退職意思の伝え方 - 上司に伝える際のポイントと退職理由別の例文も紹介
退職を決意した人が最初に直面するハードルは、「退職の意思を上司に伝える」ということ。
いつ、誰に、どのように伝えたらいいのか、退職理由や転職先を正直に伝えるべきなのか、引き止められたらどうするのかなど、心配でなかなか切り出せない方もいるのではないでしょうか。
退職したいという自分の気持ちは固まっていても、会社や周囲の人に対して後ろめたく思い、言い出しにくいと感じる人は多いものです。この記事では、これまで多数の転職を支援してきたキャリアアドバイザーが、上司へ退職の意思を伝える際のポイントと、退職理由別の伝え方例文、よくある質問をご紹介します。退職を具体的に考えている方の参考になれば幸いです。
キャリアアドバイザー プロフィール
Y.Tsunoda
ゲーム業界からWeb・IT業界まで、幅広くクリエイティブ業界全般を担当。前職の接客経験で培った「親しみやすさ」を武器に、機械的なヒアリングではなく、親身になった相談で『常に転職希望者に寄り添い、5年後のキャリアまで一緒に想像し、伴走していく』ことを心がけている。
退職の意思を伝えるときの4つのポイント
退職したいと上司に切り出すのは、誰にとっても気が重く、緊張するものです。だからこそ、退職の意思を上司に伝えるときには、しっかり準備し、万全の態勢で臨みましょう。
スムーズに進めるためには「何を伝えるか」「誰に伝えるか」「いつ伝えるか」「どのように伝えるか」という基本的なポイントを押さえておく必要があります。ここでは、以下の4点について、具体的に解説していきます。
- Point1 退職意思と共に伝えるべきことを整理しておく
- Point2 退職意思は上司に口頭で伝える
- Point3 退職を伝えるタイミングは1〜3ヵ月前に
- Point4 退職理由はできるだけポジティブにする
退職意思と共に伝えるべきことを整理しておく
まず、「退職したい」という意思を上司に話す際に何を伝えるべきかを整理しましょう。
どれだけ本人の意思が固くても、具体的な時期や理由などの情報がなかったら、どの程度本気なのか上司には伝わりません。話を真剣に受け止めてもらえなかったり、詳細について何度も確認されたりするのを防ぐためにも、伝えることを事前に整理して書き出しておくのがおすすめです。
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退職希望日
退職の意思と合わせて必ず伝えるべきことは、退職希望日です。具体的な時期に触れずに「退職したいのですが......」などと切り出しても、上司からは「まだ迷っている段階なのだろう」と誤解されてしまう恐れがあります。
転職先が決まっている場合は入社日より前の日付を伝え、決まっていない場合でも「この日までには退職したい」という日付を明確に伝えましょう。
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退職理由
退職の意思を上司に伝えたら、ほとんどの場合、退職理由を聞かれます。ポジティブな理由であれば問題ありませんが、当の上司に原因がある、職場の人間関係に問題がある、個人的な理由など、言いにくいこともあるでしょう。しかし、人間関係にしこりを残さず円満退職するためには、すべて正直に話す必要はありません。
大切なのは、相手が納得して退職の意思を受け止めてくれる状態にすることです。そのために、わかりやすい退職理由を用意しておきましょう。記事の後半で退職理由別の伝え方例文をご紹介するので、そちらも参考にしてください。
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感謝の気持ち
社会人のマナーとして、お世話になった上司にはしっかりと感謝の気持ちを伝えましょう。退職を考え始めると、つい自分のことに頭が行きがちですが、自分の都合ばかりを主張すると自分勝手な印象を与えてしまいます。後に残される人たちのことも考え、退職に対する心苦しさや、これまで支えてくれたことへの感謝の気持ちも忘れずに伝えましょう。
たとえ感謝できないような事情があったとしても、それを表に出してしまうと、「私が態度をあらためるから考え直してほしい」などと、かえって引き止められてしまう恐れもあります。退職の意思がゆるがないのであれば、社会人の礼儀として感謝を表し、スムーズな退職を目指した方がよいでしょう。
退職意思は上司に口頭で伝える
次に、「誰にどうやって伝えるか」ですが、直属の上司に口頭で伝えるのが基本です。直属の上司とは話しにくいという場合もあるかもしれませんが、組織のルールや上司の立場もあるので、最初に伝えるのはできるだけ直属の上司にしましょう。それで話がうまく進まなかった場合には、さらに上の上司や人事に相談してもよいでしょう。
まずは、「ご相談があります」などの理由で事前に上司のアポイントを取り、会議室などほかの人に聞かれない静かな場所で直接伝えます。直属の上司が離れた拠点にいる、出社せずリモートワークが中心、など上司と対面で話すのが難しい場合は、ビデオ会議や社用携帯などを使って話をしましょう。
メールやビジネスチャットでいきなり「退職したい」と伝えるのは避けた方が無難です。重大な話を一方的にメールやチャットで送りつけられるのはよい気分がしないものですし、相手が読まなかったり、日々の業務の中で気付いてもらえなかったりする恐れもあります。ただし、上司のアポイントを取るのはメールやチャットでも問題ありません。
なお法律上は、雇用されている側が退職の申し入れをしてから2週間で雇用契約が終了するとされており、退職意思を伝える手段に対する定めはありません。もし、心身の不調などでどうしても上司と話をするのが難しい状況であれば、その事情も含めてメールなどで退職の意思を伝えましょう。
退職を伝えるタイミングは1〜3ヵ月前に
退職の意思を「いつ伝えるか」については、退職希望日の1〜3ヵ月前がよいでしょう。
民法上、期間の定めのない雇用契約をしている人(正社員や、期間の決まっていないアルバイトなど)は、退職希望日の2週間前までに退職を申し出ることが定められています。しかし、会社側の都合を考えると、業務の引継ぎや代替要員の確保などをたった2週間で完了させるのは現実的ではありません。時間の余裕を持って、できれば3ヵ月、遅くとも1ヵ月前には伝えましょう。
退職希望日を決める際には、繁忙期を避ける、進行中のプロジェクトが終わるタイミングにする、引継ぎに必要な期間を見越しておくなど、会社の都合や周囲の人の負担にも配慮すると、受け入れられやすくなります。また、自分も損をしないよう、有給休暇の消化や賞与のタイミングも考慮に入れておくとよいでしょう。
退職する旨を〇ヵ月前に連絡するようにという会社規定がある場合
会社によっては、就業規則などで「退職を希望する場合は〇ヵ月前までに申し出る」と時期が定められている場合があります。退職を考え始めたら、あらかじめ自社の就業規則を確認しておきましょう。
民法上は、雇用されている側が退職の意思を会社に伝えてから2週間後に雇用契約が終了するとされています。そのため、就業規則などの社内規定で定められている期間は法的な拘束力があるものではありません。しかし、就業規則は社員に周知されている前提なので、それを無視して退職すると会社や周囲の人によい印象を残せなくなる可能性があります。退職の意思はできる限り時間の余裕を持って伝えた方が無難でしょう。会社の規定よりも早く退職したい場合は、一方的に自分の都合を主張するだけではなく、会社と話し合いをしたうえで双方が納得できる時期を決めることをおすすめします。
なお、有期雇用の契約社員や、年俸制の社員の場合は「退職希望日の2週間前までに申し出る」というルールが当てはまりません。就業規則と合わせて、入社の際に交わした労働契約書などでご自身の雇用条件を確認しておきましょう。
退職理由はできるだけポジティブにする
退職理由を「どのように伝えるか」という点については、できるだけポジティブに伝えられるよう、前向きな理由を挙げるとよいでしょう。個人的な理由にしろ、会社側の問題にしろ、ネガティブな理由を挙げてしまうと、「しばらく休職してみたらどうか」「会社がサポートするから大丈夫だ」「会社側の問題を改めるから考え直してほしい」など、退職を引き止める口実を相手に与えかねません。また、上司や会社の非を責めることで関係性がこじれ、スムーズに退職できなくなる恐れもあります。
円満退職のためには、本当の退職理由が何であれ、すべてをそのまま伝える必要はありません。会社に原因があると思っていても、ひとまずは個人的な理由という建前で、「スキルアップのため」「健康上の理由」「家庭の事情」など、相手が納得しやすい理由を伝えるようにしましょう。
円満退職について、詳しくはこちら
退職理由別、退職を伝える際の例文
4つのポイントを押さえたら、上司に話をする際の大まかな流れを考えておきましょう。
緊張して話すべきことを忘れてしまった、上司にあれこれ質問されてしどろもどろになってしまった、という状況を防ぐためにも、簡単な台本を作っておくのがおすすめです。
伝える内容の基本は以下のとおりですが、個別の状況や相手の反応に応じて臨機応変に対応しましょう。
- 相手に時間を割いてもらったことに対する感謝やお詫び
- 退職の意思、退職の理由
- これまでお世話になったことに対する感謝
- 退職時期や引継ぎに関する相談
退職理由に説得力を持たせるためには、できるだけ具体的な情報を盛り込むことも必要です。その一例として、「スキルアップ」「体調不良」「家族の事情」の3つの退職理由について、上司に伝える際の例文をご紹介します。具体的な退職理由の部分を、皆様のケースに置き換えてご活用ください。
スキルアップの場合
お忙しいところお時間をいただきありがとうございます。
大変申し上げにくいのですが、実は退職のご相談をしたく、本日予定を入れさせていただきました。
以前から〇〇〇〇(転職先の職種など)の仕事に興味があり、独学で勉強を続けていました。
縁あって知人の会社から転職の引き合いがあり、ぜひ新しいフィールドに挑戦したいと考えております。
この会社では沢山のことを教えていただき、〇〇〇〇(現職の職種など)として数多くの案件を経験させていただいたことに深く感謝しています。
チームのメンバーに対して心苦しい思いもあるのですが、ご理解いただけるとありがたいです。
来月末で現在の担当案件がすべてひと段落するため、それまでにチーム内での業務の引継ぎを済ませるつもりです。
来月いっぱいでの退職に同意いただけますでしょうか?
ポイント
前向きかつ具体的な理由を挙げることで、反対しにくい雰囲気を作っている例です。
会社に対する感謝や、残るメンバーへの心遣いもあり、考え抜いた際の決断であることが感じられます。
体調不良の場合
お忙しいところ申し訳ありません。
以前から、私の〇〇〇〇(病名など)の通院や欠勤について、いろいろとご配慮いただきありがとうございます。これまで何とか仕事と治療を両立してきたのですが、先日の検査の結果が思わしくなく、仕事の継続が難しくなってしまいました。
休職も考えたのですが、一旦は仕事のことを忘れて治療に専念した方がいいという医師からのアドバイスもあり、退職したいと考えています。
〇〇さん(上司)にはこれまで沢山のことを教えていただき、公私ともに支えていただいて大変感謝しています。チームが忙しくなるタイミングで大変申し訳ないのですが、明日以降はリモート勤務中心で引継ぎを行い、1ヵ月後をめどに退職させていただけるとありがたいです。
ポイント
退職を自分で判断したのではなく「医師からの意見」も聞いたうえで決断したという、相手が納得せざるを得ない流れを作っています。この例では引継ぎ期間を考えて少し先の退職希望日を挙げていますが、本当に体調が悪く、一刻を争う場合はここまでの配慮は必要ないでしょう。
なお、医師の診断書があればより説得力は増しますが、体調不良で退職する際に診断書の提出は義務付けられているわけではありません。
家庭の事情の場合
お忙しい中お時間をいただきありがとうございます。
このタイミングでこんなお話をするのは大変心苦しいのですが、退職のご相談です。
以前もお話したことがあるかもしれませんが、私は〇〇県に高齢の両親がおり、ここ数年は身体の不自由な父の介護を母がしていました。ところが、母も持病のため介護が難しい状況になってきています。訪問介護や施設を使うことも考えたのですが、家族で話し合った結果、私が地元に帰って一緒に暮らすのがベストという結論になりました。
物理的に会社から離れ、現在のようにクライアントの都合に合わせて柔軟に稼働できなくなってしまうため一旦仕事をリセットし、地元であらたに職を探すつもりです。〇〇さん(上司)にはこれまで大変お世話になり、色々と励ましていただき本当にありがとうございました。チームリーダーとしてご期待に沿えず大変申し訳ないのですが、私が現在担当している案件を△△さんと□□さんに引き継ぎ、〇月〇日頃を最終出社とできればと思っております。ご承諾いただけますでしょうか。
ポイント
自分の都合ではなく家族・親族との合意の結果とし、引継ぎについても具体的な個人名や期間を伝えることで、反対しづらい流れを作っています。
感謝やお詫びも言葉にして伝えることで、誠意が感じられる例です。
忘れちゃいけない、退職までにやっておくべきこと
ここまで、上司に退職の意思を伝える際のポイントと、伝え方について解説してきました。
周囲との円満な関係を保ちながらスムーズに退職するためには、退職の意思表示とあわせてやっておくべきことがいくつかあります。
以下の3点を忘れないよう、気を付けましょう。
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有給消化
退職希望日を伝える前に、自分の有給休暇が何日残っているのかを確認しておきましょう。有給休暇を消化する期間も考慮に入れて、引継ぎのスケジュールや最終出社日、退職日を決めると損がありません。
ただし、有給休暇は雇用されている側の権利とはいえ、職場の都合を無視して何がなんでも休むというのでは、印象がよくありません。退職日をいつにするか、引継ぎのスケジュールをどうするのか、有給休暇はどれだけ消化するかを事前に考えておくことは必要ですが、最終的には会社と相談のうえで双方が納得できるスケジュールを設定しましょう。
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同僚や先輩、取引先への連絡
退職することが正式に決定したら、お世話になった先輩や同僚、取引先に連絡・挨拶をしましょう。
ただし、退職する事実をどのタイミングで開示するのかは、上司と相談して決めるのが基本です。会社によっては、本人ではなく上司から部署内に開示するなどのルールや慣習が存在する場合もあるためです。
一般的に、お世話になった社内の人には退職の1ヵ月程度前から、取引先には退職の2〜3週間前から連絡します。後任への引継ぎを行ったり、対面での挨拶に回ったりする都合を考えると、そのくらいの時間が必要と考えられるためです。
最終出社日には、あらためて社内外のお世話になった方々へ、最後の挨拶メールを送信します。くれぐれも、仕事で日頃お世話になっている人がこのメールではじめて退職のことを知る、という状況にならないよう気を付けましょう。
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退職届、退職願の作成と提出
上司に口頭で退職の意思を伝えたからといって安心してはいけません。
直属の上司から口頭で退職への同意を得られたら「内諾」の段階であると考えられます。その後あらためて退職希望日を明記した退職願を作成して、上司に提出しましょう。退職の決裁権がある上長に退職願いが受理されたら、正式に退職日が決定します。
退職日が決定したら、退職届を作成して提出します。
会社によっては退職願が不要、退職届に所定のフォーマットが存在するなどの場合もあります。どのような書類が必要で、誰にどのタイミングで提出すべきなのかを上司に確認したうえで作成することをおすすめします。
退職届、退職願いの違いについて、詳しくはこちら
退職を伝える際によくある質問
Q.1競合他社への転職となるのですが、次の転職先などいろいろ質問された際、その旨を正直に伝えたほうがよいのでしょうか?
転職先を必ずしも伝える必要はありません。
伝えることでいろいろと詮索されたり、誤解を受けたりしそうな場合には「転職先はまだ正式に決まっていない」などと答えてごまかすのも1つの方法です。
ただし、伝えるべきかどうかは上司や職場との関係性にもよります。たとえば、これまでプライベートなことも相談してきた間柄なのに転職先だけは明かさない、というのではかえって不自然です。また、同じ業界でキャリアアップしていくのであれば今後も仕事を通じて前職の人と顔を合わせる機会があったり、場合によっては前職の会社が取引先になったりする可能性もあるでしょう。退職後も良好な関係性を継続したいなら、最初に伝えておいた方がいい場合もあります。あくまでもケースバイケースで判断してください。
Q.2退職代行を使って退職してもいいのでしょうか?
退職代行を使って退職してはいけない理由はありませんが、本人から直接相談されることなく、突然退職代行から連絡がきたら上司はショックを受けるかもしれません。職場の人たちにもよい印象は与えないでしょう。
円満退職して、退職後も前の職場との繫がりを維持したい場合は、直接自分から退職の意思を伝えることをおすすめします。
ただし、本当に体調が悪いとき、精神的に追い詰められていてどうしても上司と話せる気がしないなどの場合は別です。退職の決断を先延ばしにして状況を悪化させるよりは、退職代行という選択肢を検討した方がよい場合もあるかもしれません。
Q.3休職中に退職する場合でも直接口頭で退職意思を伝えたほうがいいのでしょうか?
休職中でも顔を合わせて退職意思を伝えるのが可能な状況であれば、そうするに越したことはありません。
相手に対する誠意を表す意味でも、お互いの認識の食い違い防ぐという意味でも、双方向のコミュニケーションを取ることをおすすめします。
会社に出向いて話をするのが気まずい状況であれば、社外で上司と会う、ビデオ会議で話をするなどでもいいでしょう。まずは上司にアポイントを取ってみてください。
ただし、これも状況次第なので絶対ではありません。体調が悪い、介護や育児のため落ち着いて話す時間が取れないなどの場合は、あなたの置かれている状況の説明も含めてメールやチャットツールで連絡してみましょう。
Q.4管理職なのですが、退職を伝える相手の役職がかなり高いです。注意点などはありますか?
できるだけ早く上司のアポイントをとるようにしましょう。
退職の意思を伝えるべき相手が社長や取締役、部長など、高い役職についている人であれば、相手が多忙でスケジュールを押さえるのが難しい可能性があります。なかなかアポイントが取れずに先延ばしにしていたところ、転職先と約束していた入社日に間に合わなくなってしまったケースもあるため、くれぐれも気を付けてください。
また、あなた自身も責任の重い仕事であれば、会社から退職を引き止められたり、後任への引継ぎに時間がかかったりすることも考えられます。「この件が終わるまで待ってほしい」「あと〇ヵ月待ってほしい」などの交渉された場合に備え、自分が現在担当している仕事を整理し、引継ぎの目途も立てたうえで相談しましょう。
まとめ
退職を決断する状況は人それぞれですが、退職を前にしている人の多くは生活の大きな変化に直面し、やるべきことを沢山抱えた状態にあるのではないでしょうか。そんな中で円満退職を目指すには、周囲にできるだけ負担や迷惑をかけないよう配慮しつつ、自分も損をしないよう、しっかりと準備をして臨むことが大切です。
Web業界やゲーム業界などは、人と人とのネットワークが新しい仕事に繋がる世界で、周囲からの評判はとても重要です。ぜひこの記事を参考にして、円満退職をめざしてください。