 |
2006年 専門学校でデザインを学ぶ |
ポスターなど紙のデザインを専攻。 |
2006年 イベント事業会社に入社 |
一般事務として勤務。個人でWebサイトを開設し、HTML/CSS等を身につける。 |
2008年 Web制作会社に転職 |
プログラミングを独学で学び、Webデザインとコーディングを担当。 |
2016年 株式会社ヒトクセにデザイナーとして入社 |
Webデザインのみならずパンフレット等のグラフィックデザインなど、会社全般のデザインを担当。 |
おもな使用ツール・対応言語
ユニークなコンセプトを持つ株式会社ヒトクセ。会社の軸となる理念と事業内容とは
── 株式会社ヒトクセの事業内容について教えてください。
大木氏:インターネット広告のクリエイティブの事業を行なっております。インターネット広告の市場規模は1兆円と言われており、急成長が見込まれている市場です。ディスプレイ広告の広告効果を向上させるため、リッチ広告・動画広告のプラットフォームである「Smart Canvas」や、ネイティブアド配信プラットフォームの「カメレオン」、環境データを動画広告に活用した「FIT AD」といったソリューションを提供しています。
── 「ヒトクセ」とはおもしろい社名ですね。
大木氏:「ヒトクセあるメンバーで、ヒトクセあるサービスを作る」というコンセプトがあります。設立は2011年。社員は約30名おり、その半数がエンジニアです。実は、デザイナーとして採用されたのは私が初めてなんです。
それまでは社内のエンジニアがデザインを担当していました。外部のデザイナーに発注することもありましたが、基本的には内製で賄っていました。会社の規模が大きくなり、クリエイティブの幅も広がるなかで、エンジニアがデザインを兼任することに限界が生じ、専任のデザイナーを募集することになりました。2016年10月のことです。
紙もWebも、会社のデザインに関することを全て担当。
── 専任のデザイナーとして、どのような業務を担当されているのでしょうか。
大木氏:バナーやWebのデザインだけでなく、パンフレットや名刺といった紙のデザインも担当しています。会社でデザインに関することは全部関わっていますね。もともと、一つのことだけ突き詰めてやるより、いろいろなことをやりたいタイプなので、求人の内容とマッチしていたと思います。
── 紙とWebでは意識の切り替えも必要ですね。
大木氏:そうですね。紙の場合は、印刷したときに読みやすいか、色はどう出るか、どういう紙を使うのかを考えないといけません。対してWebの場合は、コーディングやプログラミングが関わる部分も考える必要があります。
── Webデザインではどのような部分を担当されているのでしょうか。
大木氏:Webサイトのランディングページといった表に見える部分のデザインや、営業活動で用いられるサンプルギャラリーから資料など内部で使われる部分のデザインまで、幅広い用途のデザインを扱っています。コーディングもある程度は私のほうで行っています。
── デザインだけでなく、コーディングも自分で行っているんですね。
大木氏:Webデザインでは「こういう動きをさせたい」というイメージをエンジニアに伝える必要があるのですが、うまく伝わらずに「難しい」と判断されてしまうことがあります。それなら、自分で作って見せたほうが早い。自分でプログラミングを勉強し、サンプルを作ってイメージを伝えるようにしています。
特にリッチ広告などは、バナーの中でアニメーションが動くので、プログラミングをある程度理解する必要があります。プログラミングでできること・できないことを知っていれば、デザインの提案にも幅が出ます。プログラミングができることは目的ではなく、あくまで思い通りのデザインを実現させるための手段なんです。
── エンジニアとのコミュニケーションも密に行っているようですね。
大木氏:1日の中でも、打ち合わせをする時間が多いですね。クライアントからの依頼について営業サイドと打ち合わせをしたり、作る段階になったらエンジニアと打ち合わせをしたり。クライアントの制作だけでなく、自社のWebサイトの改修作業などもあります。細かい打ち合わせを繰り返しながら、作業を固めていく感じです。
自分でものを作る仕事がしたい、その思いを持ち続け転職へ。
── 大木さんの経歴についてお聞かせください
大木氏:学生時代、専門学校では紙のデザインを学んでいました。それとは別に、趣味でWebサイトを作っており、HTMLやCSSなどにはこの頃から触れていましたね。最初の就職先は一般事務でしたが、やはり自分でものを作る仕事がしたいとWeb制作会社に転職しました。
最初の転職先では、自社の案件だけでなく、SESで客先常駐になることもありました。コーポーレートサイトの請負や、自社サービスのデザイン、新規メディアの構築など、様々な案件を担当しました。上場企業からベンチャーまで、自社を含め8社ほど経験しています。この時にはもう、デザインに加えてコーディングも行っていたので、付加価値が評価されていたと思います。その後、別のシステム開発会社を経て、現在のヒトクセに入社しました。
── プログラミングの勉強のために、スクールに通われたりしたのですか?
大木氏:いえ、独学です。PHPやJavaScript、JQueryなど、Webや本で調べながら勉強しました。デザインのサンプルを作るのが目的なので、サービスとしてリリースできるクオリティではありません。セキュリティなどの専門的な部分はあくまでエンジニアに任せています。
ヒトクセでは勉強会や開発合宿も開催していて、学ぶ機会も多くあります。エンジニア向けのイベントなのですが、自分も勉強のため参加しています。社員の平均年齢が若いこともあり、勉強熱心だったり、技術力を追い求めたり、自分を高める企業風土が根付いている会社ですね。
── 転職の際、こだわったポイントはありますか?
大木氏:自分の職域にとどまらず、お互いの職域を理解して踏み込んでいけるような環境が理想でした。一人では限界を感じることでも、組織の力があればその枠を越えることができます。デザイナーとして「デザインを実現できること」が最も大事だと考えているので、組織だからできる、他の人と協力していいもの作れる、という点を重視しました。
「デザインの実現」は社外に向けたデザインに限りません。例えば、セールスの資料をデザイナーがブラッシュアップすることにより、お客様の良い反応を引き出すことができ、セールスサイドがモチベーションをアップするということもあるでしょう。社内のパフォーマンスを間接的に上げられるのも、デザインの力だと思うんです。そうした環境に身を置きたいと考えていました。
── オフィスの環境についてはいかがでしたか?
大木氏:ヒトクセに決めたのは、仕事のパフォーマンスにつながる環境がとても考えられていたのもポイントでした。セキュリティがしっかりしたオフィスや、モニタや椅子といった職場環境、コーヒーメーカーやお菓子など、一日のほとんどを過ごす場所が快適になるように配慮されているのは嬉しいですね。
有志による部活動など、仕事とは別のコミュニケーションツールもたくさんあります。営業しかり、エンジニアしかりデザイナーしかり、目指すゴールは同じなので、別の仕事をしているという意識はありませんね。会社全体がひとつのチームという感じです。
「北風と太陽」に例えるなら、太陽になるべき。
── デザイナーとして、持っていたほうがいいスキルを教えてください。
大木氏:なんでも持っていたほうが……(笑) 言語やツールは覚えれば済む話なので、それよりもデザインする上で必要なのは、様々な人の視点に立って物を見る力だと思います。考えてみれば当たり前のことなのですが、ユーザは自分と違うタイプの人がほとんどなんです。こう受け取る人もいるだろうなとか、こんなことが起きるかもしれないとか、考え抜いて広告を作らないといけません。
「北風と太陽」に例えるなら、太陽になるべきなんです。クライアントから「旅人のコートを風で吹き飛ばしてくれ」という依頼がきたら、指示されたままコートを吹き飛ばそうとするのではなく、本来の目的である「コートを脱がす」ことにフォーカスをあてて、方法を考えないといけない。達成したい目的や解決したい問題が絶対あるので、そのゴールを最初に必ず見つけること、そしてゴールを忘れないことが大事ですね。
ものを買うのもサービスを使うのもユーザです。「忙しいからクライアントに言われたとおりにやりました」ではなく、本当にユーザがついてくるか、売り上げにつながるかを考えないといけないと思っています。
── そうしたマインドを保つために、意識していることはあるのでしょうか。
大木氏:小説や漫画を読んだり、映画を見たり、インプットを忘れないようにしています。物語の登場人物によっては、自分と全く違う思考パターンを持っていて、思いもよらない行動をとることがありますよね。「こういう考えもあるのか」と引き出しをたくさん持っておくのも、ユーザを知るうえで役に立つのではないでしょうか。
将来はディレクションも視野に。エンジニアや営業の橋渡しをしたい。
── これからの目標を聞かせてください。
大木氏:現在はデザイナーが1名しかいないので、将来的にはもっと増えてほしいですね。グラフィック制作に長けているとか、デザインの力がある人が入ってくれば、私が現場で作業しなくてもいいという気持ちでいます。社内の職種間をシームレスにしたいとう想いが大きいので、ディレクションを担当できるようになりたいですね。エンジニアや営業との橋渡し的存在になれればと思います。
── 最後に転職者へのメッセージをお願いします。
大木氏:条件面も大事ですが、「自分の特性が活かせるか」、「やりたいことができるか」がやはり一番大事だと思います。ネームバリューのある企業だけでなく、さまざまな企業を見てほしいですね。自分の力を発揮できるような企業に目を向けると、意外な出会いも生まれると思います。
インタビューを終えて
ヒトクセ唯一のデザイナーとして社内のクリエイティブ業務を担っている大木氏。クリエイティブに妥協しない姿勢と、貪欲に吸収しようとする高い学習意欲が、今の大木氏の根底にあるのだと想像できる。
そんなポテンシャルの高い社員が集まる理由は、インタビューの中からも垣間見ることができた。仕事に向き合える環境がしっかり整備されており、エンジニアもデザイナーも、余計なストレスを感じることなく仕事に集中できるようになっている。ユニークに感じたのは、オフィスに炊飯器が設置してあり、炊き立てのご飯も食べられるそうだ。 そういった、業務の負担を和らげる工夫こそが、社員の士気を高め、生産性を向上させる一助となっているのだろう。
急成長が見込まれているインターネット広告業界の中で、複数のソリューションを展開し、着実に存在感を示している株式会社ヒトクセ。これからもヒトクセの向かう先に注目していきたい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。