SNS上の生活者の声や行動を広告コミュニケーション設計に活かす。生活者に“語られる”コンテンツのつくり方 ―― スパイスボックス 吉田大氏インタビュー

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Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.20

第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。

株式会社スパイスボックスは、2003年に日本初のデジタルエージェンシー(デジタル広告代理店)として創業。現在は、デジタル・コミュニケーション・カンパニーを名乗り、さらに進化した同社には、「BRAND SHARE」というコンテンツマーケティングに取り組む企業を支援するためのサービスがある。これは、SNS上の生活者の話題や行動データを収集、分析する「ソーシャルリスニング」を活用したコミュニケーション戦略設計から、コンテンツクリエイション、情報流通設計、効果検証を一つにして、企業、ブランドのブランディングコンテンツを効果的にユーザーに届けるソリューションである。

今回インタビューに応じてくれたのは、同社クリエイティブチームのシニアディレクター吉田大氏。主にこの「BRAND SHARE」サービスを導入した企業向けのクリエイティブ制作を担当している。コンテンツマーケティングにおける「BRAND SHARE」の活かし方と、同社ならではのクリエイティブの制作手法、吉田氏自身の仕事に向かう姿勢、期待する新しいメンバーについて訊いてみた。

SNS上で“語られる”、動画コンテンツをつくるために

── 今回はマイナビクリエイターのインタビューにご協力いただきありがとうございます。まずは吉田さんのスパイスボックスでの仕事について教えてください。

吉田氏:スパイスボックスは、企業の広告コミュニケーションをサポートしていく会社です。私はクリエイティブの制作や広告コミュニケーションのプランニング、自社サービス開発などを行うソリューション局のクリエイティブチームのシニアディレクター。プロジェクトごとに要件に応じて参加するスタイルで仕事をしています。スパイスボックスが提供するソリューションは様々ですが、私の仕事は「BRAND SHARE」導入企業様向けのブランディングWeb動画制作がメインになっています。

── スパイスボックスはブランディング動画コンテンツの制作に定評がありますね。どんなところが、貴社の制作する動画の強みになっているのでしょうか?

吉田氏:コンテンツの作り方そのものが、従来の方法とは根本的に違う所だと思います。「BRAND SHARE」がまさにその強みを凝縮したサービスです。私たちのコンテンツマーケティング支援ソリューションである「BRAND SHARE」は、企業が伝えたいメッセージを伝えるためのコミュニケーション戦略設計から、コンテンツクリエイション、情報流通設計、効果検証までワンストップで提供することが可能です。私が担当するのはコンテンツクリエイションですが、私たちの場合コンテンツを作るための戦略設計に独自性があります。それが独自ツールを活用した、Facebook, Instagram, Twitterなど主要プラットフォーム横断型の「ソーシャルリスニング」(「ブランド・エンゲージメント調査」)を活用した手法です。

生活者に響く、すなわちSNS上で“語られる”コンテンツを作るために、私たちはまずソーシャルリスニングでSNS上の話題やトレンドを詳細に収集、分析します。これにより、企業やブランドについての生活者の話題や行動傾向、またはプロモーションのターゲット層が一般的に興味を持っているコト・モノなどを割り出すことができるのです。その後、当社のプランナーが、そこで割り出した“SNS上で生活者に語られやすい文脈”と“企業が伝えたいメッセージ”をかけ合わせる独自の手法でプロモーション全体のコンセプトメイキング、コミュニケーション戦略設計を行います。

このように緻密に作り上げられた戦略をもとに、クリエイティブチームがクリエイションを行うので生活者に響きやすいのだと考えています。広告作りに生活者へのアンケートで得たデータや統計等のデータを用いることはごく一般的です。しかし、アンケートや対面調査などはバイアスがかかりやすかったり、ネガティブな側面が出にくいなどの特徴があります。当社の場合、生活者を取り巻く情報環境の変化から、今もっとも生活者の“生の声”や“行動”が現れているSNSを含むソーシャルメディアから生活者データを情報収集するノウハウがあり、それを広告コミュニケーション設計に活かせることが大きな強みとなっています。

また、SNS上でコンテンツがどのくらい拡散したのかを測るための指標としては、「エンゲージメント数」を採用しています。当社のオリジナルツールで計測するもので、「いいね」や「シェア」など、該当コンテンツに対するSNS上でのユーザーの総アクション数を指します。従来のようにPVや再生回数を指標にするのとは違い、コンテンツがどのくらい生活者に届いたのか、より正確に把握することが可能で、これを指標に緻密な効果分析とPDCAを行っています。

スパイスボックス独自のコミュニケーション戦略設計とは

  • 独自ツールで、SNS上での生活者の話題、行動を分析
  • 「SNS上で語られやすい文脈×企業が伝えたいメッセージ」をもとにコンテンツを制作
  • クリエイターの知見だけでなく、テクノロジーを活用して生活者に真に響くクリエイティブを制作

「本当に良いコンテンツ」とは誰のためにつくるのか?

── 「BRAND SHARE」は、スパイスボックスの「ものづくり」にどのように影響していると考えていますか?

吉田氏:私にとっては、ブレストできるもう1人の仲間のような存在です。WebやSNS上のデータを突き詰めていくと、いつも自分たちより斜め上をいっている。私はそんなふうに感じているんです。

デジタル・コミュニケーションだからといって、私もはじめからものづくりにデータを活かそうなんて考えていたわけではないです。でも、お客様にとって本当に良いものをつくる。しっかりユーザーにリーチするコンテンツをつくろうとするとき、クリエイターが独善的に「僕が良いと思うからいいんです」はもはや通用しない。自分の好き嫌いや長年の経験からの勘で仕事をするのはかえって創造できるものの幅を狭く、小さくしてしまっているように感じるんです。

── データ重視などのマーケティング偏重が制作の足かせになると考えるクリエイターもいると思いますが。

吉田氏:私自身、前職ではデータ重視のクリエイティブと聞いて「なんですかそれ?」というタイプのクリエイターでした。私が学んだのも「キャッチコピーを100本書いてこい。でなければ見ない」というような先輩クリエイターでした。そして、その環境で私が身に付けたことも、決して小さくは無いと思っています。しかし、実際にお客様の依頼でものづくりをおこなった時、クリエイティブを研ぎ澄まして完成度の高い作品をつくり、お客様にも「これは良いね」と言ってもらいながらも、なぜかリーチはさっぱり。そんな思いを何度も味わったのです。

データを取り入れる、デジタルに頼るというとクリエイターとしての感性が発揮されないと感じる人がいるかも知れませんが、私にとってそれは全く逆の発想です。例えば、一流の建築家は建物をつくるときにその土地に何度も通ってその土地を細かなところまで見るでしょう。また、広告をつくるクリエイターだって、お菓子の宣伝を依頼されればまずはそのお菓子を食べてみるはず。なんならお店にどんなふうに並んでいるか見に行って、食べた人の感想を聞いてみたいと思うはずです。マーケティングデータを収集して分析するという行為は、この「お菓子の棚を見に行く」行為と何ら変わりません。見ればわかるのに、調べれば答えに近づけるのに、見ない理由こそ、私にはわかりません。

だからこそ私たちは「本当に良いもの」をつくろうとする時、デジタルを用いたマーケティングの要素を欠かすことはできません。確かに自分の好みを押し通すようなことはできませんが、自分の通常の視野よりもさらに広い視野からものづくりができていると感じています。そしてそれは感覚的なものづくりよりも仕事として面白い。成果は確実にエンゲージメント数として現れてくるのです。

吉田氏の考えるクリエイターの視野

狭い視野

行動 自分の感性だけに従って自分のつくりたいモノをつくる
結果 自己満足のクリエイティブになる場合も

広い視野

行動 「BRAND SHARE」を活用したコミュニケーション戦略設計にもとづいてモノをつくる
結果 従来よりも多角的な視野でコンテンツづくりができる
結果 より確実に生活者に響くクリエイティブづくりができる

料理をテーマに、SNS上で話題を呼んだ動画事例

吉田氏:例えば、私は株式会社LIXIL様の「セラミックトップキッチン」のプロモーション用動画コンテンツを手がけた経験があります。お客様のからの要望で、TVCMに近い商品訴求をおこなうコンテンツと、商品訴求を極力抑えたブランディングコンテンツの2作品を制作しABテストをおこなったのです。

どちらも力作で、リクシルのキッチンなら料理が楽しくなる、「料理を楽しむリクシルのキッチン」というメッセージを伝える動画コンテンツでした。TVCMに近い方は、熱やキズ、汚れに強いという「セラミックトップキッチン」の品質をユーザーに訴求するもの。ブランディング動画の方は、商品に対する訴求はほとんど行わず、料理の失敗シーンを楽しく見せる動画を作成しました。

その理由は、「料理」をキーワードにソーシャルリスニングを行った結果、生活者は「ビジュアルコミュニケーションも料理の楽しみの一部」ととらえていることが分かったためです。つまり、フォトジェニックな料理を作って、SNS上でシェアして楽しんでいるということです。そして、シェアしたくなるような面白さがあるためか、失敗料理の写真のエンゲージメント数が高いことも分かりました。それらの情報と自分で独自に取材した情報を踏まえて、楽しく見られる失敗料理の映像やミニチュアたちが料理や具材のなかでキャンプをしているような、フォトジェニックでシェアしたくなる2つの動画コンテンツを制作しました。

結果は、商品訴求を排したブランディングコンテンツがエンゲージメント数で4万を記録。大きな成果を得ることができ、お客様にも満足いただくことができました。

(※上記情報は2017年7月現在)

散々クッキング 失敗は成功のモト

エルチャン 散々クッキング 失敗は成功のモト

参照:散々クッキング 失敗は成功のモト - LIXIL

ミニチュアの世界から

エルチャン ミニチュアの世界から

参照:ミニチュアの世界から - LIXIL

── 吉田さんとスパイスボックスならではの「BRAND SHARE」を活かした成功例と言えますね。

吉田氏:エンゲージメント数で4万という数字はこれまでの経験でもなかなかない数字です。ですが私たちはこれで満足したわけではなく、お客様のメッセージがユーザーに届き、ユーザーがブランドや商品に関心を持って購入していただけるところまでが仕事です。「成果があって良かった」で終わるのではなく、PDCAを回して次の段階へと上っていかなければならないのです。

「本音」が肝心!デジタル・コミュニケーション・カンパニーが拡げる人間味溢れるコミュニケーション

── 吉田さんにとってスパイスボックスとはどんな会社ですか?

吉田氏:スパイスボックスはデジタル・コミュニケーションを支援する会社ですが、人間味の強い会社です。私は前職がプロダクションだったので、エージェンシーといえばスーツを着てかっこつけているものだと思っていました。スパイスボックスのプロデューサーはお客様のために何ができるか、良いものをつくるにはどうすればよいかを常に考え、熱く、人間くさく仕事をしています。いわゆる他の会社の営業と制作の関係と違い、最後まで一緒にやる感覚。フラットに仕事ができるのがこの会社の良いところですね。

── 最後に現在転職を考えている方にメッセージをお願いします。

吉田氏:私が多角的なものの見方を身に付け、それをクリエイティブの仕事に活かせるようになったのは、この会社に入って事業統括責任者の物延に出会い、「BRAND SHARE」を知ったからだと思います。本当に良いもの、人に届くものをつくりたいと考えながら、現状に満足していないような方とぜひ一緒に仕事をしてみたいと思っています。ウチの仕事の仕方を一度見てもらえたら、何かを感じてもらえると思うんです。

デジタルのものづくりは変化のスピードが早く、テクノロジーの進化とともに表現の可能性がどんどん広がっていきます。今、どんなコト・モノがきているのか、それをどうクリエイティブ表現に活かせば良いのかを考えながら仕事ができるのがスパイスボックスで働く面白さです。

そして、私たちの仕事でもう一つ大切なのは本音で語ることです。デジタル広告は厳密に結果が出るので、お客様への「おうかがい」だけでクリエイティブを作っていくと必ず痛い目を見ます。お客様に「本当にそれで届きますか?」と言うことは、とても難しい。でもその本音が言えないとお客様も結果によって「次」を考えてくれなくなります。チャレンジすれば失敗することがあるのは当然のこと。それでも、スパイスボックスには「次」を考えてくれるお客様が多い。それはとりもなおさず、この会社の社員が本音でお客様と向き合い、お客様が生活者に届けたいと考えているメッセージを届けられるように心の底から本気で仕事に取り組んでいるかなのです。

インタビューを終えて

スマートで先端的なデジタル・コミュニケーション・カンパニー。吉田氏からは、そんなスパイスボックスのイメージからかけ離れた言葉が次々と飛び出した。

ものづくりとは何か?クリエイティブとは何か?

クリエイターとしてのこだわりを持ちながらも、デジタルの中で生まれた新たな手法をしっかりとその手に掴もうとしている。この新しいデジタル・コミュニケーションの潮流が今後どのように広がっていくのか。一歩先を行き、時代をリードしたいプロデューサー、クリエイターにはスパイスボックスへの転職は有効な選択肢の一つといえるだろう。

株式会社スパイスボックス 副社長 物延秀氏のインタビューはこちら

スパイスボックス 物延秀氏インタビュー

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

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