デジタルで挑戦する数百万人、数千万人の共感。激変するマーケットに勝機を ―― サイバーエージェント 中橋敦氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.11
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
株式会社サイバーエージェントは「AbemaTV」や「Ameba」を中心としたメディア事業、「シャドウバース」「グランブルーファンタジー」などの数々のビッグタイトルを擁するゲーム事業、そして国内で売上高No.1を誇るインターネット広告事業と、日本のデジタルビジネスの最前線にあってもはや不動の存在である。今回はそんなサイバーエージェントのインターネット広告事業において、企業ブランディングを主軸としたブランドクリエイティブ部門で、自身はプロジェクトを担当するプランナーでありながらプレイングマネージャーでもある中橋敦氏に、これまでの体験や仕事の魅力、今後の展望について訊いてみた。
インターネット広告の枠を超えた、先進の可能性に挑むデジタルなブランディング
―― 今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。まずは中橋さんのおこなわれている、企業ブランディングのプランナーという仕事について教えてください。
中橋氏:クライアントの解決したい課題や実現したいビジョンに対して、デジタルを中心としたクリエイティブで応えていく仕事をしています。クリエイティブとして、クライアントの要望に応じて何かをつくる。これももちろんやっているのですが、既存のプロモーションの枠からはみ出して、全く新しいことをゼロベースでつくりあげる。そんなことにも果敢にチャレンジしています。
例えば、デジタルとフィジカルを融合させたプロモーション。現実世界でタッチをするだけでいいね!ができる『リアルいいね!』という仕組みを開発し、3万人規模の大型の音楽フェス会場に仕込んだり、通常では見るだけで終わりの電車中吊広告を、スマホでタッチするだけでネットに繋がる次世代のOOHを開発したり、渋谷・原宿の街を舞台とし、スマートフォンで宝探しをするような企画のプロデュースなどを手がけたりしています。デジタルセントリックな企画でありながら、実際に多くの人が足を使って動いてくれました。
―― いわゆるインターネットにおけるプロモーションという枠を完全にはみ出していますね。そんな発想は以前からお持ちだったのですか?
中橋氏:はい。今後ますます世の中全てがネット化していくと思うので、現実世界とデジタルをつないで何かできないかということは随分前から考えていました。しかし例にあげた、街を舞台にスマホを使った企画などは、数年前では実現不可能だったと思います。 スマートフォンの性能が向上し、通信速度や表現力の向上により、デジタルでできることが加速度的に高まった結果、初めて可能となった企画です。
中橋氏がこれまで手がけたプロジェクトの例とその目的
- デジタルとフィジカルを一体化し、街を舞台にスマートフォンを活用した企画を開催し、参加者へ商品・サービスに対する関心を喚起する。
- 見るだけで終わる電車中吊広告を、スマホでタッチ可能な次世代のOOHに昇華。現実世界にクリッカブルなポイントをおき、OOH効果の向上と効果計測を両立。
ポジションは自らつくる。チャレンジできる環境に可能性を感じて
―― 中橋さんの手がける企業ブランディングは、このような既存の枠を超えたものが多いのでしょうか?
中橋氏:新たなチャレンジの部分の話を先にしてしまいましたが、私たちの主戦場はあくまでWebで、基本を踏まえたWebプロモーションも私たちが本領を発揮する部分です。バナー広告や動画広告、SEOなどのマーケティングのロジックに基づいた展開を同時におこなうことで、枠にはまらない新たなプロモーション効果を発揮できるのです。Webプロモーションの部分でも「これが効く」という最適なメディアをその都度探っていかなければ、決して成功を見ることはできません。基本ができているからこそ、常に新しいチャレンジが可能です。
―― これまでの中橋さんの経験について教えていただけますか?
中橋氏:私はこのサイバーエージェントに2008年に中途で入社しました。それ以前は、商業施設のサービス改善コンサルや、テレビCM、パンフレット、Webサイトなどの制作をする総合プロデュース会社で仕事をしていました。先にも少し話しましたが、デジタルと体験を一体化させたプロモーションをやりたいと考えて転職を決意し、その頃デジタルの業界で躍進をはじめていたこの会社に転職したのです。
入社直後に配属されたのは営業でした。当時は、プランニングは営業が中心となりおこなっていました。クライアントへのコミュニケーション力と企画力。その両方が求められる仕事はやりがいがあり、前職でプランナーとして働いてきた私は、クライアントと最初から直接やりとりできるのはメリットだと考え、自分の仕事を拡げていったのです。この営業としての活動は、ことがはじまる前からクライアントの考えに普段から接することができるという意味で、その後の自分にとって大きな糧となりました。
入社から3年目のころ、社内にWeb PRの部門が立ち上がることとなりました。営業から転属して、その部署で最初のプランナーとして仕事ができることになり、今につながっています。 現在、私たちの所属するブランドクリエイティブ部門では、20名弱のプランナーが活躍しています。テクノロジーの進化、デジタルの重要度が加速度的に増すマーケットの中で、我々も次のステージへと駆け上がろうと日々頑張っています。
デジタルでこれまでにない「共感」をつくりだすサイバーエージェントが、自らに課す命題とは
―― サイバーエージェントのプランナーに求められるものは何ですか?
中橋氏:ゼロから何かを生み出せる力だと思います。これからのカオスの時代にはプランナーに必要な能力だと考えます。決められた枠の中でこれをつくりましょうというだけなら、私たちの仕事は半分です。成功事例のないところで成功事例をつくる。広いマーケットを見渡して、どこに勝機があるのかを見つけ出すことがプランナーに求められていると思います。 また、プロジェクトの舵取り役としての能力も求められると思います。プロジェクトに応じたベストメンバーを社内外で組むので、毎回チームが変わります。領域侵犯もしながら、互いにぶつかり合ってでも良いものを目指します。
枠を超えたチャレンジングな企画になればなるほど、社内でもクライアントともけんけんがくがく議論するのはいつものことです。摩擦を恐れずベストを尽くす折れない心も重要だと思います。
中橋氏の考えるプランナーの必要条件
- ゼロから何かを生み出す力。成功事例のないところに成功事例をつくる。
- プロジェクトに応じたチームビルド力。
- 摩擦を恐れずベストを尽くす強い気持ち。
―― 中橋さん自身が目指しているものについても教えてください。
中橋氏:現在チャレンジしている領域は、「マス的な効果をデジタルでどう実現するか」ということ。マスと言えるほどの多くのユーザーの心・体を、デジタルでどう動かしていくかという方法を模索しています。
趣味・嗜好含め様々なものが細分化されてきている中、極端に言えば、one to oneなコミュニケーションができるデジタル・コミュニケーションはますます求められるとは思いますが、一方、「みんな大好きな◯◯」とか、「懐メロ」などが少なくなるのも寂しいなとも思うわけです。音楽を例に取ってみると、いわゆるミリオンヒットと言われるような曲のほとんどが90年代に集中していて、21世紀に入ってからは激減しています。ストリーミングサービスなど音楽の視聴フォーマットが大きく変わっている事もありますが、「みんな聞いてるあの曲」が昔に比べて減っている事は実感値としてあると思います。 また、TVに関しても翌日誰もが話題に上げるといった超人気番組も少なくなってしまいました。それも時代だよと言えばそうなのかもしれませんが、「みんな大好きな◯◯」が多かったマス・メディア全盛時のあの体験が楽しかったのも事実。その辺りは人の本能に順ずるところかもしれません。
「マス的な効果をデジタルで実現する」というチャレンジが、one to oneで細分化されたコミュニケーションの先に実現されるのか、それとも1つの強いクリエイティブで大きな共感の渦を作った先にあるのかわかりませんが、やりがいのあるチャレンジだと思っています。
―― 最後にこのインタビューをご覧の皆さんにメッセージをお願いします。
今、広告業界は大きな変化の時を迎えていると思います。業界のかたちも、クライアントの意識も、ユーザーの行動も劇的に変わっている瞬間です。そんな大きな荒波の中で、風をつかんで新たな道を一気に駆け抜ける事が出来れば、その時のインパクトは大きなものになるだろうと感じています。 この大きな変化を前に、私たちクリエイターはとにかくカタチにしていかなければなりません。チャレンジと結果が常にセットでないといけませんが、自分達の手がけた仕事で人々の共感が得られ、心・体が動く。この楽しくてエキサイティングな仕事を前に、もし今あなたが傍観者でいるならばあまりにもったいない話です。この世界に飛び込んで、共に新しいコミュニケーションのカタチを作っていきましょう。
インタビューを終えて
デジタルによってあらゆるサービスが徹底的にカスタマイズされる中、私たちの喜びは細分化され、「共感」を得る機会が減っているのは確かだ。そんな中で業界の最先端をいくサイバーエージェントが、デジタルにおける「共感」を目指しているのは筆者にとって驚きであり、大きな期待にもなった。私たちは個人の嗜好を追求するあまり、失ってしまった「共感」に飢えはじめているのである。
サイバーエージェントはこの「共感」をその最も得意するデジタルで復活させようとしているのだ。私たちはこれまでのTVに変わる共感を取り戻すことができるのか?サイバーエージェントと中橋氏と今後の活躍に大いに期待したい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。