さまざまな環境に身を置いたからこそ「橋」になれる ―― 渡辺徹氏「Web業界進化論#12」開催直前インタビュー
来たる11/30(火)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#12「事業会社/制作会社/広告代理店を経験してきたWebディレクターが伝えるWeb業界の歩き方」を開催する。
「Web業界進化論 実践講座」の第12弾は、キャリアのために新たなスキルを身につけたいWebディレクターに向けたもの。広告業界と制作業界の双方を経験し、フリーランスのWebディレクターとして活躍する渡辺徹氏をゲストに迎え、Webディレクターが持つべき視点や、スキルの掛け合わせについて語られる予定だ。
今回はイベント直前インタビューとして、渡辺氏の多様なキャリアや、さまざまな環境に身を置いたからこそ見えてきたものについて、話を伺った。
プロフィール紹介
渡辺 徹氏
個人事業主 SPINE
Webディレクター
1983年生まれ、神奈川県出身のWebディレクター。大学卒業後、広告代理店、バー店員、Web制作会社などを経て、2015年より個人事業主。制作業界と広告業界双方の経験を生かし、クライアントのデジタル領域の事業課題に対して横断的アプローチで解決を図る。Webディレクターとしては“SPINE”、ラジオなどのコンテンツ企画制作は“サンデー企画”として活動中。
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広告営業、バー経営、Webディレクター……バラバラなキャリアを繋いだ「棚卸し」
―― まずは、渡辺さんのこれまでの経歴を教えてください。
渡辺氏:大学卒業後、広告代理店に営業職として入社しました。小さな会社だったので、営業職でも受注後の媒体社の対応や、デザイナーとのやり取り、入稿作業といった制作進行に携わっていました。
その会社で3年勤めたあと、友人から「自分が経営するダイニングバーを一緒にやらないか」と誘われて、会社を辞めるんです。20代の頃は、新しいことをしたい気持ちが強かったんだと思います。バーの経営をやりながら、カウンターの中でお酒も作っていました。
バー経営では、中小企業経営のリアルを肌で感じましたね。ネットで集客を試みてもうまくいかず、自分含めスタッフの人件費を捻出するのも難しくなり……。2年後にはバーと並行して、Webメディア運営会社でWebディレクターのアルバイトを始めました。
―― それまでWebディレクションの経験はあったのでしょうか?
渡辺氏:いえ、まったく。未経験だったので見よう見まねでしたね。広告のディレクション経験があったので、なんとかなったのだと思います。スタッフが少人数だったので、Webサイトの制作進行や、更新作業、媒体資料の制作など、幅広く携わりました。
しかし1年経ち、その会社はつぶれてしまいました。バーも売上が立たず、転職を考えます。とはいえ、それまでの経歴は「広告営業」「バー経営」「Webディレクター」。一貫したキャリアがなく、20代で職を転々としているように見え、転職活動はかなり苦戦しました。
ここでターニングポイントとなったのが、転職エージェントへの相談だったんです。
―― 転職エージェントからは、どんなアドバイスを受けたんでしょうか?
渡辺氏:まず「キャリアを棚卸ししましょう」と提案されました。広告営業の経験がある、中小企業の経営がわかる、Webにも携わった……それらの経験を棚卸しして、抽象化してもらったんです。
それまでは「自分のスキルや経験が求められるものに合致するか」という視点しかありませんでした。手持ちのカードのうち1枚が、どの企業に受け入れられるかを考えていたんです。もちろん、1枚のカードを大事に育ててキャリアアップする選択肢もあります。でも、複数のカードを掛け合わせれば、また別のスキルにもなるんです。
そのことに、棚卸しで気づかせてもらいました。転職エージェントから紹介された大手ネット広告代理店の面接を受け、アカウントプランナーとして採用。デジタルマーケティングやSEOなど、最前線でWebの経験を積むことができました。
広く浅く経験したからこそ、業界を繋ぐ「橋」になれる
―― 渡辺さんは現在フリーランスとして活動されているとお伺いしました。フリーランスになった経緯と、現在の仕事について教えてください。
渡辺氏:大手ネット広告代理店のあと、知人のデザイン会社に入社しました。同時に、個人的にネット広告やWebサイトに関する相談を受けることも増えてきたので、2015年に個人事業主として独立しました。
肩書きは「Webディレクター」ですが、広告や制作、中小企業の経験を掛け合わせ、プロモーションやサイト運営といった、企業が抱えるデジタル領域の事業課題にアプローチをしています。クライアントは事業会社や制作会社、広告代理店と幅広いですね。
―― さまざまな環境に身を置いたからこそ、得られた経験やスキルなどありますでしょうか?
渡辺氏:やはり、広告代理店、制作会社、事業会社のそれぞれを経験したことにより、多角的な視点で物事を捉えることができるようになったことですかね。広告代理店にはWeb制作に詳しい人がおらず、制作会社にはWebのプロモーションに詳しい人がおらず、ネット専業ではない事業会社にはWebに詳しい人がいない……ということが、往々にしてあるんです。
同じWebの仕事でも、広告業界と制作業界のあいだには断絶があります。言わば、太くて長い「川」が流れている状態。幸いにも自分はどちらの業界も知っているので、「川」を越え、足りない部分を補完することができる。そこに価値を感じてもらえています。
―― 「川」の例えで言うなら、渡辺さんは「橋」になれるわけですね。とはいえ、最初から「橋」になるためにキャリアを歩んでいたわけでは……?
渡辺氏:……ないですね。今のキャリアに繋がるさまざまな経験が積めたのはラッキーだったと思います。ただ、こういったキャリアの積み重ね方もあるということが、みなさんの参考になればいいかと。
新しい環境に飛び込むことは、ストレスでもありますが、自分にとっては、同じ仕事を毎日繰り返すほうが苦しいんです。新しいものが好きで、安定志向よりも刺激を求めていたい。フリーランスという働き方も、今のところ自分に向いているかなと思います。
―― では、フリーランスとして活動するからこそ、得られるものはありますか?
渡辺氏:少し前まで「通勤電車に乗らなくていい」だったんですが、最近はリモート勤務も増えてきたので、フリーランスならではの旨味ではなくなってきましたね(笑)。
フリーランスは時間と行動が自由な代わりに、何でも自分でやらないといけません。個人事業主として、自分の事業をどう動かすのか自分で決めるわけです。その点は、会社にいたら経験できなかったことでしょう。
また個人的には、フリーランスになってから「ハングリーさ」が得られたと思います。自分の仕事で食っていかなくてはならないという、手応えとプレッシャーは大きいですね。クライアントには気持ちよく対価を払ってもらいたいですから、提供価値に対する責任を強く感じるようになったと思います。
インターネットを活用するビジネスが広がる今、ディレクターに求められる「事業視点」
―― コロナ禍になり、仕事に変化はありましたか?
渡辺氏:新しい引き合いは増えていますね。飲食店やホテル、結婚式場など、緊急事態宣言下で思うように営業ができなくなった非Webビジネスのお客様が、インターネット活用に向けて動き出し、ご相談いただくケースが増えていると感じます。
仕事の変化という意味では、自分はテレワークで働くことが多いので、自宅での作業は孤独を覚える場面もありました。そんなとき、心強かったのはオンラインコミュニティ。Webの仕事に係わる人々が集まるコミュニティに参加しているので、情報収集や交流ができたのはよかったですね。
―― 仕事で関わる業界が多岐にわたると、インプットするべき情報も多そうです。
渡辺氏:そうですね。参加しているオンラインコミュニティには会社員もフリーランスもいて、「こんな考え方があるんだ」と、かなり勉強させてもらっています。
また、仕事の中で学べることも多くあります。クライアントの全体会議に同席したり、RFP(提案依頼書)をまとめるお手伝いをしたりなど、広告代理店や事業会社、制作会社の事業の深いところまで関わらせていただくので、仕事を通じて最新情報をキャッチアップさせていただいています。
―― 今後のWeb業界において、ディレクターに求められるものはどのように変化していくと思いますか?
渡辺氏:「Webディレクター」という職種自体が、とても広い範囲を指す言葉なので、ひとくくりにして話すのは難しいですが……。あくまで自分の経験から言うと、「事業視点」が大事になると考えています。
あらゆる企業がインターネット活用を考えるようになった今、さまざまなビジネスに対して、ディレクターは「自分がどんな貢献ができるのか」を考えねばならないでしょう。クライアントのビジネスモデルの中で、ディレクターとしてどう機能し、その行動はどう影響するのか?そうした事業視点を意識すると、提供できる価値も変わってくると思います。
―― 最後に、セミナー当日にお話しいただく内容について教えてください。
渡辺氏:お話したように、自分の経験はかなり特殊です。いろんなところを行ったり来たりして、一貫したスキルや経験がありません。以前は家賃の支払いも危ういくらい、お先真っ暗な時代もありました。ですが、フリーランスになって5年、ようやくキャリアの“帳尻”が合ってきた気がします。キャリアに悩んでいる方に「こんな人もいるよ」という前向きな話ができたらと思います。
また、今回はWebディレクターの参加者も多いかと思います。持っているスキルを掛け合わせることで、こんなWeb業界の歩き方ができるんだよ、という話もする予定です。どんな経験でも生かせる懐の深さが、「Webディレクター」という職業の魅力でもありますから。
インタビューを終えて
キャリアに行き詰まった渡辺氏を救ったのは、転職エージェントによる「棚卸し」だった。100人に1人が持つスキルでも、2つ掛け合わせれば10000人に1人のスキルになる。その希少価値に気づけるか気づけないかで、キャリアが大きく変わるのだろうと感じた。
11/30(火)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#12「事業会社/制作会社/広告代理店を経験してきたWebディレクターが伝えるWeb業界の歩き方」では、さまざまな業種の経験から導き出されたWebディレクター像や、スキルの掛け合わせによるキャリア形成について語らえる予定だ。キャリアに悩むWebディレクターは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。