「オモシロイ」を創り出し、ダイレクトにユーザーとやりとりできるエキサイティングな仕事とは ―― DeNA Games Tokyo 川口俊氏インタビュー

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Web・ゲーム業界のキーパーソンを特集する「Creator's File」Vol.08

第一線で活躍しているクリエイター達のリアルな声をお届けしています。自分とは異なった環境で働くクリエイター達の熱意や考え方を、ぜひ、あなたらしいキャリア形成のためにお役立てください。

DeNA Games Tokyo(以下DGT)はソーシャルゲームの運営を目的に設立した会社である。現在、『農園ホッコリーナ』『怪盗ロワイヤル』『戦国ロワイヤル』『戦魂-SENTAMA-』などのDeNAの人気タイトルの移管をおこない、運営をスタートさせている。前回のインタビューで取締役の山口氏にご登場いただいたが、今回は実際の運営現場で活躍する川口氏にご登場いただき、DGTの今と、仕事の魅力について聞いてみた。

「ゲーム運営から世界一を目指す扉」を開きたい

DeNA Games Tokyo ロゴ ── 今回はインタビューにご協力いただきありがとうございます。まずは川口さんとDeNA Games Tokyoの出会いについて教えてください。

川口氏:私は2016年の9月までDeNA本社で担当ゲームの運営に携わっていました。そのゲームを移管することとなり、秋葉原にオフィスを構えるDGTでゲームディレクターとして仕事をすることになりました。2月の移管完了をもってDeNA本社に戻る予定でしたが、ゲーム運営に特化したビジネスと、そのビジネスで世界一を目指すという目標に共鳴し、3月以降もこのDGTへの出向を継続できるよう希望しました。今後DGTから広がるさまざまな可能性に気づいたのです。約5ヵ月間DGTで仕事をして、働き方のスタンスも今の自分に合っていると感じています。

── DeNAの方では今回の川口さんの出向継続に支障はなかったのですか?

川口氏:わがままをいっても良いわけではありませんがDeNAは基本的に個人が本気で取り組みたいことに対して扉を開いてくれる会社です。私がDGTでやりたいことをストレートに伝えることで、その希望を汲んで出向を認めてもらいました。山口を含めDGTのメンバーがDeNAに対してアクションを起こしてくれたのも私がDGTに出向できた要因です。

自分の念願叶ってDGTのメンバーとなれたわけですから、私自身も「ゲーム運営で世界一を目指す」というDGTの目標に貢献できるように、あらゆる手を尽くしていきたいと考えています。

どこまでも飽きない魅力を秘めたゲームプランナーという仕事

── 現在川口さんはDGTのゲームディレクターという立場ですが、大学卒業後からこれまでの川口さんのお仕事の経験を教えてください。

川口氏:ゲームプランナーという職業は、ゲーム好きの人でも実際にどんな風に仕事をするのかわかりにくい職業かも知れませんが、ゲームプランナーにはゲーム業界出身者だけではなく、他業界出身者も多いのが特徴です。何を隠そう、私自身が他業界の出身です。

私は大学卒業後、自動車部品メーカーに勤めていました。そこでの仕事は、エアバッグのコントロールシステムの製造から販売までの戦略を考えると言うもの。製品の製造コストを見ながら、自動車メーカーを相手に部品の価格を設定するのが主な仕事です。この価格ならOK、この価格ではNG、そんなことを判断するポジションでした。ただ、これがどんなに緻密な戦略を立てても、為替の動きで変わってしまうこともあるのです。100円/$なら黒字なのに、90円/$だと赤字になってしまう。そしてそれは自分たちの努力とは関係のないところで起こるのです。その無力感たるやどうしようもなかったですね。私はそれで転職を決意しました。入社から4年のことでした。

モノづくりをやりたいと思って入った自動車部品メーカーでしたが、転職を考えたもう一つの理由に開発スパンの長さがありました。自動車部品の開発は5年ぐらいのスパンでおこなわれているものがほとんど。たとえ自分が開発に関わったモノがあったとしても、製品化されるまでには5年以上かかるのが普通です。私は転職するなら、自分のつくったモノがもっと早いスパンで活用され、多くの人に喜んでもらえるモノをつくりたいと考えたのです。

私は転職に際して、依頼した転職エージェントにそのことを伝えました。そうすると転職先の候補の中にDeNA が上がってきたのです。自分の発想の中には全くなかった転職先です。もちろんゲームづくりに関して何か経験があるわけではありません。それでも、私自身ゲームが好きで、好きなタイトルもいくつもありました。もしここでゲームづくりができるならと考えると、自分でも驚くぐらいワクワクしてきました。そして迷わず応募。ゲーム業界経験者だけでなく、ポテンシャル採用枠があり、それでDeNAに入社することができました。

入社後は『怪盗ロワイヤル』のゲームプランナーになりました。ゲーム業界未経験だったので、実は希望どおりゲームの制作に関われるかは全くわからなかったのです。でもうれしかったのも束の間。実務に入ると全くの未経験だった私にはわからないことだらけでしたね。前任者が仕事の引き継ぎをしてくれて、周りのゲームプランナーやゲームディレクターが、仕事のしかたを教えてくれました。それでもゲームのプランニングをどう組み立てていくのか全く知らなかった私は、ゲームプランナーの手法を覚えるだけで必死でした。1〜2ヵ月は本当に無我夢中でしたね。3ヵ月目くらいからはある程度やり方を理解できてきて、やっと面白くなってきました。他職種のメンバーに自分の考えることが伝わり、それが実現するとユーザーからも反響が返ってくる。その頃には「この仕事は最高にエキサイティングだ」と思うようになったのです。 それから今では、場所こそ変わりましたが、ゲーム運営という仕事にどこまでも飽きない魅力を感じています。短い開発スパンどころか、何か手を加えればリアルタイムにユーザーからの反響が返ってくる。これこそ私がやりたかったモノづくりそのものなのです。

川口氏がゲームプランナーになったきっかけ

  • 自動車部品メーカーで自分の力が及ばないところで結果が出てしまうことに強いジレンマを感じていた
  • 自分の仕事に対する評価をすぐに受け取れるスパンの短いモノづくりにチャレンジしたかった。
  • ゲーム好きという一面があり、ゲーム業界で働くと言うことを考えると、全くの未経験ながら自分のモチベーションが上がっていくのを感じた。
  • メジャータイトルのゲームプランナーに抜擢され苦労しながらもこの仕事のやりがいを短期間で感じることができた。

いかにゲームを楽しんでもらえるか。ユーザーの息づかいを感じられる場所で面白さを追求。その背景にある確かなロジック

── 川口さんにとってゲームプランナーとはどんな仕事ですか。ゲームプランナーに求められるものはなんでしょうか。

川口氏:ゲームプランナーという仕事はゲームをつくっていく上でのいわば舵取り役です。ゲームプランナーの頭の中にアイデアが浮かんで、それを実現していくためにエンジニアやクリエイターなどのチームのメンバーが手を動かしてゲームをつくっていくわけです。そのためにはまず、チームのメンバーに自分が考えていることを表現できなければならない。言葉でもいい、ラフスケッチでもいい、メンバーの頭にも同じビジョンができあがって「なるほど、こんなことがしたいのか」ということを「伝える力」が必要なのです。

そしてもう一つは「巻き込む力」。多くのメンバーで仕事をしていく場合、ただ誰もが自分の仕事の領分を果たすだけでは良いものはつくれません。ゲームのように面白さを追求するものならなおのこと。ゲームプランナーが出したアイデアに対して、メンバーがプラスαの効果をもたらしてくれるためにはこの「巻き込む力」も不可欠なのです。

そして最後にゲーム運営の中で重要なのが「ロジック」です。ゲームプランナーの仕事は、定性と定量の両データからPDCAを回していくことでもあります。アイデアはこのロジックがベースとなってはじめて生まれるもの。今のゲームづくりは単なる思いつきでできるものではないのです。運営中のゲームにはすでにたくさんのユーザーがいて、私たちが仕掛けるイベントやキャンペーン、機能のリニューアルには、ユーザーからの反応がすかさず返ってきます。そこに現れるパラメーターは間違いなくユーザーの息づかいであり、「面白さ」を感じてもらっている確かな指標です。そんなゲームの中で得られるデータをしっかりと見極めて、課題抽出から企画立案までがロジックでつながっていることを求められています。そして、ロジックが通っていながらユーザーにとって「面白い」ことがゲームには必要なのです。

── これまでの川口さんの仕事について、もう少し教えていただけますか?

川口氏:『怪盗ロワイヤル』のゲームプランナーをやっていた期間は1年間で、その中で、既存のイベントではなく新規のイベントを立ち上げるという経験をしました。この経験がゲームプランナーとして大きかったですね。次々とこの仕事をやっていきたいという意欲が湧いてきました。その後名前は出せないのですが、DeNAのIPタイトルの担当ゲームプランナーになり、そのタイトルのゲームディレクターとしてDGTにやって来ました。この2月で移管を完了させ、現在ではそのタイトルもDGTが運営しています。

この仕事の魅力は、導き出した自分のアイデアが、やはり結果となってすぐに現れるところです。「面白さ」って抽象的ですが、ゲームにおいてはユーザーが面白いと思った時に現れる数値、ユーザーの声は明確にわかります。結果が出た時の充実感は、他ではなかなか味わえないものではないでしょうか。

数万、数十万人規模のユーザーがいるゲームにおいて、全員が面白いと思う企画を実現することはなかなか難しい。セグメント分けをして、今回はこのユーザーのセグメントが面白いと思ってくれる企画を、次はこのセグメントに向けた企画を、というふうにターゲットを分けて企画をおこなっているのです。大切なのは企画をすることではなく、「面白い」をユーザーへ届ける。結果としてメインターゲットにどれだけ刺さっているかどうか。新たな面白さを届けることに妥協はありません。

川口氏の考えるゲームプランナーの必要条件

  • 自分のアイデアをメンバーに伝える多彩な表現力「伝える力」
  • 大きな目標に向かってメンバーの共感を得て動員できる「巻き込む力」
  • ユーザーの反応を数値化し、それをベースに企画をつくれる「ロジック」
  • すべてをまとめて自らのplay感からユーザーを興奮へ導く「アイデア」

困難を乗り越えた先には必ず新しい展開が待っている。川口氏がDGTで得た新たの目標

── DGTへはゲームディレクターとして来られましたが、何が一番変わりましたか?

川口氏:DGTへはタイトルの運営メンバー40名で来ました。移管を遂行しながらDGTの新メンバーと入れ替わっていくという手順です。昨年の8月から作業がはじまって、2016年内でチームの半分のメンバーが入れ替わりました。仕事は問題なく進んでいるように見えていました。しかし、このプロジェクトはやはり問題をはらんでいたのです。それはDeNAでこのタイトルを運営し続けて来たメンバーと、DGTで新たに加わったメンバーとのマインドの違い、温度差のようなものでした。

── なにかトラブルが起こったのですか?

川口氏:変化に気がついたのは取締役の山口でした。「このチーム、このままじゃ終わっちゃうよ」そういわれて私が漠然と感じていた不安をやっと現実として受け止めることができたのです。DeNAで仕事をしていた頃には、2人掛けの長椅子に3人で座って笑いながら作業する。そんな活気あるチームだったのです。それが今やだれも声を上げることもなく、ただ淡々と作業をしているのです。メンバーのモチベーションがとことんまで落ち込んでしまったのは明らかでした。

仲のいいチームだっただけに、新メンバーを受け入れにくい部分がありました。それに、タイトルに対する思い入れやこだわりは、長い間ゲームを担当していたDeNAのメンバーとDGTの新メンバーで同じというわけにはいきません。新しい仕事に懸命に取り組もうとしているDGTの新メンバーもそんな既存メンバーの態度が面白いはずがありません。両者の間にはいつしか見えない壁のようなものができてしまっていたのです。

── どうやってその問題をクリアしていったのですか?

川口氏:私は早速、「チームを良くするプロジェクト」を立ち上げることにしました。山口や渋谷からのメンバーとDGTの新メンバーの主だった人にも入ってもらって、「効率が」「売上が」ではなく、ただひたすらに「チームを良くする」という目的のもとに2週間にわたって毎日会議をおこないました。その会議での発案によってスタートしたのが朝の15分のネットミーティング(チームの朝礼)で1人1分間、自己紹介をするというものでした。「ゲームプランナーの○○です。好きなゲームは○○です」ということをチームの全員でやったのです。やったことはシンプルでしたが、これだけでチームの雰囲気は大きく変わりました。全員がこの自己紹介をやり終えた2週間後には、仕事場に笑顔が戻り、会話も飛び交うようになっていったのです。

もちろんこれですべてがうまくいったわけではありません。属人化していて新メンバーが手出しできなかった作業を、自動化、システム化して業務の効率化を図る。モチベーションの問題だけでなく、仕事のやり方自体もまだ新しいDGTの文化としてつくり上げていこうとしているのです。

大事に育てたゲームを、手渡し、受け取る。これがDGTのやろうとしていることですから難しくて当然です。このタイトルの移管は終わりましたが、今もチームは少しずつ陣容を変えながら運営をおこなっています。そして「チームを良くするプロジェクト」も新たな試みにチャレンジしながら絶賛稼働中なのです。

── 川口さんのこれからについて教えてください。

川口氏:私自身は2月の移管完了をもってチームからは一旦離れて、DGTで新しいプロジェクトに入ろうと思っています。私が新たな目標としているのは、DGTでのゲームプランナーの育成です。DGTが世界一へと駆け上がるのに必要な人材を、これまでのゲームプランナーとしての経験を活かして、他業界出身まで含めた幅広い中から見つけて、育てていきたいと考えています。

インタビューを終えて

川口氏がいうとおりゲームプランナーは外部からはイメージしにくい職種の一つである。それでいながら他業界出身者の比率が比較的多いのは、それまでの業界に存在しない発想を持ち込める職種として、ゲームプランナーが最も適しているからだと筆者は考えていた。また、ゲームプランナーに求められるチームの舵取り役としてのコミュニケーション力、調整力は、他業界での経験を活かせるはず。しかし、他業界出身者がゲームプランナーとして成功している本当の理由はそれだけではない。

これまで築いたキャリアを捨て、壁を乗り越えてでもゲーム業界で活躍したいという、本人のモチベーションの強さに秘密がある。川口氏のインタビューを通じて、それはゲームの愛する人に共通の道を切り開く勇気、冒険心そのものではないかと筆者は感じた。まるで本当に冒険世界のような、他業界にはないゲーム業界のスピード感と力強さに、これからも注目していきたい。

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

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