Web業界進化論 実践講座#18 〜ディレクターからプロダクトマネージャーへ ピボットで広げるキャリア形成〜 セミナーレポート

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新井貴大氏 ディレクター プロダクトマネージャー 去る6/21(火)、マイナビクリエイターによるオンラインセミナー「Web業界進化論 実践講座#18 ディレクターからプロダクトマネージャーへ ピボットで広げるキャリア形成」が開催された。

Web業界の最前線で働くロールモデルの方々からキャリアを学ぶ「Web業界進化論 実践講座」。その第18弾となる今回は新井貴⼤氏をゲストに迎え、プロダクトマネージャーという職種の魅力や、キャリア形成の「ピボット」について語られるものとなった。

講師プロフィール

新井貴大氏

新井 貴大氏
4us.design 代表

大学卒業後、Web求人広告のセールス、Web制作会社でデザイナー/コーダー・ディレクターを経て、フリーランスとして独立。大手不動産ポータルのUXディレクター、創業期のシステムコンサル会社でのプロジェクトマネージャー、スタートアップのプロダクトマネージャー等、ソフトウェア開発現場におけるプロダクトマネジメント・プロジェクトマネジメントの領域を中心に支援している。

プロダクトマネージャーの役割とは「プロダクトの成功にコミットする」こと

セミナーは、新井氏のキャリアを振り返るところから始まった。新井氏は求人広告セールス、受託制作のWebディレクターを経て、2015年に独立。ディレクターやプロジェクトマネージャーとして開発に携わり、近年はプロダクトマネージャーとしてプロダクトの企画・開発を支援している。

新井氏は自身のキャリアについて「Web制作のスキルを軸足に、近接領域にどんどんピボットして、チャレンジを繰り返してきた」と話す(新井氏の詳細な経歴は、事前インタビュー「ディレクターからプロダクトマネージャーへ。「成長痛」と共に歩んできたキャリアとは」をご覧ください)。

私の経歴

では、「プロダクトマネージャー」は具体的にどのような仕事をしているのだろうか。

新井氏はプロダクトマネージャーの役割を「プロダクトの成功にコミットする人」と定義する。その業務は、プロダクトの戦略立案やロードマップ策定、仮説検証、PRD(プロダクト要求仕様書)作成、プロジェクトマネジメントなど多岐にわたる。ビジネス、UX、テクノロジーといった領域のメンバーとの連携も欠かせない。

プロダクトマネージャーの仕事

ただ、新井氏は「環境によって“重心”が変わり、それに伴って業務内容も変わる」と話す。

新井氏:たとえば、小さなセグメントに対して提供するプロダクトであれば、リサーチやインタビューなどの定性データが重視されますし、幅広いセグメントにアプローチするものであれば、定量データを重視した分析結果から企画を練る必要があります。プロダクトによって重きを置く場所=重心が異なれば、業務内容も変わってくるのがプロダクトマネージャーの特徴です。

漫然とディレクターを続けても、プロダクトマネージャーにはなれない

セミナーの後半は、プロダクトマネージャーを志す人に向けた「制作ディレクターだからこそ活かせるアドバンテージ」というスライドから始まった。受託制作に携わるディレクターがプロダクトマネージャーを目指すとき、「アドバンテージがあると思える理由」が3つあると新井氏は言う。

アドバンテージがあると思える3つの理由

1つめは「UI/UXとテクノロジーの知識がある」。プロダクトマネージャーはエンジニアやセールス出身など、さまざまなキャリアを経て高い専門性を持ち合わせている人が多い。制作ディレクターにおいても、UI/UXやテクノロジーなど、分野を横断した知見を持っていることが多く、これはプロダクトマネージャーを目指すうえで、大きなアドバンテージになる。

2つめは「プロジェクトマネジメントの実務経験」。1つめの理由にも関連するが、制作ディレクターはプロジェクトマネジメントの実務経験も兼ね備えている。エンジニアやデザイナーら専門家の能力を引き出す力、ステークホルダーと調整を図る力などは、プロダクトマネージャーを目指すうえでも大きな武器になるだろう。

最後の3つめは「専門業以外をカバーする汎用的能力」。新井氏はこれを「なんとかする力」と言い換える。ディレクターの仕事は「デザインとプログラミング以外のすべて」であり、足りないものを「なんとかする」のがディレクターのスキルとも言えるからだ。

新井氏:プロジェクトは常にすべてが満ち足りた状態ではありません。足りないスキルがあれば短期で習得せねばなりませんし、人事異動や退職などで突然メンバーが欠けることも往々にしてあります。そうした環境の中で、なんとかプロジェクトを前に進める力は、プロダクトマネージャーにも転用しやすいスキルだと思います。

そういった過去の経験を活かせる一方で、「制作ディレクターだからこそ意識したい違いもある」と新井氏は指摘する。

意識したい3つの観点

まずは「事業モデルの違い」。クライアントワーク中心の受託制作に対し、プロダクト事業は多数のユーザーを一度に相手にする。追加すべき機能や施策に「正解」はなく、より多くのユーザーの課題を解決するよう、広さと深さをバランスよく考慮しなくてはならない。

次に「畑の違い」。制作会社(制作畑)はマーケティングやブランディングに関わるプロジェクトが多く、ビジュアルデザインなど「いかに魅力的に伝えるか」に重きを置く。対して開発会社(開発畑)は、「いかに製品(プロダクト)の価値を高めるか」を重視する。自分のやっていることがマーケティングなのか、プロダクト開発なのかをしっかり認識せねばならない。

最後は「役割の違い」。プロダクトマネージャーがプロダクトの成功を目指すのに対し、プロジェクトマネージャーは施策や機能の一つひとつを完成させることに注力する。かたや大局的、かたや局地的な視点となるため、その違いを意識することが必要だ。

新井氏:これらの違いを踏まえて、私は「ディレクターの延長線上にプロダクトマネージャーという職種はない」と考えています。思うようなキャリアを歩むためには、どういった方向にスキルを伸ばすべきなのか、どんな観点を意識すべきかを、しっかり理解しておかねばならないでしょう。

できることを軸足に新たな領域に踏み出す「隣接領域のピボット」

セミナーの終盤は、新井氏が考えるキャリア・スキル形成について語られた。

新井氏:最初、私にはWeb制作という武器しかありませんでしたが、環境を変えてプロダクト開発の現場に行ったり、受託会社でマネジメントを経験したりして、現在のプロダクトマネージャーという職種にたどり着いています。自分ができることを軸足にして、周辺領域に知識や経験を広げていく。これを「隣接領域のピボット」と呼んでいます。

隣接領域へのピボット

「できること」が増えていくと、周辺領域と交わる部分も増えていき、スキルを伸ばしていけるようになる。

ディレクターであれば、エンジニア/デザイナーといったスペシャリスト領域や、プロジェクトマネージャーやプロダクトマネージャーといったジェネラリスト領域が「隣接領域」と言えるだろう。ただ、普段の業務から隣接領域へチャレンジするには、何らかの機会が必要だ。そこで新井氏は「機会を得るために意識すべき4つのポイント」を挙げた。

機会を得るために意識すべき4つのポイント
  • 任された領域に誠実にコミットする
  • 仕事を任せる側は、普段の仕事で手を抜いたり、不誠実な振る舞いをしたりする人に、チャレンジの機会を与えようとは思わないもの。任された領域に誠実にコミットすることで信頼を構築することが大切。

  • 脱属人化/仕組みを常に意識する
  • せっかくの機会なのに、ほかの仕事で忙しくて抜けられない……という状況は避けたい。チャンスを逃さないために、引き継ぎ用にドキュメントを整えたり、メンバーを育成したりなど、「脱属人化」を普段から意識して働くこと。

  • 機会をつかみやすい場所へ
  • プロダクトマネージャーを目指したくても、プロダクトが生まれない環境にいては実現が難しい。新規事業や新規プロジェクトが生まれやすい会社に身を置くことを考える。

  • 発信し続ける
  • 上司や同僚、コミュニティで「こういうことにチャレンジしたい」と発信を続けると、何かの機会に「やりたいと言っていましたよね?」と声をかけてもらえる。常に発信を続け、想起してもらえる機会を作る。

セミナーの最後、新井氏は本日の発表をこうまとめた。

新井氏:プロダクトマネージャーは目指すに当たっては、ディレクターの経験が大いに活かせると考えています。意識すべきところ、考え方を変えなければならないところもありますが、その分、魅力も多い職種です。「隣接領域のピボット」を意識してスキルを伸ばし、キャリアに繋げてもらえたらと思います。

基本的なことを当たり前にやるだけで、競争力が高まる

セミナーは参加者との質疑応答で締めくくられた。寄せられた質問からいくつかピックアップして掲載する。

これまでの経歴で「ディレクターとして成長したな」と感じられたタイミングはありますか?

受託制作で、がむしゃらにスキルを磨いていたときです。

2社目の制作会社で受託制作をしていたときが、一番成長を感じましたね。1社目の求人広告セールスから転職したタイミングで、「30歳までにいくつか“カード”を持っておきたい」と思ったんです。この会社で偉くなるのか、転職できるよう市場価値を高めるのか、それとも独立するのか。

だから、とにかく任された仕事をがむしゃらにこなして、スキルを磨くことに費やしました。仕事を仕組み化することで、かかる時間を半分にして、余った時間で別の案件をやらせてもらったり。自分に足りない部分を積極的に埋めていった時期なので、一気に成長できた手応えはありましたね。

プレイヤーとマネージャーは両立できると思いますか?

できると思います。

できるかできないかで言うと、両立できている人が実際にいますので、「できる」と思っています。この方が今どちらの立場で悩まれているのかわかりませんが、プレイヤーとして能力を伸ばしていきたいのであれば、全然伸ばしていいと思いますし、人の育成やサポートが好きという志向性があるなら、マネジメントの方に進んでもいいと思うんです。両立自体は不可能ではないので、不安になることはないと思います。

新井さんが思う「こういうWebディレクター・プロジェクトマネージャーだとすごく仕事がしやすい」という人は、どんな人ですか?

基本的なことを当たり前にできる人です。

疑問があったときに自分から「これはどうなっていますか?」と聞けたり、その後の行動やレスが早かったりなど、主体的に動ける人はやりやすいですし、一緒に働いていると「信頼できる」と感じますね。やはり結局のところ、「基本的なことを当たり前にやる」ことなのだと思います。ディレクターもプロジェクトマネージャーも、ビジネスパーソンの基本ができているだけで競争力が高まりますからね。

セミナーを終えて

新井氏はプロダクトマネージャーの魅力について「マーケットニーズが高い」「価値創造に責任を伴って携われる」などを挙げ、ディレクターのキャリア選択肢の1つになるとを語った。同時に、「漫然と受託制作のディレクションを続けていても、プロダクトマネージャーにはなれない」と警告する。ディレクターの領域からはみ出て、違う考え方や経験に触れなければ、転身は難しい。

これを成功に導く手段の1つが、「隣接領域のピボット」とも言えるだろう。できることを広げ、新たな交点を増やすことは、転職の有無にかかわらずキャリアを豊かなものにしてくれるはずだ。

これからも「Web業界進化論 実践講座」はさまざまなゲストを招いてお送りする。ぜひ今後の講座内容にも期待してほしい。

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

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