Web業界進化論 実践講座#14 〜Web制作現場のプロから「Webデザイナー3年目」に贈る次のキャリア視点〜 セミナーレポート
去る2022/1/25(火)、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#14 Web制作現場のプロから「Webデザイナー3年目」に贈る次のキャリア視点」が、オンラインで開催された。
Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第14弾となる今回は、濱野将氏、小泉誠氏、高田哲男氏の3名をゲストに迎え、Webデザイナーからの質問に答える形でトークセッションが行われた。
講師プロフィール
濱野 将氏
株式会社IMAKE 代表取締役
フリーランスを経て、2015年にDTP・Webに特化したデザイン関連会社「株式会社IMAKE」を創業。DTP制作、ロゴデザイン、キャラクターデザイン、画像レタッチ、UI設計、Webデザイン〜コーディング、動画など幅広く経験。現在はその経験を活かし、多角的な視点でディレクター・UI設計・デザイン・コーディングとプレイヤーとして自身でも活動中。大学や専門学校、オンラインコンテンツなどでAdobe XDを中心とした講師活動もしており、これまでの受講者は延べ4,500人以上。また、IMAKE社が発信している動画で学べるデザイン系チャンネル「イメトレ!」を配信中。
小泉 誠氏
個人事業主 Studio FireColor
Studio FireColorの屋号でフリーランス歴10年。Web制作会社、SEO関連会社、システム開発会社などを経て独立。Webデザイナー、UI/UXデザイナー、フロントエンド、SEO、マーケティング、システム開発、動画制作、社内のIT化のコンサルティングなど。現在は「本人も職種がわからない…」といった感じで、ゼネラリスト道を邁進中。基本的にものづくりが好きで調理師免許を持ち、飲食店経営の経歴もあり。近年は自分で勉強会を主催したり、Web技術の講師などにも従事。
高田 哲男氏
個人事業主 Webディレクター
大学を卒業し、プログラマーを3年経験後、15年間インフラ系ネットワークエンジニアとして、銀行、証券などの基幹系ネットワークの提案、設計、構築に従事。2016年12月にWebディレクターとして独立し、2018年6月からSEO対策会社のサポート担当として、2年間で200社以上のSEO対策を担当。現在は、Webディレクター兼SEO対策担当として、さまざまなプロジェクトに関わっている。最近では、何かと難しくなりがちな「SEO対策」をわかりやすく伝えようと、日々奮闘中。
Web業界で働くうえで、「成長できた」と感じた経験は?
濱野氏、小泉氏、高田氏は、それぞれ15年以上Webの現場で活躍するプレイヤーであり、濱野氏が進めるWebデザイナースクール設立プロジェクトで知り合ったという(詳細な経歴は事前インタビュー「15年以上現場で活躍するプレイヤーたちが、キャリアに悩む若手に伝えたいこと」をご覧ください)。
3名の自己紹介のあと、セミナーの前半は「Web業界で働くうえで、成長できた・ステップアップと感じる経験(案件や意識改革など)についてお聞きしたいです」という質問について、それぞれがアドバイスを寄せた。
濱野氏は「任せられる仕事が増えてきたとき」「新しく身につけた技術を活かして仕事ができたとき」と具体的なシーンを挙げ、自身が最も成長を感じた瞬間として、あるプロジェクトに参加して新たな視点を得た経験を語った。
濱野氏:僕は宮城県女川町の出身で、東日本大震災後は「デザイナーとして力になれることはなんだろう」と悩んでいました。そんなとき、Googleが主催した地域活性化プロジェクト「Field Hack ONAGAWA」に参加したことがきっかけで、自分にできることが見えてきたんです。「町の魅力を十分に発信できていない」といった地域の課題に向き合う、その過程でようやく「自分の力が必要なんだ」と思えました。一連の活動を通して手応えもあり、最終的には大きな成長を実感しましたね。普段とは別の場に取り組む・参加することで、感じられることもあるのではと思います。
小泉氏は、キャリアを重ねた今も「日々の積み重ねに成長を感じている」と言う。大きなプロジェクトを乗り越えたとき、やりたいことについて学ぶとき、未知の分野に取り組むときなど、成長を感じられるチャンスはすぐそばにある。
小泉氏:地方のWeb案件に携わっていると、「洗練されたものより親近感のあるデザインがいい」「車文化なのでSEOで駅名を上位にしなくてもいい」など、東京での仕事とのギャップを感じることが今もあるんです。たくさん経験を積んだつもりでも、まだまだ自分の視野は狭いなと。日々、お客様と接する中でも、何らかの成長が感じられますね。
こうした小泉氏の意見には、「日々の仕事をしっかりやれば、得られるものはたくさんある」と高田氏も同意する。かつてSEO対策会社でサポート担当を務めていたときも、目の前のお客様の課題にがむしゃらに立ち向かった結果、「いつの間にか力が付いていた」と話す。
高田氏:成長やステップアップというものは、最初から階段のように見えているものではなくて、後から振り返ったら「ここまで来ていたか」と感じるものです。「こんなことに意味があるのかな」と思わず、今の仕事を確実にやることが力になると思います。
濱野氏:地道にやるのも、チャレンジするのも、大事なのは「失敗してもいい」ということですよね。「失敗した」こと自体が経験だし、何にせよ得られるものはある。
小泉氏:確かに「失敗するのが怖い」という話はよく聞きますけど、別に失敗しても死にはしませんからね(笑)。僕も元々ポジティブな人間じゃないですけど、これは本当の話だと思います。
デザイナーとして働き続けるために必要なこと
後半も引き続き、事前に寄せられた質問に答える形でセミナーは進められた。
まず「非デザイナーでもデザインができる時代に、今後デザイナーとして働き続けるにはどうすればよいか?」という質問に、小泉氏は「そもそも“非デザイナーでもデザインができる時代”というのは、本当なのかなと思う」と話す。
デザインについて、ツールやテクニックは世の中にあふれている、だが、「デザイナーがスキルと知識と時間をかけてこそ、デザインは細部まで成立するもの」と小泉氏は言う。
小泉氏:アートとは違い、デザインはその向こうに「ユーザー」がいます。デザインには「この人に伝えたい」という狙いが必ずあって、その人との間に橋を架けるのがデザイナーという仕事です。それには知識や経験が欠かせませんから、機械学習で再現することは無理でしょう。「その先にユーザーがいる」ことを忘れなければ、デザイナーとしてこの先も生き残れるのではないでしょうか。
また、濱野氏は「デザインスキルを磨き続けること」を挙げ、そのモチベーションを維持する手段として「ロールモデルとなる人を探す」ことを挙げた。
濱野氏:自分がこうして人前で話すようになったのも、ロールモデルとしている方が講師やイベント登壇などを積極的にやっていたからなんです。その方曰く、「フリーランスは人と人との繋がりが大事だからこそ、自分が目立っていく必要がある」と。それを受け、僕も「やっていることを発信する、発信のためにさらにインプットをする」というサイクルを続けてきて、今に至ります。インプットを続けられたのも、「発信」がモチベーションになっていたからだと思いますね。
続いて、「お客様からの要望を形に落とし込むうえでオススメのスキルアップ方法はありますか?」という質問に、濱野氏は“守破離“を学ぶことを提案した。つまり、最初はルールを守ってデザインし(守)、徐々にアレンジによって型を破って(破)、最終的には元と離れたオリジナルのものを作る(離)。そうした“守破離“の段階を踏んでみてはと話す。
濱野氏:ただ、守破離の前に「知る」という段階もほしいですね。本や動画から情報収集をしたり、講座などに時間とお金を投資したりして学んでみる。知識を蓄えたうえで守破離を意識すると、より中身の濃い経験になると思います。
小泉氏と高田氏は質問者の「口下手」というコメントに着目。お客様からの要望を落とし込むには「話すことよりも聞くことのほうが大事」だと語った。
小泉氏:人は「してくれたことを返す」もの。たとえ、お客様とうまく話せなくても、相手のことを理解しようと一生懸命話を聞く姿勢があれば、お客様だって「この人の話もちゃんと聞こう」と思ってくれるはずです。ですので、口下手ならば「聞く」「観察する」を大事にすると、それが結果的にスキルアップに繋がると思います。
高田氏:僕は最初「お客様に何を聞いていいかわからない」と、ヒアリングに苦手意識がありました。でも、あるとき「毎回同じことを聞いているな」と気づいて、ヒアリングシートを作り、会話を記録するようにしたんです。「聞けたこと」が少しずつシート上に増えていくのが見えると、自信も生まれてきますよ。
提案ができるデザイナーは、自分の人生を豊かにする
セミナーの最後は「『提案ができるデザイナー』と『提案ができないデザイナー』だと、今後どんな差が出ると思いますか?」という質問で締めくくられた。
濱野氏:自分たちの意見をきちんと言語化して形に起こせるのが「提案ができるデザイナー」だと思っています。逆に「どういう意図があるか」「なぜこの構図なのか」を説明できないと、お客様と認識の齟齬が生まれやすく、出し戻しも多くなってしまう。デザインをロジカルに考えられる力があれば、課題解決もしやすくなり、お客様に重宝される存在になるでしょう。
高田氏:提案ができない場合、お願いされるのは「提案しなくてもいい作業」、つまりは「誰でも代わりが務まる作業」になってしまいます。そういう意味では、「提案ができる」はデザイナーとして生き残るうえで必須のスキルではないでしょうか。自分が成長しているかどうかを見極めたいときは、「提案をしているか?」を1つの判断材料にしてもらえたらいいですね。
小泉氏:提案ができることは、自分のためにもなると思うんです。お客様と仕事がしやすくなることはもちろん、アウトプットに対してユーザーの反応がよければ「伝わった!」という達成感が得られます。提案できるデザイナーは自分の人生を豊かにする。というのは大げさかもしれませんが、仕事にもプライベートにもよい影響が生まれると思いますね。
濱野氏:デザイナーを育てるという観点では、会社側にも「提案ができる空気作り」が必要かもしれません。後輩を持つ方々は、ぜひ「後輩の発言を否定しない」ことを心がけてみてください。現場を熟知していない意見もあるかもしれませんが、それは「ユーザー目線の意見」でもありますから。発言が認められれば、その人の自信に繋がりますし、仕事に対する意欲も生まれます。ひいてはプロジェクトにも、会社にもよい影響を与えるはずです。
セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
フリーランスのWebデザイナーです。Web制作会社で2年半働いたあと独立したのですが、営業のやり方をまったく知らないまま独立してしまい、どのように営業したらいいのか途方に暮れています。何かアドバイスをいただけますでしょうか。
「自分自身」こそが最大の営業ツール。
濱野氏:僕も会社員からフリーランスになりましたが、営業らしい営業はしていなくて、仕事は知り合いから紹介されることが多いですね。こういう状態を築けたのも、イベント登壇など、自分から積極的に発信するようにしていたから。言わば発信が「営業ツール」になったのです。数あるデザイナーの中から自分を思い出してもらうためにも、ちょっと目立つことをしてみるのもいいのではないでしょうか。
小泉氏:僕も営業をしたことはないですね。仕事がきちんと終わると、そのお客様がほかに同じようなことで困っている人を紹介してくれて。という繋がりでずっとやってきました。外に働きかけることも必要ですが、「今の仕事をきちんとこなす」ことも次に繋がる大事な要素だと思います。
高田氏:もしかしたらこの方は「最初のお客様をどう捕まえるか」に悩んでいるのかもしれませんね。自分の場合どうだったか思い返してみると、最初は「困っている人の相談に乗った」ことが仕事に繋がったんです。いきなり仕事を探すのではなく、周りの人の困りごとに答えるところから、きっかけをつかんでみてはどうでしょうか。
事業会社、中でも新規に立ち上げられた事業部に所属しているWebデザイナーです。知識をつけたいと思いつつ、マーケティングや数字の分析に苦手意識があります。この苦手意識をどういうふうに払拭すればいいでしょうか。
「苦手に正面から向き合わない」という選択肢もあります。
濱野氏:ちょっと誠実な答えになるか怪しいんですが……苦手なことは自分で無理せず、得意な人にお願いするのもアリだと思うんです。「得意な人に分析してもらったものを自分がデザインする」とか「数字のような定量的な分析は任せて、アンケートのような定性的な分析は自分でやる」とか、やり方はいろいろありますから。もちろん、やってみないとわからないこともあるので、まずはやってみてから、どうするか判断してみてもいいのではないでしょうか。
小泉氏:「苦手だけどどうしても頑張りたい」というわけではないのなら、無理をして苦手なことに時間をかけなくてもと思います。それよりも、自分の得意分野を伸ばすほうが戦いやすくなりますしね。
高田氏:そうですね。苦手を避けるのは「逃げ」じゃないですから。その人の特性もありますし、無理をして頑張ることで自分を苦しめてしまうこともある。「逃げ」だと考えず、誰かに任せたり、畑を変えたりすることを恐れないでほしいですね。
セミナーを終えて
セミナーレポートに取り上げたもの以外にも、濱野氏、小泉氏、高田氏は一つひとつの質問にていねいに答え、予定していた時間をオーバーするほどだった。長年Web業界で経験を積んできたからこそ、若手デザイナーの悩みはかつて自分がぶつかった「壁」でもある。真摯に言葉を紡ぐ様子には、後進の「道しるべ」となる思いを感じられた。
これからも「Web業界進化論 実践講座」はさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。