Web業界進化論 実践講座#11 〜求められ続けるWebデザイナーに必要な“読み解く力”と“伝える力”とは〜 セミナーレポート
去る10/26(火)、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#11 求められ続けるWebデザイナーに必要な“読み解く力”と“伝える力”とは」が開催された。
Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第11弾となる今回は山岸結美氏をゲストにお招きし、社内でのキャリアビジョンの考え方や、求められるデザイナーに必要なものについて語られた。
講師プロフィール
山岸 結美氏
株式会社エスケイワード TOKYO BRANCH
UXデザインユニット リーダー / アートディレクター
名古屋芸術大学でビジュアルデザインを学んだのち、2013年に株式会社エスケイワードへ新卒入社(現在9年目)。デザイナー/アートディレクターとして、BtoB/BtoC問わずWebサイトの新規制作、リニューアルに数多く携わる。近年はUXデザインを取り入れたサイト制作や、ブランディング施策を兼ねたコーポレートサイトリニューアルのプロジェクトリーダーを担当。2018年に東京赴任の辞令をうけ、7月よりUXデザインのチームリーダー兼アートディレクターとして着任。企業のブランディング支援を軸に、UX視点を取り入れたデザイン提案業務をメインに行う。
ひとつの会社で長く働くことで、キャリアビジョンの解像度を上げていく
山岸氏は現在所属する株式会社エスケイワードに新卒で入社し、デザイナー/アートディレクターとしてキャリアを積み重ねてきた(詳細な経歴は事前インタビュー「自分にマッチした会社でキャリアアップを図るには」をご覧ください)。
セミナー前半は「社内でのキャリア形成のススメ」と題し、転職をせず、ひとつの会社で長く働いてきたデザイナーがどのようにキャリアを形成していったのか、その考え方のポイントについて語られた。
キャリア形成において、山岸氏は「まずはキャリアビジョンを描くことが大切」と話す。「X年後の理想の姿」を思い描くことができれば、仕事に対する価値観や、自分の強みや個性、目標達成に必要なスキルなどが整理され、キャリアを考えやすくなるという。
山岸氏:キャリアビジョンを持っていれば、足りないスキルに自ら気づくことができ、どんな仕事でもスキルアップに繋げて考えたり、社内外に仲間を作ったりなど、仕事を前向きに捉えるようになります。キャリアビジョンを持たない場合と比べて、得られる知識量や成長の度合いに差が出るはずです。
とはいえ、キャリアビジョンを明確にするのは簡単ではない。ましてや経験が浅いデザイナーは、想像することも難しいだろう。そこで山岸氏がすすめるのが、1つの会社で長く働く中で、徐々にキャリアビジョンの解像度を上げていくやり方だ。
山岸氏は3つのポイントを挙げた。1つめは「自分の『やりたいこと』から目標を深掘りしてみる」こと。WILL(何がしたいか)→CAN(必要なスキルや能力)→DO(今何をすべきか)の順番で目標を深掘りすれば、やりたいことを基準とした「ぶれない目標」が立てられる。
たとえば山岸氏は、「よいクリエイティブを作り続けていきたい」という「WILL」から、アートディレクションやチームビルディングといった「CAN」を導き、社内外のコミュニティ参加などの「DO」にたどり着いた。文章でまとめるのが難しい場合は「マインドマップを使って頭の中を整理するのもおすすめ」だという。
2つ目めのポイントは「長く続けるからこそ得られる武器を増やしていく」。Webデザイナーとひと口に言っても、コーディングや情報設計、UXなど、デザイナーによって担当できる範囲はさまざま。「Webデザイナーは○○をする人」と一律に定義がしづらいため、キャリア形成も複雑になりがちだ。
ここで山岸氏は発想を逆転させ、「定義できないからこそ、自分で職務を定義できるチャンス」と捉える。1人で複数の業務を担うなら、それぞれの職種を名乗ってもいいのだ。ディレクションも担当するなら「ディレクター」、コピーを考えるのも得意なら「コピーライター」と名乗っていれば、その職務に適したオファーが集まってくる。
山岸氏:経験やスキルに自信がなくても、自分で職務を決めて発信するのが大事だと思っています。名乗ることで仕事が生まれ、結果として経験を積めることもあるからです。やってみて「違うな」と思っても、「向いていないことがわかった」という学びになりますので、無駄になることはありません。
3つめは「キャリアビジョンを共有できる環境を整える」こと。これまで目標設定や社内発信について触れてきたが、今いる会社でキャリア形成をする以上、会社の企業理念やビジョンに共感できるかも大切なポイントだという。
山岸氏:プロジェクトや事業方針は時の流れと共に変わっていく可能性があります。一方、企業理念やビジョンは、会社が目指す方向や価値観を言語化したもので、変わることはほとんどありません。すべての土台となる部分ですので、会社選びの際は「企業理念やビジョンに共感できるか?」もチェックしてもらえればと思います。
求められるデザイナーに近づくために、明日から実践できること
セミナー後半は「求められるデザイナーになるために必要なこと」というテーマで始まった。
デザイナーに求められるスキルが複雑化・多様化する中、「ユーザーの本質的なニーズを的確に捉えること」はいつの時代も変わらず重要視されている。とはいえ、本質的なニーズを捉え、それに見合った提案をするには、十分な経験とスキルが必要だ。
かつて山岸氏自身もそのことに悩み、「私がすぐに実践できることはなんだろう」と考えたという。それをまとめたのが以下の3つだ。
1つめは「コミュニケーションの工夫」。問合せの返信を溜め込まず、その場でわかることだけでも返事をする。ただデザインを提出するだけでなく、「なぜこのデザインなのか」を言語化して添える。クライアントの社内体制やリテラシーに合わせ、柔軟に対応する。こうしたコミュニケーションの積み重ねが、相手との信頼関係を少しずつ築いていくという。
2つめは「常に+αの対応を意識する」。仕事には必ず「自分の役割の発揮どころ」があり、その役割において「+α」の対応を意識したい。具体的なイメージとして山岸氏は「クライアントから『こっちのほうがいいね』という言葉を引き出すこと」と話す。
山岸氏:指示通りの無難なデザインは、「どのデザイナーに依頼しても同じ」という印象を与えます。「ワイヤーはここを変えたほうが見やすい」など、プロとしての意見が出せるようになれば、次の仕事に繋がりやすくなるはずです。
3つめは「相談できる協力者を味方につける」。わからないことを聞ける相手が多いほど、自分にできることが広がっていく。トラブルが起きたときの解決も早くなるだろう。そのような相談できる協力者を味方につけるには、普段からの関係構築が大切だ。
山岸氏:アドバイスを受けたときは素直に受け取ってすぐに実践する、自分が頼られたときは惜しみなく協力する、早めのタイミングで相談して負担をかけないようにするなど、相談される側のことを意識して動いてみてください。
キャリア形成ができそうな会社を見分けるポイントとは?
セミナーの最後は「私が考える、マッチする会社とそうでない会社」として、3つのチェックポイントが伝えられた。
1つめは「企業理念やビジョンに共感できるか」。企業理念やビジョンは、前半でも「すべての土台」として話があったが、ここでチェックしたいのは「経営陣や社員の言動一致がなされているか」。共感できるビジョンであっても、社員に浸透していなければ意味がないからだ。
2つめは「キャリアビジョンの達成ができそうか」。自分のキャリアビジョンを整理したうえで、そのキャリアビジョンを実現できる環境かどうか確認しておきたい。定期的な面談や1on1、キャリア相談といった制度があるか確かめれば、会社が個人を尊重してくれる風土かどうかわかるだろう。
3つめは「学び続けられる環境か」。日々の業務で身につくスキルもあるが、目標達成のために自ら学ばねばならないものもある。社外のスクールやコミュニティなどで学ぶことに加え、社内に勉強会などの制度があったり、一緒に学んでいける仲間がいたりすれば、学ぶモチベーションが保ちやすいはずだ。
山岸氏:ここまで、私の場合のキャリア形成についてお話しさせていただきましたが、中には「さまざまな業界や職種を経験すべき」という方もいるでしょう。もちろん、キャリアアップにはそれぞれに合ったやり方があります。今回のセミナーが、「まだキャリアビジョンが決められない」「今の会社が自分に合っているか不安」という方のヒントになりましたら幸いです。
セミナーは参加者の質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。
アートディレクターとしてクライアントと対面される機会も多いかと思います。クライアントに満足していただけるヒアリングや提案のコツがあれば教えてください。
「相手が何を悩んでいるか」を知ることがスタートだと思います。
最初の頃は、打合せの場で「その場で何か提案しなくては」とドキドキしたものですが、「とにかく聞くことが大事」と知ってからは、クライアントに話してもらうことに専念するようになりました。まずは相手が何に悩んでいるのか、何を求めているのかを知ることがスタートなのだと思います。
たとえ自分自身で解決できる案が出せなかったとしても、相手のニーズをつかんでいれば、さらに詳しい知見を持つ人や、クライアントをよく知る営業に相談し、次の作戦を練ることができるでしょう。まずは相手の話を聞くことを意識してもらえたらと思います。
現在転職活動中です。企業理念やビジョンについて「経営陣や社員の言動一致がなされているか」という話がありましたが、どうすれば面接の場で「言動一致」を判断することができるでしょうか?
自分が企業理念やビジョンを大事にしていることを正直に伝えたうえで、社内での取り組みについて聞いてみましょう。
面接の場で、「企業理念やビジョンを大事にしたい」「企業理念が合う会社に長く勤めたい」という姿勢を正直に伝えてもいいのではないでしょうか。そのうえで「社員に企業理念を浸透させる取り組みを何かされていますか?」と聞いてみれば、実際に取り組んでいる企業は喜んで答えてくれるでしょうし、そうした企業を選ばれるといいと思います。
キャリアや目標を考えることが苦手な部下がいます。一緒に考えていきたいのですが、「誰かに決めてもらう」という姿勢になるのも避けたいです。部下や後輩のサポートはどうされていますか?
マインドマップでキャリアを整理して、チームで共有しています。
私もまさに悩んでいることですね。今年、チームができて最初に取り組んだのが、マインドマップを使ったキャリアの整理でした。真ん中に将来像を書いて、そこから「やりたいこと」「勉強が必要な分野」などの枝を思いつくままに伸ばし、タスクに落とし込んでいくんです。
自分の考えが整理されますし、チームメンバーで共有すれば「自分とはここが違うのか」という発見に繋がります。キャリアが浅い人は真ん中の将来像を書くことも難しいので、「この会社で一人前のWebデザイナーになる」といったところから書き始めてもらっていますね。いろいろな人のキャリアを見ることで、まずは興味を持ってもらえたらと思っています。
セミナーを終えて
転職の多いWeb業界において、新卒入社から現在に至るまで同じ会社でキャリアを築いてきた山岸氏。ひとつの環境でじっくりとキャリアに向き合ってきたからこそ、その方法論はすべて具体的で説得力あふれるものだった。
キャリアビジョンを考えるための目標の立て方、「信頼貯金」を貯めるための振る舞い方、自分にマッチする会社の選び方などは、Webデザイナーに限らず、仕事をするすべての人に学びの多い内容であったに違いない。
これからも「Web業界進化論 実践講座」はさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。