ポートフォリオの基本 - 最低限押さえておくべき職種ごとの作成ポイント
このページを見ている人の中に、ポートフォリオという言葉を知らない人はいないかと思います。ポートフォリオという言葉は、資産運用などの金融用語として使われることもありますが、ここでのポートフォリオは、クリエイターが転職活動において、採用企業側に自分をアピールするために提示する作品集のことを指します。
転職におけるポートフォリオは、応募企業に人材としての自分を評価してもらうための資料であるため、クリエイターとしての力量や実績を提示するだけでなく、組織の一員としての自分の人材的価値を評価してもらえるような作品集にする必要があります。
そこで今回は、クリエイターの主な職種別に、それぞれ望ましいポートフォリオのあり方や自分を魅力的人材にみせるために押さえておきたい基本情報(作品に添える説明文)、採用担当者に向けてのアピールポイントなどを総合的に説明していきます。
目次
まずはポートフォリオの基本を押さえよう
ポートフォリオの定義を知る
基本的にクリエイターは、学歴も年齢も関係ないとされる職業です。大切なのはセンスとオリジナリティ、そしてクライアントの意向を適切に取り入れながら、納期以内に要求以上の作品を完成させる能力です。こうした能力は、クリエイターを採用したい企業にとって、一般的な履歴書や職務経歴書だけで評価することが難しいため、人材評価にポートフォリオが欠かせません。
では、クリエイターにふさわしいポートフォリオとは、どのような要件を満たすものなのでしょうか。もちろん職種やキャリアによっても差はありますが、私たちマイナビクリエイターは、原則として、下記の要件を満たしたものをポートフォリオと定義しています。
ポートフォリオの定義
- あなたが持つ技術力や生み出す品質がわかるもの
- あなたの個性や作風、こだわりがわかるもの
- あなたの制作に対する熱意や取り組みの姿勢がわかるもの
- あなたがチームのリーダーあるいは一員として、どのような働きができるのかわかるもの
- あなたが要求される条件に対して、どのような対応ができるのかわかるもの
つまり、こうしたポートフォリオを提示することによって、採用企業側はあなたの職業クリエイターとしての実力や、組織の一員としての人材的魅力を適正に評価することができると言えます。
ポートフォリオの基本構成を知る
なお、ポートフォリオは、どんなジャンルのクリエイターであれ、A4やA3サイズの紙にプリントアウトしたものを、クリアファイルやバインダーで束ねたものが一般的であり、基本形です。
表紙の次にあたる冒頭ページには、自己紹介(プロフィール)や自分のキャリア・経験、クリエイターとしてのポリシー、これからどんなクリエイターを目指すのかといったビジョンをまとめ、次のページからは主要な作品の紹介に移ります。プロフィールの書き方に関しては、「ポートフォリオの序章を飾るプロフィール(自己紹介)ページの書き方」でも、解説していますので、ぜひご覧ください。
グラフィックデザイナーやイラストレーターといった、視覚表現に訴えるジャンルのクリエイターであれば、この紙形式の体裁で問題ありませんが、WebデザイナーやUIデザイナー、フロントエンドエンジニア、プログラマーなど、「動作」を伴う作品作りをするクリエイターは、自分の作品を紙で表現することが難しくなるかと思います。このような場合は、採用担当者が、あなたが携わった作品にWeb上で触れることができるように該当URLを併記する、もしくはWeb上にオリジナルのポートフォリオサイトを用意する、といった方法を取る必要があるでしょう。
いずれにせよ、採用面接の際に話をしながら、パラパラとページをめくれる資料として、紙で作られたポートフォリオの準備は必要不可欠です。
時に、WebデザイナーやUIデザイナーなどのデジタルを扱うクリエイターの中に、紙のポートフォリオを用意しない人がいます。でも転職活動において、紙のポートフォリオは必須です。「Webデザイナーの転職でも紙のポートフォリオは必須のアイテム」ページでも、その重要性を説明しています。ぜひご覧ください。
採用担当者に評価されるポイントを意識して、ポートフォリオの作成に着手しよう
転職におけるポートフォリオの役割は、上記で説明したように「採用担当者に対して自分の人材的魅力を伝える」というもの。このため「作品の魅力を伝える」ことを目的とした一般的な作品集とは、おのずと構成の組み立て方が違ってきます。
作成する上で特に気を付けなければならないことは、「採用担当者は、一般ユーザーのようにあなたの作品を鑑賞するためにポートフォリオを見るのではない」という強い認識です。「面接の限られた時間内にパラパラと全体に目を通し、あなたがどんなクリエイターなのかを見極めなくてはならないという採用担当者の立場と目線」からポートフォリオを作ることが、一番大切なのです。
したがって、自信のある作品を厳選するだけでなく、以下の内容を充実させる意識が重要になってきます。
自分にできる仕事の幅が伝わるように意識する
そのためには、得意分野に集中せず、タイプ別にバラエティ豊かな作品を選ぶことが大切
冒頭だけでなく最後まで作品を見てもらえるように意識する
そのためには、インパクトの強い作品をポートフォリオの冒頭に選ぶことが大切
採用後のあなたのポジションをイメージしやすくするように意識する
そのためには、プロジェクトメンバーの中で自分が担当した役割を明確に記すことが大切
採用されるための評価という点では、これらのポイントを押さえておくことが重要であり、一番のコツです。それでは、ポートフォリオに欠かせない情報(作品説明文)と押さえておくべきポイントを職種ごとに紹介していきましょう。
最低限押さえておくべきポートフォリオの作成ポイントを職種ごとに見てみよう
Webデザイナー、UIデザイナーのポートフォリオ作成ポイント
Webデザイナー、UIデザイナーの作品はビジュアルで表現されるものですから、ポートフォリオとしては比較的構成しやすいと言えます。作品ごとにWebサイトのトップページ、またはランディングページと、自分の作品性がよくわかる主要なページをいくつかキャプチャし、以下のような説明文を記載しましょう。
基本的な作品説明文
- サイト名(URL)/クライアント名
- 公開年月日
- 制作規模(スタッフ構成、制作に携わったクライアント担当者、代理店の関係などがわかるもの)
- 制作期間(スケジュール概要と実作業時間)
- 自分のポジションと担当した作業範囲
- 制作環境(サーバー環境や使用ツール)と使用言語
- 成果(アクセス数、ダウンロード数、コンバージョン率などのマーケティングデータがあればそれも添える)
- クライアントの意向と自分に課せられた課題、それにどのように対応したかという経緯
ただ、先述したように、UIデザイナーやフロントエンドエンジニアの場合は、ページの「動き」を紙だけでは表現しにくいため、動作後のキャプチャ画面などもセットで添えておくと採用担当者がイメージしやすいでしょう。作品に興味を持ってもらい、実際のWeb(画面)上でその作品を確認してみたくなるようなポートフォリオ作りを心がけましょう。
ディレクターのポートフォリオ作成ポイント
ディレクターのポートフォリオは、クリエイターというよりむしろ一般的な企業のマネージャーのポートフォリオに近い体裁になるでしょう。Webディレクター、ゲームディレクターなど、ディレクターの職種も様々ですが、共通するのは「クライアントの要望を受け、納期・予算内で納品できるようヒト・モノ・カネを管理監督する」という役割です。このため、ディレクターのポートフォリオは「この作品を作るために、自分はどのように動いたか、プロジェクトをどう動かしたか、どのような課題があり、それをどのように解決したか」という軌跡がたどれるようなものである必要があります。
作品のキャプチャ画像に加え、以下の説明文を記載しましょう。
基本的な作品説明文
- クライアント情報
- 自分の担当領域と制作体制
- 受注から納品までのスケジュール
- スケジュールに沿っての自分の主要な動き
- 各スタッフに対し、どのような指示を与えたか
- クライアントの要求事項、課題、解決法を1:1:1でわかりやすく対比させて解説
また、上記を羅列するだけでなく、数値として成果をわかりやすく伝えるために、マトリックス的な表現を上手に使うことも、ディレクター職が作るポートフォリオの特徴と言えるでしょう。
詳しくは、「Webディレクターの転職を成功に導くポートフォリオの作り方」ページでも紹介しています。参考にしてみてください。
CGデザイナーのポートフォリオ作成ポイント
CGデザイナーの作品は、2次元の静止画、2次元の動画、3次元の静止画(立体図)、3次元の動画に大きく分類できます。2次元の静止画の場合は画像をそのままプリントアウトすればいいのですが、PCの画面上と紙にプリントアウトしたものとでは発色が大きく異なります。RGBとCMYKの特性の違いを意識することも当然ながら、しっかりと色調を調整してプリントアウトしましょう。
また、2次元の動画では作品の動きを示すいくつかのキャプチャ画像が必要でしょう。構図などにもこだわりたいところです。3次元の作品はアングルを変えてひとつの作品ごとにいくつものキャプチャ画像を用意して、立体的なイメージがつかみやすいように心がけると良いと言えます。
そして、作品には以下のような基本的な説明文を押さえておきましょう。
基本的な作品説明文
- クライアント情報
- 制作年月日
- 使用した機材とソフトウェア
- 制作所要時間
- 制作上のコンセプトとこだわった点
- クライアントからの要望と、それをどのように表現したかという説明
イラストレーターのポートフォリオ作成ポイント
イラストレーターは、紙やカンバスなどに顔料で描くタイプのアナログ派と、PCやタブレットを使って作品を作るデジタル派に大別されます。デジタル派の場合はCGデザイナーとほぼ同じ体裁のポートフォリオで構いませんが、アナログ派の場合は作品を一度スキャナーで読み込むか、あるいはデジタルカメラで撮影するなどの必要があります。もしかさばらないサイズのものであれば、代表的な作品の原画を何点か面接の際に現場に持参してもよいでしょう。
いずれの場合も、ポートフォリオには以下の説明文は、最低限押さえておきましょう。
基本的な作品説明文
- クライアント情報
- 制作年月日
- 使用した機材とソフトウェア(アナログ派の場合は画材)
- 制作所要時間
- 制作上のコンセプトとこだわった点
- クライアントからの要望と、それをどのように表現したかという説明
コピーライターのポートフォリオ作成ポイント
コピーライターの作品は、文字(テキストベース)のため、作品をただ並べただけでは面白みやインパクトに欠け、また制作上の意図もうまく伝わりません。ポスター、雑誌の誌面、Webサイトなど最終的に作品が使用された媒体のキャプチャ画像を用意して、そこに改めてコピー本文を見やすく添えるといった視覚上の工夫が必要になります。
基本的な作品説明文
- クライアント情報
- 発表年月日
- 発表媒体
- 作品の意図とコンセプト
- クライアントからの要望と、それをコピーにどう盛り込んだのか
上記の基本的な説明文を作品に添えつつ、依頼を受けたテーマから、このコピーに至るまでのひらめきや思考の経緯についての説明も丁寧に記載するとなお良いでしょう。制作上参考にしたマーケティングデータ(市場動向、ユーザーのニーズなど)があれば、それも注釈として添えると説得力が増すので、ここもポイントです。
ゲームクリエイターのポートフォリオ作成ポイント
ゲームは多くの分野のクリエイターが結集してつくり上げる作品ですから、自分がこのゲームのどの部分を担当したのかを明確にしておく必要があります。単に「○○を担当」といった表現ではなく、できるだけ詳細に、自分がゲームのどこにどのように関わったのか、採用担当者に伝わりやすい説明が必要です。
基本的な作品説明文
- 発表年月日
- 対応機種
- 自分のポジションと果たした具体的な役割
- 困難だった課題と、それをどのように克服したのかの説明
- ゲームの発売本数またはダウンロード数など作品規模がわかるもの
ゲームタイトルのパッケージ(またはそれに相当する画像)のキャプチャに、上記の説明文を添え、プログラミング系のクリエイターの場合は、開発環境や開発言語、開発に要した時間なども記載しておくべきでしょう。
ゲームデザイナーのポートフォリオ作成ポイント
ゲームデザイナーの作品は、比較的ビジュアルとしてわかりやすいものが多いため、自分が関わったデザインのキャプチャ画面を豊富に掲載することがポイントでしょう。
基本的な作品説明文
- 発表年月日
- 対応機種
- 担当したデザインの範囲
- 制作時間
- 困難だった課題と、それをどのように克服したのかの説明
- 表現上特にこだわった点
- ゲームの発売本数またはダウンロード数など作品規模がわかるもの
そして、上記の説明文をキャプチャ画面に添えて記載しましょう。
他業界のポートフォリオの考え方に学ぶ
クリエイターのポートフォリオは、どうしても作品を中心としたものになりがちです。もちろんそれはそれで悪くはないのですが、転職の場合は、あくまでも「採用のため」のアピール材料として使うものであり、「人材としての自分の魅力と価値」が伝えられるものでなくてはなりません。その点は、他の業種・職種で使用されるポートフォリオの概念と同じなのです。
例えば、金融系のビジネスパーソンであれば、自分がどのようなやり方でどれだけの収益を会社にもたらしたかをアピールしますし、マネージャー職であれば、自分がどのようにチームを変革し、業績を伸ばしたかという実績をアピールします。
クリエイター職での業績は簡単に金銭的価値に換算することはできませんが、企業は利益を追求する組織である以上、採用にあたっては人材の評価にも金銭的価値という尺度があてはめられるのは仕方ありません。転職に際しては「クリエイターといえどもビジネスパーソンなのだ」というシビアな意識も必要です。その意識をできるだけポートフォリオにも反映させた方が、他の応募者よりも一歩二歩、人材価値の伝わりやすい仕上がりにすることができるでしょう。
まとめ - キャリアアドバイザーからの一言コメント
面接時の限られた時間ですべての作品を見てもらえるわけではないにせよ、ポートフォリオには一定のボリュームが必要です。採用側にクリエイターのクオリティや能力を評価してもらう際、できるだけ多くの作品に触れてもらった方が有利であることに間違いはありません。
例え、若手でまだあまり実績のない、もしくは未経験で自主制作の作品しかないというクリエイターであっても、本当に自信がある少数の作品だけではなく、「プロとしての水準を超えていると思えるもの」を選択基準とし、なんとかA4ファイル1冊分にまとまる程度のボリュームを確保しましょう(現時点でないのであれば、目標を設定し作成に努めましょう)。採用側が知りたいのは、あなたのトップスキルだけではなく、様々なタイプの案件にどこまで幅広く対応できるのかという能力も含まれるからです。
最後に「ポートフォリオの美しさ・読みやすさ」にもこだわってください。デザイナー職ではないとしても、クリエイターには最低限のセンスや美的感覚が必要不可欠です。
「面接にあたって、とりあえず作品をかき集めてきました」といった感じのポートフォリオでは、いくら才能あるクリエイターでも魅力が半減してしまいますし、見る側への配慮が足りないと思われてしまいかねません。ぜひ、プロのクリエイターの一人として、力のこもったポートフォリオを制作してください。