生活者に“語られる”コミュニケーションで、広告の次の100年の「王道」をつくる ―― スパイスボックス 物延秀氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.16
第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
株式会社スパイスボックスは、2003年に日本初のデジタルエージェンシーとして設立された、デジタル領域の広告コミュニケーション事業をおこなう企業である。広告業界大手の株式会社博報堂をバックボーンに、当初から国内の大手ナショナルクライアントをはじめ、あらゆる業種・規模の企業を取引先相手として独自のビジネスを展開してきた。設立当初は、インターネット広告が事業として急速に広まりつつあった時代。同社は、当時主流であった「検索連動型広告」、「バナー広告」など、いわゆるインターネット広告枠を扱う事業に留まらず、デジタル領域の可能性にニュートラルにチャレンジ。時代の変化を巧みに捉え、現在ではSNS上で企業と生活者をつなぐ新しいデジタル・コミュニケーション施策の戦略策定、クリエイティブ、ディストリビューション力に強みを発揮している。
営業プロデューサー、映像ディレクターなど、幅広い職種に新たな人材を求める同社だが、副社長の物延秀(もののべ しゅう)氏に業界の中でのこれまでの歩み、今後の展開、同社で働く魅力などをストレートに聞いた。
スパイスボックスがチャレンジしてきたデジタル・コミュニケーションの10年とは
── 今回はマイナビクリエイターのインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございます。まずは物延さんご自身の現在のポジションについて教えてください。
物延氏:現在の肩書きは副社長で、スパイスボックス事業全体の責任者をしています。スパイスボックスは大きく3つの局に分かれています。クライアントと向き合いながら各コミュニケーション施策の企画、実行、管理を行う営業プロデューサーが所属する2つのプロデュース局、営業プロデューサーとともにコミュニケーション施策の戦略を立案したり、コンテンツの企画・制作、情報流通設計・運用、調査分析、自社サービス開発などを行うソリューション局です。この3局を統合的に管理し、事業価値の最大化を図るのが私の仕事です。
── スパイスボックスは、日本初のデジタルエージェンシーとして2003年設立されたとのこと。現在までどのようなビジネスを展開しているのですか?
物延氏:設立当初から、デジタル領域に特化した広告会社として、大手から中小企業まで幅広いレイヤーのクライアントと取引してきました。しかし当社のビジネススタイルは、いわゆるインターネット広告会社とは一線を画しています。
2000年代前半までインターネット広告と言えば、いわゆる「バナー広告」などが主流でした。しかし、当社では早くから、デジタル広告の可能性に挑み、Web上でのコンテンツ配信やWebプロモーションを展開したり、さらにWebに閉じずにイベントなどオフラインと連動させたコミュニケーション施策を企画。インターネット広告枠を売るだけではなく、デジタル領域における広告コミュニケーションのあり方そのものをつくり続けて来た自負があります。
── デジタル・コミュニケーションの先端を走り続けた10年ということですね。
物延氏:ありがたいことに、そうですね。ただし、これまで歩んできた道の延長線上に私たちの目指すゴールがあるとは思っていません。確かに、私たちは博報堂をバックボーンに持ち、大手クライアントと近い位置で仕事をはじめられました。しかし、変化の激しいデジタル広告領域においては、これまでの経験や実績だけでいつまでも先端を走り続けられる訳ではありません。さらなる成長を目指すため、私たちはここ数年、生活者を取り巻く情報環境や経済環境の変化を捉えながら、「これからのデジタル・広告コミュニケーション」のあり方について模索し、さらなる強みづくりを進めてきました。
これまでの10年でスパイスボックスが築いてきた強み
- 博報堂をバックボーンとする大手企業との近い関係性
- デジタル・コミュニケーションにニュートラルなポジションで挑戦
- 動画などのリッチコンテンツのクリエイティブで高い評価
- オンライン・オフラインを融合させた新たなプロモーションの開発
デジタル・コミュニケーションの進化と次の100年をかたちづくる広告ビジネスの大転換期
── 「これからのデジタル・広告コミュニケーション」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。
物延氏:当社が誕生した2003年には、現在では生活に欠かせないスマートフォンはほとんど普及していなかったですし、TwitterやFacebookなどのSNSもまだ世の中に存在しませんでした。たった13年前の話です。私たちが扱うデジタル・コミュニケーションの世界が劇的な進化を続けていることは言うまでもないことです。
そうした激しい変化のなかでも特に、現在は、これまで100年続いてきた日本の広告ビジネスにおける大転換期にあたると私たちは考えています。これまで100年続いてきた日本の広告のかたちが変わり、新たな100年をかたちづくる基礎ができあがる。私たちのミッションは、その「王道」を進める広告ビジネスをつくりあげることです。その新たなコミュニケーション領域を「エンゲージメント・コミュニケーション」と呼んでいます。
これまで主に生活者に情報を届けていたのは、TVや新聞、雑誌と言ったマスメディアです。しかし、これらのメディアは、高額な広告費用や販売権の占有もあってプレイヤー(情報発信者)が限られていました。しかし、ご存知の通り、現在ではスマートフォンやSNSの登場により、誰もが画像や動画を含めたリッチな情報を手軽に発信できる時代になってきました。これによって起こったのが、「情報爆発」(情報の爆発的な増加)です。私たちが日常生活で摂取する情報量は、ここ十数年で何百倍にも増加していると言われています。しかし、当たり前のことですが、人間が消費できる情報量はほぼ変化がなく、情報が完全に飽和している状況です。
また、経済環境も大きく変化しています。昭和の時代には、三種の神器と呼ばれた洗濯機やTVなど、生活を大きく変える象徴的な製品が登場しては生活者の注目を集めました。しかし、現在は、様々な商品やサービスが溢れるいわゆる“コモディティ化された社会”です。
こうした「情報爆発」や「コモディティ化された社会」の出現によって、かつて有効だった企業によるマスメディアを使った一方的な情報発信が生活者に響きにくくなっています。今の生活者は、ソーシャルメディアを中心としたデジタル上での“他者の評価(口コミ)”を重視しながら、自身の行動を選択する傾向が強まっているのです。これらの環境変化が意味することは、これから企業が生活者に伝えたいメッセージを伝えるためには、デジタル上で生活者に自然と“語られる”コミュニケーション設計をしなければならないということです。
こうした社会の変化に呼応したコミュニケーションが、「エンゲージメント・コミュニケーション」です。具体的には、ソーシャルメディアを通じてデジタル上で企業やブランドについての評判を形成し、企業やブランドに対する生活者の認知や利用意向を高めていくコミュニケーションのことです。
広告業界の大転換期の動き
- スマートフォン、ソーシャルメディアの進展でさらにデジタル・コミュニケーションが加速
- 情報爆発とコモディティ化された社会が広告コミュニケーションにも影響
- マスメディアによる一方的な情報発信が生活者に響きにくくなっている
- 今後は、ソーシャルメディアを通じてデジタル上で生活者に“語られる”広告コミュニケーション設計が重要
スパイスボックスが行うソーシャルリスニングとエンゲージメント・コミュニケーション
── スパイスボックスは、その「エンゲージメント・コミュニケーション」の戦略立案やクリエイションなどに強みがあるということですね?
物延氏:はい。今の社会のあり様や生活者の感情や行動とリアルタイムに呼応しながら、広告コミュニケーションを生み出すための手法として、当社では独自ツールを使った「ソーシャルリスニング(※)」を活用しています。これまでソーシャルリスニングと言えば、企業が自社のSNSアカウントの運用改善に使うか、Twitterなど特定のプラットフォームで自社の話題をウォッチする程度でしか活用されてきませんでした。なぜなら、SNSが登場したばかりの頃はユーザー数も少なく、ユーザー層の偏りも大きかったため、情報量や情報内容があまり有意なものではなかったためです。
(※)ソーシャルリスニングとは、SNS上の生活者の声や行動をツールで収集、分析することで、企業やブランド、業界などさまざまなモノ・コトが生活者にどのように捉えられているか、その傾向を知る手法。しかし、SNSが生活者の日常生活に浸透するにしたがって、現在ではSNS上の情報収集だけでも、生活者の感情や行動をかなり細かく分析することが可能になっています。
さらに、私たちは、自社の独自ツールによって、これまでは難しかったFacebookやTwitter、Instagramと言った代表的SNSから横断的に、今SNSで話題になっているニュース記事やコンテンツを抽出するノウハウを持っています。そこから、SNS上での生活者の話題や行動を分析することができます。私たちのコミュニケーション戦略設計のファーストステップとしては、この「ソーシャルリスニング」を活用し、分析で分かった「今、生活者に語られていること」のなかから、「生活者に語られやすい文脈(生活者の興味・問題意識など)」を抽出することです。そして、その文脈とクライアントのメッセージを掛け合わせてコミュニケーション戦略をプランニング。それに従って、真に生活者に届くメッセージ、クリエイティブを作り、SNSのほか各メディアの特性を踏まえた情報流通設計によるディストリビューションまで一貫して手掛けます。これは、SNSを通してデジタル上で生活者に“語られる”コミュニケーションを生み出すためのオリジナルのメソッドです。
現在、私たちは、10年後を目処に「アジアを代表するコミュニケーション・カンパニー」になるという大きな目標を掲げています。アジア新興国では、マスメディアの発展以前にSNSが生活に浸透しています。そのため、先進国で普及している従来型の広告ではなく、SNS上で“語られる”「エンゲージメント・コミュニケーション」への流れがより顕著だからです。
私たちはこのエンゲージメント・コミュニケーションを主体に、膨大な情報収集とノウハウの蓄積をおこない、これからの100年で通用する新たな広告のかたちを創造しようとしています。
スパイスボックスが予想するこれからの広告の基礎
- プレイヤーが限定された既存のメディアよりも、誰もが発信者となれるSNSを通じた情報流通量が圧倒的となっていく
- 企業による戦略的ソーシャルリスニング活用が重要視されていく
- 生活者に“語られる”「エンゲージメント・コミュニケーション」が企業発信のコミュニケーションの主流となっていく。
- 「エンゲージメント・コミュニケーション」はアジアから広がる
ご自身が主体となって、次代のクリエイティブ作りを担って欲しい
── スパイスボックスでは、クリエイターがどんな風に活躍していけるのでしょうか?
物延氏:スパイスボックスは博報堂をバックボーンに持ち、かつ、このデジタル・コミュニケーション分野で13年に及ぶノウハウを持つ会社です。そのため、既存の広告手法についても十分な知見を持っており、そこが強みでもあります。私たちは今、そこで培った知見やノウハウを活かして、既存の枠組みにはない新しいコミュニケーション領域の開拓にチャレンジしようとしています。
「ソーシャルリスニング」を活用したクリエイティブづくりは、クリエイターやマーケティング担当者の“企画力”や“ひらめき”だけに頼らないものづくりです。その意味では、コミュニケーションのあるべき姿を追求し、本当に生活者に響くクリエイティブを作りたいと考える方には魅力的な環境だと思います。
また、現在、クリエイティブ部門には若手の人材が多く集まっています。誰かのアシスタントとして仕事をするのではなく、自分自身が主体となって次代のクリエイティブを担っていっていきたい、と考えるような方には、スパイスボックスで活躍していただけるフィールドがあると思っています。
まずは面接でじっくりと話しましょう。これからのコミュニケーションのあるべき姿について、当社の考え方もぜひもっと詳しく知っていただきたいと思います。これまでの表現に納得できず、新たなコミュニケーションがあるのではないかと模索しているプロデューサー、クリエイターの皆さまへ。私たちは皆さまに活躍いただける環境を用意して、皆さまの参加を全社で心待ちにしています。
インタビューを終えて
国内の広告業界の大転換期にあって、確かなビジョンを持って進むスパイスボックスにはデジタル・コミュニケーションの牽引企業の一つとして、業界の期待がかかっている。
広告のあり方、プロモーションのかたちが大きく変わろうとしている現在にあって、物延氏が「王道」という、業界のスタンダードを築くことができた企業には確かに計り知れない成長のチャンスが待ち受けているだろう。このチャンスを糧に、同社に入社して時代の転換を体験することは、それだけでも転職者の今後の人生の大きな意味を持ってくる。これからの同社と広告業界の動向に注目していきたい。
株式会社スパイスボックス シニアディレクター 吉田大氏のインタビューはこちら
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。