社内に「居場所」を作るため、オンリーワンの人材になる必要があった ―― 大石慎平氏「Web業界進化論#06」開催直前インタビュー
来たる5/27(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#06「インハウスデザイナーが跳躍するための経験値(プロセス)とは」を開催する。
「Web業界進化論 実践講座」の第6弾は、キャリアの広げ方を知りたいWebデザイナーに向けたもの。老舗メーカーのWebデザインおよびディレクションを担当するかたわら、個人的に制作活動も展開する大石慎平氏をゲストに迎え、制作会社と事業会社の違いや、自分の価値を高める立ち回りなどについて語られる予定だ。
今回はイベント直前インタビューとして、大石氏にこれまで歩んだキャリア、そして今後のキャリアについても伺った。
プロフィール紹介
大石 慎平氏
大手メーカー Webデザイングループ
マネージャー兼デザイナー
大学卒業時、内定取り消しに遭遇しデザイナーの道を断念。他業界に進むも諦めきれず都内のデザイン事務所へ転職し、未経験からデザイナーキャリアをスタート。グラフィック・エディトリアルデザイナーとして紙媒体を中心とした制作業務に従事。
2016年に業界大手メーカーのインハウスデザイナーへ転職。グラフィックデザインに従事したのちWebデザインへ転向。ビジュアルデザインだけでなく情報設計、ディレクション、マネジメントといった上流工程に携わりながらtoB、toC、EC、海外など複数のサイトリニューアル、新規構築を行う。現在はWebデザイングループのマネージャーを務め、グラフィックキャリアのデザイナーをフォローしながら組織におけるWeb領域の底上げを行っている。
自分の中に芽生えた「消費されるデザイン」から「育むデザイン」への思い
―― まずは大石さんの経歴についてうかがえればと思います。デザイナーを志したのには、どんなきっかけがあったのでしょうか?
大石氏:子どもの頃から「ものづくり」は好きで、将来の夢は料理人だったんです。両親が自営業でずっと忙しかったので、親と料理をする時間が、一緒に過ごせる数少ない時間でした。
また、父親が絵を描いていたのですが、自分も絵を描くのが好きで、よく家族と絵を描きに出かけたりもしていましたね。そんな家庭環境だったこともあって、芸術系の大学に進学し、現代アートを専攻しました。
デザイナーになろうと思ったのは、就職先を決めるときですね。ちょうど、広告代理店のクリエイティブディレクターが注目されていた頃で、その華やかさに憧れてデザインの勉強を始めました。
―― 就職先では、どのような仕事をされていたのでしょうか。
大石氏:都内のデザイン事務所で、紙媒体を中心とした制作業務をしていました。カタログ、パンフレット、企業年史、チラシ、ポスターなど、仕事の9割が紙でしたね。未経験だったのですが、顧客折衝から納品までの一連の流れを任されたので、かなり鍛えられました。
ただ、「多くの案件を同時に回して売上を最大化する」というスタイルで、そこに疑問を感じるようになったんです。やってきた案件を打ち返す日々で、納品後にどう使われたのかもわかりにくかった。自分のスキル不足もありますが、クオリティの追求もままならない。
一方で、あるとき受注したメーカー(事業会社)からの案件で、そのメーカーの担当者だけでなく役員の方も一緒になって製品カタログをつくる機会がありました。そこで、いち製品の見せ方ひとつとっても、ブランドに対するこだわりがあふれているのを感じたのです。
制作会社で「消費されるデザイン」に身を費やすより、事業会社で「育むデザイン」をやってみたい。そう思うようになり、社会人4年目で非Web業界の老舗メーカーのインハウスデザイナーへ転職しました。それが今の会社です。
社内に「自分の場所」を作るために、社外活動で経験を積んだ
―― 転職されるまで、Webデザインに携わることはあったのでしょうか?
大石氏:バナー制作やサイトデザインの案件はありましたが、数える程度でしたね。売上の比率的にも紙の仕事のほうが多くを占めていましたし、自分自身も紙の手触りが好きだったので、Webへのこだわりは特にありませんでした。
―― 事業会社に入社されてから、本格的にWebに取り組むようになったわけですね。
大石氏:そうですね。入社して1年間はグラフィックデザイナーとして、カタログなどの販促ツールを作っていました。一連の流れを経験したあと、メインブランドのプロダクトサイトのWebサイトリニューアルの案件がきたんです。
サイトデザインだけでなく、製品データベースなども関わる大きな案件でした。ちょうど新しいことに飢えていた時期だったので、かなり前のめりに取り組んだのですが……。まったくうまくいかなかったんですね。
―― どういったところが、うまくいかなかったのでしょうか?
大石氏:「Webは1人で作るものではない」ということをわかっていませんでした。Webサイト構築はデザインだけでなく、技術的な面だけでも社内のシステム部門、社外のエンジニアやシステムベンダーなど多くの人が関わります。知識や経験が足りないと、お願いを伝えるための言葉も出てこない。その結果、満足のいくデザインや使いやすいサイトにできず、進行自体も場当たり的で、なんとか終わらせたという感じでした。
―― 大きな失敗に「やっぱり自分には紙しかない」となってもおかしくないと思うのですが、それでもWebの仕事を続けられたのはなぜでしょうか?
大石氏:社内にWebデザインに詳しい担当者がいなかったんです。ですから、ここで自分がWebデザインを続ければ、オンリーワンの人材になれるはず。ちょうどグラフィックの業務の全体像も見えてきた時期だったので、社内に「自分の場所」を作るために、もっとWebの仕事にちゃんと取り組もうと考えました。
社内でもWeb案件が増えてきたところだったので、積極的に手を挙げましたね。「Webのことなら大石だね」と言われるようにと、意識的に振る舞ってきたと思います。
―― 周囲にWebに詳しい人がいない中、Webのスキルはどのようにして身につけていったのでしょうか?
大石氏:2018年くらいから、個人的に制作活動をはじめました。コミュニティに参加したり、コワーキングスペースで知り合いを作ったりして、社外の人とも関わって制作活動をするようにしたんです。「何か自分にできることがあれば、やらせてくれませんか」と。
―― 社外での活動で経験を積み、それをさらに社内に還元していかれたと。
大石氏:そうですね。当時はグラフィックデザイングループに所属していたのですが、それとは別に「Webチーム」を作って、Web業務を専門で受けるメンバーを集め、実際にWeb案件をやるときにノウハウを実践してみたり、チーム内で共有したりしていました。
そして2021年の4月から、社内で本格的に「Webデザイングループ」が立ち上がったんです。全社横断的な広報制作部の正式なグループとして、社内のWeb関連をすべて見ていこうと。
―― 自称していたチームがオフィシャルになったわけですね。
大石氏:まさに(笑)。社内で2〜3年やってきた動きが、こうして形になったことはとても感慨深いですね。
「Webデザイングループ」ではマネージャー兼デザイナーとして、3名のメンバーと社内のWeb案件に携わっています。メンバーたちは、かつての自分と同じように、グラフィックデザイナーでキャリアをスタートしているので、WebデザインやWebディレクションのフォローアップも自分の仕事です。
デザイナーの仕事はビジュアルデザインだけじゃない
―― 制作会社での仕事を経て、その経験が事業会社でも活きていると感じることはありますか?
大石氏:大きく分けて「ディレクション」と「デザイン実務」の2つの面で役立っていると思います。ディレクションの面では、制作会社で顧客折衝から進行管理まで全て担当していたので、その経験が活きていますね。
また、制作会社ではさまざまな業種の案件を同時に抱えていたので、スピード感やフットワークの軽さ、引き出しの多さが求められました。事業会社のデザイン実務においても、他事業部からの依頼を請けたり、違うトンマナにも柔軟に対応できたりするので、過去の経験はまったく無駄ではありませんね。
意外に大事だったのは、「危機意識」です。クライアントワークなら青ざめるようなミスも、社内案件だと気をつけてはいるのですがそこまで重く受け止められません。データバックアップなどを実務レベルで見直して、万一の事故に備えるようにしました。
―― 今後は、どのようなキャリアを目指していきたいですか?
大石氏:これまでビジュアルデザイン、プロジェクトデザインを経験し、今はチームデザインに携わっています。この先に、プロダクトやサービスのデザインがあるでしょうし、最終的に経営や組織までデザインできたらなと思っています。
ビジュアルから経営まで、どんなビジネス課題にも解決策を提示できるようになったら、面白そうですよね。自分はよくも悪くも「広く浅い」タイプなので、自分の長所を活かしながらデザインの「広さ」を突き詰められたらと思います。
―― 今キャリアに悩まれているWebデザイナーに、ひと言アドバイスをするとしたら、どんな言葉をかけられるでしょうか。
大石氏:「デザイナーの仕事はビジュアルデザインだけじゃないよ」と伝えたいですね。
制作会社時代の僕のように、ひたすら手を動かすことに不安を抱いている方もいると思うんです。でも「デザイン」という言葉の定義はもっと広くて、ディレクションも、ブランディングも、マネジメントもデザイナーの仕事に含まれることもあります。
社外に出れば、さらに世界が広がっています。コミュニティに属するのもいいですし、いっそ今とはまったく違う業界の会社に転職してそこでものづくりに関わってもいい。環境を変えることで、自分と向き合える時間も作ってもらえたらと思います。
―― ありがとうございます。最後に、セミナー当日にお話しいただける内容についてお聞かせください。
大石氏:これまでを振り返ると、「制作会社から事業会社」「クライアントワークからインハウスデザイナー」「グラフィックデザインからWebデザイン」「Webデザイナーからマネージャー」と、いくつもの転身がありました。
このちょっと変わったキャリアから、「実際に○○になったときの心がけ」や「自分の価値を高める立ち振る舞い」など、具体的な話ができたらと思います。
これまで登壇された方を見ると、みなさん先輩ばかりで、僕はまだまだ若輩者です。マネージャーにもなったばかり。でもだからこそ、参加者の方と同じ目線で、より現場の悩みに寄り添えられたらと思っています。
5/27(木)のイベント情報
インタビューを終えて
制作会社から事業会社へ、紙媒体からWebへ、そしてインハウスデザイナーとキャリアを柔軟に変化させてきた大石氏。そのターニングポイントには「育むデザインがしたい」「社内で自分の価値を高めたい」といった、大石氏自身の思いが必ず存在していた。
5/27(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#06「インハウスデザイナーが跳躍するための経験値(プロセス)とは」では、そのキャリアの深みをさらに目にすることができるはずだ。キャリアに悩むWebデザイナーは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。
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この記事を書いた人
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