世界に通用するIPを生み出すために必要な、クリエイターの「遊び心」と「想像力」とは ―― ビジュアルアーツ 天雲氏インタビュー
Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.45
第一線で活躍しているクリエイターたちのリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイターたちの熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。
ゲームブランド「Key」を展開し、『CLANNAD』や『ヘブンバーンズレッド』など多くのヒット作を持つ株式会社ビジュアルアーツ。アニメーションやゲームの制作をはじめ、関連するキャラクターグッズやライブイベントなど、さまざまなビジネスソリューションを提供するエンターテインメント企業だ。
ビジュアルアーツが求めるクリエイター像とは、そして同社で働く魅力とは。代表取締役の天雲玄樹氏に話を伺った。
プロフィール紹介
株式会社ビジュアルアーツ
代表取締役
天雲 玄樹氏
1999年にシナリオライターとして株式会社ビジュアルアーツに入社。以降、「丘野塔也」名義で数々の作品のシナリオを手がけながら、ディレクター職、プロデューサー職へとキャリアアップを重ねる。2023年8月に代表取締役社長に就任。
クリエイターに求められる「想像力」とは
―― まずは天雲様のご経歴についてお聞かせください。
天雲氏:1999年に株式会社ビジュアルアーツに入社し、最初はシナリオライターとしてキャリアをスタートさせました。弊社は物語作りに重点を置いており、物語が主導する形でさまざまな企画を動かしていきます。シナリオライター自らが企画を立て、プロジェクトを主導することも珍しくありません。私もシナリオライターを経て、ディレクター、プロデューサーとキャリアを重ね、マネジメント経験を積んできました。2023年に入って、前代表の馬場が代表を退くことになり、私が代わって代表取締役に就任したという流れです。
―― 今回、ゲームプランナーやシナリオライター、グラフィックデザイナーなど多種多様なクリエイターを募集されています。その背景についてお聞かせください。
天雲氏:成長に向けた足固めをしたい、というのが主な理由です。創業から33年目を迎え、幸いなことに業績は好調に推移してきました。次の30年、あるいはもっとその先に向けた体制を整えるには、クリエイターの層をより厚くしなくてはいけません。もちろん、クリエイターとして1人前になるには時間がかかりますから、その育成期間なども鑑みたうえで、今このタイミングで大きく採用に動きだそうと考えました。
―― クリエイターを採用する際に、重視するポイントなどありましたら教えてください。
天雲氏:まず成果物のクオリティは第一として、お客様の目線に立って考えられる「想像力」が大切だと考えています。自分の表現を追求するアーティストと違い、クリエイターは「自分がやりたいこと」と「お客様が求めていること」の両者を重ね合わせなければなりません。シナリオライティングであれば、「今どんな物語が求められているか」「その傾向は3年後どうなっているのか」などをしっかり想像できるか否かが、非常に重要なポイントになると思います。
もちろん、だからといって世間に迎合しすぎるのも考えものです。自分を押し殺して世間に合わせた作品は、魂がない上辺だけのものになってしまいます。流行や世相を念頭に置いたうえで、自分がやりたいことをすり合わせていく作業が、クリエイターには求められると思っています。
―― 今回の募集は、実務未経験の方にも広く門戸が開かれています。入社後の研修や教育はどのように行われるのでしょうか。
天雲氏:座学研修や教育期間などは設けておらず、現場で手を動かしてもらうことを重視しています。チームの一員として作業に関わり、成果物に対して先輩やディレクターからもらうフィードバックが、言ってみれば「教育」にあたるでしょう。「もっとこうしたほうがいい」「一部だけ採用するがここは変えてほしい」といった直接的なフィードバックのほか、「もう少し作風をこうしてみたらどうか」「この作品が参考になるから見てみては」といった長期的な視点のアドバイスに至るまで、現場での密なコミュニケーションを重視するようにしています。
実務未経験からモバイルゲームのプロジェクトマネージャーに
―― 実際に実務未経験で入社された方は、どのような活躍をされているのでしょうか。
天雲氏:梱包資材を開発する会社から、実務未経験でゲーム業界に転職してきた社員がいますね。入社直後はちょっとしたグッズやイベントなどの企画運営から始めて、経験が溜まってきたころにゲーム制作を担当してました。最初は比較的小規模なタイトルでディレクターを務め、今ではモバイルゲームのプロジェクトマネージャーを任されています。
―― 段階を踏んだ経験ができるのも、会社としてさまざまな規模の案件があるからこそではないでしょうか。
天雲氏:そうかもしれませんね。弊社は小規模から大規模まで、自社で回しているプロジェクトがたくさんありますから。ゲームに限らず、グッズ、アニメ、音楽など案件の幅も広いので、ジャンルを横断した経験も可能ですし、「ゲームを作りたくて入社したが、実はゲーム以外に適性があった」という場合でもほかの道を探れると思います。
たとえば、今年「She is Legend」という『ヘブンバーンズレッド』から派生したバンドが全国ツアーを回っているんですが、もともと『ヘブンバーンズレッド』の企画プランナーをしていた人間が、自分で希望してツアーに帯同していたりするんです。福岡から北海道までずっと(笑)。彼にとっては畑がまったく違う世界ですが、「見届けたい」という思いがあったのかもしれませんね。
―― 先ほど「現場では密なコミュニケーションを重視している」という話がありました。コミュニケーションの場作りで、意識されていることはありますか?
天雲氏:顔を合わせたコミュニケーションをしたいので、基本的にはリモートワークではなく、オフィスへの出社をお願いしています。そのうえで、現状の課題や進行中の案件についてスタッフ全員に共有してもらうために、毎朝定例のミーティングを開いています。会話は立場関係なくフラットで、若手でも遠慮なく発言してもらっていますね。
加えて、企画会議を隔週で行っています。自分が考えた企画を自由に持ち寄るもので、社内の誰が提案しても構いません。実際に面白い企画であれば「やってみよう」と実現に向けて動き出すことになります。
―― 御社はKey作品をはじめとした有名タイトルをお持ちですが、制作に携わるクリエイターに求める資質や心構えなどはあるでしょうか。
天雲氏:やはり「オリジナリティ」でしょうか。無料で楽しめる娯楽が世の中にあふれているなか、我々の作品に注目してもらうには、新しい価値観や魅力を打ち出していかねばなりません。「人と違うことをやりたい」「同じことをやるのは面白くない」という気持ちを、根底に持っていてほしいですね。
先ほどフィードバックの話をしましたが、伸びるクリエイターの共通点として、「指摘した内容以上のものを返してくる」というのがあるんです。先輩から言われたまま直すのではなく、一旦自分の中で噛み砕いて、「これも入れたら面白いと思って」とプラスアルファのものを加える。その遊び心こそが、オリジナリティに繋がるのだと思います。受け取る側の先輩たちも、「若手にはどんどん遊んでほしい」と思っていますから。
―― 若手のアイデアを受け入れる土壌があるわけですね。では、オリジナリティを身に付けるために、推奨されていることはあるでしょうか。
天雲氏:何がオリジナルかを知るには、何がありきたりなのかを知らなければいけません。ですので、当然ながらインプットが大事だと思っています。「今のトレンドはなにか」といった情報をインプットしたうえで、それを消費して終わりにするのではなく、「ここはまだ空白だぞ」とか「それなら次はこれが流行るかもしれない」と自分なりに考えてもらいたいですね。
プロジェクトをやりきった経験が、クリエイターの糧になる
―― クリエイターのキャリアパスは、会社によってさまざまかと思います。ビジュアルアーツではどのようなキャリアパスを描くことができるのでしょうか。
天雲氏:まず、弊社では厳密な役職を設けていません。部長や課長といった決まった役職は特になく、プロジェクトリーダーなどは希望者による挙手制になっています。先ほどの企画会議でも、自分が持ち込んだ企画でGOが出たら、自分がリーダーとなってプロジェクトを立ち上げることもできます。
一方で、リーダーではなく「職人として腕を磨きたい」というクリエイターもいます。そうした方はスペシャリストとして、腕を磨き続けることも可能です。ですので、キャリアパスとしては「総合職コース」「ゼネラリストコース」「スペシャリストコース」と分かれているようなイメージですね。
―― では、クリエイターの評価はどのような基準で行っているのでしょうか。
天雲氏:最もよい評価は「出した作品がヒットした」ですね。評価としては満点です。これとは別の軸として「やりきったかどうか」があります。ひとつの作品を、自分なりに最後まで責任を持ってやりきれたか......という点は高く評価しています。
たとえば、リリースしたゲームに対してお客さんの反応がいまいちだったとします。そこで「自分も納得できていないんでもう一度やりたい」という人と、「もう十分じゃないですか」という人がいるわけです。前者の判断を下して、粘り強く取り組める人は、意外と少ないんですね。
ゲームをはじめ、クリエイターが作るものには「正解」がありません。正解がないということは、突き詰めようと思えばどこまでも突き詰められますし、これでいいやと思ったらどこでも止められます。だからこそ「やりきったかどうか」は、クリエイターを評価する軸になりえるのです。やりきった経験は、その結果が成功か失敗かに関わらず、クリエイターが成長する糧になるはずだと考えています。
―― これから新しいメンバーを迎えるにあたり、これからの御社の展望や目標について教えてください。
天雲氏:弊社では、「世界に通用するIPを作る」を最も大きな目標として掲げています。スマートフォンの普及により、コンテンツが世界に広がるスピードはこれまでの何倍にもなりました。加えて、日本のアニメ的なコンテンツは、すでにグローバルな強みを持ち始めています。このチャンスを活かすには、ひとつの領域を積み重ねるというより、多様なジャンルでさまざまなチャレンジをしていくことが必要なのだろうと思っています。
―― 最後に、応募を検討しているクリエイターにメッセージをお願いします。
天雲氏:弊社には「クリエイターを売りたい」という思いがあります。名前が出る仕事をしてもらい、自分自身のキャリアにしてもらいたいんです。会社としてもバックアップをしていますし、「自分の代表作がほしい」という方にはベストな会社なのではと思います。私たちと一緒に、世界に通用するIP作りをしてくださる方を求めています。
インタビューを終えて
代表取締役の天雲氏は、かつて「丘野塔也」名義で同社のシナリオライティングに携わっていた。自らもクリエイター出身であり、ビジュアルアーツの仕事を20年以上にわたり見つめてきたからこそ、「オリジナリティが大事」「やりきったかどうかを評価したい」といった言葉には重みがある。同社での仕事は、クリエイターとしてのポテンシャルをさらに高めることになるだろう。
今回のクリエイター職の募集は、実務未経験からゲーム業界に挑戦できるチャンスでもある。天雲氏によれば、同社の採用はほぼ中途採用が中心であり、中途入社によるハンデはない。興味のある人は、これを機にエントリーしてみてほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。