積み重ねてきた経験がプロダクトマネージャーという道に繋がった ―― 佐藤慎悟氏「Web業界進化論#19」開催直前インタビュー
来たる7/21(木)、マイナビクリエイターではオンラインセミナーWeb業界進化論 実践講座#19「ディレクターからプロダクトマネージャーへ おいでよPdMという世界線」を開催する。
「Web業界進化論 実践講座」の第19弾は、今後のキャリア形成について考えているWebディレクターに向けたもの。株式会社マネーフォワードでプロダクトマネージャーとして活躍する佐藤慎悟氏をゲストに迎え、事業会社でtoCのプロダクト・サービスに携わる現状から、プロダクトマネジメントにも転用できるWebディレクションについて講義を展開する予定だ。
今回はイベント直前インタビューとして、佐藤氏が歩んできたキャリアや、プロダクトマネージャーの面白さなどについて話を伺った。
プロフィール紹介
佐藤 慎悟氏
株式会社マネーフォワード HOME本部 事業開発部 プロダクトマネージャー
大学卒業後、Web制作会社にてWebデザイン、ディレクションを担当。その後、2011年に株式会社サイバーエージェントに転職。主にはメディア事業でディレクターやプロデューサーを担当しながらスクラム開発やチームビルディングなどを経験。新規サービスの立ち上げにも携わる。2017年に株式会社リクルートに移り、クリエイティブチームのマネジメントを経て、サービス改善のプランニングや横断組織でのディレクションを担当。2020年に株式会社マネーフォワードに入社し、個人事業主向けサービスのプロダクトマネージャー、戦略部部長を兼任。戦略立案、チームビルディング、ピープルマネジメントを中心に行う。現在は個人向けサービスを中心とした事業開発のチームで既存サービスのグロース、新規サービスの立ち上げを担当。
受託制作と事業開発を経て積み重ねたキャリア
―― まずは、佐藤さんの現在のお仕事について教えてください。
佐藤氏:株式会社マネーフォワードで、主にtoC向け新規サービスのプロダクトマネジメントに携わっています。「事業的な目標」と「ユーザーにもたらす価値」という2つの観点でのゴールを設計し、戦略立案やロードマップ作成などに取り組むのが主な仕事です。開発やディレクションなどにも幅広く携わっています。
―― 佐藤さんの経歴を拝見すると、サイバーエージェントやリクルートといった企業をご経験されています。改めてキャリアのスタート地点を教えていただけますか?
佐藤氏:スタートは、新卒で入社したWeb制作会社ですね。入社から半年ほどはデザインやコーディングを担当していたのですが、受託制作ならではの「伝言ゲーム」が気になってしまって。「クライアントと直接話をさせてほしい」と会社に交渉し、ディレクションも担当させてもらいました。入社1年目のときですから、今思うと無茶苦茶な要求でしたね(笑)。クライアント先に同行した営業もヒヤヒヤしていたと思います。
その会社で1年ほどディレクターを経験したあと、コンテンツプロバイダに転職し、携帯キャリア公式サイトのスマートフォン対応を手がけていました。サイバーエージェントに転職したのは、その後です。新たなスマホ向けサービスのために中途採用者を募集していた頃で、単純に「面白そう」とエントリーしました。
―― サイバーエージェントでは、どのようなお仕事をされていたのでしょうか?
佐藤氏:とにかく新規サービスを作っていた時期で、プロジェクトによってディレクターやプロデューサーなど役割はバラバラ。それもあって、企画や開発、運用までひと通り経験しました。短いスパンで経験を自分の血肉にしていく感覚があり、それなりに大変でしたが楽しかったですね。
手がけたサービスもさまざまで、ハンドメイドのマーケットプレイスや30〜40代向けのコミュニティサービス、AbemaTV(現ABEMA)の立ち上げにも携わりました。10代向けのブログサービスに関わったときは、ユーザーの気持ちを理解するために、ファッション雑誌を毎日チェックしたり、リアルのイベントで実際に10代のユーザーから話を聞いたりしましたね。現場でユーザーの声を聞く大切さは、このとき学んだと思います。
―― その後、活躍の場をリクルートに移されるわけですね。
佐藤氏:そうですね。「今の会社とは違う文化や空気の中で、ビジネスへの理解をもっと掘り下げたい」と思ったのが転職のきっかけです。入社して1年ほどは、不動産サービスのクリエイティブチームに関わり、デザインやフロントエンド、ディレクションを取りまとめるマネジメントをしていました。その後、戸建て領域でのサービス改善や、横断組織でのディレクション、採用にも携わりました。
課題の特定や実行の精度まで、かなり高いレベルで求められる環境でしたし、周りには優秀な人も多かったですね。とても刺激になりましたし、緊張感がある中で仕事ができたのはよい経験だったと思います。
正解のない問いに、ベストな答えを導くのがプロダクトマネージャーの面白さ
―― サイバーエージェントとリクルートという2社を経て、「このときの経験が今も活きている」と感じられるものはなんでしょうか。
佐藤氏:サイバーエージェントでは、「サービスへのコミット」を学んだと思っています。新規サービスの立ち上げでは、関わっている人間がみんな正解を知っているわけではありません。そんな中で「どうすれば事業として成立するだろうか」と本気でコミットする人が多く、一緒に仕事をすることで得るものが多くありました。
リクルートで学んだのは「ロジック」ですね。どんな仕事に対しても「なぜそれをやるのか」「自分はどうしたいか」を徹底的に言語化していましたから。今振り返ると、2社から共通して学んだのは「正解がない中で、いかに仮説を検証し、正解に近づいていくか」というスタンスではないかと思います。
―― その後、2020年にマネーフォワードに入社されています。「プロダクトマネージャーになりたい」と思われたのは入社前からでしょうか?
佐藤氏:プロダクトマネージャーという肩書きを名乗り始めたのは、マネーフォワードに入ってからですね。プロダクトマネージャーを目指してきたわけではなく、これまでやってきたディレクションやビジネスサイドの延長が「プロダクトマネージャー」という役割にはまった、という言い方が近いのではないでしょうか。
これまで、キャリアチェンジに際しては「引き出しの数を増やしたい」と考えてきました。できることが増えると、興味を持つ対象も広がります。興味が広がると、さらに新しいことに挑戦したくなる。最初からキャリアプランを立てていたわけではないのですが、こうして興味を広げていった結果、今があると思っています。
―― では、佐藤さんが思う「プロダクトマネージャー」の魅力とはなんでしょうか。
佐藤氏:ユーザーの課題の特定が、ひとつの醍醐味だと感じています。自分で仮説を立てて、それをどう検証したらいいかを考え、自分で組み立てていく。もちろん、うまくいくときもあれば失敗するときもありますが、それも含めて面白みを感じますね。
キャリアの最初の頃は、「これを作る」というゴールが決まっていました。でも実際は、そこが本当のゴールとは限らないし、ゴールにたどり着く道筋もひとつではないわけです。目指すべきゴールはどこで、たどるべき道筋は何がベストなのか。トータルで考え、一つひとつ詰めていくところに、プロダクトマネージャーの魅力があると思います。
プロダクトマネージャーに求められる「総合力」とは
―― これまでプロダクトマネージャーとして働かれてきた中で、印象に残っているエピソードはありますか?
佐藤氏:以前、リニューアルを進めていたサービスがあったんです。テストも終わり、リリースの1週間前まできたところで……。会社の大きな戦略変更があり、担当部署が解散になってしまったんですね。
部署は解散するものの、そのサービスはクローズせず、保守のみ行うことになった。そこで迫られたのが「現状維持のみとなるサービスを、リニューアルするか否か」。結論から言うと、リリースはせずすべて捨てました。
ユーザーから見れば、今後アップデートされないものが唐突にリニューアルされても、何も嬉しくない。また、リニューアルは一定数、拒否反応が出てしまうものですが、今回はそのリカバリーができない。ユーザーから見ても、事業面から見ても、リリースをやめるべきと判断しました。
尽力してくれたエンジニアやデザイナーには納得してもらいましたが、正直辛かったですね。改めて、プロダクトマネジメントは事業・ユーザー・チーム、すべての方向を向かねばならない「総合力」が求められると感じました。
―― 厳しい判断でしたね……。その「総合力」を発揮するために、ご自身がデザイナー・ディレクターだった頃の経験が活かされる部分はありますか?
佐藤氏:ディレクターの経験からは、俯瞰して見る癖は非常に役立っていると思います。基本的に1人で成立する仕事ではないですから、いかに協力してもらうかとか、全員が同じ目標を見られるようにするかとか、全体を見渡して考える力は今も活かされていますね。
あとは、実際に自分で手を動かしてものを作った経験があることも、コミュニケーションを図るうえでプラスに働いていると思います。仮にそういう経験がなかったとしても、今は簡単にデザインやサイト制作の環境を整えられますから、何かしら自分で作ってみるのもよいかもしれません。
―― それでは最後に、今回のセミナーのポイントについて教えてください。
佐藤氏:プロジェクトマネージャーをテーマとしたセミナーとして、今回は後半戦という位置づけになります。より具体的な仕事の話であるとか、ディレクターの経験をどう活かせるかということについて触れたいと思います。
日本で「プロダクトマネジメント」という言葉が浸透してきたのは、ここ数年のことなので、現場によって求められるものもバラバラです。そのバラバラの中で、どうキャリアを構築するか、どういう道筋をたどれば自分にとって価値ある仕事になるのかについてもお話できればと。今回のセミナーが、今後のキャリアを考えるきっかけになれば嬉しいです。
インタビューを終えて
佐藤氏は「プロダクトマネージャーを目指していたわけではない」と話す。そもそも、佐藤氏が受託制作からキャリアをスタートさせた頃、プロダクトマネージャーという言葉は一般的ではなかっただろう。過去に積み重ねてきた経験がプロダクトマネージャーという道に繋がったのは、武器を磨き続けてきたからに他ならない。目の前の仕事を掘り下げること、同時に興味の対象を広げることの大切さがインタビューから伺えた。
7/21(木)に開催されるWeb業界進化論 実践講座#19「ディレクターからプロダクトマネージャーへ おいでよPdMという世界線」では、より具体的なプロダクトマネージャー像について語られる予定だ。キャリアの選択肢を増やしたいWebディレクターは、ぜひこの講座に参加してみてほしい。
この記事を書いた人
マイナビクリエイター編集部は、運営元であるマイナビクリエイターのキャリアアドバイザーやアナリスト、プロモーションチームメンバーで構成されています。「人材」という視点から、Web職・ゲーム業界の未来に向けて日々奮闘中です。