お互いが将来幸福になれるよう、応募者とは「自然体」で語りたい ―― スクウェア・エニックス 斎藤高徳氏インタビュー

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スクウェア・エニックス ロゴ ゲーム業界のリーディングカンパニー・株式会社スクウェア・エニックス。グループ会社を含まない単体での社員数が2,000人を超える大企業でありながら、全社員の約8割が中途採用というユニークな人事構成となっている。

ゲームを中心としたエンタテインメント会社だけあって、クリエイター職の職種だけでも膨大な数になる。今回は、このような特殊な背景を持つ同社の人事を司る人事部マネージャー斎藤氏に、「人事のプロはいったい応募者のどんなポイントに注目するのか」を詳細にうかがった。ゲーム業界で生きていこうという人にとっては、必見の内容だ。

スクウェア・エニックスで働く喜びとは?

img-interview-with-takanori-saitoh-2_02.jpg ── まず冒頭でお伺いしたいのですが、御社で採用された人は「ゲームが大好き」というプレイヤー側から作り手側になったというパターンが多いと思います。そういう方が、入社後にどのような満足を得られるのか教えていただけますか?

斎藤氏:そういう方が入社後の喜びとして語る言葉で最も多いのは、「作品のスタッフロールに自分の名前が載ることが嬉しい」というものです。大勢のスタッフといっしょに、膨大な時間と労力を注いで完成させたゲームです。憧れのクリエイターが参加している場合もあるでしょう。そこに名前が載ることで、自分がスタッフの一員であることを再確認でき、喜びが込み上がってくるのではないでしょうか。

人事部が応募者を評価するポイントとは?

img-interview-with-takanori-saitoh-2_03.jpg ── 人事のプロとして、求職者を評価する価値基準や方向性をお伺いしたいのですが。

斎藤氏:当社はビジネス・ディビジョン(部門)によって、同じ肩書きのポジションでも求められる働き方が異なる場合がありますので、「この職種はこうですよ」ということが一概には言えません。 ですから、会社の全体的な傾向としてお話をしたいと思います。

例えば、ビジュアルデザインやサウンドデザインなどの「作風」が大きく影響するクリエイター職の場合、最初から「自分の好み」「強み」「個性」といったものを、素直にアピールしていただきたいですね。「好みに合わせられます」という方もいらっしゃると思いますが、自分の得意なものや好きなものと、当社のディビジョンやプロジェクトとの方向性が合致すれば非常にうまくいくと思いますし、合わないと、せっかく入社していただいても無理が生じると思います。

── スクウェア・エニックスのブランドに合致しなくてはいけないということでしょうか?

斎藤氏:伝統を守るということは、とても重要なことではありますが、これまでの当社にないような作風をお持ちの方にも、ぜひご応募してほしいと思っています。それがやがて、『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』に並ぶような、当社の柱になる作品に成長する可能性もあるかと思います。もちろん、ユーザーの期待を裏切らない水準や完成度は追求します。

ですから、「自分のテイストはスクウェア・エニックスには合わないだろう」と自分で決めつけず、素のままの自分の志向やこだわりを私たちにぶつけていただければと思います。

── では、ディレクター系の人材を判断する場合はいかがでしょうか?

斎藤氏:例えばアートディレクターのようなポジションで、内製・外製を含めて「上がってきた成果物を評価して、きちんと当社の求める成果が出せているかを見極める」といった業務内容ですと、当社の方向性をどこまで理解できているかが評価の重要なポイントになります。いわゆる「目利き」ですね。それと調整力。その中で、スケジュール管理や予算管理を行い、マネジメントしていく力量があるかも見ていきます。

── ディレクター職に求められる資質としては、ほかにどのようなものが挙げられますか?

斎藤氏:チームとしての意思決定力と、ひとつの方向性にチームを巻き込んでいく手腕が挙げられます。 このコンテンツがおもしろいかおもしろくないか。それは、結局世の中に出してみないとわかりません。当然スタッフの中には「Aがいい」という人もいれば「Bがいい」という人もいるわけです。しかし、AにするかBにするかは誰かが決断しなくてはいけない。なぜAを選ぶのか。その理由をチーム全体に納得させ、期日内に高い水準の成果物を作らなくてはなりません。

これは、一般的には「コミュニケーション力」や「リーダーシップ」などと表現されるものかもしれませんが、私はそこに「知的な意味での力勝負」ができるような精神力や情熱、「どうしてもこれを実現したいんだ!」という想い、そしてそれを論理的に伝えていく表現力といったものを見ています。 多くのスタッフをプロジェクトに巻き込んでいく「巻き込み力」と、意見の異なるスタッフを最終的な結論に束ねる「まとめ上げ力」を求めています。大きなプロジェクトになればなるほど、その手腕は重要になってきます。

あとは、ゲーム開発というのはかなり長期的なプロジェクトですから、進行するに従ってプランを調整、あるいは軌道修正しなくてはいけないフェーズが出てきます。そういうときにプロジェクトの本質を見極め、「何を変えるか、何を変えないか」を取捨選択するセンスも必要になります。

スクウェア・エニックスにおけるディレクター職・プランナー職とは?

img-interview-with-takanori-saitoh-2_04.jpg ── 御社におけるディレクター職とプランナー職の位置付けはどのようなものでしょうか?

斎藤氏:これもディビジョンによって異なりますが、原則として当社におけるプランナー職には、バトルプランナーやシナリオプランナーなどがあり、彼らはその分野のプロとして、「細部」をあらゆる角度から見ています。そしてディレクター職は、各分野を集合し「全体」を見るというイメージです。「職制としてディレクターとプランナーのどちらが上」ということはなく、プロジェクトの性質や状況に応じて、誰がイニシアティブを取るかはケースバイケースです。

── 若くても、経験がない・少ないという人でも、御社で活躍できるチャンスはあるのでしょうか?

斎藤氏:そういう事例は実際にあります。まったく異業種の営業職の方が入社されて、20代でプロデューサーになった人もいますよ。ただし、入社してすぐに活躍できるということになると、やはり前職はゲーム業界のプロデューサーやプロジェクトマネージャーといった経歴を持つ人が多くなっています。

── 異業種からの求職者は、書類選考の突破さえ難しいと思いますが、その方の場合はどうやって突破されたのでしょうか?

斎藤氏:その人の場合は、自分で企画を持ち込んで、それが非常におもしろかったという経緯があります。ゲームとしてのおもしろさはもちろん、実現性が高く、マーケティング的な視点からも的確な企画だったということです。当社の「こういう企画がほしい」というニーズとタイミングに合ったわけですから、お互いにとって幸運な出会いだったといえるでしょう。

人事が「気になる」応募書類とは?

img-interview-with-takanori-saitoh-2_05.jpg ── 日々、膨大な数の応募書類に目を通しているかと思いますが、人事のプロとして「気になる」、つまり一瞬で興味を引かれる応募書類とはどのようなものでしょうか?

斎藤氏:まずは同じゲーム業界からの転職者はやはり気になりますね。「どんな経験や実績を持っている人だろう?」という興味を持ちます。同じ業界だと、どんな人材なのか見当がつけやすいという側面もあります。

── ほかに応募書類で目にとまりやすいポイントはありますか?

斎藤氏:最初に転職理由、次に志望動機です。この人は「なぜ今の会社を辞めたいんだろう」「なぜほかの会社に移りたいんだろう」、そして「なぜ当社に入りたいんだろう」という3点が納得できれば、人物像が思い描けます。そこからスキルや当社とのマッチングを評価していくという流れになります。

── 転職理由や志望動機は、よく「ポジティブであるべき。ネガティブでは良くない」といわれますが、斎藤さんはどうお考えですか?

斎藤氏:私の場合は、ポジティブ・ネガティブというよりも、とにかく「包み隠さず正直に書いてほしい」と考えています。例えば、転職理由が「キャリアアップのため」などと漠然と書かれていると「じゃあ、この人にとってのキャリアアップって具体的には何だろう?」というのが知りたくなります。面接の場でも確実に質問しますね。

人事にとって、「この人が優秀かどうか」という点も大事な要素ですが「当社に入ってフィットするのか。この人はそれで幸福になれるのか」という点は最も気になります。採用後にミスマッチだったことがわかると、お互いに残念な結果になってしまいますから。

── 求職者にしてみれば、採用選考は「受かるか、落とされるか」と天秤にかけられる心理に陥りやすく、そのため「通りやすい理由」を書きたいと思ってしまいがちですが、人事は「お互いに幸せになれるか、なれないか」ということを真剣に知りたいとうことですね。

斎藤氏:そうです。だからこそ、包み隠さず書いてほしいと思うのです。私自身も転職経験者ですから、「幸せになれるかどうかは受かったあとに考えよう。まずは採用されることが先決」という気持ちは非常にわかります。

しかし、やはり「この会社に入って、自分がどんな働き方をするのか」といったイメージを持てるかどうかは重要ではないでしょうか。ですから、転職理由や志望動機を見て「この人がどんな人物なのか」を、人柄を含めてイメ―ジできるような応募書類が理想的でしょうね。

面接はなるべく自然体に - 普段の考え方や立ち振る舞いを知りたい

img-interview-with-takanori-saitoh-2_06.jpg ── 御社の面接の様子や雰囲気はどのようなものでしょうか?

斎藤氏:ディビジョンにもよりますが、全般的には穏やかです。面接は、緊張をほぐすために「アイスブレイク」が必要といいますが、できるだけ自然体でお話を伺い、その人の普段の考え方や立ち居振る舞いを知ることが大切だと思っています。採用に至った人の感想をあとで聞くと、「これが面接なのかというくらい自然な雰囲気で面接が終了した」という方が多いですね。

── エンタテインメント会社であることを意識して、ウケを狙ったりする求職者はいませんか?

斎藤氏:時々いらっしゃいます(笑)。飾らないで素の自分を出して、それがおもしろかったのならいいのですが、それを意識しすぎると痛々しい雰囲気になってしまいますよね。

スクウェア・エニックスの採用のキャパシティは?

img-interview-with-takanori-saitoh-2_07.jpg ── 求職者の中には、御社の募集要項に記載されている「求める人材像」の枠から外れているが、どうしても採用されたいという方もいるかと思います。例えば「何かキラリと光るもの」があれば、募集要項とは違うけれど採用されるというケースはありますか?

斎藤氏:数でいえば、決して多くはないと思います。ただ、募集している職種に求められる人材像には適合しなかったけれど、ほかの部署での求人条件に適合するというケースはありますね。そういう場合は、「こちらの部署で選考を受けてみる気はありませんか?」と声をかける場合があります。

また、採用後に社内でキャリアチェンジをするケースも珍しくはありません。当社で働いているうちにいろいろな部署や職種を見て、あるいは新規プロジェクトの内容を知って「こういうことをやってみたい」と手を挙げる人もいます。実際には、新しいプロジェクトが誕生する中で、リーダーが社内の人にオファーをするケースもあります。

「自分はこれからこんな方向に進みたい」「入社してこういうスキルを身に付けたから、それをやりたい」といった気持ちがあり、そういうシグナルを周囲に発していれば、自然にチャンスが巡ってくると思いますよ。

ただし、「どうしても当社に入りたい」という思い入れの強い方に申し上げておきたいのが、その思い入れが「作品」に対するものなのか、「職場」としてのものなのかということです。「働く環境」として当社が自分にフィットするのか、まずはそこを考えてエントリーしていただければと思います。

── 採用に際して歓迎される、あるいは敬遠される年齢層はありますか?

斎藤氏:特にありません。若いから歓迎ということでもないし、むしろ最近は採用者の年齢は上がってきています。40歳以上のクリエイターでも、年齢的にNGということはありません。経験値が年齢にふさわしいかどうかが重要です。

また、年齢が上になってくると、チームをまとめるスキルやマネジメント経験なども確認させていただきますが、これは「年齢が上だから管理職」という意味ではありません。クリエイティブに徹しているという方は、もちろん考慮させていただきます。

まとめ - マイナビクリエイターの見解

斎藤氏には、スクウェア・エニックスという企業の全体像と、同社の採用に関する考え方をお話しいただいた。非常にボリュームのあるインタビューなので、マイナビクリエイターなりに、要点をまとめて補足・解説したいと思う。

1. スクウェア・エニックスの企業文化・風土について

スクウェア・エニックスは、2003年にゲーム業界の両巨頭・エニックスとスクウェアが合併して誕生した会社だ。同じゲーム業界同士とはいえ、両社の企業文化は大きく異なっており、この違いを「補完」という形で乗り越えて一体化した経験が、同社の大きな強みとなっている。

社員の約8割が中途採用者で、それぞれ異なるバックボーンと専門性を持ったプロフェッショナル同士がリスペクトし合う風土も、グローバル感覚に磨きをかけた。こうした経験から、海外展開においても「グローバル」を意識する必要がなく、自然体で世界展開を進めることが可能となっているといえよう。

また、ひとつの会社でコンシューマーゲーム、スマートデバイス向けゲーム、アーケードゲームなど、ゲーム関連のほとんどの領域をカバーし、映像制作や出版といった分野とのクロスメディアが自社内で完結できるということも同社の大きな特長といえる。国内外の拠点も整備され、これからはアメリカ・ヨーロッパ・中国以外の世界市場への展開にも、意欲的に取り組もうとしている流れも魅力的な展開だ。

スクウェア・エニックスの成り立ちと現状

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スクウェア・エニックス

  • ゲーム業界や市場がどう変化しても柔軟に対応していける
  • ディビジョン(部門)ごとに独自性を持ち、「やりたいことができる」環境を構築
  • 世界各地に拠点を持ち、地域に応じた開発や販売戦略がグローバルに展開できる

2. 企業理念を重視し、実践している会社

  • 個人の自由と権利を尊び、お互いに敬意をもって接する
  • お互いの「違い」を理解し、自分を主張しながらも調和を心掛ける

スクウェア・エニックスは、上記の企業文化と風土を生み出した。これは、例えばアメリカのような多民族国家に近い感覚かもしれない。そして、こういう集団を束ね、ひとつの方向に向かって走るためには、以下の理念とルールを大切にすることは必然ともとれる。

企業理念

最高の「物語」を提供することで、世界中の人々の幸福に貢献する。

経営指針

  • プロフェッショナリズム(意識の徹底とプライド・自覚)
  • 創造性、革新性(新たなコンテンツは常にゼロから始まるという意識)
  • 調和(個々の最高のパフォーマンスを結集して、巨大な物語世界を構築する意識)

3. ほしいのは「企業理念を自分のものにできる人」

スクウェア・エニックスの求める人物は、このような企業理念や経営指針を「自分のもの」として受け入れ、実践できる人。応募する職種の募集要項に合致したスキルや専門性は重要だが、それ以前に「企業理念を実践できること」が必須で求められるだろう。

4. 応募時に注意すべきこと

「本当にこの人が当社に入って幸せなのか。それを見極めるためには、その人の素顔を見たく、お互いに話し合うことができる機会をもちたい」という斎藤氏のお話が、応募書類・面接の最大のポイントだ。なお、「どうしてもスクウェア・エニックスに入りたい」という思い入れが強い方は、「作品が好き」という視点と「職場としてのスクウェア・エニックスが好き」という視点で、もう一度考えてから面接対策を練ったほうがいいかもしれない。

スクウェア・エニックスは非常に人気の高い企業であることから、採用に至るまでは狭き門だ。しかし、条件よりも「人物」に注目して評価するポリシーのため、「実力には自信があるが、条件面で落とされるだろう」とエントリーをためらっている方は、思い切って懐に飛び込んでみてはいかがだろうか。

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。

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