変化の激しい時代に、事業会社で求められる人材とは ―― 山本純一氏「Web業界進化論#07」開催直前インタビュー
来たる6/29(火)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#07「DMM.comの中の人が思う、事業側で活躍するWebディレクターの心得え3箇条」を開催する。
「Web業界進化論 実践講座」の第7弾は、事業会社の働き方に興味を持つ、今後のキャリア形成について考えている事業会社、制作会社のWebディレクターに向けたもの。IT業界未経験から「DMM.com」でWebディレクターを務め、現在は組織課題の解決にも携わる山本純一氏をゲストに迎え、キャリアの変遷や、事業会社での立ち回り方などについて語られる予定だ。
今回はイベント直前インタビューとして、山本氏にこれまで歩んだキャリア、そして事業会社で求められる人材についても伺った。
プロフィール紹介
山本 純一氏
合同会社DMM.com
EC&デジタルコンテンツ事業部
ビジネス推進部 ディレクター
1976年10月生まれ。石川県金沢市在住。外食産業SV、医療機器営業を経て2010年よりDMM.com。Webディレクター職として、スマホアプリ開発/サイト開発・制作ディレクションを中心に、デジタルコンテンツEC構築全般を幅広く担当。DMM英会話、女性向けECサイトの立ち上げなどのPM/ディレクター、その他開発ディレクション/PMなど歴任。合わせてディレクターチームのマネジメント業務を行いつつ、事業間エンゲージメントにも従事。
現在は新規事業創出や事業課題解決をメインとする部門に所属し、サイト運用面のBPMプロジェクトを立ち上げ、業務RPA化などビジネススピード高速化を中心に取り組んでいる。Scrum Inc.認定スクラムマスター保有。
30代・IT未経験からのWebディレクターは「マイナスからのスタート」
―― まずは山本さんの経歴についてお聞かせください。
山本氏:大学卒業後に就職したのは、全国展開している飲食店のフランチャイジーでした。学生時代にアルバイトをしていた企業に、そのまま入社したんです。4年半ほど在籍し、最終的には店舗責任者として、複数店舗のマネジメントを任されていました。
ただ、仕事は体力的にハードで、土日の休みもありませんでした。そこで、ワークライフバランスを求め、医療機器ディーラーの営業職として転職しました。商材は歯科系の医療機器がメインで、毎日歯科医を回っていましたね。
ITの仕事を意識するようになったのは、それから5年後。iPhone3GSを手に入れたときです。あまりの使い勝手のよさに、これからはデジタルコンテンツやECなど、ネットの仕事が伸びるだろうと実感しました。でも、当時携わっていたのは医療系ということもあり、現場は「先生と対面で会話しての営業活動」が中心で、保守的な業務が多く見受けられました。EC展開やIT化はまだまだこれからという状況だったんです。そのこともIT業界に目を向けるきっかけになりました。
―― IT未経験からの転職活動は、どのように進んだのでしょうか?
山本氏:最初は、ITに積極的な医療機器関連の企業を探したんですが、石川県内ではなかなか見つからなかったんです。東京に出るしかないか……と思っていたところに、転職エージェントから、県内にあるDMMグループの株式会社ドーガ(旧:DMM.comラボ。現在は合同会社DMM.comに吸収合併)を紹介してもらいました。
石川県にインターネット業界で知名度の高い企業があることに驚き、総合職の募集にエントリーしました。無事採用に至ったものの、入社後の配属が決まらず、入社の数日前になって「Webディレクターをお願いします」と連絡が来たんです。
実はこのとき、初めて「Webディレクター」という職業を知りました。Webの経験はないし、HTMLタグの一つも知らない。ゼロどころか、マイナスからのスタートでしたね。
―― ある日突然Webディレクターのキャリアを歩むことになったわけですね。
山本氏:そうですね。実際、入社後にいきなり電子書籍サービスの開発ディレクションを担当しました。当時からDMM.comは、自分の考えを持ってミッションに取り組むことを称賛する文化があったんです。何から手を付ければいいかまったくわからない中で、書籍やネットを頼りに必死で勉強しましたね。
このとき役立ったのが、前職の営業で培ったコミュニケーションです。わからないことは「わからない」とストレートに打ち明け、エンジニアから営業、経理まで社内の至るところから情報を集めました。仕事に慣れるまで、半年ほどかかったと思います。
主に、電子書籍やPCゲームを取り扱うサービスの開発製作ディレクションを担当し、サイト機能の改善やスマホアプリ開発など、サービス担当者として幅広くディレクションしていました。
そのほかにも、当時は会社の規模も今ほど大きくなかったので、プログラミングやデザイン以外のほとんどのことはやりましたね。要件定義をはじめ、内製部隊の進捗管理、ベンダーコントロールといったPM的な作業から、ワイヤーフレーム、シーケンス図作成、開発検証、ユーザーテストといった開発対応、グロース施策の実行、サイト運用面のディレクション、各種契約や支払いの調整に至るまで……。忙しい日々でしたが、当時の経験は今も自分の財産になっています。
ディレクションとは「ビジネスを動かすために必要なことを、なんでもする役割」
―― Webディレクターとして、ほかにはどのようなプロジェクトに携わったのでしょうか。
山本氏:電子書籍やPCゲームの仕事での実績が認められ、ほかの分野にもアサインされるようになりました。DMM英会話、女性向けECサイト立ち上げ、プラットフォーム改修の大規模プロジェクトなど、本当にバラバラですね。
でも、ベースとなるディレクションの部分はほとんど変わりません。毎回携わるプロジェクトが変わり、新たな分野に直面しても、そのサービスが何を提供し、何を一番大切にしているか、どういった業界構造になっているのかなど、短期間で集中して徹底的に調べれば、サービス単位でどう進めていけばいいかわかります。むしろ、そういったさまざまな変化を楽しんでいましたね。
複数の分野に関われば関わるほど、知識の幅と応用範囲が広がります。新規サービスを考えるときも、既存サービスの課題や他社事例などを提示でき、引き出しの多さが強みになりました。
―― 現在はどのような業務を担当されているのでしょうか。
山本氏:Webディレクターとしては、現場とマネジメントを合わせて10年ほど経験しました。社内組織の再編を経て、現在は新規事業の創出や事業課題の解決をミッションとする部署に所属しています。
特に今取り組んでいるのは、ECサイト運営業務のプロセス改善です。担当している6サービス2000を超える業務をすべて可視化して整理し、業務フロー改善や業務RPA化を通じて、効率化と高速化を図っています。
―― ディレクター時代の経験は、今どういったところに活かされているのでしょうか。
山本氏:自分の中で、ディレクションの仕事は「ビジネスやサービスが稼働するために必要なことを、なんでもする役割」だと思っています。全体を俯瞰で眺め、課題を見つけ、総合的に判断をし、アクションを起こすのがディレクションなのではないかと思っています。そういう意味では、今の仕事にもこの視点は活きていますし、過去の経験はすべてつながっていると感じています。
とはいえ、今のキャリアは、入社時にはとても想像できませんでしたね。明確な目標に向かって歩んできたというよりは、「いつかチャンスが来たときのために」と、あらゆる方向にアンテナを張っていた結果たどり着いた、という表現のほうが正しい気がします。
過去にこだわらず、変化に先回りできるように
―― これまでの経験から、どのような人材が事業会社で求められると思いますか?
山本氏:変化に対して前向きになれることが、確実に求められるでしょう。Web業界は以前から変化の激しい業界ですが、最近さらにその速度を増していると感じます。コロナ禍で働き方も大きく変わっていますし、いつまでも過去の成功体験を引きずっていては前に進めません。
「過去にとらわれる」のではなく「過去を捨てる」、「変化についていく」というより「変化を先回りする」、そんな人材が求められるのではないでしょうか。
さらに、事業会社のディレクターという立場では、ビジネスマインドを強く求められます。納品がゴールであるクライアントワークとは異なり、事業会社はリリースしてからがスタート。ローンチはあくまで通過点でしかなく、そこからいかにグロースさせていくかが勝負です。
これまでの経験では、開発・制作がほぼ完了しているプロジェクトが、ビジネス上の判断から「リリース前に閉鎖日が決まっている」ケースも少なからずありました。そこには、現時点の状況を鑑みて、最も損が少ないところでやめるジャッジをする、というビジネスロジックが働いています。残念ではありますが、その判断の根拠さえハッキリしていれば、そこに何らかの負の感情を抱くことはありません。これも事業会社ならではの厳しさではないかと思います。
―― 今後はどのようなキャリアを目指していきたいですか?
山本氏:漠然とDMM.comの中心人物でありたいとは思いますが、まだはっきりと像を結べていないのが正直なところです。世の中が急激なスピードで変化していますから、キャリアに必要なものもどんどん変化していくでしょう。いつか訪れる「ここぞ」というタイミングで、自分が培ってきたものをすぐに出せるように、日々のインプットを怠らないようにしています。
新規ビジネス創出も実現したいですね。コロナ以前は、コミュニティ活動などを通じてビジネスの“タネ”を探していたのですが、今はなかなか難しい状態です。社外に出て人と会話することが、新しいビジネスへの近道でしたから。
―― 最後に、セミナー当日にお話しいただける内容についてお聞かせください。
山本氏:長らく事業会社で実績を積んできたこともあり、自分のキャリアは多くの変化に直面してきました。人間なので、時には感情的になり、変化についていけなかったこともあります。
そんな中、未経験の状態から、事業会社ならではのビジネスにどう向き合い、楽しめるようになってきたか。必要となる技術や、心持ち、立ち回り方など、ディレクターとしてどう体現したかをお伝えできればと思います。
インタビューを終えて
IT業界未経験から、ある日突然Webディレクターになった山本氏。職域にこだわらず「必要なことをなんでもする」というスタンスでディレクションに向き合ったからこそ、変化の激しい事業会社でキャリアを切り拓けたのではと感じた。
6/29(火)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#07「DMM.comの中の人が思う、事業側で活躍するWebディレクターの心得え3箇条」では、山本氏のキャリアを振り返ることで、事業会社のリアルに触れることができるだろう。事業会社への転職を考えるWebディレクターは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。
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この記事を書いた人
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