誰よりもユーザー側に立つために必要な「越境する力」 ―― 田中忍氏「Web業界進化論#21」開催直前インタビュー

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田中忍氏

来たる9/29(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#21「LIFULLのデザイナーが語る 越境する力とマインドセット」を開催する。

「Web業界進化論 実践講座」の第21弾は、今後のキャリア形成について考えている若手〜中堅Webデザイナーに向けたもの。株式会社LIFULLにて、各種サービスのクリエイティブに従事する田中忍氏をゲストに迎え、デザイナーの「越境する力」やマインドセットについて語られる予定だ。

今回はイベント直前インタビューとして、田中氏の経歴や仕事への向き合い方などについて話を伺った。

プロフィール紹介

田中 忍氏
株式会社LIFULL クリエイティブ本部 デザイン部
サービスデザインユニット長 兼 サービスデザイン3G長 Art Director

2012年入社。2016年まで不動産・住宅情報サイトHOME'S(現LIFULL HOME'S)のサービス開発、ブランディング、各種プロモーションを担当。社名が「ネクスト」から「LIFULL」に移行後はLIFULL地方創生やLivingAnywhere Commonsなど新規サービスのクリエイティブ開発に従事。現在はLIFULL HOME'S全体のサービスデザインを管掌。

未知の領域にチャレンジを続け、事業運営に横断的に携わる

―― 田中さんは2012年に株式会社ネクスト(現:株式会社LIFULL)に新卒入社されて、現在も同社で活躍されています。まずは入社に至った経緯について教えてください。

田中氏:私は多摩美術大学の情報デザイン学科出身で、学生時代はWebサイトや映像、アニメーションなど、さまざまな形態の作品を制作していました。学外でも、映像制作会社でバイトをしたり、バンド活動をしたり、とにかく節操なくいろいろなことをしていた気がします。

特定の分野に興味があるわけではなかったので、卒業後の進路には悩みました。でもあるとき、自分は「手を動かして何かを届ける」というプロセスそのものに価値を感じていたことに気づいたんです。絵を描くと友人が喜んでくれたように、自分が作ったもので誰かが喜んでくれるのが嬉しい。誰かのために何かを作るというプロセスを、胸を張って実践できる場所に行けたらと思いました。

そして就職活動を始め、1社目に出会ったのがネクスト(現:株式会社LIFULL)でした。当時から、当社は社是に「利他主義」を掲げています。座談会で社員の方と話していると、皆さんが自分なりの利他の考え方を持っていて、とてもキラキラして見えました。もうここを第1志望にしようと(笑)。そのまま選考に臨んで、縁あって入社に至りました。

―― 「誰かのために何かを作りたい」という思いに、「利他主義」がマッチしたんですね。入社後はどのようなお仕事をされてきたのでしょうか?

田中氏:入社後しばらくは、主力事業である「不動産・住宅情報サイトHOME'S(現LIFULL HOME'S)」に携わり、Webサービス開発案件を主に担当していました。その後はプロモーションやブランディングを担当する部門に配属され、そこでは、サービスブランドのガイドラインや、サービスロゴの開発と運用に関わりました。

また2016年からの1年間は、社名変更に伴うリブランディングのプロジェクトに携わりました。新しいマスターブランド戦略の元で、ブランドシンボルからWebサイト、社屋移転などすべてが変わるので、かなり大変な1年間でしたね。

その後は、「LIFULL地方創生」や「LivingAnywhere Commons」といった新規事業のクリエイティブに携わってきました。振り返ると、弊社の事業運営に関わるさまざまな領域を横断してきたなと感じます。

―― 美大卒と聞くと、デザイナーのキャリアを歩むようなイメージがあります。入社後、多種多様な領域を経験してきたのは、ご自身の希望でもあったのでしょうか?

田中氏:そうですね。私は「やったことがないこと」が好きなんです。経験がないことや、自分ができないこと、どうなるかわからないことにチャレンジしたい。そうやって経験を積み重ねていったら、おのずと裾野が広がっていったという感じですね。

サービスデザインで常に意識する「UX」と「ブランド視点」

―― 現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか。

田中氏:LIFULLにはクリエイティブ本部という、グループ全体のブランド価値向上をミッションとする組織があります。私はその中にあるデザイン部サービスデザインユニットという部署で、LIFULL HOME'S全体のサービスデザインを担当しています。

LIFULL HOME'Sは不動産・住宅情報の総合ポータルであり、賃貸や売買をはじめ、さまざまな領域のサービスを扱います。また同じ売買領域でも、分譲住宅や注文住宅、売却査定など多くのサービスがあり、それぞれにプロダクトの開発チームが存在します。それらに関わるデザイナーがまとめて在籍しているのがサービスデザインユニットであり、私はユニット長を担いつついくつかの領域のリーダーを兼務している状態です。

多種多様な領域を内包するLIFULL HOME'Sですが、ユーザーから見れば1つのサービスです。その「1つのサービス」としてのブランド価値向上や、全体の横串を通したUXの向上が、ユニット長としての私のミッションになります。

―― LIFULL HOME'Sのサービスデザインに関わるうえで、常に意識されていることはありますか?

田中氏:まず、「デザイナーが誰よりもユーザーの側に立つ」ことが大前提にあります。これは私自身だけでなく、現場のメンバーにも伝えていることです。デザインをするうえで、デザイナーが考慮すべきことはたくさんありますが、何を置いてもまずUXが大事であると考えています。

それから、ブランドの視点ですね。サービス開発の現場では、定性的・定量的な情報からデザインを組み立てるわけですが、これはあくまで現在の状態を起点とするもの。ブランド開発においては、サービスブランドとしての“あるべき姿”を描くために、長期的な未来に向けて点を打つような戦略的視点が必要になります。UXとブランドの2つの視点は、常に意識していますね。

―― サービスデザイン全体を統括するユニット長という立場には、感じる責任も大きいのではと思います。プレッシャーにはどのように向き合われているのでしょうか。

田中氏:確かに、上司から「ユニット長をやってくれ」と言われたときは、不安のほうが大きかったです。ただ一方で、「できることが増える」とも思えました。

弊社には「すべてのステークホルダーを重んじる」というガイドラインがありますが、私は、ユーザーも、チームメンバー一人ひとりも、みんながハッピーになれる道を探りたいと思っています。ですから「ユニット長」という立場であれば、ある程度の影響力を持って、組織の課題改善に取り組めるだろうと思い至りました。ユニット長になることへの不安ではなく、なることへのメリットに気持ちを集中させることで、プレッシャーと折り合いを付けているのかもしれません。

―― 田中さんはサービス開発からプロモーション、ブランディング、そしてマネジメントと、本当にさまざまな領域で活躍されています。それぞれのスキルは、どのように高めてこられたのでしょうか?

田中氏:明確なキャリアビジョンがあって、それに向けて計画的にスキルを身につける……というタイプではなかったです。ひと言で言えば、行き当たりばったりですね(笑)。

ただ、一つひとつの仕事については、できる限りのことをしようと常に意識していました。先輩に教えられたことをしっかり咀嚼して、そこに自分で勉強したことを上乗せし、アウトプットし続ける。そうやって仕事に全力投球した結果として、スキルがついてきたと思っています。

デザイナーが「越境」することで、事業を広く見渡したデザインが可能に

―― デザイン・クリエイティブ系は転職の多い職種だと思いますが、同じ会社で10年続けてこられたポイントはどこにあるでしょうか?

田中氏:「人のためにデザインができている」と実感しているのが、一番のポイントかもしれないですね。LIFULLには同じDNAのようなものを持った人が集まっているので、その点ではクリエイティブに不安を感じたことはありません。

それに私は「自分に合う仕事」や「自分に合わない仕事」があるわけではないと思っています。自分に合った仕事だから面白い仕事なのではなく、面白がろうとするから面白い仕事になるのだと。

もし「つまらなくて絶対やりたくない仕事」を任されたとしたら、どうやれば面白く作業ができるか、どうやれば効率を最大化して社内に展開できるかを考えます。もしそれが本当に無駄な仕事であれば、その仕事をなくすと会社にどんなメリットがあるかをまとめて提案するでしょう。

改善提案すらできない……という環境なのであれば、線を引くことになるとは思いますが、そういう意味では今の会社はすごく恵まれているなと感じています。

―― 今回のセミナーでは「越境する力」というキーワードがテーマになっています。具体的には、どのような力なのでしょうか?

田中氏:デザインという職能が必要な領域は多岐にわたります。Web、紙、空間といった媒体ごとの領域もあれば、戦略、企画、開発、検証といった工程ごとの領域もあるでしょう。それぞれに専門的な知見が必要で、各領域に特化したプレイヤーがいるわけです。

こうした各領域の専門性を「狭義のデザイン」とするなら、越境する力は「広義のデザイン」と言えます。特にユーザー体験の向上という命題に対しては、それぞれの領域にとらわれない、広義のデザインが求められる場面が往々にしてあります。デザイナーが越境することで、より事業を広く見渡したデザインが可能になると考えています。

今回のセミナーでは、「越境とはなにか」「越境にはなにが必要なのか」「越境するとなにが起きるのか」を、事例を交えながらお話しできればと思います。デザインの力を事業運営にどう生かすか、という話にも通じますので、デザイナーの方はもちろん、他の職種の方にも聞いてもらえたら嬉しいですね。

インタビューを終えて

今回のインタビューでは田中氏が培ってきた仕事論を垣間見ることができた。「やったことがないことが好き」「誰よりもユーザーの側に立つ」「“自分に合わない仕事”はない」――狭義のデザインに仕事を留めることなく、ブランディングや事業開発にまで幅の広いキャリアを歩んできたからこそ「越境する力が大切」という言葉にも説得力がある。“デザイナー”という職種には、そのイメージ以上の可能性があることを改めて感じた。

9/29(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#21「LIFULLのデザイナーが語る 越境する力とマインドセット」では、田中氏が体現してきた「越境する力」について、さらに語られる予定だ。事業会社のデザイナーについて詳しく知りたい方はもちろん、さらにキャリアを飛躍させたいデザイナーは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。

この記事を書いた人

マイナビクリエイター編集部

マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。

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