3DCGデザイナーが習得しておくべき必要スキルとは
3DCGデザイナーとは、3Dグラフィックスを駆使したデザインをする職種のことですが、映画やゲーム、車や精密機械の設計など、3DCGが使われる分野によって求められるパフォーマンスはそれぞれです。
たとえば、ゲーム業界の3DCGデザイナーには、リアルな表現力だけではなく、そのリアルさをゲーム機やスマホのスペックが実現できる範囲内で表現するスキルが求められます。なぜならば、3DCGデザイナーのスキルに任せて、いくら精巧なものを作ったとしても、それがゲーム上で活かされなければまったく意味がないからです。
近年のゲーム機やスマホは高性能になり以前ほどの制限はなくなりましたが、それでも状況に応じたさまざまなスキルを身に付けておく必要があります。
今回は3DCG業界で活躍する3DCGデザイナーが習得しておくべきスキルや知識について解説します。
目次
3DCGデザイナーに必要となる基礎スキル「デッサン力」とは
3DCGデザイナーに必要となる基本的なスキル、それはやはり「デッサン力」です。あるいは「観察力」と言い換えることができるかもしれません。対象となる立体物を観察しディテールや質感、陰影にいたるまで、構造や形状を細かく正確にとらえ書き出す力、つまりデッサン力が備わっているということは、同時に物事を観察する力があるということです。立体物を平面に書き出すスキル、平面から立体物を想像できるスキル。2次元と3次元の世界を自由に行き来できる想像力が必要な3DCGデザイナーにとって、「デッサン力」は基礎スキルであり必須スキルでもあります。
ソフトやハードの開発が進んだからといって、その力に頼れば誰もが容易に表現ができるわけではありません。クリエイターに絵心があるかないか、想像力があるかないか、これらは仕上がりのクオリティに大きな差を生むでしょう。ソフトはあくまでもクリエイターの表現の幅を広げるためのツールです。まずは自身の表現力を鍛えること、そしてその基礎とも言えるのが「デッサン力」なのです。3DCGデザイナーとして高い表現力を目指すなら、貪欲な観察のうえに成り立つ「デッサン力」は欠かせないスキルの1つと言えるでしょう。
パート別の必要スキルを紹介!3DCGデザイナーに求められるスキルとは
3DCG作品を作るには、形を作り(モデリング)、動かし(アニメーション)、よりリアルな表現を加える(エフェクト)といった、いくつかの作業プロセスがあります。3DCGデザイナーとは、そういったさまざまな工程での役割を担うポジションの総称です。以下に3DCGデザイナーの各ポジションで、必要とされるスキルを説明します。
モデリングで必要なスキル
プロの3DCGデザイナーは、これから作るモデルのイメージ画や資料を見て、それが立体化された映像を即座にイメージし、形状の凹凸、各パーツの前後関係や光が当たったときの影の落ち方、可動部分が動いたときにどう形状が変化するか等を想像できるスキルがないと、思うように作業を進めるのは辛いかもしれません。
具体的には、「平面の絵から立体の形状を把握するスキル」が求められます。作成するモデルの資料にX、Y、Z方向から見た3面図が、作業する3DCGデザイナーに用意されていればモデリング作業も軽減されるかもしれませんが、たいがいは「これから初めて立体化するもの」なので、3面図が用意されていることは稀です。そのため、各方向からどう見えるかを展開して考えられるスキルが、3DCGデザイナーが円滑にモデリングを進めるうえで重要なのです。
なお、3面図から立体をイメージするスキルは言うまでもなく必須スキルです。 以前は処理負担軽減のために、詳細なハイモデルと簡易的なローモデルの使い分け(近景ではハイクオリティなモデルを使い、遠景ではポリゴン数を間引いたローモデルを使う)をいちいち設定して行っていましたが、最近は「Unity」などのゲームエンジンに装備されている「LOD(Level of Detail)」と呼ばれる機能のおかげで、3DCGデザイナーにとって以前ほどの苦労は少なくなりました。
アニメーションで必要なスキル
ゲームでキャラクターに動きを付ける場合、現実的な動きであるかどうかというのはもちろん大切なことです。そのため、実際の人間の動きや動物の動きを読みとる「動きの観察力」が必要になります。しかし、すべてが現実に即した動きになっていればよいという訳でもありません。ゲームにもよりますが、キャラクター像に合った動きを考える必要があります。
跳躍力の高いキャラクターがいて、高くジャンプするアニメーションを作るなら、現実の動き以外にデフォルメ(創作的な動き)が必要になります。キャラクターで言えば、足がバネのように伸縮するアニメーションだったり、キャラクターを取り巻く環境で言えば、地面がめり込むアニメーションや、高速な動きで空間が歪んで見える演出などです。キャラクターのアニメーションと、キャラクターを取り巻く環境演出アニメーションの組み合わせによって、よりリアリティのある演出がされているのです。
カメラ設定で必要なスキル
3DCGデザイナーの自己判断でカメラ(視点)設定を行うことはほとんどありません(ゲームプランナー側からの注文として、ゲームプログラマーが設定する最適なカメラ視点の意見を聞かれるということはあります)。
3DCGの視点は現実のカメラ視点の再現です。望遠レンズだとどう見えるのか?広角レンズではどうなるか?ズームをするとどうなるのか?など、実際のカメラ撮影のスキルと知識があれば理解が早いと思います。3DCGデザイナーであっても、できればレンズ交換のできるデジタルカメラでリアルな撮影スキルを積むことをおすすめします。加えて「被写界深度」や「焦点距離」など、ゲームプランナーのイメージする絵面を再現するための写真撮影の知識は、現実のみならず3DCG分野でも活かすことができます。
ライティング設定で必要なスキル
照明(ライティング)に求められるスキルは、単に対象を照らし出すためだけのものではありません。たとえば、人物の顔に当てる角度を変えるだけでその心理描写まで可能になるからです。照明を「どの方向から」「どの程度の光量で」、さらには「どんな色の光で」照射すればどのような効果がもたせられるか。3DCGデザイナーの照明作業にはそれが判断できるスキルが必要でしょう。 そのため、カメラ撮影のためのライティング解説本の購入をおすすめします。さまざまな撮影環境での照明テクニックが記載されていますので、実際に人形などを使って懐中電灯で光を当てるなど、実験してみるのもいいでしょう。実験の後は3DCGソフト上でそれを再現して効果を確認しましょう。
エフェクトで必要なスキル
最後にエフェクト効果についてですが、このスキルの会得は上記に比べると少し難しくなります。まず、そのシーンに効果的なエフェクトをイメージできるセンスは基本でしょう。昨今のゲーム機でのエフェクトは、3DCGで表現されているケースも増えましたが、ゲーム機が高性能になったとはいえ、無計画にエフェクトを付けすぎると描画遅延などの処理落ち、結果としてfps(frames per second:毎秒のフレームレート)の低下原因にもなりかねません。
そこで重要になるのが、最適なエフェクト効果を適度に入れる、または最小のエフェクト設定でも見栄えのいい結果を出せるスキルですが、これはそれなりの技術と経験が必要になるでしょう。上で述べたように、処理落ちを招く要因にも繋がりかねないため、「ほどよいエフェクト」を目指す必要があるのです。もちろん、ド派手な爆発シーン、魔法を使うシーンなど、過剰演出が必要な場面もありますが、そういった場合でも処置落ちしないよう、調整できるスキルが役に立ちます。
また、最近は「Unity」や「Unreal Engine」などのゲームエンジンでエフェクト付けをすることも多いため、使い方や表現の特徴なども知っておく必要があります。しかもそれら技術の核心は3DCGデザイナー各々の「門外不出のスキル」であることも多く、Webなどで一般公開されることも基本的にありません。先輩3DCGデザイナーから直に情報収集するという「スキル」も大事でしょう。
3DCGデザイナーの実務以外で役に立つスキル
表現の基礎となる「デッサン力」から、3DCGデザイナーとして表現の各工程で必要となるスキルについて解説してきました。ここではチームで円滑に仕事を進めていくうえで身に付けておくとよいスキルや3DCGデザイナーとしてより高いレベルを目指すために持っておくとよいスキルについてご紹介します。
HTMLや各種スクリプトのスキル
3DCGデザイナーであっても「HTML」のスキル(「HTML5」レベルでなくても十分)は身に付けておくと、関係者だけに見せたいサンプル画像などの閲覧用Webページを作ったりするときに便利です。また近年の開発会社はペーパーレス化を進めているところも多く、一部開発では3DCGデザイナーでも、社内ネットで3DCG表現などの提案や、作業の状況説明などをするときにHTMLで簡単なWebページを作って確認させるところもあります。このような開発では必須スキルになりますので、予め確認しておいた方がいいでしょう。
また、独自開発のスクリプトが使用されることもありますので、Java等のスクリプトの概要は知っておくとよいかもしれません。実際、開発現場ではスクリプトを扱うスキルのある3DCGデザイナーは重宝されます。
語学スキル
プロの3DCGデザイナーが技術などの情報収集をする場合、海外のWebサイトに頼ることはよくあります。近年のWeb英語翻訳サービスはかなり優秀になってきているので、通常はそれで問題ないでしょう。また動画サイトを使った説明が充実してきたこともあり、英語がわからなくても動画の流れを見るだけで、ある程度内容は理解できるかもしれません。
その際、一般的な会話レベルの英語の読み書きのスキルがあると海外のフォーラムやチャットでの質疑応答に参加できるので、より詳しくツールなどの操作や表現したいことを調べることができるでしょう。もちろん、ある程度はWeb翻訳サービスを併用することで対応できますが、その際は「翻訳サイトを使っている」という但し書きを付けておくと、多少の言語表現上の誤りがあっても、相手も理解してくれることが期待できます。
職場でのコミュニケーションスキル
3DCGデザイナーというと個人技という印象が強いかもしれませんが、チームで「ビジネス」に関わる以上、業務の進捗や報告などのメールのやり取り、また社内ネットによるチャットなどのコミュニケーションは日常的に行われます。進捗報告のために、作業中の画像や動画を添付することもあるでしょう。そんなとき留意しておきたいのが、報告する相手は「開発現場レベルの3DCG知識がある人ばかりではない」ということです。伝える相手が誰であっても、正しく理解しやすいような言葉を選んで説明することはとても重要だと言えます。
スキルや知識を活用!3DCGデザイナーならではのマル秘テクニック
3DCGの開発現場には、いつの時代も、表現や演出にさまざまな工夫があふれています。今でこそ、機能の向上により表現の自由度はぐっと上がりましたが、たとえばゲーム業界において、当時のゲーム機スペックに甘えたような開発方針だったなら、数々の名作タイトルは生まれなかったでしょう。
1994年に「プレイステーション」と「セガサターン」が発売され、より3DCGゲームが一般に浸透していきましたが、当時それらのソフト開発がまだ十分とはいえないマシンスペック環境だったにも関わらず「実現に至った」のは、数々の工夫やアイデアがあったからです。現在の高性能なゲーム機ではあまり使われなくなりましたが、中には今の3DCGデザイナーにとっても十分に効果が期待できるものもあります。それらを判断し、使うことができるのも優秀な3DCGデザイナーのスキルの1つと言ってもいいでしょう。そのいくつかを紹介します。
テクスチャ画像の減色
テクスチャで使われる色数は多いほどメモリを消費し、少なければその分だけ多くのテクスチャ画像をV-RAM上で使うことができます。3DCGデザイナーは減色専用のツールを使って、その画像で使っている色数を少なくします。ゲーム機によっては16色〜8色程度まで減色するケースもあります。素材画像にもよりますが、優れた減色ツールは見た目の劣化をほとんど感じさせずに256色を16色に落とすことも可能です。これは3DCGデザイナーにとって「スキル」という以前の知識です。
ハイモデルとローモデルの使い分け
近景ではハイクオリティで詳細なモデルを使い、遠景ではポリゴン数を間引いたローモデルを使うことでゲーム機の処理負担の軽減を図ります。むしろ常にハイモデルを表示させなければならないケースは稀でしょう。場合によっては、さらに中間的な「ミドルモデル」も用意することもあります。
つまり3DCGデザイナーは複数のクオリティのモデルを作り分けるスキルが必要であり、画面やシーンによってそれらを使い分けるのです。現在はLOD(Level of Detail)と呼ばれる機能が「Unity」などのゲームエンジンでも実装されており、ゲームエンジンのほうで自動的に置き換えが可能になりました。
書き割りの活用
「書き割り」というのは、本来は演劇舞台での背景の表現として使われる大道具の1つで、木製の板などに建物や樹木などの風景の一部を描いて立てかけたもののことです。この表現を3DCG上で行うと、劇的に少ないポリゴン数で背景を豪華に見せかけることができます。実際は「普通の板」なので、3DCGデザイナーは配置位置などを工夫・調整して、違和感がないようになじませるスキルが必要です。
画面に出ない部分のモデルはあえて作らない
たとえば戦車戦のゲームがあるとします。被弾などで戦車が破壊されたとき、爆発で戦車が跳ね飛ぶようなクラッシュ演出でもない限りは戦車の底板の部分が見えることはないでしょう。そんな場合、思い切って底面部分は作らないこともよくあります。
また、レースゲームなどでレース後にそのリプレイ再生の機能はよくありますが、そのときに演出としてコース周辺や上空からのカメラ視点に切り替わることがありますが、このときにカメラに映らない部分は、必要ないので作りません。建物の屋上やコースの一部分など、完全にカメラから死角になっているところは省略されることもあります。逆の言い方をすれば、カメラの視界から外れる部分はどんどんモデルを間引いていきます。
原始的な発想が時には突破口となる
開発過程で技術的にどうしても解決できない難題が出たとき、3DCGデザイナーは極端に原始的、または少々乱雑な方法で対処することを判断せざるを得ないことが「稀に」あります。たとえばある3DCGゲーム開発で、不具合のために3DCGモデルのモーフ・アニメーションがうまく機能しなくなったことがありました。しかし開発スケジュールの関係から不具合の原因を追いきることが難しいと判断され、その対策として3DCGモデルがアニメーションするパターンのモデルを一つひとつ作り、それをパラパラアニメのように切り替え表示させ、動かして切り抜けたということがありました。
このように3DCGデザイナーは純粋なクリエイティブのスキルだけでなく、その表現の根本の理屈も理解しておくことで、どうしようもない状況に陥ってしまったとき、解決の糸口を導くこともできます。経験を積み重ねたうえで得られるスキルとも言えるでしょう。
バトルゲームで腕や足をわずかに伸ばす
格闘系ゲーム開発では、キャラクターが8頭身や3頭身など、大きさにバラつきがある場合があります。
そうなると、腕や足などのリーチの長さに差があるため、相手にダメージを与えるために繰り出すパンチやキックは、小さいキャラクターほど物理的には届きません。しかし、そういった際にパッと見てわからない範囲で、足や腕を意図的に伸ばしたり、エフェクトを加えてわかりにくくさせたりしてカバーしている場合があります。
スキルはクオリティを求めるだけではない?身に付けるべきポイントと注意点
3DCGデザイナーはゲーム業界のみならず、アニメや・遊技機などさまざまな業種で活躍しています。さまざまな業界の内側を知ると、「業務の感覚」が業界ごとで異なることに気付くでしょう。たとえば、常にインタラクティブ性を持ったメディアゆえのゲーム業界では、明快なゲーム性、快適なゲームプレイ環境、そして何よりも面白いゲームを作るために3DCGデザイナーはあえてグラフィック表現のクオリティを落とさざるを得ない場合もあります。
ここで重要になるのは「3DCGグラフィック表現のクオリティを落とす」ということは、ゲーム機の負担を軽減させて快適なゲームプレイ環境を作るための「手段」であり、決して後ろ向きの思考ではないということです。
むしろゲームの3DCGデザイナーの業務は「緻密な3DCG表現をする」というよりも、「表現したいもののイメージを大事にしながら作業する」という説明の方が適当かもしれません。そのためにゲーム業界の3DCGデザイナーは、ゲームで表現するための「適切なクオリティ」を保てるスキルが求められるのです。
2DCGで良く使われるツールやスキルは、3DCGでも使える?
「Photoshop」や「Illustrator」はどの現場でも広く使われますので、それらが使えるスキルがあると何かと役に立ちます。最近の「Photoshop」や「Illustrator」は3D表現が可能になってきており、「.DXF」などの3DCGファイルへの書き出しはできますが、それらを3DCGデザイナーがゲーム開発で積極的に使うことは、テクスチャ作成以外はそう多くはないでしょう。
周辺機器としてペンタブレットなどを使う開発もありますが、3DCGデザイナー向けに特化したものは稀で、特別に3DCGデザイナーの作業に向いているわけではないためか、あまり導入例はないようです。そういう意味で、「2DCGで使えるから、3DCGでも使える」と思いこまず、3DCGでは「何が主に使われるのか」を知ったうえでスキル習得に努めましょう。
まとめ
どの業界においても3DCGデザイナーの根本にあるセンスやスキルを培うために重要になるのが「絵心」です。「絵を描きたい」、「美しく表現したい」という気持ちを常に意識し続けることで、次は「絵が上手くなりたい」という気持ちが自然に出てきます。
また、3DCGデザイナー個々の好みや業種の方向性によって「セルアニメのような表現を追求したい」、「物理演算を使った動きをマスターしたい」などの欲求が出てくるでしょう。3DCGデザイナーがどんなに3DCGソフトの操作を練習しても「絵心」がないとそれを続けていくのは困難です。そういう意味で、「表現することに飽きてしまう」ということが3DCGデザイナーのスキルアップの最大の障害なのかもしれません。
基礎スキルから、スキルアップのポイントなどを広く解説してきました。是非、3DCGデザイナーのスキルアップ、キャリアアップのために、参考にしてみてはいかがでしょうか。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。